片山さつき議員 @katayama_s の「子どもの貧困」報道批判や生活保護バッシングは日本経済に大きな損失をもたらしている=「経済損失50兆円、財政負担20兆円」

  • 2016/8/23
  • 片山さつき議員 @katayama_s の「子どもの貧困」報道批判や生活保護バッシングは日本経済に大きな損失をもたらしている=「経済損失50兆円、財政負担20兆円」 はコメントを受け付けていません

阿部彩さん山野良一さんの「子どもに貧困」問題についての指摘を紹介したところ、「子どもの貧困をなくしたり、生活保護を増やせるほど日本には余裕がなく、そんなことにお金を回していたらグローバル競争に日本は負けてしまう」とのコメントが寄せられました。このコメントを検証してみましょう。

まず前半部分の「子どもの貧困をなくしたり、生活保護を増やせるほど日本には余裕がない」という指摘の間違いについては、すでに「財政赤字の原因は社会保障費でなく法人税減税と消費税増税、フランスやドイツの35年前の水準にやっと追いついた日本の社会保障費はもっと増額する必要がある」の中で以下のグラフを紹介しながら指摘しています。

あわせて、日本の財政に余裕がないように見えているのは、日本自体がタックスヘイブン化していることが本質的な問題であることをすでに指摘しています。【※参照→日本をタックスヘイブン化するアベノミクス=貧困層より税金が軽い富裕層、零細企業より法人税が軽い大企業、社会保障には財源がないと言い、財源は貧困層から収奪する消費税増税というディストピア日本

次に後半部分の「そんなこと(子どもの貧困をなくしたり、生活保護を増やしたりすること)にお金を回していたらグローバル競争に日本は負けてしまう」という点です。

上記で紹介したように全体の社会保障費も少なければ、以下の表にあるように、生活保護の利用率も捕捉率も日本は異常に低いのです。(※日弁連の「Q&A 今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?」より)

こうした脆弱な日本の社会保障によって日本の貧困は放置されています。貧困を放置した結果、以下のグラフにあるように、日本の1人あたりGDPは先進主要国で最低になっているのです。

OECDは貧困と格差の放置が「経済成長を大幅に抑制している」として、「経済成長率は25年間にわたり毎年0.35%ずつ押し下げられ、25年間の累積的な GDP減少率は8.5%となる」として、以下の結論を指摘しています。

これを具体的に裏付けるのが、「子どもの貧困の社会的損失推計」(日本財団、2015年12月)です。

子どもの貧困放置で「経済損失50兆円、財政負担20兆円」
dot.asahi 2016/7/ 1

子どもの貧困を何の対策もせずに放っておけば、15歳の1学年だけでも、経済損失は約2.9兆円におよび、国の財政負担は約1.1兆円増える──。日本財団と三菱UFJリサーチ&コンサルティングが昨年末、こんな試算を発表した。

問題を放置すると、学力や進学率など教育格差が生まれ、将来の賃金格差にもつながる。「子供の貧困対策に関する大綱」によると、大学や専門学校などへの進学率は、全世帯が73.3%なのに対し、生活保護世帯は32.9%、児童養護施設だと22.6%、ひとり親世帯は41.6%と、経済状況によって進学率に格差があるのは明らかだ。貧困世帯の子どもは塾に通えないということもあるが、家庭環境に問題を抱えていて勉強に身が入らないという背景もある。

試算では、進学率が今のままのシナリオと、貧困世帯の進学率が非貧困世帯並みに改善するシナリオを比べた。しかも、この推計はたった1学年分なので、これを子ども全体(18歳以下)で考えると、単純計算で国全体の経済損失は50兆円以上。さらに生活保護の支給などが増え、国の財政負担が約20兆円も増える。子どもの貧困は「かわいそうだから対策すべき」と思われがちだが、実は経済問題として解決すべき課題でもあり、当事者だけの問題ではなく、将来への投資として国全体が取り組むべき課題なのだ。

それから、「生活保護受給者の自殺率は日本全体の2倍以上、20代では6倍 – 生活保護バッシングと制度改悪は殺人になる」で指摘しましたが、脆弱な日本の生活保護制度は自殺をまねいています。以下のように厚生労働省によると「自殺やうつによる社会的損失」によってもGDPはマイナスになっています。

東京大学の大学総合教育研究センターの小林雅之教授によると、下のグラフにあるように、成績が上位なのに「子どもの貧困」状態に置かれてしまうと進学できない状況が広がっています。

小林01 小林02 小林03

また、よく巷で言われるのは、「資源がない日本の経済競争力の源泉は優秀な人材による技術革新(イノベーション)だ」というもの。この技術革新の土台となるのは研究者ですが、以下にあるように、日本はおそろしく枯れてきています。(※以下のグラフは、鈴鹿医療科学大学の豊田長康学長「運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究~国際学術論文データベースによる論文数分析を中心として~」より)

競争力01 競争力02 競争力03 競争力04

上記の指摘は、直接的には国立大学の運営費交付金削減の影響によるものですが、学生や大学院生、若手研究者の側から見ると、世界最悪の奨学金ローン地獄や、高学費による1千5百万円の借金まみれで「高学歴ワーキングプア」となってしまう問題とも連動していると思います。教育の機会均等が保障されない国というのは、それぞれの個性を十分にのばすことができないわけですから、本当の意味での経済成長を損なう国になってしまうことは明らかでしょう。

その上、片山さつき議員らの重度のバッシング依存症が「助けて」と言えない若者を自殺へと追い込んでいます

この自殺についても厚生労働省によると、以下のように大きな経済損失をもたらしています。この点でも、「生活保護受給者の自殺率は日本全体の2倍以上、20代では6倍」ですから、片山さつき議員の生活保護バッシングは経済損失につながるものになります。

そして、今回の片山さつき議員の「子どもの貧困」報道批判は、政治家の恥さらしであると同時に、上記で見てきたように日本経済の本当の意味でのグローバル競争、経済成長にも大きなマイナスとなるものです。片山さつき議員は、国会議員にもかかわらず、日本経済に大きな損失をもたらす政治活動をしているのです。

「子どもの貧困をなくしたり、生活保護を増やせるほど日本には余裕がなく、そんなことにお金を回していたらグローバル競争に日本は負けてしまう」というのは、正しくは、「子どもの貧困を放置したり、生活保護を増やさないから本当の意味でのグローバル競争に日本は負けてしまう」「子どもの貧困をなくし、生活保護を増やし、無償教育と給付型奨学金制度を含む社会保障制度の拡充こそが本当の意味での日本経済の発展に大きなプラスになる」ということだと思います。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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