「子ども職場見学日」に8歳の娘の目の前で父親をクビ切り、竹中平蔵パソナ会長ら解雇規制撤廃論者があこがれるアメリカの「大搾取!」

  • 2015/8/24
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(※2009年9月に書いた記事です)

労働者派遣法をはじめとする雇用の規制緩和を推進し、小泉・竹中構造改革の旗振り役を果たした宮内義彦オリックス会長は、「今、日本の企業経営に求められているのは、アメリカに向かって走れということ」(『経営論』東洋経済新報社、2001年6月刊)と断言していましたし、当の竹中平蔵氏がアメリカ経済にうっとりあこがれていることも「派遣労働者から強奪し「改革利権」「究極の天下り」「学商の独り勝ち」の竹中平蔵パソナ会長言説=辛い思いする人、痛みこうむる人がいる格差社会こそ経済にプラス、社会保障は集団的なたかり」の中で紹介しています。

「日刊ゲンダイ」(8/28)によると、パソナ会長に就任した竹中氏の年間報酬は1億円以上だろうとのことですが、アメリカを夢見ると、まだまだケタが足りないのだと竹中氏は心底思っているのです。そして、そのパソナグループ代表の南部靖之氏は、雇用のあり方について次のように語っています。

映画を制作するときのように、決まった期間だけ人やお金が集まり、終わったらぱっと解散する。僕はそれを「オーディション型雇用」と呼んでいる。正社員でいるとリストラや定年がある。フリーターのような立場なら本当の意味で一生涯の終身雇用が可能だ。だから今は不安定といわれているフリーターが安定した働き方になる。(「日本経済新聞」2005年10月21日付)

すべての労働者がフリーターでいいのだという、ここに、企業側が考える究極の“解雇規制撤廃”“雇用の流動化”“労働市場の柔軟性”が表現されています。労働者そのものも機械の部品のように「ジャストインタイム」で、解雇規制などを一切なくし、「必要な時に雇い、必要でなくなればいつでも解雇できる安い労働力」でいいのだというわけです。おそらく、この“理想の状態”に現在いちばん近い国が、宮内氏が「アメリカに向かって走れ!」と号令し、竹中氏がうっとりあこがれるアメリカになるのでしょう。

正社員の解雇規制もなく、“雇用の流動化”“雇用の平等”を実現しているアメリカ労働者の実態は、どうなっているのでしょうか? ニューヨークタイムズの労働問題担当記者であるスティーブン・グリーンハウス氏の著作『大搾取!』(文藝春秋、2009年6月刊)に、現在のアメリカ労働者の実態がつぶさに描かれています。

夜勤の従業員を職場に事実上「監禁」する、従業員を騙してタイムレコードに記録された就労時間を数時間分削除する、従業員の年金を半分にカットしてしまう、永年勤続者に突然クビを宣告して30分以内に出ていけと言い渡す――そんな大企業を私は見てきた。コンピュータ技師を「子ども職場見学日」に8歳の娘の目の前でクビにした会社もある。時給が市場レートより51セントだけ多いという理由で従業員を解雇した有名な小売会社もある。年商何十億ドルという立派な会社が汚れ仕事を下請けに回し、その下請けは多くの従業員に最低賃金の半分しか払わず、しかも年中無休で働くことを強要する。ヒューストンにある清掃労働者は言った。「動物以下の扱いだよ」(スティーブン・グリーンハウス著『大搾取』12ページより引用)

こんな調子で引用していくと長くなりますので、以下本書に出てくる統計データの一部を要旨で紹介します。

2001年11月から2005年までに企業利益が2倍になった上に、労働者の生産性が15%以上高まったのに、アメリカ労働者の平均賃金はたったの1%しか上がっていない。

1979年から2007年では、労働者の生産性は60%も伸びているのに、アメリカの労働者の8割は1時間当たりの賃金が1%しか伸びていない。もし賃金が生産性の伸びにつれて伸びるとすれば、平均的なフルタイム労働者の年収は5万8千ドルになっているはずだが、2007年の平均年収は3万6千ドルだった。国全体の経済のパイは大きくなっているのに、ほとんどの企業が労働者に切り分けるパイを大きくしようとはしなかったということだ。

2007年には、国民所得に占める企業収益の割合はこの64年のうちで最高となったが、一方、労働者の賃金は1929年以来最低の割合に落ち込んでいる。

これほどまでに経済や社会の動向がこぞってアメリカの労働者に不利に働いたことは、まずなかったと言っていい。雇用保障などという考えはますます時代おくれとなりつつある。労働者の多くは解雇通告を恐れ、賃上げを要求したり過酷な仕事量に抗議したりする勇気もない。解雇はもう「人生で当たり前の出来事」となってしまった。今では、どこかの会社が数千人の従業員をレイオフすると発表しても、そんなことは日常茶飯事で、当の労働者やその家族以外ほとんど誰も気にも留めなくなってしまった。

2000年以降、アメリカは工場労働者の働き口の5分の1を失った。長らく中流へ上る踏み台となってきた職業である。それにともなって労働運動も衰退し、ここ何十年かで最低のレベルに落ち込んだ。いろいろ欠点はあるにしても、20世紀後半にはとにもかくにも労働側と経営側のあいだにある種のバランスのようなものを築いたたった一つの力が、衰弱してしまったのだ。

多くの企業が、必要量の直前納入によって在庫費用を抑えるというジャストインタイム方式を労働力にも応用し、大勢の派遣労働者やフリーランサーやオンコール労働者を使うようになった。彼らの低賃金と不安定な立場がまた、しばしばこれまでの正規社員たちの賃金や、福利厚生や、雇用保障などを引き下げる結果となっている。

連邦議会予算事務局の2007年12月のレポートによれば、アメリカの世帯の底辺から5分の1の税引き後の年所得は、1979年から2005年までに6%しか上がっていない。ところが、その同じ26年間で、頂点から5分の1の所得はなんと80%伸び、トップ1%に至っては228%上昇して、実に3倍以上になっているのだ。

トップ1%の世帯が得た税引き後の所得は、下から40%の世帯が得た所得の合計を上回る。このトップ1%の世帯の平均所得は年110万ドルで、2005年の国民所得の22%近くとなり、1980年の9%を大きく上回った。これは1920年代以降、最大の格差である。

格差ピラミッドの頂点に立つのはCEO(最高経営責任者)たちだ。2005年のCEOの平均収入は1050万ドル。12年前の4倍だ。平均的なCEOは平均的な労働者の369倍の収入を得ていることになる。1976年には36倍、1993年には131倍だったから、格差は拡大の一途をたどっている。この流れについて、億万長者の投資家ウォーレン・バフェットは、「たしかに階級闘争はあるでしょう。ただ闘っているのはわれわれの階級、つまり金持階級であって、勝っているのもわれわれなんだ」、(この20年以上で)「並みのアメリカ人は経済の面から言えば何一つ進歩していない。スーパーリッチが宇宙船に乗っているというのに、彼らはただ踏み車を踏んでいただけだ」と言っている。

6,273の家族を2世代にわたって調査した結果は、最も貧しい底辺から5分の1の層に生まれたアメリカ人の66%は、底辺から5分の2より上には這い上がれず、トップ5分の1に入ることができたのは6%だけというものだった。世襲社会化が進んでいるのだ。

以上、スティーブン・グリーンハウス氏の著作『大搾取!』の具体的な数字のところだけを見てきましたが、本書には、解雇規制のないアメリカの労働者が、実際にどんな悲惨な状況に追い込まれているかが具体的に書かれていますので、ぜひ現物をお読みください。

また、本書の巻末で、反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠氏が、「日米大搾取のパラレル」と題した解説文を寄せています。「本書が単なる太平洋の彼岸の話でないことは、最初に章立てを一瞥するだけで容易に理解できる。「酷使の現実」「不満には恐怖で」「働く意欲が失せていく」「戻ってきた19世紀」「消えた会社との約束」…。本書の内容は、ほぼすべてそのまま日本の話でもあり、本文中に出てくる固有名と統計データの数字を入れ替えれば、同じ構成と内容で日本版『大搾取!』を執筆することも可能である」と、湯浅氏は指摘しています。「宮内・小泉・竹中構造改革」によって、日本にもアメリカに向かって走った“成果”が見事にあらわれているのです。(▼企業の経常利益・内部留保は史上最高額、一方で労働者には貧困が広がる[1997~2007年、財務省、国税庁、総務省の統計から])

また、雑誌『ロスジェネ』の編集長で作家の浅尾大輔氏が、「共同通信」配信記事の中で、この『大搾取!』の書評を書いています。その一部を以下紹介します。

米国型資本主義の何が悪いのか? 本書を読んだ私は「1%の金持ちが何度死んでも使い切れない報酬を、私たちが毎日死ぬほど働いて稼いでやり、その格差が世襲化するからだ」と答えたい。

本書は、米国全土で頻発する、大企業の暴力的「搾取」の手口を告発し、併せて、人間らしい働き方を求めてたたかう人びとを描いた第一級のルポルタージュである。

「トイレ休憩なし」「店舗に閉じ込めて、夜間のサービス残業を強制」「働きぶりを1秒単位で監視し、ミス探し」…。

あなたは酷使の最前線にうろたえるか、自分の職場と大差ないと泰然とするか、どちらだろう? サービス残業、派遣の激増、組合つぶし…。むしろ私が感じたのは「日本の財界は、米国からすべてパクっていたのか!」という痛恨だった。(※浅尾大輔氏の書評からの引用はここまで)

それから、「日本は正社員の解雇規制があるから長時間労働・サービス残業が発生し、ワークライフバランスが取れないのだ」などという主張がありますが、本書『大搾取!』では、解雇規制のないアメリカ社会において、労働者への搾取の強化、「経済の締めつけ」が「時間の締めつけ」でもあり、長時間労働・サービス残業がアメリカ労働者に強制されていることも告発されています。長時間労働・サービス残業は、解雇規制があると言われる日本でも、解雇規制がないアメリカでも発生しているのです。

「アメリカでは、企業に勤めている親の3分の2が子どもと接する時間が足りず、3分の2の夫婦が配偶者と接する時間が足りないと「家族と仕事研究所」の調査に答えている。仕事が余暇にまで割り込んでくるジョブクリープと呼ばれる現象が発生し、アメリカの労働者は今、夜の11時に自宅のコンピュータで仕事のメモをとり終え、土日でも社用Eメールを読み、休暇中でも携帯電話でボスの問い合わせに答えている。平均的なアメリカの労働者は年に1,804時間働いているが、これは平均的イギリス人労働者より年に135時間多く、また平均的フランス人労働者より240時間多く、平均的ドイツ人労働者より370時間(9週間のフルタイム労働分)多い」(『大搾取!』より)

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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