草の根のムーブメントを開花させるもの――運動を共有・体系化するコミュニティオーガナイジング(中嶌聡/はたらぼ)

  • 2018/11/22
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※この論稿は国公労連の機関誌『国公労調査時報』2014年6月号(第618号)に掲載したものです。

草の根のムーブメントを開花させるもの――運動を共有・体系化するコミュニティオーガナイジング(中嶌聡/はたらぼ)

これまで2回にわたり、自己紹介と活動紹介をしてきた。

今回は、現在の活動につながるイベントについ先日参加してきたので、レポートしたい。

4月13日に反貧困ネットワークが主催した「コミュニティオーガナイジングで労働運動が変わる」と題したセミナーである。

労働組合に飛び込み、ゼロから体当たりしながら「闘うアイテム」を学び増やしてきた私にとって、組織運営から運動の手法までプログラムとして体系化され、数多くのトレーニングスクールがあるアメリカ発の「コミュニティオーガナイジング」は、まさしく目指しているもの、そのものだった。

コミュニティオーガナイジングとは

コミュニティオーガナイジングは、1940年頃にソウル・アリンスキーというアメリカの活動家が、アフリカ系アメリカ人が多く住むシカゴの貧困地区の住民の組織化を行う過程で体系化し、1960年代から全米に普及したとされる運動論だ。

日本においては、2008年にアメリカの大統領となったバラク・オバマがコミュニティオーガナイザー出身だったことから、近年広く注目を浴びるようになっている。

コミュニティオーガナイジングには明確な定義がなされていないようなので、ここでは「地域や組織のメンバーが自分たちで課題を見つけ、日常的な課題の解決を継続させていくことを支援すること」とする。

具体的には、地域の社会問題を解決するために、特定の地域に入り、住宅を一軒一軒回り住民を組織化し、住民自身が隣人を訪ねたりホームパーティーを開くなどして、戦略を立て、行動し、解決していく過程を支援するといった活動である。

それゆえ分野は、住宅問題、治安、学校の教育問題、拠り所づくり、災害復興、法的扶助、権利擁護、職業訓練など多岐にわたる。

コミュニティオーガナイザーはそれぞれの状況に合わせて適切に住民を支援していく。

運動を実行するリーダーとしてではなく、あくまで住民たちの要望を聞き取り、住民が自ら解決するための支援者として関わることに重きを置かれている印象であった。

コミュニティオーガナイジングと労働組合

これらコミュニティオーガナイジングは、全国の組織化された労働者を主体に要求を勝ち取っていく旧来型の労働組合運動からは遠い存在であった。

しかしながら、組織率が低迷し、団体交渉によって要求を勝ち取るスタイルが難しくなる中で、地域コミュニティとの連携が模索され、1990年以降具体的な連携により新しい労働運動が展開されている。

ナショナルセンターのAFL-CIOがコミュニティオーガナイジングとの共同を大きく打ち出し、昨年末に全米で「生活できる賃金」を求めて起こったウォルマート抗議デモでも、多様なコミュニティ組織が参加した。

コミュニティオーガナイジングが組織化してきたのは、地域住民、中小企業事業主、宗教指導者、女性権利擁護団体メンバー、議員、一般市民、学生などであり、彼らが一斉に抗議集会やデモに参加したのである。

組織化された労働組合のみが抗議行動をするにとどまっていた運動が、地域住民を巻き込み数百人規模の抗議行動に発展した。

労働組合と地域コミュニティの連携が、新たな、団体交渉とはちがった交渉力を作り出していることが注目されている。

体系化されていることの持つパワー

日本でも地域運動や住民運動は歴史的な積み上げがあり、労働運動との連携も行われている。

私が注目したことは、コミュニティオーガナイジングの手法が体系化されており、トレーニングスクールが無数に開催されていることである。

例えば公民権運動を率いたキング牧師は、こうしたスクールに通い、その手法や考え方についてのトレーニングを受けていた。

また、2008年大統領選挙の際も、オバマ陣営のフィールドオーガナイザーが数千人単位で集められ、4日間の集中トレーニングが行われたことが、大統領選の結果に大きく関わったと言われる。

日本の運動がコミュニティオーガナイジングから学ぶべきは、自らの運動を言語化・体系化し、トレーニングメニューを開発することなのではないだろうか。

私自身も会社では新卒研修を受けたが、労働組合で活動に関わり始めたとき、そのようなトレーニングは皆無であり、OJT(仕事をしながら学ぶ)形式で学ぶしかなかったため、体系的に学ぶことができなかった。

知識を得る勉強会は多々あり、最新の情勢や判例、運動理論などは現場でも大いに役立ったのだが、それらは知識偏重であった。

だが実際の現場では、経営者と交渉するための交渉術のロールプレイング、効果的なアクションを行うための戦略の立案、共感をひろげるためのスピーチ、民主的で創意工夫を引き出すミーティングの手法なども必要になってくる。

アメリカでは2年で1000人のオーガナイザーを育成するといった目標を掲げ達成している。それができるのも、トレーニング体制がしっかりとしているからだ。

例えば、セミナーで紹介された、スクールの実際のトレーニングメニューには、
・市民活動の分析
・市民活動の戦略の立て方
・具体的な戦略モデル
・リクルートメントの方法
・アクションのガイドライン
・アクションロールプレイ
・ネット戦略
・メディアとの接し方
などがあった。

もし労働運動の世界への入り口に、こうした実践的・具体的なメニューの研修があれば、多くの若者がワクワクしながら参加するはずだ。

トレーニングスクールを

「知識編重」から脱却したトレーニングメニューを作るには、まず組織におけるベストプラクティス(最も効果的な方法)の棚卸し作業が必要になるだろう。

私自身の経験からも、参加させてもらった団体交渉では、担当者によっても労働組合によっても方法論は様々である。

団体交渉申入書一つを取り上げても、見比べることで取り入れられることは無数に見つかる。組合内での会議も、民主的とは到底思えない会議を何度も経験した。行政相手に交渉するときに、全くお門違いな交渉になっているケースも見られる。これらは単純に、よりよく実践するためのアイデア不足である場合も多分にある。そのため、ある程度の「コツ」が共有されることは、地域や組合の運動などには重要な課題だ。

そうやって一つ一つの行動が効果的なものに変わっていけば、労働組合やソーシャルムーブメントの「見え方」は大きく変わるのではないかと感じている。

積み上げてきた多くの実践を属人的なものにせず、そして「背中で学べ」形式でもなく、体系化し、効果的に広め伝えていく仕組みを作っていきたい。

アメリカのコミュニティオーガナイジングの実践は、そのための鍵になりうるのではないか、と私は注目している。

なかじま あきら 1983年大阪府茨木市生まれ。大阪教育大学を卒業後、外資系人材派遣会社での正社員経験を経て、大阪の個人加盟ユニオンで活動。役員として4年間で200回以上の団体交渉を経験する。ネット中継やトークイベント等の新しい運動でも注目を集める。2013年に「NPO法人はたらぼ」を立ち上げ、代表理事に。ブラック企業淘汰を目指し、企業・労働者・行政の3者をつなぐ中間団体として活躍中。新聞・テレビ等からの取材多数。

【第1回】崩せない「枠」との遭遇――人材派遣会社から地域ユニオンへ
【第2回】労働組合にしかできないことを全うする――初めての団交、抗議宣伝
【第3回】草の根のムーブメントを開花させるもの――運動を共有・体系化する
【第4回】小さな「勝ち癖」の重要性――キャンペーンの質を上げるための理論
【第5回】2万の批判から学んだ広報活動――労働組合こそ「広報」を
【第6回】メンバーの多様性を活かすには――4つのポイント
【第7回】「活きの良い会議」が組織を甦らせる――自発性を引き出す工夫
【第8回】一方通行の集会や会議を変える――100人規模でも使える対話方法

※リレー連載「運動のヌーヴェルヴァーグ」では、労働組合やNPOなど、様々な形で労働運動にかかわる若い運動家・活動家の方々に、日々の実践や思いを1冊のノートのように綴ってもらいます。国公労連の発行している機関誌『国公労調査時報』で2013年9月号から連載が始まり、現在も雑誌『KOKKO』(堀之内出版)で連載を続けています。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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