コミュニティ・オーガナイジングで労働組合の再生へ(COJワークショップ参加者座談会)

  • 2019/9/16
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コミュニティ・オーガナイジングで労働組合の再生へ(COJワークショップ参加者座談会)
雑誌『KOKKO』2017年5月号(第21号)

座談会出席者(※2016年10月5日収録※出席者の肩書は当時)
山田真吾 首都圏青年ユニオン事務局長
天池洋介 岐阜青年ユニオン委員長
中嶌 聡 NPO法人はたらぼ代表理事
保科博一 東京労連事務局次長、全労連幹事
名取 学 全労連事務局員
井上 伸 国公労連書記

井上 本誌第12号(2016年8月号)の特集「世界の労働運動から何を学ぶ?」で、アメリカの最低賃金15ドル運動の大きな前進やシカゴ教員組合の地域住民らと共同したストライキ成功などの背景に、コミュニティ・オーガナイジングの活用があることを紹介しました。加えて、日本においてもプレカリアートユニオンの清水直子委員長によるコミュニティ・オーガナイジングを活用した運動活性化の実践例も紹介しています。そして、ここ1年ほどの間に、日本においてもさまざまな労働組合の仲間がコミュニティ・オーガナイジングの活用をめざす動きが活発になってきています。日本ではNPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(以下COJ)が2日間に渡るワークショップを開催していて、そこに労働組合の仲間も参加するようになっています。そこで今回、COJのワークショップに参加した仲間に集まってもらい、ワークショップの感想やコミュニティ・オーガナイジングを労働組合運動にどう活かせるかなどを語ってもらう座談会を企画しましたので、よろしくお願いします。最初にコミュニティ・オーガナイジングが必要だと思ったのはどういったところにあるでしょうか?

コミュニティ・オーガナイジングが必要と思ったのは?

山田 私は首都圏青年ユニオンの専従になって10年ほどになります。その中で、たとえば、すき家やショップ99、三菱ふそうで団体交渉などのたたかいを進めてメディアでも取り上げられ問題を解決している組合員がいますが、問題を解決した後、組合員にどんな形でユニオンに関わってもらうのかというところが上手くできていません。個人加盟ユニオンは多くの場合、「回転ドア」などと言われて、問題があるときはユニオンに加入しているのだけど、問題が解決するとやめていくというケースがあります。首都圏青年ユニオンは組合員として残っていることも多いのですが、ユニオンに加入しても問題が解決すればやめていく人をどうやってなくしていくかという課題と、専従者以外の組合員に主体的に活動に加わってもらって多くの組合員の力をどう強くしていくかという課題について、コミュニティ・オーガナイジングが活用できるのではないかと思ってCOJのワークショップに参加しました。

保科 私は2010年に新宿一般労働組合の専従になって、労働相談や団体交渉を進めてきました。昨年から東京労連で活動をしています。私の問題意識としては、多くの労働組合の役員が高齢化する中で、若い世代が活躍できるようにするためには従来の活動スタイルを改善する必要があるというところにあります。当面、自分ができることに手をつけようということで、COJのワークショップに自分が参加して少しずつでも周りにコミュニティ・オーガナイジングを広げていきたいと思っています。

カナダやオーストラリアでも組織化が前進

名取 私は2000年に首都圏青年ユニオンの結成に関わって、その後、東京公務公共一般労働組合で2006年ぐらいまで活動していました。その頃は何でも自分で抱え込む活動スタイルだったのですが、過労で体を壊してしまいました。その後、カナダに留学して労働組合のボランティアでオーガナイザーとして関わっている時に、自分の経験を語りながら、相手との共通経験を見つけて、労働組合を信頼してもらう方法で、組織化をしているのを目の当たりにしました。そのときは、コミュニティ・オーガナイジングという言葉をまだ知らなかったのだけど、たとえば10人のオーガナイザーを職場の中に送り込んで300人の組合員を拡大するなどしていて、こういう活動スタイルを実際に見たことで、これを日本でも学ぶ必要があると思いながら帰国したのです。帰国後、全労連で「介護労働者の組織化にかかわってオーストラリアへ視察に」という要請があって、オーストラリアでもコミュニティ・オーガナイジングの手法を学んで介護労働者の組織化が進んだことがわかりました。この3年ぐらい介護労働者の組織化キャンペーンをすすめるさいにコミュニティ・オーガナイジングを参考にしてきたつもりです。コミュニティ・オーガナイジングを活かせればもっと仲間の力を強められる運動の提起ができると思っています。

井上 コミュニティ・オーガナイジングについては、本誌『KOKKO』の前身『国公労調査時報』の2014年4月号から2015年3月号まで11回に渡って中嶌さんに連載原稿を書いてもらって初めてコミュニティ・オーガナイジングの存在を知りました。(※中嶌さんの連載→草の根のムーブメントを開花させるもの――運動を共有・体系化するコミュニティオーガナイジング
そして、2014年4月13日に反貧困ネットワーク主催で「コミュニティ・オーガナイジングで労働運動が変わる」と題した学習会が開催されて私も参加し、労働政策研究・研修機構(JILPT)の山崎憲さんとCOJ代表の鎌田華乃子さんらからコミュニティ・オーガナイジングを知りました。

中嶌 私もあの学習会がきっかけでコミュニティ・オーガナイジングを本格的に学ぶようになったのです。

井上 そうなんですね。私の方はこの学習会の後、『国公労調査時報』2014年8月号で山崎憲さんにインタビューをしてコミュニティ・オーガナイジングの重要性を知識としては理解したのですが、具体的な実践に活用していくという動きにはならずにいました。そうした中、いま国公労連では組織拡大が最も重要な課題となり、各単組からも従来の運動スタイルを改善していく必要があるのではないかという問題意識も語られるようになってきました。それでコミュニティ・オーガナイジングを学びながら実際に活動スタイルを改善していけるのではないかと思って私自身、COJのワークショップに参加しました。

背中を見て学べと座学では活動家は育たない

中嶌 私が個人加盟ユニオンで活動しているときの組合役員の学習教育というのは100%座学による知識詰め込み型でした。情勢学習や経済学習、法律や権利を学ぶ学習はあるのですが、具体的な活動をどうやって進めていくのかという学びやトレーニングの場はほとんどありませんでした。たとえば、個人加盟ユニオンだと労働相談や団体交渉、抗議宣伝、リクルーティング、チーム構築、キャンペーンの戦略立案、広報活動など具体的に考えるといろいろな活動があるわけですが、そこをどうやって進めていくのかは先輩役員の「背中を見て学べ」ということしかないのです。しかし、背中を見て学ぶというのはものすごく時間が必要になります。そうすると、労働組合の専従レベルでないとそもそもそれは身につかないことにもなります。本当に社会を変えようと思ったら、1年に1人とかじゃなくて、1年に100人、1,000人ぐらい実際に動ける活動家というのを育てるぐらいのペースで組み立てないと社会を変えることなど不可能ではないかという問題意識がありました。そうしたときに、背中を見て学べと座学による知識詰め込み型ではなく、活動家を養成するトレーニングが決定的に必要だと思ったのが1つ大きかったですね。それから、1人の事例から1万人、10万人に影響するような面的な解決というか、面的に影響を及ぼせるようなキャンペーンの打ち方がわからなかったというのがあります。当時、「こんなに酷い事例がある」ということをマスコミで取り上げてもらうことまではうまくいったケースもありました。でも、マスコミでニュースになったら解決するかというとそう簡単ではありません。世論は多少巻き起こりますけど、せいぜい1週間ぐらい注目されるのだけど、1週間経ったら元の木阿弥みたいな状況で、過労死を繰り返す企業があるのと同じで、マスコミに取り上げられただけでは変わらない。構造をきちんと変えられるわけではない。かといって「何かあったら相談してください」と、5,000万人の労働者から5,000万回労働相談を聞いて、5,000万回団体交渉できるわけでもありません。そうなると構造的に解決するキャンペーンというものを、どうやって実践するかが重要になります。必要なポイントの漏れがなくて、効果的なキャンペーンはどうすれば打てるのか? かつそれを個人芸で終わらせないように、みんなが同じ様に効果的にキャンペーンをできるようにしていく必要があるのではないか? そうしたキャンペーンの打ち方を体系化して学べるところが必要だと思っていました。

それともう1つは、組織化の重要性です。キャンペーンを打ったり、いろいろな活動をやるわけですが、最終的には仲間をたくさん組織していくことが決定的に重要だということです。たとえば、労働組合に1人、入りますよね。入った後のフォローがこれまた個人芸になっていて、個々人のオーガナイザーの性格とか、あの人は明るいから人がついていくみたいな話でしかなかったりします。それで、全国的にオーガナイザーをきちんと増やしていこうとなったときに、ポジティブで性格の明るい人をくさん雇いましょうという話になるのかというと、そうではないだろうと思うのです。そうすると、リクルーティングや、組織に関わった人たちをうまくチームにしていく方法など、組織化を担うことができる活動家に体系的なトレーニングで養成する必要があるということになります。しかも短期間のトレーニングで養成できるようになることが労働組合にとっても社会運動全体にとっても必要なのではないかと思っていたのです。そういう問題意識があったので、コミュニティ・オーガナイジングに出会う前は自分で体系的なトレーニングをつくろうと思っていました。コミュニティ・オーガナイジングに出会ってからは自分が作り始めていたものが比較するとしょぼすぎて恥ずかしくなりましたけど(笑)。今から考えると一人でやる話ではなかったなと思います。その点、コミュニティ・オーガナイジングは、労働組合運動で大きな成果を勝ち取ったマーシャル・ガンツが、その経験を理論的に体系化した上で、毎年何百人にトレーニングしている実績と、オバマの選挙でも成果を上げているものであり、十分な時間をかけて作り上げられた実績あるものと言えます。

3年間で1,700人の活動家を養成

名取 アメリカの最低賃金15ドル運動の中で、やはり状況を変えることができたのは、わずか3年の間に、コミュニティ・オーガナイジングを活用して、活動家を1,700人も増やしたことです。日本でもそれと同じようなことをやろうとするなら活動家をそうした規模で養成していく必要がありますね。

中嶌 3年間で1,700人のオーガナイザーはすごい。2008年のオバマの大統領選挙のときにも数千人を4日間でトレーニングしたという「オバマキャンプ」と呼ばれているものがあります。これを知ったとき、「活動家育成の量的水準が違いすぎる」と衝撃を受けました。オーガナイザーを1,000人規模で育成するということは今のままの日本では100%無理だと思ったのですね。そもそもオーガナイザーが必要なスキルを身につけさせるトレーニングが日本にはないので、1,000人規模を短期間で育成するという目標すら立てられないのが日本の現状です。こうした量的な課題をしっかり考えていかないといけないと思いました。

井上 日本の場合、座学中心の学習会ばかりで、その学習会に参加したからといってオーガナイザーのスキルが身につくわけではまったくなくて、多くは情勢は少し理解できたけれど、その点ですら職場や地域に持ち帰って対話が大きく広がっていくことにもつながっていませんよね。

名取 オーストラリアの介護労働者の組織化でも、重要な役割を果たしたのは、労働組合の教育トレーニングセンターでのオーガナイザーの育成です。ワークショップでのトレーニングと介護現場に通っての実際の対話を組み合わせてオーガナイザーを育成していったのです。組織化のための対話がスキルとして身についたオーガナイザーが現場で対話を実践して現場の組合員に対話のやり方を教えてみせて組織化が進んでいくわけですね。全労連の方針でも職場や地域で対話しようとか職場討議を進めようと必ず書いてあるのだけれど、その対話の仕方、職場討議の仕方についてはトレーニングがないのが現実です。対話や職場討議の効果的なやり方が不明で、その対話や職場討議のスキルを身につける機会もなくて、ただ、「対話が大切です」「職場討議が大切です」とだけ書いても実際の運動は進まないですよね。コミュニティ・オーガナイジングを具体的にどう活用していくという点ですが、いま実際にワークショップを開催しているのが天池さんです。経験を少し出してもらえますか。

自分でワークショップを実践してみて

天池 私自身、COJのワークショップに参加する前に、労働組合で「セルフ」と「アス」のワークショップを行ったことがあるのですが、それがすごく好評だったので実際にCOJのワークショップに参加したという経緯です。その後、高山(岐阜県高山市)で5人の組合員を相手に半日のワークショップを開催しました。5人なのでプロジェクターを用意する必要もないので紙芝居形式でやりました。紙芝居でコミュニティ・オーガナイジングは何かというのを解説しながら実際にやってみるというワークショップです。

私自身、コミュニティ・オーガナイジングを労働組合に活かせるところ、COJのワークショップを受けてみていいなと思ったところはたくさんあるのですが、最初に思ったのはダサくないということです。若い世代を労働組合のイベントに連れてくると、どうしてもダサいと思われてしまうのですが、COJのワークショップは「この一員でいたいな」というふうに思えた。若い世代でも魅力的に思えるところは重要だと思います。それから運営がダラダラしていない点です。逆に時間にシビア過ぎると思うところも若干あるのですが、その点も若い世代にはいいのではないかと思います。これもまじめな話としてするのけど、ダサい負け組ではない感があるという点です。負け組で意地だけ張ってやってるのではなくて、自分たちは社会を変えるためにやってるんだからカッコいいことなんだというのをワークショップに参加して自分自身も改めて思い出しました。そういうスタイルというのは、若い世代は敏感なので、軽視していてはいけないと思います。そして若い女性たちが運営の中核を担っているというのは、今の労働運動の中ではまずあり得ない風景なので、この点も見習うべきところです。

それからコミュニティ・オーガナイジングがめざすところがそうだからなのですが、ワークショップの中でも必ず結果を出そうとする。必ずアクションへつながるような具体的なところまで落とし込むという姿勢はすごいなと思いましたし、労働組合のイベントは多くの場合、それが欠けているなと思いました。

多様性の大切さについても改めて考えさせられました。多様な価値観だとか、多様なバックグラウンドの人と討論するから前提にとらわれない思考が初めて可能になる。多様性の中で初めて自分自身が改めて特殊な前提にとらわれていたということに気づかされる。特殊な前提があって多様性が失われている労働組合だと討論そのものも淀んでしまう。そういう意味で自分の活動をゼロベースで見直す経験にもなりました。

仲間の力量や力の質を見ない日本の労働組合

コミュニティ・オーガナイジングのワークショップを実際に自分でやってみて思ったのは、もともと誰にでもできるように設計されている教育体系になっているということです。それから個々の参加者の特性に合わせて内容を調整することを前提にワークショップが組み立てられていて、参加者の個性を無視して行われて、予定調和的に大成功で終わるような学習会とか、集会とは大違いだということです。結論が一定ではなくて、参加する人によって結論が変わってくるというのが本来あるべき姿だし、それをしないと新しいものは全く生まれてこない。最初から古い前提に則ってつくられて、古い前提で決められた結論に終わっていくのなら、それは今までと何も変わらないということだと改めて思いました。

あとは個々人の具体的なアクションを組み立てることを目的としていて、そのノウハウが充実していることも大事だと思いました。今の労働組合の多くはアクションを組み立てるときのノウハウが欠けているのでこの点を取り入れるのは大きいと思います。

アクションを組み立てるときに、自分や仲間の力量や力の質を率直に見つめるところから始める点も重要だと感じました。いまの労働組合は抽象的な敵の分析はするけれど、自分たちの力量がどれたけあって、そもそもどんな人がいて、それぞれ何ができるかというところも落とし込まずに話をする。敵の話ばかりするから議論が宙に浮いてしまって抽象論になってしまう。逆にコミュニティ・オーガナイジングは、地に足を着けて具体的な話ができるというところが、労働組合にすごく生かせると思います。

自分の活動の棚卸しができた

山田 私は9月にワークショップに参加したときは実は少し疲れていた時期でした。首都圏青年ユニオンの専従で10年活動して、労働相談、団体交渉、解決、その後の組合員の展開という一定のサイクルができているのですが、ずっと自分がやっていることはもっと社会の構造を変えていく上で考えるとどういうことなのかなというのがありました。労働法の知識などは日常的に取り入れることはできるのだけど、それ以外のところをどう学ぶかというときに、COJのワークショップがあったので参加してみようと思ったのです。

ワークショップに参加していちばん良かったのは、天池さんも言っているように、“社会を変えられる感”というのがすごく出て来たことです。それから、私のいたワークショップのチームは区議会議員や大学院生、留学生や帰国子女のサポートをしている方や子ども食堂をやってる方など、それぞれ取り組んでいることは全く違うのだけど、コミュニティ・オーガナイジングを活用すればそれぞれをうまく融合することができて、共通の目標に向かってうまく動くことができるんだなというのがわかったのも大きな発見でした。

最後にワークショップでの2日間の学びを語ったとき、「自分の活動の棚卸しができたな」ということを言ったのですが、これまでは何となくやってきた活動をもっと精査して活かすことができることがわかったので、首都圏青年ユニオンの運営にも取り入れていきたいと思っています。

参加者がお客さんにならない

すごく時間がきっちりしているところと、その中で参加者が何をするかも明確なところは、労働組合も学ぶ必要があると思いました。労働組合の活動とか会議は始まりと終わりは大体決まってるけれども、その時間の中で何をするのかが明確ではないケースが多いですよね。自分は座っていて人の話を右から左に聞くだけとか、あるいは内職しててもやり過ごせるみたいな会議もよくあったりして、参加者がお客さんになってしまうようなところが労働組合のとりくみでは多いのだけど、これも主体性をうまく引き出していく方向に改善していきたいと思っています。こういった点について、どうやって改善していくかというのは、コミュニティ・オーガナイジングを学ぶまで全然なかったし、逆に言うと、全然なかった分、労働組合は改善できるところが多いと思います。今後、首都圏青年ユニオンでは、一人でも多く執行委員をCOJのワークショップに参加できるようにしたいと思っていて、そのための予算もつくりたいと思っています。あわせて、執行委員会などの会議の運営も改善して、きょうの会議は何を話して、何を決めて、それぞれ何ができていて何ができるのかということをきちんと振り返る形で首都圏青年ユニオンを前に進めていきたいと考えています。こうした点がコミュニティ・オーガナイジングを労働組合に活かせるポイントかなと思っています。

労働組合にいちばん欠けている体系化されたトレーニングメニュー

保科 2人が言い尽くしたと思いますが、私も同じ感想を持ちました。とりわけ、人を活動家、オーガナイザーに育成するにあたっての体系化されたトレーニングメニューは、労働組合にいちばん欠けていた部分です。それを持っているのがコミュニティ・オーガナイジングだと思ったので、これを労働組合が受け止めて真剣に受け入れていかないといけないと思います。ただ、馴染みのない英語が使われる点などをうまく改善できるといいのではないかとは思いました。

天池 日本の労働組合向けにアレンジがあった方がいいのかなという気が私もしました。そのままだと違和感を感じるところがあるので、大きく広げていくには労働組合向けにアレンジする必要があると思います。

中嶌 そこはまたぜひ議論したいですね。私はあまり違和感がないんですよ。

名取 その点は次の機会に議論するとして、今の労働組合に活かせる点に戻りますが、日本の活動家が対話すると、相手のことを聴かずに一方的にしゃべることが多い。私がオーストラリアで学んだのは、相手の話を聴くのが7割で残りの3割でこちらからしゃべるということです。そのとき相手に7割話させるためにどうやって対話すればいいのかがコミュニティ・オーガナイジングで明確に見えて来ましたね。一緒にオーストラリアに行った人から、帰国後、とりあえず相手の話を7割聞こうということにしたら、それだけでも随分対話が改善されたと聞いています。そこからより具体的に改善していくともっと有効な対話ができると思いました。

組織化の強力なツール=「関係構築」「1対1での対話」

中嶌 私は「関係構築」「1対1での対話」のところが衝撃的でした。組織化において基本になるところですが、意識してきちんとできているところがどれくらいあるんだろうと思いました。単に1対1で会いに行くだけならまだしも、相手がどういう価値観を持っていて、どういう興味・関心があって、そこにかみ合わせて相手に具体的に何をやって欲しいか、自分がなぜ役員をやっているかなどを話して、相手が「それなら私も関わります」となるような対話はできていないんじゃないかと。たとえば若手に役員を引き継ぎたい時なんか、「順番だからあなた役員やってね」「もうみんな高齢化してるから若い人が必要なの」といった「組織の事情」ばかりを押しつける程度の対話がほとんどで、酷いところでは「役員になったら組合のお金で飲みに行けますよ」と“勧誘”していることも聞いたことがあります。どうして役員をやっているのかとか、役員をやるということはどういうことなのか、そもそも労働組合全体で1年通してどういう活動をしようとしていて、その活動がなぜ効果的だと考えているのか、どんな「私たちの課題」を具体的に解決しうるのかとか、そういうことをきちんと語っていないんですよね。そこをコミュニティ・オーガナイジングは、「関係構築」という方法論として確立しています。イベントに来てくれて、何となくずっと来てくれるようになったというフワフワしたメンバーも大事ですが、そのフワフワした状態から、約束したらしっかり来てくれる、信頼できる、主体的に企画から関わってくれるメンバーになっていくには、もちろん気軽な声かけも大事ですけど、きちんとした「関係構築」「1対1の対話」をやっていくことが必要だと思いました。そのときに「役員ってこんなメリットあるよ」という“メリット論”ではなくて、きちんと自分がなぜやっているのかといった「ストーリーオブセルフ」、組織としての価値観としての「ストーリーオブアス」、なぜ今なのか、どういう戦略なのかといった「ストーリーオブナウ」を語っていく必要があります。

たとえば、私が他のメンバーに「あの人の考えを聞いてきて」と言ったときに、具体的な話の内容も考えずに、とりあえず「会って話してきてって言われたから会いに行くけど、要するに説得したらいいのかな」とだけ考えてしまい「中嶌さんに言われて来たんで、何とか頼みますわ」というような価値観ベースではなく、人間関係で圧力をかけるような感じになってしまってはいないか。それがオルグなのかという問題意識が常にあったのです。とはいえ、じゃあ「会ってきて」以上にどう伝えたら良いかわからかった。ところがそういうことを1つひとつ体系化して明確化したのがコミュニティ・オーガナイジングだったんです。コミュニティ・オーガナイジングで「1対1」で何をやるべきなのかということがわかったというのは私の中ですごく大きくて、これは組織化において大きな力になると思いました。そして、同じトレーニングを受ければ「○○さんと1対1で話してきて」と言えば「関係構築」だな、とどういう話をしてきたら良いか理解できるようになるので、トレーニング化されていることは本当に重要です。

仲間をエンパワーメントする戦略

みんなもそうだと思うのですが、この手のワークショップを私も初めは疑ってかかっていました。よくある組織活性化系の研修とか、コーチングスキルを高めようとか、ちまたにあふれてるじゃないですか。それに社会運動で何か大きな成果を勝ち取った人たちが研修をやるならまだしも、そうじゃないだろうしと疑問に思っていたので斜に構えていたところはありました。それが吹っ切れたのが、「コミュニティ・オーガナイジングにおける戦略とは何か」というところの講義や説明を聴いたときです。戦略っていろいろな使われ方ありますよね。ビジネスの局面でもよく戦略って出てきます。とにかく目標さえ達成できれば何でもいいんだというような戦略もあります。たとえばある政策を通すために、その政策のターゲットになる議員とか大臣とかに献金したら通るみたいな戦略もありになるわけですよ。脅しだってありということになってしまう。でもコミュニティ・オーガナイジングの戦略は、「パワーを持っていないから虐げられている仲間が、自分たちの資源をパワーに変えることを通して必要な変化を起こすこと」だったんです。そのための一連のアクションが「オーガナイジングキャンペーン」であり、コミュニティ・オーガナイジングにおける「戦略」だと言われたときに、これこそ社会運動における「戦略」だと思いました。

さらに、ターゲットを明確にせずに、一般的な問題を一般的に訴えて終わってしまうキャンペーンが多いように感じますが、コミュニティ・オーガナイジングのキャンペーンはターゲットを明確にするところが良いなと思います。ここでいうターゲットとは、「起こしたいと思っている変化を起こせる権限を持っている人」なのですが、それは形式的なポジション(例:労働の事だから厚生労働大臣、もしくは内閣総理大臣)ではなく、個別具体的な変化を事実上決定している人(場合によっては役人や、特定政党の担当者、もしくはそれらに影響力を持つ私人かもしれません)です。このターゲットを個人名レベルで特定し、自分たちが起こしたい変化に賛同する、もしくは賛同せざるを得ないようにすることを「同志の資源をパワーに変えることを通して」達成する。こうしたコミュニティ・オーガナイジングにおける戦略の考え方が、本当に社会運動のためのワークショップ、トレーニングなんだなと思えた理由です。

この点は「戦略」のワークショップトレーニング中に一貫しています。たとえばキャンペーンタイムラインといって、変化を起こすための計画をつくっているときに、「同志は何人増える予定ですか?」「このアクションに参加することで同志はエンパワーメントされますか?」「このキャンペーンで同志は、社会を変える力が自分たちにあると感じることができるんですか?」とコーチング(質問)されるわけですよね。「同志」というのは、私たちで言うと組合員や対象となる労働者と考えてください。同志が「自分たちに社会を変える力があると感じられるようになるかどうか」、それが変化を起こすことと同じくらい、その過程で問われるのがコミュニティ・オーガナイジングなんです。署名行動でも、デモや集会でも、そこに集まった参加者が「私は社会を変える力がある」と思えるような場面がきちんとあるアクションになっているかどうか。組合員がやればやるほど自分たちの力を感じられる。自分たちは力がないと思っていたけど、集まったら力になって、これを続ければ確かに変えられるかもと思える一つひとつのアクションの設計というのを、これまできちんとやれていないなと考えさせられました。役員だけが動き回って組合員は常に引っ張られる対象のようになっているところを変えていく必要があるとは思っていましたが、理路整然と体系立てて学ぶことができたのは衝撃的でした。

それから、皆さんが指摘しているようにワークショップがトレーニングという形で座学への対案として体系化されていて、セルフから関係構築、会議のやり方やチームのつくり方、戦略など、それはそれで学ぶことができることは重要です。そうした社会運動に必要なところをトータルパッケージで体系化できていて、労働組合にとっても活かせるポイントは満載です。まとめて言うと、労働組合はコミュニティ・オーガナイジングの全部を活かせる、ということだと思います。

戦略なきスケジュール闘争は組合員の力を削ぐ

井上 中嶌さんに2年前、国公労連の青年を対象にファシリテーション講座をやってもらったことがありますが(中嶌聡「会議ってどうやったらうまくできんの?―ファシリテーションを学ぼう」『国公労調査時報』2015年2月号所収)、その講座で学んだ青年が実践して職場の青年部が元気になっている事例がいくつか出て来ています。そうやって会議のやり方を改善していくだけも職場の青年が元気になるということですから、それこそコミュニティ・オーガナイジングの全体系を実践できるようになると労働組合も大きく変わっていけると思います。

私は単産本部にいるので、全労連や公務産別の中央行動などが戦略なきスケジュール闘争を繰り返しているのを改善しないと組合員の力は削がれるばかりだなと痛感しました。中嶌さんが指摘されたように、その中央行動や集会の一つひとつが、自分たちに社会を変える力があると組合員が実感できるものに設計していく必要があります。そのためにはできるだけ早くコミュニティ・オーガナイジングを取り入れていく必要があるわけですが、そのあたりの戦略も練っていければいいですね。

またこれも基本的なところなんですけど、いま国公労連は、国家公務員の定員が毎年削減されて国民の安全・安心を守れないほどいろいろな分野で行政サービスが劣化している問題を告発しながら行政体制の拡充をアピールするキャンペーンを提起しています。このキャンペーンの起点として、それぞれの現場の組合員が自分はこの行政分野で国民の暮らしを支えたいと思って専門性を発揮して日々頑張っているのだけど、というセルフから語れるようになることが大事だなとワークショップに参加して改めて思いました。2016年4月のシカゴ教員組合の教育予算獲得を課題にしてのストライキの成功というのも、一人ひとりの教員がセルフから語っていくことでシカゴの教育を良くしたいという思いが地域住民に広がっていったわけですから、この点を学ぶ必要があります。日本の公務員労働者は公務員バッシングの影響もあるので、とりわけこのセルフを語ることが苦手だと感じていますので、なおさらコミュニティ・オーガナイジングでトレーニングすることが重要だと思っています。

名取 それはすごくわかります。たとえば、介護ヘルパーネットの宣伝をしているときに、介護保険制度や政府の政策の話をしているところでは足を止める人は少ないのですが、介護労働者自身が実体験を語って署名を訴えると足を止めて署名する人が増えるのを見て、もっと「セルフ」を語る人が増えればなぁと思います。

セルフは信頼を醸成し相手との距離を縮める

中嶌 この職場の労働環境が酷いから変えないといけないというときに、酷い問題を表面化させて、職場の労働者に対して、「このままでいいんですか、あなた」と自分は別の立場で「やるなら支援するよ」みたいな感じの立ち位置になってしまう場合が多いように思うんですよね。言い方は悪いですけど、上から目線のような感じで、もちろん一緒に責任持ってやるから全く突き放すわけではないんですけど、少し立場に距離がある。セルフを語ることでその距離を一気に縮めて同じ立ち位置になれるんじゃないかと。「私も変えたくてやってるんです、あなたも一緒に立ち上がりませんか」という話になると思っています。たとえば相談者からしたら、「中嶌さんが相談に乗ってくれて、団体交渉というもので解決できるそうだ。過去にも何件も解決してるみたいだし、1回やってみようかな」となるけど、「ところであの中嶌さんは何でこんなことやってるのかな?」というところが不明確だと、「どこまで信用していいかわからないな」「最終的にはカンパ渡したらいいのかな?」「中嶌さんはビジネスとしてお金のためにやってるのかな?」みたいな割り切り方をされる可能性がある。セルフについて、マーシャル・ガンツが指摘しているのですが、ある程度の地位に立った人というのは、なぜそれをやっているかを積極的に語らないと、みんなが勝手にストーリーをつくってしまうと指摘しています。「あの人はこういう理由でやってるんだ」「地位や名声が好きだからやってるんだ」「あれでお金をもらってるからやってるんだ」というふうに語られてしまうから、「自分がなぜこれをやってるのかを積極的に語る必要がある」と言っています。そういう意味では、何かことあるごとに問題を指摘して「変えなければいけない」という話はするけど、なぜ自分がそう思っているかをセルフとしてきちんと語ることは、相手との信頼関係や立ち位置の距離に関わってくるのでとても大切だと思います。

コミュニティ・オーガナイジングを広げるには

井上 保科さんと山田さんがこの8月に開催したユニオン・サマーセミナーで山崎憲さんが講演したときに、「アメリカの労働運動はどうしてコミュニティ・オーガナイジングを活用する再生への道に舵を切れたのか?」という質問に対して、山崎さんは、「結局は危機感によるトップの方針転換だった」と答えていましたけど、そういう意味では国公労連はいまそのときに至っている感じがしていて、それで少しずつでも変わっていけるかなと思っています。

保科 このコミュニティ・オーガナイジングをどうやって全労連の中に広めるかというと、第1ステップとして専従者はもちろん現場の組合員もワークショップにある程度の人数が参加できるようにしていって、コミュニティ・オーガナイジングという言葉が日常用語になるようにしたいですね。そこから、全労連独自のワークショップとか次の段階に進められればと思います。運動がおもしろいのは、同じものでも一人ひとりが触れると感じ方がそれぞれ違っていて、その感じ方の違いでまた新しく転がっていくところなので、当面、COJのワークショップに一人でも多く参加してもらうことが大事かなと思いますね。それと、COJのワークショップガイド(※COJのサイトからPDFファイルでダウンロードできます)の内容は全面的に学ぶべきだと思っています。

井上 それぞれの持ち場でコミュニティ・オーガナイジングを広がていくのが当面すぐできることなので、国公労連本部から来年2月のCOJのワークショップに3人ほど参加できるようにしていきたいと思っています。最後にそれぞれきょうの座談会で良かった点などをお願いします。

保科 こうやって集まれて、労働組合の視点から本音で話せたのがすごく良かったです。今後もコミュニティ・オーガナイジングへの理解を地道に広げる活動を続けて何とか大きく花開けばいいかなと思っています。そして、今後も節目ごとに集まってまた話ができたらいいかなと思うのと、将来的には、全労連主催でコミュニティ・オーガナイジングに向き合えるようにしたいと思っています。

山田 保科さんも言われたけど、労働組合メンバーでワークショップを受けた人がまだ少ないから、お互いゆっくり時間をとって話すことが難しかったのですが、今回こうして話せたのがまず良かったと思いました。学びで言うと、組織の規模や形態はそれぞれみんな違うのだけど、共通する課題が見えたりだとか、中嶌さんの「1対1の対話」「関係構築」が重要という話などは、首都圏青年ユニオンでもすぐ実践していきたいと思いました。こういうことを話したかったという点では、青年ユニオンとしては天池さんと私ということなのですが、全国各地の青年ユニオンを活性化させるような枠組みをコミュニティ・オーガナイジングを使ってできるといいかなと思いました。それから、コミュニティ・オーガナイジングは、何となく個人加盟ユニオンに合ってる手法かなというイメージがあったのだけど、国公労連などもやっているわけだから、別に個人加盟に限らず労働組合全般にとってもコミュニティ・オーガナイジングは重要だと理解が深まりました。

天池 若い世代がなかなか労働組合に入りづらい面ばかりに目がいきがちなのだけど、今日のそれぞれの話を聞いていると、コミュニティ・オーガナイジングを活用してゼロベースで労働組合活動をもう一回見直していくと新しい戦略とかがたくさん見えてくるような気がしました。

名取 それぞれ置かれている事情が違ってもコミュニティ・オーガナイジングの手法がいろいろなところに活かすことができるということを交換し合えるのはすごく重要なことだなと思いました。9月にワークショップを受けてまだ2カ月しか経っていないのにもう忘れちゃってることもあったのだけど、こうやってみんなで振り返ることで学び直すことができて良かったです。そういう意味でいうと、天池さんのように、自分でワークショップを実際にやってみて教える側に回るとまた学びが深くなるということにも気づけたのも良かったです。

中嶌 良かった点は、基本的にコミュニティ・オーガナイジングをみなさんが好意的に受けとめられていたところです。加えて今回の座談会で、個人的に関心のある人がCOJのワークショップを受けたという段階から、受けた人が集まったという段階に進めた点です。そういう意味でまだチームではないんですけど、それぞれがそれぞれを知れて前に進めるという動きができたという日になったのが良かった。またぜひ労働組合の事例を使ったCOのワークショップなんかを組合でやれるような日が来たら、ワークショップ経験者でスタッフ、講師をやりながら、事例紹介もやりながらできたらいいな、と思います。

井上 それぞれの活動経験を踏まえての「1対1での対話」「関係構築」の重要性の話や、アクション、戦略を考える際にそれに参加した組合員がパワーを得るのかという観点の重要性など、コミュニティ・オーガナイジングの目から鱗が落ちるところを改めて学べたのが良かったです。私の方で事前の進め方の準備がきちんとできていなかったのは反省点としてありますが、みなさんの協力でとてもエンパワーメントされる座談会になったと思います。きょうはありがとうございました。

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井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

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月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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