派遣労働者へのパワハラ・セクハラは正社員・パートの3倍以上も多い、派遣法改悪で人が壊れてゆく職場=「人じゃなく物なのだから大事に扱わなくていい」

  • 2015/8/21
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厚生労働省が6月12日、2014年度の個別労働紛争の相談状況を公表しました。パワハラを示す「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が3年連続でいちばん多く、件数も6万2,191件と過去最多を更新し、初めて6万件の大台を超えています(▼下表参照)。

この厚生労働省のデータでは、相談件数ごとの雇用形態別は公表されていないので、「いじめ・嫌がらせ」の相談件数に占める派遣労働者の割合は分からないのですが、2014年に寄せられた全相談件数に対する雇用形態別は分かるので、それぞれ1万人当たりで計算してみると以下になります。

◆正規労働者の全相談件数9万1,111件÷3,278万人=27.7
◆パート・アルバイトの全相談件数3万8,583件÷1,347万人=28.6
◆派遣労働者の全相談件数1万399件÷119万人=87.3
(※労働者数は、総務省「労働力調査」の雇用形態別雇用者数の各2014年平均)

派遣労働者の労働相談は正規労働者やパートの3倍以上も多い

上にあるように、派遣労働者の個別労働紛争の相談は1万人当たり87.3と、正規労働者やパート・アルバイトのいずれと比較しても3倍以上にもなっていることが分かります。しかも雇用形態別の相談件数で前年度の2013年度から増加しているのは派遣労働者だけです。(◆正規労働者=2014年度9万1,111件、2013年度9万7,573件、◆パート・アルバイト=2014年度3万8,583件、2013年度4万604件、◆派遣労働者=2014年度1万399件、2013年度1万31件)

それから、上のグラフは、厚生労働省の雇用均等室に寄せられた相談で、2014年度の男女雇用機会均等法に関する相談は、2万4,893件で2年連続増加し、労働者からの相談が半数の50.2%(1万2,504件)を占めています。労働者からの相談内容の内訳は下表になります。

上にあるように、セクハラがいちばん多く1万1,289件(45.4%)、次いでマタハラ等=「婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い」が4,028件(16.2%)、3番目が「母性健康管理」が3,468件(13.9%)となっています。

「いじめ」「セクハラ」にさらされる派遣労働者
派遣労働者からの苦情は「いじめ」「セクハラ」が半数以上(54.3%)

いずれのデータも雇用形態別が分からないのですが、厚生労働省が4年に一度実施している「派遣労働者実態調査」の直近データである2012年調査における派遣労働者の「苦情内容の割合」を見ると、「いじめ」と「セクハラ」の合計で54.3%にものぼっています。前回調査となる2008年では「いじめ」「セクハラ」は45.8%となっていますので、8.5ポイントも増加しているのです。

直近のマスコミ報道でも職場で最も弱い立場に置かれている女性の派遣労働者がセクハラ被害にあっていることが分かります。

セクハラでは「派遣先事業所の正社員から胸を触られるなどのセクハラが複数回あったのに対応してもらえない」(中略)などの相談が寄せられた。
山形新聞6月9日付 セクハラ相談が最多、15年連続 14年度・山形労働局、マタハラ急増

今回のケースでは、セクハラを受けた女性は派遣社員で、報復などをおそれて言い出せず、結局、会社側に相談したのは発言に嫌気がさして退職を決意した後のことでした。
NHK2015年02月27日 時論公論「“セクハラ発言”に判決 社会に求められるもの」

それから、15年前と古い話ではありますが、ジャーナリストの斎藤貴男さんが『機会不平等』の中で、大手不動産会社・住友不動産による会社ぐるみの「夜のセクハラ大運動会」を例にあげ「セクハラを拒否できない」派遣労働の実態を告発しています。文章で引用するのも憚られる酷いセクハラ実態なので目次の一部だけを紹介しておきます。「第2章 派遣OLはなぜセクハラを我慢するか 住友不動産「夜のセクハラ大運動会」 セクハラを拒否できない 商品としての派遣スタッフ 弱者がより弱い立場の者をいたぶる構図」――というのが目次の一部で、この「第2章」の扉には、「住友不動産の『夜のセクハラ大運動会』で餌食になったのは、派遣OLたちだった。1995に出された日経連の政策提言で『雇用柔軟型グループ』に仕分けされた彼女たちは、はたして『自由』を得たのか。容姿までもがランク付けされて切り売りされるその『市場』の実際――。」と書かれています。

こうしたセクハラに加えて、弱い立場に置かれる派遣労働者に襲いかかっているのが、いじめ、パワハラ問題です。私、パワハラ問題で、笹山尚人弁護士にインタビューしたことがあるのですが、笹山弁護士は次のように語っていました。

ヨドバシカメラで働いていた派遣労働者の青年への殴る蹴るのすさまじい暴行、肋骨骨折等で3週間もの入院

 ――笹山先生は、『パワハラに負けない!~労働安全衛生法指南』(岩波ジュニア新書)、『それ、パワハラです~何がアウトで、何がセーフか』(光文社新書)、『人が壊れてゆく職場~自分を守るために何が必要か』(光文社新書)などパワハラに関する新書を数多く執筆されています。最初にパワハラ問題に関わるきっかけなどについてお聞かせください。

私自身がパワハラ問題に関わった最初のケースは、まさに有形力の行使=暴力によるものでした。それは、「ヨドバシカメラ違法派遣暴行事件」と言われているもので、ヨドバシカメラで働いていた派遣労働者の青年がヨドバシカメラの社員と派遣元の派遣会社の社員から二重に暴力を受けた事件です。その青年は、「お前にヨドバシの便器をなめさせてやる」との暴言を浴びせられ、殴る蹴るのすさまじい暴行をふるわれて、3週間もの入院を必要とする肋骨骨折等の怪我も負い、刑事事件にもなった大変深刻なものでした。

それから、私が最初に出版した『人が壊れてゆく職場』(光文社新書)の中で紹介しているのですが、広告等のデザインを制作販売する会社で、26歳の青年が上司に殴られて「あごに、穴があいた」「その穴から、栄養ドリンクが漏れた」という事件で、この職場でも、社員を叩いたり、蹴ったりすることが日常茶飯事になっているというケースでした。

日本という国は平和で豊かな社会のはずなのに、職場に暴力が蔓延しているということに、私自身、当初は本当に驚いていました。これらの事件は時期的にいうと2003年から2006年頃です。今でも暴力的な事件がときどき出てきますが、こうした社内暴力はパワハラが社会問題になる以前から存在していたのかなと思います。

次に2005~2006年頃から多くなってきたのが、言葉の暴力による事件ですね。言葉の暴力も、人格的な侮蔑がダイレクトに行われるケースがたいへん増えてきたと思います。典型的な例としては、医療機関の中で「会社の言うことが聞けない奴は辞めろ」という言葉の暴力が頻繁に行われていたという事件がありました。以前は人格そのものに対する侮蔑をストレートにぶつけるケースが多かったのですが、最近は、仕事の結果に引きつけて「だからお前はダメなんだ」と人格侮蔑に発展させるパワハラが増えています。こうした形で言葉の暴力が退職強要になっていくケースが非常に多くなっていると思います。

非正規雇用の増加、派遣労働者の増加がパワハラの背景
物品を扱う資材部等の部署が派遣労働者を扱い
「人じゃなく物なのだから大事に扱わなくていい」という風潮が蔓延

 ――そうしたパワハラが職場で増えている原因は何でしょうか?

私自身が一番強く感じているのは、やはり非正規雇用が増えたことです。暴力的な事件が以前からあったということは、もともと日本社会のどこかに暴力を容認するような風土があったのではないかと思うのですが、ここまで社会問題化するほどになった原因は何なのか。どこから壊れ始めたかと考えると、やはり1980年代くらいからだという感じがするのですね。高校や大学を出て社会に出た人が「会社の中で真面目でありさえすればきちんと育てていくよ」という企業風土があった時代から、そうではなく即戦力だという時代になってしまった。その状況の中で多くの職場が雇用の非正規化を強めていきました。そして、労働者が人ではなく物のように扱われる状況が生まれた。それがだんだん社会に蔓延するようになったということが根本的な原因ではないかと思います。

その典型的な例だと私が思うのは、派遣先における派遣労働者の扱いです。民間の大企業でいうと、派遣先で派遣労働者を扱う部署は人事部ではありません。購買部であったり資材部であったり物品を扱う部署が派遣労働者を扱います。そうすると派遣労働者の人件費を最終的にどこで決めるかというと、それもやはり購買部や資材部なのです。こうした対応が続いた結果、派遣先にとっての派遣労働者は「派遣さん」であって名前のある人間として扱われなくなったわけです。加えて派遣会社も「あなたはウチの会社のスキルなんですよ」と言う。つまり人ではないんですよと言うのです。そうして何か不具合が生じれば、部品を換えるみたいに「次の派遣さんに変えてください」と人間を物扱いする日本社会が、1980年代以降どんどん広がっていきました。その意味で、1985年にできた労働者派遣法がどんどん広げられていったのは、雇用の非正規化の典型的な時代の流れを象徴しています。こうして、雇用の非正規化が強まる中で「人じゃなく物なのだから大事に扱わなくていい」という風潮が広がったのです。そうすると、職場で何か歪みが発生した時にそれを弱いところにぶつけていくようになったというのが、いまパワハラが増えている最も根本的な原因ではないかと考えています。

パワハラやいじめが生じた場合、会社側はよく「あいつが空気を読めないから悪い」といじめられる人に責任があると言うのですが、そうではないと私はいつも思うのです。ある人がいじめられて、その人が仕事を辞めたら今度はまた別の人をいじめるということが起こる。パワハラ、いじめが生じる職場では、必ず人を変えていじめが連なっていきます。ですから、いじめられる人に問題があるわけではなく、その“職場が抱える闇”の問題なのです。私はパワハラ問題をそのように捉えています。この“職場が抱える闇”はどこから来るのか? それはやはり人間を大事にしない風潮であり、雇用の非正規化というものがバックボーンとしてあるのではないかと、今はそのように理解しています。

以上の笹山弁護士の指摘にあるように、「人が壊れてゆく職場」は、「人じゃなく物なのだから大事に扱わなくていい」という派遣労働の実態が象徴していると言えるでしょう。この上さらに、今、国会に提出されている派遣法改正案が成立すると派遣社員が激増することになり、「人が壊れてゆく職場」は加速することになります。

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井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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