若者をローン地獄に突き落としブラックバイトとブラック企業の人権侵害誘発する世界最悪の日本の奨学金、財界は奨学金延滞者に経済的徴兵制ねらう

  • 2015/8/26
  • 若者をローン地獄に突き落としブラックバイトとブラック企業の人権侵害誘発する世界最悪の日本の奨学金、財界は奨学金延滞者に経済的徴兵制ねらう はコメントを受け付けていません。

(※2014年11月にアップした記事です)

私が企画・編集したインタビュー記事を紹介します。このインタビューを読むと、じつは日本の「奨学金」というのは単なる「ローン」でしかなく、「世界の常識」からいくとそもそも「奨学金」とは呼べないものであり、若者の貧困に拍車をかけるだけでなく、「ブラックバイト」や「ブラック企業」による人権侵害誘発や「奨学金被害者」まで生み出す大きな社会問題であることがよく分かります。しかも若者を苦しめる「奨学金ローン地獄化」は、歴代自民党政府の「行政改革」「構造改革」がもたらしたものであることも時系列を追って分かるインタビューになっています。若者の貧困問題を一層深刻化させる「世界の非常識」と言える「日本の奨学金」は直ちに抜本改善をはかる必要があると思います。

若者をローン地獄で苦しめる奨学金問題
岡村稔 日本学生支援機構労働組合書記次長インタビュー

いま若者に貧困が広がるなか、若者をローン地獄で苦しめる奨学金が大きな社会問題になっています。この奨学金問題について、日本学生支援機構労働組合の岡村稔書記次長にお話をうかがいました。(聞き手=国公労連調査政策部・井上伸)

若者の3重苦――雇用、高学費、奨学ローン

 ――現在の奨学金の問題は、どのような状況になっているのでしょうか?

はじめに、最近私たちの組合に寄せられた2人のケースを紹介します。

Aさんは、高校・大学で奨学金(合計450万円)を利用しました。卒業後に就職した職場で人間関係の問題でうつ病を患い退職し、安定した仕事に就けないまま20代を終えました。奨学金返済猶予の5年を使い切ると独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」)の法務部から法的処理に入る「最後通告」が届きました。Aさんは現在もうつの影響でフルタイム働けず、ドラッグストアのパートの時給は700円、社会保険も雇用保険以外はなく月7~8万円の収入です。Aさんは毎月5,000円~1万円を返済していますが、延滞金の金利分に充当されて元金はいつまでも減りません。「今37才、いつ完済できるかわかりません」と訴えました。

都内私立夜間部の女子大生Bさんは、父親の失業で親からの援助がないなか、単身上京し、住み込みの仕事を得て大学に入学しました。ところが仕事を始めると当初の契約にない営業を強制され、個人のノルマに達成しないと給料からペナルティを天引きされました。残業が続き授業にも出られなくなりました。社員寮は部屋のドアの鍵が内側からしか掛からず、不在時にお金や下着が盗まれ、夜も眠れなくなり退職を申し出ると、会社は違約金の支払いを一括請求しました。

彼女は地域の個人加盟労働組合に加入し、団体交渉を通じて無事、違約金もなく退職できましたが、今度は「ブラック企業」で有名になった居酒屋で働き始めました。Bさんに奨学金を利用しない理由を尋ねると、「奨学金は借金でしょ。借金で苦労している親を見ていると怖くて利用できません」と言いました。

「世界一高い」日本の学費とローン(貸与制)しかない公的奨学金、そして若者の自立を阻む雇用破壊は、この国の「貧困と格差」を拡大・固定化させ、未来への活力を失わせています。卒業後の奨学金返還困難者の実態は、学生時代のブラックバイトや卒業後のブラック企業による人権侵害を誘発し、返還困難者に対する回収強化策は「奨学金被害者」という言葉まで生み出しています。

日本に高等教育向けの公的奨学金はないに等しい

世界では奨学金(スカラシップ、グラント)は給付であり、返還義務があるものはローンと呼ばれます。その意味では日本の高等教育に対する公的な「奨学金」は存在しません。

大学生の2.6人に1人が利用する機構の「奨学金」はすべて貸与制であり、無利子と有利子がありますが近年有利子のみが拡大され2014年度の奨学金事業予算1兆1,744億円(141万人分)のうち、有利子が74%を占めています。

無利子の貸与額は学種と通学条件で決まりますが、有利子は申し込み時に貸与金額と金利方式(固定か変動)、保証制度(連帯保証人・保証人をつけるか保証料を支払う機関保証)を選択します。

有利子の貸与月額の上限は、大学で最高12万円、大学院15万円、法科大学院22万円です。大学4年間で毎月12万円借り続けると貸与総額が576万円。3%上限金利で試算すると、返還総額は775万円で20年間毎月3万2,297円返還することになります。入学時の増額貸与(有利子)や無利子との併用、高校等でも奨学金を利用すると返還総額は1,000万円を超えることも珍しくありません。1,900万円の返還計画書を持って相談に来た方は毎月8万円の返済額を示し「アパートの家賃より高い」と言いました。

返還困難者を追い込む奨学金の金融化

このように高額なローンを「持続可能な制度」にするために様々な金融的手法が導入されました。延滞すると元金に対し年利5%(2014年4月までは年利10%)の延滞金が賦課されます。3カ月以上の延滞者を個人信用情報機関に登録する制度(ブラックリスト化)は、開始4年(10~13年度)で3万3,286件登録されました。延滞4カ月を超えると債権回収を民間業者(サービサー)に委託します(2013年度7万4,000件)。延滞9カ月になると法的措置が始まり、裁判所の支払督促申立件数は06年度1,000から5年で10倍に、強制執行は06年度0件から13年度291件と激増しています。奨学金延滞者の大部分は返したくても返せない状態にあり、罰則はその人の状況を一層困難に追い込みます。機構が行う「延滞者の属性調査」では12年度延滞6カ月以上の方の83%は年収300万円未満でした。延滞理由には「本人の低所得」「親の経済困難」に続いて、「延滞金額の増加」が急増しています。奨学金制度自体の歪みが返還困難者を生み出しています。

「米百俵」から「9兆円市場」へ

 ――そのように、奨学金がローン化した原因は、どこにあるのでしょうか?

70年前、第二次世界大戦末期に奨学金制度は創設されました。国家存亡の瀬戸際にあっても次世代の育成こそ日本再生の希望という創設時の理想は、山本有三氏の戯曲『米百俵』(明治維新の時に長岡藩が、救援米百俵を学校建設のために使った故事)に例えられました。そして戦後も奨学金は日本国憲法第26条「教育を受ける権利」や教育基本法第4条「教育の機会均等」を保障する制度として継承されました。奨学金は貸与制であっても、無利子のみであり、半額給付制度や教職・研究職の返還免除制度など、給付的な性格も存在しました。

ところが1971年に中央教育審議会が高等教育の「受益者負担」政策を打ち出し、学費が高騰し、民間教育ローンが拡大する中で、奨学金も行政改革の度に「ローン化」します。

最初が1984年、中曽根内閣の第二臨調行革は「自助自立、受益者負担、民間活力の導入」をスローガンに国鉄分割民営化を強行するとともに有利子の奨学金を作りました。

次に1999年、橋本内閣6大改革と呼ばれた金融改革で、財政投融資を原資に貸与基準を緩和した金額選択制の有利子制度をつくり、それ以来有利子の規模が急激に拡大しました。

この年に社会経済生産性本部が『教育改革の提言』の中で9兆円奨学ローンを提唱します。「学資(=学費+生活費)の合計は年間300万円。(中略)親が代わって学資を支払うことは、しないことを原則にする(たとえば、贈与とみなして課税するなど)。そのかわりに学生本人に対して、銀行から奨学ローンの形で貸付を受けられるようにする。1200万円を20年賦、市中金利+α(年6%の固定金利)で借りるとして、毎年の返済額は約100万円程度。自動車ローンに比べれば高額だが、住宅ローンほどではない。(中略)毎年、約300万人に年間300万円として、約9兆円」。

この青写真は現在も生きています。

権力の強迫と恫喝で進められたローン化
石原伸晃行革担当大臣(当時)が公的奨学金が銀行の教育ローンを圧迫していると攻撃

3度目は2004年、小泉内閣の特殊法人改革により60年続いた日本育英会が廃止されます。育英会廃止の理由について石原伸晃行革担当大臣(当時)は、「特殊法人でない主体が、欲しい人に奨学金などを十分やれるほど、この国は成熟してきた(2001.6.7衆院内閣委員会)」と言い、公的奨学金が銀行の教育ローンを圧迫していると攻撃しました。

しかし、3度目の行革は単純な組織の廃止民営化ではなく、機構の奨学金事業を「金融」と位置づけ、民間資金のリスクを独立行政法人が引き受けながら、金融と教育の「市場」を拡大していく手法が取られます。

独立行政法人は5年ごとの中期目標・計画の達成が組織存続の条件とされ、回収率向上の数値目標が明記されます。規制改革をすすめる政府各省の有識者会議民間議員から「延滞金が多いのは機構の督促がずさん」「回収業務の民間委託化」「奨学金債権の証券化」等が指摘され、第一次安倍内閣における「整理合理化計画」閣議決定によって機構内に設置された返還促進に関する有識者会議は、第1回会議(2007.10.3)の冒頭に民間委員が「銀行業界等の信用情報機関に登録する予定はあるか、この会議では議論しないのか」という恫喝で始まりました。

2014年度奨学金事業の財源をみると、無利子奨学金予算は拡大していても、増えたのは返還金であり、政府貸付金は昨年の719億円から676億円(▲43億円、▲5.9%)に減額されています。有利子財源の77%は民間資金(財政融資資金8,596億円、財投機関債1,800億円、民間資金借入金4,102億円、計1兆4,498億円)であり、財政融資資金等の償還金に1兆241億円が使われるなど、財源だけみれば民間ローンと変わりません。

奨学金事業を仕事とする機構の非正規労働者たちが「官製ワーキングプア」で「奨学金が返せない!」

こうしたローン化は職場の状況も一変させました。独立行政法人化以降、10年間に奨学金事業予算は2倍(2004年度6,820億円→2013年度1兆2,394億円)に拡大しましたが、逆に人件費を含む運営費交付金は削減(2004年度230億→2013年度139億円)され、奨学金事業関係の正規労働者は半減(2003年377人→2013年198人)しました。その結果、正規の労働者には長時間過密労働が押し付けられる一方で、任期付、非常勤、派遣などの非正規労働者が過半数を占める職場になり、その多くが年収200万円以下の「官製ワーキングプア」になっています。

私たち労働組合が取り組んだアンケートには「給与が上がらないため、奨学金返還の負担(手取りの1割以上!)が大きい」という非常勤職員の声が寄せられ、返還猶予審査をする職場の非正規労働者が自分の賃金では返還が困難であると奨学金の返還猶予申請書を提出している現実があります。

機構法付帯決議の原点に立ち返れ

 ――日本学生支援機構労組としては、この奨学金問題をどのように改善していけばいいとお考えでしょうか?

2003年6月6日、新たな学生支援組織として機構法が成立した時、全会一致で採択された付帯決議には「奨学事業について、憲法・教育基本法の精神にのっとり、教育の機会均等の実現のため、無利子奨学金を基本としつつ、学習意欲のある学生がある学生が安心して学べるよう、奨学金事業全体の一層の拡充に努めること。有利子貸与については、将来にわたって、奨学生の過度の負担にならないよう努めること」が明記されています。

政府と国会はこれを守る義務があるはずですので、まずは「無利子を基本」に戻すこと。「将来にわたる過度な負担」となっている制度の抜本的な見直し(延滞者の個人信用情報機関登録制度廃止、回収業務の民間委託廃止、延滞金金利廃止、返還困難者への猶予・減免制度拡大、経済的理由による猶予期間の上限撤廃、延滞金優先の充当順位変更など)が必要です。

しかし、これらの課題を実現するためにも、権利としての教育を保障する、教育無償化をすすめる世論と運動が重要になっています。

運動が作り出した教育無償化への道

私たちは第二臨調行革による有利子化以来、「奨学金ローン化」に警鐘を鳴らし、幅広い労働者・国民の運動を呼びかけてきました。

この中で2012年9月、政府が33年間無視し続けてきた国際人権規約の中等・高等教育の無償化条項の『留保』を撤回させ、政府は「教育無償化をすすめる国」になると国際公約しました。2007年12月に結成した「国民のための奨学金制度の拡充をめざし、無償教育をすすめる会(会長、三輪定宣千葉大学名誉教授)」の請願署名も今年で6回目となり、累計で20万筆を提出しています。奨学金の会が行う政党へのアンケートでは、主要国最下位の教育予算を欧米並みに引き上げることを、最近ではほぼ全政党が賛成しています。

こうした運動の中で、奨学金返還困難者の問題が注目され、その救済措置として、2014年4月から奨学金延滞金の利率を年利10%から5%に軽減し、返還猶予期間の上限を5年から10年に延長するなどの制度改善を実現させたことは大きな前進です。

奨学金延滞者に経済的徴兵制!?

しかし、安倍内閣『教育再生』は「自助自立する国民」を柱に「受益者負担」主義を強調しています。昨年末の臨時国会では「高校無償化」を廃止し、所得制限を導入することで原則「無償」から「有償」に後退させました。「骨太方針2014」は授業料を上げた国立大学に運営費交付金を重点配分すると明記し、授業料値上げ競争が起きる危険があります。

学生の経済的支援の在り方について、文科省が2年間の検討会の結論をこの夏に発表しましたが、中心的テーマとなるべき学費の無償化は議論されず、給付制奨学金は「将来的な課題」とされました。唯一、具体的政策として示された「より柔軟な所得連動型奨学金制度」は、共通番号(マイナンバー)制度による返還者の所得把握が決定事項とされ、返還困難者の救済策をどのように実施するのかは「今後の検討」とされています。

さらにこの検討会(2014.5.26)のなかで、経済同友会専務理事の前原金一委員は奨学金の延滞者情報を活用し、防衛省が就業体験を斡旋する制度をつくれと発言しました。彼は機構の政策企画委員として産業界の立場から学生のインターンシップの制度設計に関わる役職にあります。彼が「防衛省は2年コースを作ってもいいと言っています。ですから、是非、渡辺(文科省・学生留学生)課長が中心となって各省へ働きかけ」を、と発言することは、財界が低所得者層の若者を対象にした経済的徴兵制度を強く希望していることを証明しています。

「教育は無償に」「奨学金は給付に」

街頭で署名を訴えると「借りたものは返すのが当たり前」「自分も苦学生だった。今の学生は甘えている」といったご意見をいただきます。文科省は「財源がない」ことを理由に「給付制奨学金」の概算要求すら断念し、子どもの貧困対策法大綱に「給付制奨学金」が盛り込まれなかった理由は、「給付制奨学金は…経済的に厳しい人に行き渡らない現実があるため(検討会意見の整理)」でした。

自助自立、受益者負担の精神が浸透している現実があります。しかし一方で世界の常識からみれば、奨学金は給付が当たり前であり、OECD加盟34カ国中、大学で授業料があり、かつ給付制奨学金がない国は日本だけという逆立ちした風景に変わります。(▼下図参照)

そして日本の現実社会も日本型雇用が破壊され、高等教育機関を卒業した30代~50代の3分の1が年収300万円以下(総務省「就業構造基本調査」)という状況の中で、「学費が高くても、大学を出れば、高額な収入が約束され、20年賦の奨学金返還も可能」という貸与制奨学金の前提も崩されています。

私たちは今こそ教育予算を抜本的に拡充し、「学費を下げて、奨学金は給付に」という国民的な要求を実現するべきだと考えます。

財源はある! 共同を広げて夢を現実に

OECDによると日本の教育への公的支出(対GDP比)は3.8%で5年連続最下位です(▼下のグラフ参照)。OECD平均値(5.6%)に引き上げるためには約8.5兆円が必要です。例えば、2014年度4兆964億円の文教関係予算を毎年8,000億円ずつ増額すると、5年後に8兆円の予算が実現します。

その中で、高等教育学生総数304万人に平均50万円の給付制奨学金原資、約1.5兆円も確保できます。その財源としては、大企業1,000社の内部留保が2013年度の1年で23兆円以上増え、304兆円となっています。日本の大企業には様々な優遇措置があり、法人税の基本税率が25.5%に対して大企業は13.9%と低く抑えられています。この一部に課税し、次世代の育成費用とすることは、日本経済を含めあらゆる分野の発展の原動力となり、財政危機克服の確実な基礎となるでしょう。

オバマ米大統領は、高利の民間学生ローンを廃止し、低利の政府ローンへの借り換えや給付制奨学金の拡充をすすめる政策転換を提案し、その財源を富裕層への増税に求めています。すべての国民の教育権を保障し、教育無償化を実現することは、1%のための政治から99%のための政治への転換の一歩です。共同の運動をさらに広げて、誰もが安心して学べる社会を実現しましょう。

岡村稔 日本学生支援機構労働組合書記次長談

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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