日本のひとり親世帯の貧困は世界最悪、生活保護受給は世界最小、異常に少ない生活保護受給者数こそ最大の問題、日本政府が子どもの貧困を人為的に増やし働いても働いても貧困へ突き落すワーキングプア大国=企業天国

  • 2016/8/22
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2012年10月4日に書いたもので、データが古くなっているものはありますが、現時点でも日本の貧困問題を考える際のベースになる重要な指摘ですので紹介します。

第11回地方自治研究全国集会が9月29~30日に埼玉・大宮で開催されました。初日に行われた、阿部彩さん(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部長)の記念講演「すべての人に、暮らしを守るセーフティネットを」の前半部分「日本の貧困の特徴」の一部要旨を紹介します。(※文責=井上伸)

上のグラフにあるように、2009年の日本の相対的貧困率は16%です。全人口の6分の1、人数にして約2,040万人が貧困状態にあります。相対的貧困率のラインは一人世帯で可処分所得125万円未満です。そして、子どもの貧困率は15.7%で330万人の子どもが貧困の中に暮らしているのです。

日本の貧困問題が深刻になったのは近年になってからだと思われていないでしょうか? 2009年の年越し派遣村を契機にしてマスコミなどが貧困問題をクローズアップするようになりましたが、今から27年も前の1985年の貧困率が12%とすでに高い水準にあったことが示すように、日本には随分前から貧困問題は存在していて、一貫して貧困率は上昇してきたのです。

日本の貧困率が上昇している要因は、①勤労世代の所得の減少、②高齢化、③世帯構造の変化、などがあります。

勤労者の所得がずっと減少し続けていることが貧困率を上昇させる要因であることはすぐ理解できると思いますが、なぜ高齢化や世帯構造の変化が貧困率を上昇させるのでしょうか? それは貧困率が最も高いのは高齢者と、ひとり親世帯だからです。ですから所得の減少など他の要因がなくても、高齢化が進むと貧困率は上がっていくことになりますし、世帯構造が核家族化し、ひとり親世帯が増えると貧困率は上昇していくことになるのです。そして、生活保護世帯の増加にも同じ要因が影響しています。

では相対的貧困というのは何が問題なのでしょうか? 貧困と言っても一人世帯で可処分所得が125万円あればすぐに飢えるわけでも凍死するわけでもないだろうなどと言われる方がいます。しかし、相対的貧困は社会の中で普通の人の暮らしができません。普通に友人とつきあったり、結婚したり、子育てをしたりという普通の人としての暮らしができないということです。とりわけ、子ども期の貧困はさまざまな影響を及ぼしていきます。子どもの貧困が影響する指標としては、①子ども期の学力、②子ども期の健康、③不登校・ひきこもり・非行、④自己肯定感、⑤学歴、⑥将来への希望、などがあります。

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上の2つのグラフは、世帯年収と子どもの学力・大学進学率を見たものです。子どもの貧困が学力にも学歴にも影響しています。また、子どもの健康面でも所得が下位20%世帯の子どもの入院率は高く、ぜんそくの通院率も高くなっています。

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上のグラフにあるように、子どもの期の貧困は、大人となってからの食料・衣服困窮や受診抑制などに影響し、生活保護受給の確率は3.5倍に高まるなど、「貧困の連鎖」が必然的に起こっているのです。

国際比較から見ると、日本の子どもの貧困の特徴は、①世帯内の女性の就労による貧困削減効果が少ない、②母子世帯・単身世帯・高齢者世帯という「特定世帯」の貧困率が突出している、③政府の政策による貧困削減効果が少ない(貧困が「人為的」に生み出されている)、ことなどです。

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上のグラフにあるように、日本の子どもの貧困率はOECD30カ国で9番目に高く、ひとり親世帯の貧困率はOECD30カ国の中で突出して一番高いのです。ひとり親世帯という「特定世帯」の貧困率が世界でも突出しているのです。社会全体の貧困率のOECDの2千年代半ばの国際比較でも日本の貧困率14.9%より高いのは、アメリカ17.1%、トルコ17.5%、メキシコ18.4%の3カ国だけです。日本は平等社会だなどと言われることがありますがそれは間違いです。日本は世界の中でも貧困が非常に多い格差社会なのです。

上のグラフはワーキングプア率の国際比較です。棒グラフが「世帯主が稼働年齢にある世帯」のワーキングプア率です。OECD29カ国の中で日本は5番目に高くなっています。

ヨーロッパの多くの国の貧困問題は失業問題です。仕事がないということが貧困につながっているのです。ところが日本の場合はそうではありません。日本は仕事があって働いているのに貧困というワーキングプア大国なのです。これが日本の大きな特徴です。

生活保護を代表とする公的扶助の国際比較を見ると、日本の生活保護受給率はわずか1.6%(2012年)にすぎませんが、イギリスは9.27%(2010年)、ドイツ8.2%(2009年)、フランス5.7%(2010年)、スウェーデン4.5%(2009年)です。日本の生活保護受給率はイギリスの5分の1以下なのです。いま生活保護受給者が増大しているなどと言われますが日本は非常に少ないのです。いま生活保護バッシングが巻き起こっていて、日本の生活保護が財政的に耐えられないほど大きくなっているのではないかなどという指摘がありますが間違っています。むしろ今まで日本の生活保護受給者がこんなに少なくされていたことの方が問題だと私は思っています。日本の公的扶助が小さすぎるということは、政府の政策による貧困削減効果が少ない、貧困が「人為的」に生み出されているということなのです。

上のグラフは各国の家族関係社会支出の比較です。家族関係支出は子どもの貧困に大きく影響してきます。多くの国では子どもの貧困に対する手当が政策として打たれているのですが、日本は他国にくらべて非常に小さいのです。

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加えて上のグラフにあるように日本の教育関連の公的支出は一番少なく、私的支出も一番高くなっています。

上のグラフにあるように、税や社会保障、家族関係支出など政府によって再分配された後の方が子どもの貧困率が高くなる唯一の国が日本です。日本は社会のあり方そのものが子どもの貧困を悪化させているのです。

上のグラフはユニセフの報告書にある2009年の子どもの貧困に対する政府の再分配効果ですが、依然として日本政府の再分配効果はマイナスで、子どもの貧困を悪化させています。

 

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上のグラフは勤労世代の再分配前後の貧困率ですが、勤労世代では再分配後に貧困率は下がってはいますが、他国と比べると再分配効果が非常に少ないことが分かります。

日本の社会保障は高齢者にかたよっているのが問題だという議論がありますが、これも間違っています。上のグラフにあるように、社会保障給付のほとんどの給付先である高齢者であっても再分配後に貧困率は下がってはいますが、日本の貧困削減効果は他国に比べて小さく、高齢者の貧困率もOECD25カ国の中で3番目に日本は高いのです。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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