1千5百万円の借金まみれで「高学歴ワーキングプア」の仕事さえ失う若手研究者、世界一高い学費・奨学金という名のローン地獄・高学歴ワーキングプアという貧困三重苦の将来不安抱える日本の大学院生

この藤田孝典さんのツイートを読んで昨年私が事務局を担当した集会を思い出しましたので紹介しておきます。

昨年6月に、つくばで開催した国立試験研究機関全国交流集会(国研集会)のシンポジウムで、全国大学院生協議会(全院協)の役員の方に話していただきました。そのときの全院協の方のお話の要旨を紹介します。(※文責=井上伸。※2014年の6月に開催した国研集会ですので、全院協のアンケート結果は2013年11月に発表した2013年度アンケートを使っています。最新の全院協アンケートはこの10月31日に2015年度アンケート結果の概要が発表されています。下記報告も酷い状況ですが、2015年度アンケートはさらに事態が悪化していますから、安倍政権の「1億総活躍社会」なるもののデタラメさも分かるものとなっています。※文責=井上伸)

私は大学院生です。大学院生というと、大学生の延長で勉強好きが集まっているとか、遊んでいるんじゃないか、などというイメージがあるかも知れませんが、大学院生というのは、教育を受けながら研究もおこなっている研究者でもあります。

多くの大学で実際に実験とか調査をおこなっているのは大学院生やポスドクなどの若手研究者ですし、非常勤講師として学部生の講義を担当し大学教育を支えている大学院生もいます。

全国大学院生協議会では毎年「大学院生の経済実態に関するアンケート調査」に取り組んでいます。

このアンケートの結果から分かるのは、大学院生が置かれている状況が極めて劣悪であり、同時にそうした窮状が急速に悪化しているということです。

日本はそもそも世界で一番高い学費で、学部でも年間100万円を超えるのがざらになってしまっています。その上、日本には世界では当たり前の「返さなくていい給付型奨学金」が存在しません。

現在の大学院の初年度納付金の平均は、現在、国立81.8万円、公立91.1万円、私立修士104万円、私立博士89.3です。私立修士で100万円を超えているのです。大学でおこなっている研究や調査に対して給料が支払われるわけではありませんから、こうした世界一高い学費と「返さなくていい給付型奨学金なし」のダブルパンチで経済上の不安を抱える大学院生が多数にのぼるのは必然です。

このダブルパンチによる生活難を回避するためにアルバイトが必至になるわけですが、今度はアルバイトに時間を奪われ、大学院生本来の研究をする時間がなくなってしまいます。今回のアンケートに寄せられた声にこうあります。「経済的負担やそこから来る研究への悪影響があまりにも多い。経済的窮乏→アルバイトで工面→研究時間の不足→業績の不振→経済的窮乏という悪循環に陥っている。体力的にも負担は増大するばかりである。そのような点で、院生の格差がどんどん広がっていくように感じる。貧乏人は研究も満足にさせてもらえないのか。種々の奨学金制度も貧困な院生の実態をまったく反映しておらず、何のための制度なのかわからない。このような不公平さを感じ、正直失望するしかない状況である」――これが今の大学院生のリアルな現状なのです。

アルバイトの目的は、94.8%が「生活費あるいは学費(研究費を含む)を賄うため」と回答しています。そして、将来の懸念では、「生活費・研究費の工面」に58.5%が不安を抱えています。

収入不足によって研究に何らかの影響を受けている大学院生は63.7%にのぼり、具体的には「研究の資料・書籍を購入できない」が48.1%になっています。

また、困窮する大学院生のもう一つの側面である研究時間を見ると、29.0%がアルバイトによって研究時間が確保できないと回答しています。

学費ローンに過ぎない貸与制奨学金を現在受けている大学院生は55.3%で、そのうち、奨学金の借り入れ総額は、300万円以上が49.8%、500万円以上が23%、700万円以上が12.2%で、1,000万円以上も2.9%にのぼっていて、最高借入額が1,500万円を超えている人もいます。こうした高額の借金を抱えているわけですから、80.4%が奨学金の返還に不安を持っている回答しています。

こうした多額の奨学金を抱えた上に、博士の学位を取得したとしても将来はさらに不安だらけです。日本政府は大学生、大学院生を高学費と奨学金という名のローン地獄に陥れるだけでなく、大学や国立研究機関の運営費交付金と人件費を毎年削減することによって、若手研究者の将来をも奪っているのです。ですので、若手研究者は世界一高い学費と、奨学金という名のローン地獄と、高学歴ワーキングプアという貧困三重苦に襲われているのです。

いま任期の無い大学教員のポストや研究機関のポストを得ることは現在非常に困難になっていて、多くの人が任期付きのポスドク、あるいは非常勤講師などの「高学歴ワーキングプア」と呼ばれる劣悪で不安定な状態に置かれながら次のポストを得るために業績を上げなければならないというプレッシャーのもとで研究を続けています。1,500万円の借金を背負った上に「高学歴ワーキングプア」の仕事さえ失いかねない若手研究者の窮状は現実のものとして今の日本社会に存在しているのです。そして、こうした先行きの不安定な中でのプレッシャーで業績不安を感じている人は8割にも達していて「心身の不調」は大学院生全体で10人に1人、オーバードクターでは約4割にものぼっています。就職難が言われて久しいですが大学院生の就職難は当然だというような風潮の中で心身の不調を来すところにまで追い詰められているのです。

そもそも大学の学費を無償にすることは国際人権規約にもあるように「人権」を保障するかどうかというレベルの問題です。日本は世界で当たり前の大学の学費無償という人権保障を侵害している異常な国だと言えます。

(※以下は報告の資料として使われた全院協アンケートに寄せられた声の一部です)

◆借金が多く、経済的にも困難なのに、今後どのように奨学金の返済をしていけばいいのか、また就職のことも考えると死にたくなります。死んだほうが奨学金の返済も可能なのかもしれないと考えます。

◆高額な学費は学生・院生の生活から研究の割合をはく奪します。教育支出の社会的負担の上で学生・院生をエンパワメント(激励)する制度構築は急務と思います。

◆学費が高すぎる。給付型奨学金を増やすか、授業料を下げなければ、有能だが経済的理由で院に進学できない人材が多くなり、院のレベルの低下に歯止めがかからず、社会全体に悪影響が出てくる。

◆様々なコピー代から地方での調査代まで基本的に全て自費であり、とくに調査代は回数が重なると辛く、内容よりまずかかる金額を考えてしまう。また周囲の院生を見ていると、一人暮らしで兄弟が居る場合、大学院入学前には博士課程への進学を目指していても、金銭的余裕のなさから進学を諦め修士を出て就職する人が多い。優秀な人材が博士に行くことができないのは本当に勿体ないと思う。

◆奨学金制度が貸与であること自体に不満がある。国公立大学の授業料が高すぎる。日本の経済が停滞・減退期であることを考えれば、貸与による返済は、明らかに学生側の負担増であり、日本の教育・研究レベルの衰退を招き、国際社会から無視される状況になるといわざるを得ない。教育に十分な投資をしない国は滅びる。

◆生活状況に関して、博士課程に進学する場合、両親は定年間近もしくは定年を迎える可能性があり、しかし、アルバイトをしながら研究を十分に行うのは時間的に難しく、RAのような制度では収入に限度があります。金銭的な問題で、必要にも関わらず通院を十分に行えないなどの問題があり、また生活費を切り詰めた生活を送っているため、家族など周辺の方々に心配されることもあります。休日があっても遊びに出かける余裕もありません。精神的な休息ができないことは、研究遂行に大きく影響していると感じています。

◆博士課程進学を考えていますが、金銭面で不安を感じています。もし進学も就職もできなかった場合、すぐに奨学金を返し始めることが困難だと思います。進学したとしてもこれまで以上にお金が必要になることが予想されます(親からの仕送りがなくなるため)。この場合、今以上に奨学金をあてにしなければならず返済に不安を感じます。

◆この数年間、自分より有能な先輩方が経済的理由から学業の続行を断念したり、また将来有望な後輩たちが今後への不安を抱き研究者への道を諦める瞬間を何度も目にしてきました。世界に通用する力をもった研究者の卵は、日本中のあらゆる大学院にいます。ただ、多くの研究機関は、残念ながら彼らをサポートするシステムを構築できていません。純粋に学びたい、または自分の才能を社会のために役立てたいという志を踏みにじるような国家に、果たして希望がもてるでしょうか。

◆入学金と授業料の支払いのため、週4回から5回のバイトが必須。その分、朝や夜、研究室に残って研究をしている。奨学金を借りていても、利子付きなので返済が恐怖。もしこの先路頭に迷うことがあって、奨学金の返済が滞るようなことがあれば、死ぬしか無いと思う。

◆日本学生支援機構は、奨学金と表記するのをやめて、正直に学生ローンと書いて欲しい。早く借りるのをやめたい。将来が不安でたまらないです。

◆「ブラックリスト」に載せるやり方は、本来の教育のあり方からしておかしい。こうした状況を看過するならば、教育・研究の質は間違いなく衰退していくと思う。

◆博士号を取得後の見通しがまったく立たないことに非常な不安を覚える。ここまで来てアルバイトかという思いは強い。悔しいが、まずは食わねばならない。

◆博士号を取得してからの就職やポストについてもっと考えて欲しい。借金してまで博士課程に進学し学位を取っても、それが活用できないのでは、金をどぶに捨ててるのと同じ。

◆授業料がこれほど高く、また調査研究にかかる費用も自分で負担しなければならないので、奨学金を借りるしか方法がなく、多額の借金をかかえることになるので結婚も出産も望めない。子どもがいる大学院生を見ていると、子どもや家族のことなどで研究時間を十分に確保できないことが多々あり、その場合論文を完成させるまで在学期間を延長せざるを得ず、そうすると授業料がかさんでしまう。あるいは休学をするしかない。こういったケースへの柔軟な支援がればと思う。

◆大学内に保育施設が欲しいです。また育児中の方との情報交換の場や、どうやって育児と学業とアルバイトを乗り切ってきたのかを知りたいです。

◆修士・博士課程を、学位の取得まで視野に入れて独立家計で目指した場合、奨学金を限界まで借りざるを得なくなる。多額の借金とアルバイトをしながらでないと研究が続けられない日本の研究環境は、ヨーロッパと比べると異常である。現状から、結婚しても出産・育児という選択は不可能である。

◆現在、父と二人暮らしで、父の介護で時間を取られてしまい、他の院生と比べて十分な研究時間を取れていないのではないかとの不安がある。

◆授業料や研究費など終了するまで、金銭がかかり過ぎるため、結局、金銭的余裕のある人しか、研究職につくことはできず、大学教員はある層に偏りが出て来るのではないか、と心配しています。北欧やヨーロッパ並みに、国よる人材育成を高めて欲しいです。

◆生活費が厳しく、冷暖房を入れられないため、学校で研究したいが、この夏自習室の冷房の効きが悪すぎる。研究環境のためなので、きちんと冷房は付けて欲しい。

◆奨学金の返済を考えて、将来が不安になります。大学などでの非正規教員の増加と雇い止めの問題があることで、その不安はいっそう大きなものとなっています。奨学金の給付制の実現を強く求めます。

◆国の高等教育支出は国際比較でも低いのに、奨学金の貸与率は上昇するばかり、大学院生の6割以上が借金を抱えて社会に出て行くなどこんな国がどこにあるのか。

◆若い人材を育てる気がない社会は壊死するしかないことを、政府や関係者はよく理解せねばならない。早晩この社会の学術環境は崩壊するだろう。すべてを失った後で後悔してももう遅いのだ。

◆授業料や研究費の工面のためにアルバイトに忙殺されて研究どころではなくなっているケースをイヤというほど見ている。給付型の奨学金、授業料減免を増やせ。

◆大学非常勤講師は若手研究者(院生含む)が担っている部分も大きいが、その待遇が非常に悪い。このままでは、本当に生きていけない。研究も進まない。

◆STAP細胞論文の顛末から、短期的な成果を追い求めさせたり、特定の分野に偏って予算配分をしたり、競争的資金ばかりにしたり、大学の教員や研究者を事務作業で忙しくさせたりすることの弊害を、政府をはじめとする多くの人に認識してもらいたい。

◆現在進められている「大学改革」に対する不安が大きいです。この先大学は自由な言論の場で有り続けることが出来るのか…。これは院生の「将来の不安」としては結構大きな問題かと思います。

▼参考
『KOKKO』第3号
[特集]疲弊する研究現場のリアル
〈座談会〉悪化する研究環境と
     ポスドク若手研究者の無権利 …004
川中浩史 学研労協事務局長/産総研研究者
大高一弘 全通信研究機構支部副支部長/情報通信研究機構研究者
国立研究機関で働くポスドク当事者
榎木英介 科学・技術政策ウォッチャー
早稲田問題のその後 …017
松村比奈子 首都圏大学非常勤講師組合委員長
国立大学の運営問題と人文系学部廃止騒動について …025
編集部
国立研究機関で働く研究者・職員への個人アンケート結果 …028
福島原発事故の海洋汚染と研究者の社会的責任
――ブロックできていない汚染水の長期観測が必要 …031
青山道夫 福島大学教授
「戦争法」と急進展する軍事研究
――国立研究機関アンケートから研究者の社会的責任を考える …042
池内 了 名古屋大学名誉教授
[連載]国公職場ルポ 第3回
[年金機構の正規職員とブラックな外部委託]
メンタル疾患の悪循環と社員110人に賃金未払い …052
藤田和恵 ジャーナリスト
[連載]ナベテル弁護士のコラムロード 第3走
東芝の粉飾決算と脱原発の関係 …063
渡辺輝人 弁護士
[連載]スクリーンに息づく愛しき人びと 第3作
引き裂かれた妻と夫の再会
『妻への家路』ほか …068
熊沢 誠 甲南大学名誉教授
[リレー連載]運動のヌーヴェルヴァーグ 藤田孝典⑦
ブラック企業対策プロジェクトとソーシャルワーク
――企業や地域や政策に介入する福祉実践 …073
藤田孝典 NPO法人ほっとプラス代表理事
[書評]益川敏英著
   『科学者は戦争で何をしたか』 …077
浅尾大輔 作家

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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