#雇用激変 竹中平蔵氏「正規が非正規を搾取」→事実は「ブラック企業が正規を搾取し最低賃金以下の低処遇正規が増大している」
(※2015年3月3日に書いたものですが紹介しておきます)
読売新聞(2015年3月2日付)の「格差問題で竹中平蔵氏「正規が非正規を搾取」」と見出しが付いた記事です。
格差問題で竹中平蔵氏「正規が非正規を搾取」
竹中平蔵・慶大教授と山口二郎・法大教授が2日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、安倍首相の経済政策「アベノミクス」を巡る格差の問題について議論した。竹中氏は、「雇用者報酬が実質で増えていることは重要。日本でも(格差が)拡大しつつあるが、世界の中で見れば客観的に低い」と強調。そのうえで、「正規が非正規を搾取する構造になっている。正規と非正規の壁をなくさなければいけない」と述べた。
出典:読売新聞(3月2日付)格差問題で竹中平蔵氏「正規が非正規を搾取」
記事の中での竹中氏の最初の発言部分については、きょう厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査」で、今年1月の実質賃金もマイナス1.5%となり、19カ月連続で実質賃金がマイナスになっていることが分かっていますので、何を言っているのか、という話です。
次の日本の格差拡大の問題については、すでに「アベノミクスの2年で報酬1億円以上の役員は1.4倍増えワーキングプアは49.2万人増加、2014年民間給与の増加は消費税増税分にも遙か及ばず」などで紹介しています。
記事の中での最後の竹中氏の発言「正規が非正規を搾取する構造になっている。正規と非正規の壁をなくさなければいけない」という点ですが、「正規が非正規を搾取する構造になっている」なんていうのはまったくのウソで、すでに正規と非正規の壁はなくなっていると表現してもいいほど日本の現実の正規労働者の労働状態が「ブラック」なものになっているということを、後藤道夫都留文科大学名誉教授が指摘しています。
3月1日に、首都圏青年ユニオンと首都圏青年ユニオンを支える会の主催で、「ファストフード世界同時アクションと首都圏青年ユニオンのたたかい――世界と日本の労働者の労働条件の底上げを考える」と題したシンポジウムが全労連会館で開催されました。その中で、シンポジストのひとりである後藤道夫都留文科大学名誉教授がすでに膨大な正規労働者が最低賃金を割る低処遇に置かれていることを指摘し、低処遇正規の増大によって非正規労働者の処遇改善にあたってもすでに「正規なみに」という要求そのものが通用しない領域が拡大していることを踏まえる必要があると語っていました。加えて、うつ病などの精神疾患が正規労働者の各年齢層で5~7倍とこの13年間で急増していることもブラック企業が広がって、正規労働者が使い潰されている現れとして指摘していました。竹中氏は、「正規が非正規を搾取する構造になっている。正規と非正規の壁をなくさなければいけない」などと言っていますが、「ブラック企業に正規も搾取され貧困になる構造になっている。正規と非正規の壁はなくなってきている」というのが現実なのです。
後藤道夫都留文科大学名誉教授に了解を得ていませんので、シンポジウムで使われた多くの図表の中から2点だけ紹介させていただきます。
上の図表は正規男性労働者の年齢階層別低所得層の割合の推移です。一番下の黒い棒グラフが年収250万円未満ですが、そこを見ると、1997年25~29歳の13.1%から2012年の21.0%へ、年収250万円未満が7.9ポイントも増えています。30~34歳でも5.4%から12.7%へ7.3ポイントも増え、35~39歳でも4.2~9.4%へ5.2ポイントも年収250万円未満が増えているのです。
さらに上の表は、正規男性労働者の多くが最低賃金以下の低賃金で働かされていることを示すものです。2012年9月までの東京都の最低賃金は837円で、週65時間就業で計算すると年収は298万円。週60時間就業で計算すると年収は272万円。つまり、250万円未満の年収は、最低賃金割れで、東京のみならず週65時間就業では14都道府県で最低賃金割れになり、この14都道府県は、正規男性労働者の63%が働く地域なのです。
上の表を見れば分かるように、2007年と比べて2012年は最低賃金割れがとりわけ若年労働者に急激に広がっていて、まさに「ブラック企業が正規労働者を搾取する構造になっている」ことが分かるデータです。
竹中氏の発言「正規が非正規を搾取する構造になっている。正規と非正規の壁をなくさなければいけない」は間違いで、「ブラック企業が正規を搾取し最低賃金以下に置かれる構造になっている。正規と非正規の壁はなくなってきている」というのが正しいのです。
それから、私、首都圏青年ユニオン事務局長の山田真吾さんにインタビューしたことがあるのですが、そのインタビューの中で正規労働者が使い捨てられる事例をうかがっています。最後にそのインタビューの一部を紹介しておきます。
ブラック企業の濃度見極め働くほかない若者
――雇用劣化とたたかう首都圏青年ユニオン
首都圏青年ユニオン 山田真吾事務局長インタビュー
――正規労働者の問題ではSHOP99の事例がありますね。
「私は燃料のように働かされた」
ローソンが経営している24時間営業の生鮮食品を扱うコンビニチェーンの店長として働いていた清水さんの事例ですね。ちなみにSHOP99は、いまはローソンストア100という名前に変わっています。
清水さんは高校を卒業して8年間は非正規で働いていたのですが、自分もそろそろ20代半ばに差しかかるので親に正社員で働いている姿を見てもらいたいということもあってハローワークを通じてSHOP99に入社します。入社して4カ月で店長になった清水さんは、1年2カ月の間、店長として働いたところでうつ状態という診断をされ働けない状態になってしまい、いまも労災で休業補償を受けて休んでいる状態です。
SHOP99は365日24時間営業ですので、誰かしらお店に人がいないと当然お店が開かないわけですね。この時間帯だけは人がいないからといってシャッターを閉めることはできないわけで、お店に働く人がいなかったら店長が呼び出しを受けるのです。「夜のシフトに入ることになっていた人が入れなくなったので来てくれ」という電話がくると、電車が動いていない真夜中でも自転車でお店に駆けつけるということを清水さんはしていたんですね。
清水さんがユニオンに相談に来たときはもう働けないからだになっていて、彼が持っていたタイムシートを見ると1日に23時間労働をした日が4日間もありましたし、20日以上の連続勤務などもありました。
清水さんは、「私は正社員で働ける姿を親に見てもらいたかったし、正社員で働けることを誇りに思って生きたかったけど、でもいま自分は働けません。自分には妹もいてみんな働いているけれども自分だけは働けない。働きたくても働けない」「コンビニエンスストアは生鮮食品を扱う。生鮮食品の温度管理は大事だけれども、それよりもまず人間の労働条件を管理することが一番大事だ。商品は腐ってしまったら捨てることができるけど、人間は働き過ぎると死んでしまう。物の温度管理と同じぐらいに人間の管理もきちんとして欲しい」と訴えました。
清水さんは、「SHOP99で私は燃料のように働かされた」という表現をしています。「会社の歯車として働く」という表現をする人は多くいると思うのですが、彼の場合は「燃料」と表現しました。つまり会社が走るために自分はガソリンのようにくべられ燃やされて、燃えかすになってしまった状態がいまの自分だということを言っていて、「何も残らなかった。からだが悪くなってしまった。それしか残らないからだになってしまった」と会社に対して労働者のからだのことを考えて欲しいと裁判の中で訴えました。
非正規で働く人も正規で働く人も、どちらも労働基準法や労働安全衛生法が守られていません。正規が安定していて非正規が不安定という表現はもう通用しなくて、どちらも不安定でどちらも先行きが見えない「一寸先は闇」という働き方が増えていると、私たちは労働相談活動を通じて感じています。
▼首都圏青年ユニオン事務局長の山田真吾さんへのインタビューの一部を視聴できます。