竹中平蔵氏や城繁幸氏らの「日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しい」という大ウソ→日本は正規も非正規も解雇規制が国際的に弱いというのが事実、労働者のクビを切りたいだけの解雇規制緩和論者

  • 2015/10/26
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(※2015年1月13日に書いたものですが紹介しておきます)

ブラック企業被害対策弁護団代表の佐々木亮弁護士が、「竹中平蔵パソナグループ会長の「正社員をなくしましょう」発言と派遣法改正案の関係」の中で指摘されているように、まさに派遣法改悪の正体が「生涯派遣・正社員ゼロ法案」であることを、竹中平蔵氏みずからが証言したようなものですが、ここでは、もうひとつの竹中氏の発言「日本の正規労働ってのが世界の中で見て異常に保護されている」を検証してみたいと思います。

長文になりそうなので、最初に結論をまとめて書いておきます。

▼【結論】竹中平蔵氏の発言「日本の正規労働ってのが世界の中で見て異常に保護されている」の大ウソ

(1)日本の正社員の雇用保護は、OECD34カ国中、雇用保護が低い方から10番目、高い方から25番目。世界の中で見て日本の正社員の雇用保護は低い。(日本の非正規労働者の雇用保護は、低い方から9番目、高い方から26番目。いずれも2013年のOECDデータ)

(2)実際に日本の職場では、ロックアウト解雇など正社員への乱暴な首切りが横行している。目が細いからという理由で解雇された正社員の女性や、ジョークがおもしろくないという理由で解雇された男性正社員も実際にいる。

(3)とりわけ、女性正社員は、マタハラ等で退職を余儀なくさせられている。年齢階級別労働力率の主要先進国との比較で、30歳代に落ち込みが見られるいわゆる「M字カーブ」を日本だけが描くのは、「日本の女性正社員が世界の中で見て異常に保護されていない」ことを示している。

(4)1年間で、過労死が283人、過労自殺が177人、精神障害の労災請求件数が1,409件(前年度比152件増)と過去最多(いずれも2013年度の請求件数)。過労死・過労自殺で460人、1日に1人以上が仕事によって命まで奪われている。この9割が正社員。仕事に命まで奪われる日本の正社員のいったいどこが「異常に保護されている」のか?

(5)日本の正規労働の中で最も守られていると言われている国家公務員も一度に525人が首切りされている(2009年12月)。首切り後、失業保険なし。これのどこが「異常に保護されている」のか?

それでは個別に見ていきましょう。

まず(1)の正社員の雇用保護です。▲上のグラフは、OECDによる正社員の雇用保護指標(2013年)です。(※グラフはJILPTのサイトから) グラフを見て分かるように、日本の正社員の雇用保護は、OECD34カ国中、雇用保護が低い方から10番目、高い方から25番目です。日本は34カ国の平均より低く、JILPTも、「OECDの平均を下回っており」「雇用保護が緩い国々のひとつとなっている」と指摘しています。ちなみに▼下のグラフは、非正規労働者の雇用保護指標(2013年)で、正社員と同様、日本の非正規労働者の雇用保護は、低い方から9番目、高い方から26番目と雇用保護が緩い国です。竹中氏が主張しているように、もし正社員が保護されているから派遣労働者など非正規労働者が増えのだというのが正しいのなら、日本より正社員が保護されている25カ国は日本よりもっと非正規労働者が多くなっていなければいけません。しかし、日本よりパート雇用率(※OECDの国際比較はパート雇用率)が高いのは、2012年でOECD34カ国中たったの7カ国です。日本のパート雇用率は8番目に高くなっているのです。竹中氏が主張する「正社員が保護されているから非正規が増える」というのはウソで、逆に「正社員が保護されていないから非正規が増える」というのが日本を見る限りは事実に近いのです。

次の(2)にあげた日本の実際の職場では、ロックアウト解雇など正社員への乱暴な首切りが横行しているということについては、すでに「腐敗する経営者=日本IBMロックアウト解雇、入社後すぐ自宅待機、社長は自家用ヘリと高級外車乗り回し正社員には3年間ボーナス支給ストップ」で紹介しています。あわせて、JILPTの濱口桂一郎さんの「hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)」から実際の日本の職場で、正社員が「スパスパ解雇」されている事例を一部抜粋して紹介しておきます。(※「正男」は「正社員の男性」、「正女」は「正社員の女性」)

◆正男:有休を申し出たら「うちには有休はない」その後普通解雇◆正女:有休申請で普通解雇◆正男:労働条件の明示を求めたら内定を取り消し◆正男:会社から監視カメラで監視され、抗議すると普通解雇◆正女:データ改ざんを拒否して普通解雇◆正男:常務に「勝手にやらんで欲しい」と言って懲戒解雇◆正女:運営に意見が食い違っただけで普通解雇◆正女:保母として採用されたのに介護職員として働かされ、抗議すると普通解雇◆正女:育児休業から復職後、パートか解雇かと迫られ解雇◆正男:研修中本人の就業拒否のため普通解雇◆正男:人間関係乱したとして普通解雇◆正男:協調性がないので普通解雇◆正男:無断欠勤(1日)をしたとの理由で普通解雇◆正女:社長のパワハラでうつ病、薬の副作用で居眠り・遅刻で普通解雇◆正女:社長から「メタボ、豚、デブ」と言われ、うつで休み普通解雇◆正女:「このままでは体がもたない」「やってられない」と愚痴ったら退職手続◆正男:社長交代で普通解雇◆正男:異動の送別会中に会社の鍵を忘れたことを思い出し依頼したら即刻解雇◆正男:懲戒事由不明の解雇◆正男:親族の相続問題を理由に普通解雇◆正男:土曜も勤務日だが出勤がほとんどないため、バイトをしていいかと相談したため普通解雇◆正男:契約と異なる肉体労働に従事し、能力欠如で普通解雇◆正女:体が大きく目立ち能力に欠けるとして普通解雇◆正女:即戦力にならないことを理由に普通解雇◆正男:荷積み中負傷し休職、「あなたの仕事はない」と普通解雇◆正男:業務上負傷し、労災申請したら「今日でもういい」と普通解雇◆正男:社内でインスリン投与を顧客に見られると困ると、持病(糖尿病)を理由に普通解雇◆正男:風邪の発熱で3日欠勤したら営業職として通用しないと普通解雇

出典:JILPTの濱口桂一郎さんの「hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)」より抜粋

――以上が、正社員の「スパスパ解雇」事例の一部抜粋ですが、濱口桂一郎さんは、「各ケースの詳細については、『日本の雇用終了』を是非お読みください。それが日本社会の解雇の現実です。その現実から出発しない議論は空疎でしょう。」と書いています。竹中平蔵氏の「日本の正規労働ってのが世界の中で見て異常に保護されている」というのがいかに「空疎」なものなのかがよく分かります。

(3)の女性が子どもを育てながら正社員として働き続けられない問題です。▲上のグラフにあるように、マタハラが年々増加し、▼下のグラフにあるように、出産退職する女性が年々増加しているわけですから、これもどこが「異常に保護されている」のかという話です。

(4)の過労死・過労自殺の問題です。日本の正社員は、1日に1人以上が仕事によって命まで奪われています。そして、うつ病などメンタルヘルス疾患に苦しむ正社員が年々増えています。そして、経団連の会長・副会長出身の大企業の正社員は、軒並み過労死ラインの月80時間をオーバーする過労死労働さえ合法的に強制されています。仕事によって、かけがえのない命まで奪われる日本の正社員のいったいどこが「異常に保護されている」のでしょうか。

(5)の国家公務員の問題です。525人が一度に首を切られた事実はもちろん、霞が関の国家公務員3千人が過労死労働、3分の1が命の危険感じていることからも、日本の正社員の典型として最も守られているなどと言われる国家公務員もまったく守られていないのが客観的な事実です。

それから、竹中平蔵氏は、正社員の既得権益があるから非正規社員が報われないんだというようなことも繰り返し言っています。この点については、私が企画・編集した座談会で、佐々木亮弁護士らが反論していますので是氏お読みください。→「#雇用激変 「限定正社員」は賃下げとクビ切り自由と「無限定正社員」の過労死自己責任化を加速、正社員の解雇規制緩和など「既得権」奪えば労働者全体の権利が切り下げられ非正規の無権利状態はさらに悪化する

また、竹中平蔵氏が昔からよく言っていることに、「解雇自由のオランダモデルを見習え」というのがあります。これについては、竹信三恵子和光大学教授に私がインタビューしたときに聴いていますので、紹介しておきます。

労働者の首を切りたいだけの解雇規制緩和

――竹中平蔵氏は解雇自由のオランダモデルにすれば労働市場が柔軟になると言っています。

オランダは同一労働同一賃金でパートの均等待遇がしっかりした社会です。正社員と同じ権利を確保しつつパートで働いているのでパートと正社員の垣根が低く、雇用が流動化しやすいのです。パートから正社員へ移ることも、賃金は同じで時間だけ伸ばしてあげればいいだけです。だから、雇用者の負担もあまりないまま、パートとフルタイムの行き来ができ、しかも、解雇され、失業の末に行き来するのではなくて、働きながら行き来できるので、負担がかからない。同一労働同一賃金でパートの均等待遇をつくって行き来できるように設計しているのです。日本のいちばん大きな問題は、同一労働同一賃金、パートの均等待遇がないことなのです。日本の労働市場が流動化しないのは、解雇規制の問題などではなく、同一労働同一賃金、均等待遇がきちんとできておらず、会社への拘束が極端に高いからです。

オランダはパートの均等待遇がしっかりしていて、デンマークでは日本の整理解雇の4要件に値するものがあって、その要件が満たされていれば、理由も言わずに解雇してもいいとなっています。でも、デンマークの労働組合組織率は80数パーセントもありますから、法律で解雇規制を緩和しても、労働組合が企業の不当な動きを監視し、規制しているのです。

労働組合が、会社が出してくる解雇の理由を全部労働者と一緒に、妥当性があるかどうかを点検するのです。ですから言ってみれば法律で規制することを、労働組合の規制で行っているので、法的な解雇規制がないというわけです。

それからデンマークは正社員が原則ですから、労働市場を流動化させるために、食べられない産業から食べられる産業へと移すための職業訓練をきちんとやっているのです。大手の企業で体力がある場合は、労使交渉をして、その職業訓練費を企業から労働組合が取ってくるのです。そうして、解雇の期限が来るまでの間に会社がちゃんと時間を与えて、そこで新しい資格を取らせて、次の仕事につなげておくのです。

私が取材したところは現業の人が多くて、やはり身体を使う仕事の方が転職しやすいということで、100人ぐらい解雇になったうちのかなりの部分が、大型免許の資格を社内でとって、会社の中の構内でトラックの運転の練習をしていて、解雇の期限が来たときには、ほぼ次の仕事が決まっていました。馬の調教師をやりたいという人が1人いて、それもきちんと訓練のお金を出してくれて、馬の調教師の資格を取っていました。

労働組合と企業とが職業訓練の手当てをして労働者を次に移れるようにしていくのが大手の企業の場合で、中小の企業の場合は、ハローワークに相当する職業安定機関が公務サービスとして職業訓練を行っていきます。ここでも労働組合がガードするので、公務の職業安定機関と労働組合が1人の労働者に関わり合って次の仕事に就けるまでずっと付き添っていくわけです。私が取材した中には、どうやって会社の面接を受けるかということからはじめ、公務の職業安定機関と労働組合がいろいろなサポートを行い、3カ月かけてやっと次の仕事が決まったという人もいました。その人は、公務の職業安定機関がすごく助けになったと言っていました。

デンマークモデルを引いて日本の解雇自由を主張して労働市場の流動化だと言う人は、日本の労働市場の実態をよく知らないのではないかと思います。オランダやデンマークの目的は食べられない産業から食べられる産業へと労働者を移すための労働市場の流動化なのです。日本の解雇規制緩和論者は、働き手を切ることで会社の負担を軽くすることに主眼があるように思えます。
【竹信三恵子和光大学教授談】

それから、竹中平蔵氏は、城繁幸氏が監修した『働くってなに? ブラック企業大論争』(宝島社)というムック本の中で、城氏と対談し「正規労働者の解雇規制緩和が若者や非正規労働者を救う」かのような主張を繰り返しているのですが、この点を私がブログで批判したところ、城氏が反論してきたので、論争になったことがあります。結局、城氏の方が反論することができなくなったので、論争での「負け」を認めたのだと私は思っていますが、その論争したブログエントリーも関連情報として紹介しておきます。

◆「日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しい」とする城繁幸氏のウソ
◆城繁幸氏が「日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しい」ともう言えない理由

▼関連
◆デンマークの「解雇自由」「フレキシキュリティ」を支える組織率87%の労働組合、「正社員の解雇自由で日本はハッピー」とする竹中平蔵パソナ会長の暴論
◆オランダのフレキシキュリティは「同一労働・同一待遇」と社会保障拡充で雇用不安のない社会めざすもの、竹中平蔵パソナ会長の「オランダ見習うべき」は底辺への競争による雇用破壊にすぎない
◆「子ども職場見学日」に8歳の娘の目の前で父親をクビ切り、竹中平蔵パソナ会長ら解雇規制撤廃論者があこがれるアメリカの「大搾取!」

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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