ベーシックインカムが実際の社会にもたらすもの=涙金だけで福祉サービス切り捨てられ多くの市民を路頭に迷わす

  • 2015/12/8
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飛び込んで来たニュースです。

フィンランド、国民全員に800ユーロ(約11万円)のベーシックインカムを支給へ
business newsline

フィンランドが国民全員に非課税で1カ月800ユーロ(約11万円)のベーシックインカムを支給する方向で最終調整作業に入ったことが判った。

ベーシックインカム支給に要する総予算は522億ユーロ(約7兆円)にも及ぶこととなるが、ベーシックインカム支給と共に、政府による他の全ての社会福祉支給が停止となる予定ともなっており、政府は複雑化した社会福祉制度をベーシックインカムに一本化することにより、間接的な費用の支出を抑えることもできることとなる。

最近行われた世論調査ではフィンランド国民全体の約69%が導入に賛成の意見表明を行っており、現状のままで世論動向が推移した場合には、フィンランドは世界で初めて、ベーシックインカム制度を導入する国家となることとなる。

ベーシックインカムの導入の最終決定は2016年11月までに行われることとなる見通し。

西欧諸国の間では、オランダもベーシックインカム制度導入のための試験制度を来年から導入することを既に、決定している。

 

そして、河添誠さんのツイートです。

それで、私、このベーシックインカムについて竹信三恵子和光大学教授にインタビューでどう考えるか少しだけですが聞いたことがありますので、以下紹介しておきます。(2012年12月にインタビューしたものなので少し古い政治課題にも触れていますが基本的な観点は今でも重要だと思います)

官製ワーキングプアなくし
誰もが幸せに働ける社会へ

竹信三恵子和光大学教授インタビュー

 ベーシックインカムで公務員はいらなくなる?

――最近の論調についてうかがいたいのですが、橋下維新などは、政策(維新八策各論)の中にベーシックインカムを打ち出すようになっています。一部にはベーシックインカムを導入すれば、今の公務員はもうほとんどいらなくなるので、財政にも寄与して、非正規の問題や貧困問題も解決できるかのような論調も強まっています。

ベーシックインカムの発想そのものは、すべての人に生きていけるお金を出して生存権保障を実現しようということで、考え方自体はすばらしいと思います。ベーシックインカムの考え方は、雇用の世界に入らない限り大変な目にあうという今の社会へのアンチテーゼという意味では、とても意味がある指摘だと思います。

 実際の社会はどうなるか

しかし、ベーシックインカムを現実のものにしたときに、実際の日本社会がどうなっていくかを具体的に考えてみた場合に問題点が多いということです。

たとえば、生活保護ではミーンズテスト(資力調査)という振り分けがないからいいと言うけれど、ケースワーカーがおこなっているその人たちへのいろいろな情報提供や援助などを無くしてしまって、お金だけあげて、そのお金をどうやって使ってどうやっていくかという指導を誰がやるのか? ということにもなります。

確かに公務員の削減で、ケースワーカーの量や質が確保できなくなっているという問題もありますが、そこは建て直すことが必要であって、ケースワーカーを無くしてお金だけあげればいいということにはなりません。

それは他のところでも同じで、保育園でも、民間を増やして公務サービスはバウチャーサービス(引き替え券)を出せばいいという意見もあるけれど、バウチャーをいくら出しても、もともとの公務サービスが足りなければ、バウチャーは使えないでしょ、ということです。

 福祉の「小さな政府」のままではダメ

日本はもともと公務サービスが薄くて、そこは“女性が家でやればいい”ということでやってきましたから、福祉の面ではもともと「小さな政府」なのです。この福祉の「小さな政府」で、ほとんどを家庭で女性にやらせておいて、雇用の場では家庭での福祉労働の合間に働く片手間の低賃金労働者として女性を使ってきたわけです。こうした福祉サービスの欠如を放置したままでのベーシックインカムの導入という話にはならないわけです。

今のように財源がないと言われているときにベーシックインカムだけでやっていけとなると、その額はぎりぎりに絞られて、涙金もらって福祉サービスはなしとなる。路頭に迷うだけです。こうした時期にベーシックインカムを主張するというのは、公務サービスを減らしたいという隠れた意図があるとしか思えません。

ですから、本来、ベーシックインカムが持っている、いい意味での問題提起が、こうした状況の中ではいい方向には働かずに、公務サービスだけ切り捨てられて、みんなが路頭に迷うことになってしまうということを読めなくてどうする、というのが私の意見です。

 40歳定年制や解雇規制緩和はセーフティーネット破る

――政府の国家戦略会議フロンティア分科会報告で、40歳定年制や有期雇用を基本にするようなことが出され、日本維新の会の政権公約には「解雇規制の緩和」や最低賃金の引き下げなどが出されています。

40歳定年制というのは定年の意味がわかっていない議論だと思います。定年というのは働き手に落ち度があるなしにかかわらず、雇用を一斉に打ち切るということですから、打ち切られても他の仕事を探せる人もいますが探せない人もいますよね。その人たちをどうするかということに何も答えていません。

「働き手も60歳とか65歳までいたくないでしょうから40歳定年制にすれば、自分で技能を蓄積したりして、次の人生を選び直せるようになるでしょう」という議論かと思いますが、今の日本の企業ではそんなことはできません。長時間労働で会社から高い拘束を受けているので、人生が選び直せるような技能を蓄積したり勉強したりなどできないのです。40歳定年制を主張するのなら、まず過労死防止基本法をつくって労働時間を規制するべきです。

解雇規制の緩和も同じです。解雇規制を緩和して、解雇されても自由に他のところで働ける人ってどれだけいますか? そんなことしたら、結局、多くの人の行き先がなくなりますから、生活保護のセーフティーネットが壊れてしまいます。

そもそもすでに4割近くが非正規雇用にされてしまい、すでに雇用がボロボロになってしまっていて、日本のセーフティーネットは破れつつあります。それなのに、これ以上の解雇規制緩和をまだ言うかという感じですね。

 労働者の首を切りたいだけの解雇規制緩和

――日本維新の会のブレーンになっている竹中平蔵氏は解雇自由のオランダモデルにすれば労働市場が柔軟になると言っています。

オランダは同一労働同一賃金でパートの均等待遇がしっかりした社会です。正社員と同じ権利を確保しつつパートで働いているのでパートと正社員の垣根が低く、雇用が流動化しやすいのです。パートから正社員へ移ることも、賃金は同じで時間だけ伸ばしてあげればいいだけです。だから、雇用者の負担もあまりないまま、パートとフルタイムの行き来ができ、しかも、解雇され、失業の末に行き来するのではなくて、働きながら行き来できるので、負担がかからない。同一労働同一賃金でパートの均等待遇をつくって行き来できるように設計しているのです。日本のいちばん大きな問題は、同一労働同一賃金、パートの均等待遇がないことなのです。日本の労働市場が流動化しないのは、解雇規制の問題などではなく、同一労働同一賃金、均等待遇がきちんとできておらず、会社への拘束が極端に高いからです。

オランダはパートの均等待遇がしっかりしていて、デンマークでは日本の整理解雇の4要件に値するものがあって、その要件が満たされていれば、理由も言わずに解雇してもいいとなっています。でも、デンマークの労働組合組織率は80数パーセントもありますから、法律で解雇規制を緩和しても、労働組合が企業の不当な動きを監視し、規制しているのです。

労働組合が、会社が出してくる解雇の理由を全部労働者と一緒に、妥当性があるかどうかを点検するのです。ですから言ってみれば法律で規制することを、労働組合の規制で行っているので、法的な解雇規制がないというわけです。

それからデンマークは正社員が原則ですから、労働市場を流動化させるために、食べられない産業から食べられる産業へと移すための職業訓練をきちんとやっているのです。大手の企業で体力がある場合は、労使交渉をして、その職業訓練費を企業から労働組合が取ってくるのです。そうして、解雇の期限が来るまでの間に会社がちゃんと時間を与えて、そこで新しい資格を取らせて、次の仕事につなげておくのです。

私が取材したところは現業の人が多くて、やはり身体を使う仕事の方が転職しやすいということで、100人ぐらい解雇になったうちのかなりの部分が、大型免許の資格を社内でとって、会社の中の構内でトラックの運転の練習をしていて、解雇の期限が来たときには、ほぼ次の仕事が決まっていました。馬の調教師をやりたいという人が1人いて、それもきちんと訓練のお金を出してくれて、馬の調教師の資格を取っていました。

労働組合と企業とが職業訓練の手当てをして労働者を次に移れるようにしていくのが大手の企業の場合で、中小の企業の場合は、ハローワークに相当する職業安定機関が公務サービスとして職業訓練を行っていきます。ここでも労働組合がガードするので、公務の職業安定機関と労働組合が1人の労働者に関わり合って次の仕事に就けるまでずっと付き添っていくわけです。私が取材した中には、どうやって会社の面接を受けるかということからはじめ、公務の職業安定機関と労働組合がいろいろなサポートを行い、3カ月かけてやっと次の仕事が決まったという人もいました。その人は、公務の職業安定機関がすごく助けになったと言っていました。

デンマークモデルを引いて日本の解雇自由を主張して労働市場の流動化だと言う人は、日本の労働市場の実態をよく知らないのではないかと思います。オランダやデンマークの目的は食べられない産業から食べられる産業へと労働者を移すための労働市場の流動化なのです。日本の解雇規制緩和論者は、働き手を切ることで会社の負担を軽くすることに主眼があるように思えます。

 最低賃金制度廃止は日本社会を壊滅的な状況に

――スウェーデンなどには最低賃金がないから日本にもなくてもいいという論調もあります。

スウェーデンに最低賃金がないのは、同一労働同一賃金がとてもしっかりしているので、最低賃金で歯止めをかける必要がないわけです。

ところが、日本には同一労働同一賃金がなく、企業の好きなように決められてしまう社会だから、最低賃金しか歯止めがないのです。最低賃金が最後のセーフティーネットになっているので、最低賃金をなくしてしまったら、とめどなく落ちるのです。

グローバル化で賃金がみんな下がるのはグローバル化のせいだから日本も仕方がないとよく言われます。でも、主要先進国で90年代後半から賃金が下がり続けているのは日本だけです。なぜ日本だけ下がるかと言うと、非正規雇用の入り口規制が弱く、しかも同一労働同一賃金が事実上ないからです。どんどん賃金は下がってしまってデフレになってしまう。こんなに雇用がめちゃくちゃになっているのに、社会保障のセーフティーネットさえあれば最低賃金がなくてもいいとか、解雇規制を緩和してもいいという意見が大手を振って、それが選挙公約にまであがってくるということは、ある種の人たちの間ではもう雇用の役割というものについての認識がボロボロになっているとしか思えません。しかし、雇用がきちんとしていないとそもそも税金を払えないような人が多くなり、デフレも脱出できません。社会保障も持ちませんし、日本社会そのものが壊滅的な状況に陥ってしまいます。

 

※追記(以前アップした「ワタミ問題から考える日本の雇用 – 合法的に過労死・過労自殺を認めている日本社会の異常|河添誠氏×本田由紀氏」の中で、本田由紀さんがベーシックインカムについても指摘されていたので紹介しておきます)

「個人化された能力主義」に注意する必要があると思っています。これは問題を社会の側でなはく、個人の側に持ってくる「自己責任」の問題とも関連するのですが、「個人化された能力主義」は、先ほどの過労自殺するのは個人に根性がないからとか、個人に能力がなかったから自殺するんだと決めつけてしまうことです。あとづけで、死んだからには能力がなかったなどと言って、個人の問題に矮小化してしまう。これでは社会の側には何の問題もなかったことにされてしまいます。そうではなくて、そもそも個人に教育を含め仕事をしていく能力をつけさせていくことは社会の責任なのです。個人や家族の責任にするのではなく、個人まかせになっている「能力主義」を社会の責任にしていくことも大切です。

それから、ベーシックインカムという議論もありますが、これも「個人化された能力主義」に絡め取られる議論です。ベーシックインカムでお金を与えたのにお前がきちんと使う能力がないからダメなんだとなるわけです。ベーシックインカムではなく、ベーシックなサービスによって、「個人化された能力主義」を社会の責任にしていかなければなりません。教育・住宅・医療・介護などは社会の責任でベーシックなサービスとして提供し、賃金依存をなくしていくことがブラック企業の淘汰にもつながっていくことになります。(本田由紀さんの指摘

※竹信三恵子和光大学教授には月刊誌『KOKKO』9月号の「座談会 官製ワーキングプア 国が生む貧困と行政劣化」にも協力いただいています。

月刊誌『KOKKO(こっこう)』9月号

日本国家公務員労働組合連合会
発行:堀之内出版
A5判 80ページ 並製
定価:500円+税  総額を計算する
ISBN 978-4-906708-49-9 C0036
奥付の初版発行年月:2015年09月 書店発売日:2015年09月10日

目次
雑誌『KOKKO』の創刊にあたって
日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)  書記長 鎌田 一
〈特集〉官製ワーキングプア
非正規国家公務員をめぐる問題――歴史、現状と課題
早川 征一郎 法政大学名誉教授
座談会 官製ワーキングプア  国が生む貧困と行政劣化
山﨑 正人 国土交通労働組合書記長
竹信 三恵子 和光大学教授/NPO法人「官製ワーキングプア研究会」理事
鎌田 一 国公労連書記長
ハローワークで働く非常勤職員
〈創刊記念インタビュー〉
根深い自己責任論と無責任な安倍政権の「安保法制」 ――他の国に代えられない憲法9条による国際貢献を
平野 啓一郎 作家
〈連載〉国公職場ルポ 1 [日本年金機構の有期雇用職員]  8,000人雇い止めと外部委託で年金個人情報ダダ漏れ状態
藤田 和恵 ジャーナリスト
〈連載〉ナベテル弁護士のコラムロード 第1走
「ゆう活」に見える安倍政権のブラック企業的体質
渡辺 輝人 弁護士
〈リレー連載〉運動のヌーヴェルヴァーグ 藤田孝典⑤
労働組合はもう役割を終えたのか ―労働組合活動の復権に向けて―
藤田 孝典 NPO法人ほっとプラス代表理事
〈連載〉スクリーンに息づく愛しき人びと その1
階級連帯の内と外──『パレードへようこそ』ほか
熊沢 誠 甲南大学名誉教授
〈書評〉安田浩一著『ヘイトスピーチ 「愛国者」たちの憎悪と暴力』
浅尾 大輔 作家

▼竹信三恵子和光大学教授へのインタビューの一部を視聴できます。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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