時短・ワークシェアリングで若者の雇用は改善できる – 若者の雇用をさらに破壊する「残業代ゼロ・過労死促進法」

  • 2015/8/18
  • 時短・ワークシェアリングで若者の雇用は改善できる – 若者の雇用をさらに破壊する「残業代ゼロ・過労死促進法」 はコメントを受け付けていません。

人災の就職氷河期、「自身の収入のみ」で暮らす20~34歳は44%、40代へ広がる孤立無業者162万人」に続くインタビューの後半部分です。時短・ワークシェアリングで若者の雇用を改善できることがよく分かります。逆に、安倍政権が狙う「残業代ゼロ・過労死促進法案」の強行を許してしまうようなことがあると、若者の雇用破壊がいっそう進んでしまうことが分かります。

「日本型ワークシェアリング」で若者の雇用は改善できる
労働運動総合研究所 藤田宏 事務局次長インタビュー
『国公労調査時報』2013年4月号所収)

EU諸国では当たり前の「働くルール」確立を

――若者の雇用やワーキングプア状態を改善するにはどうすればいいのでしょうか?

若者が、人間らしく働くことのできるルールを確立することが何より必要です。財界・大企業は、有期契約、派遣労働など非正規雇用を野放しにする労働基準法や労働者派遣法の改悪など、低賃金・無権利の非正規労働者を大量に活用する社会的仕組みをつくるなかで、その条件を最大限に生かして「新型経営」で大もうけをしてきました。

ですから、大企業の利益のために変質させられてきた働くルール、社会的仕組みを改めさせることが課題になります。たとえば、「正規が当たり前で、非正規は例外」のルールを確立することです。そのためには、労働基準法を改正し、有期雇用を「1年未満」に規制し、その期間を超えたら期間の定めのない雇用、つまり正規雇用とみなすようにさせることが必要です。改悪前の労働基準法ではそうなっていたのですから、改悪前に戻せという要求でもあります。また、労働者派遣法を抜本的に改正し、派遣労働は「一時的臨時的業務」に限るなど派遣労働者の生活と権利を守る労働者保護法にすること、有期契約を規制するルールを確立すること、例外的に非正規労働者を雇用する場合にも、「均等待遇の原則」が適用されるようにすることが大切です。

これらのルールはどれもEU諸国では社会の常識になっています。先進国の常識を日本でも常識にすることが必要になっているのです。

労働時間を短縮し、仕事を分かち合う

こうした働くルールを確立するためには、政治の力関係を大きく変えていくことが必要で、今すぐ実現ということにはなりません。そうした方向をめざしながら、非正規労働者が正規の仕事に就けるように、働く場を確保することが緊急に求められます。その最大のカギは、働くルールの徹底と労働時間の短縮による「日本型ワークシェアリング」を実行に移すことで、正規雇用として働く場をつくり出すことです。

いわゆる「ワークシェアリング」は、労働時間を短縮することによって仕事を分かち合い、雇用をつくることです。ここで、「日本型ワークシェアリング」とことさら強調するのにはわけがあります。日本の労働時間の現状を見ると、EU諸国で過去に実施されてきたワークシェアリングとは異なる事情があるからです。

EUのワークシェアリングとの違い

日本では、他の先進資本主義国では考えられない労働時間の事情があります。まず、不払い労働(サービス残業)の存在です。後でも詳しく触れますが、不払い労働は、労働基準法違反の犯罪行為であるにもかかわらず、日本ほど不払い労働が蔓延している国は他にありません。

年次有給休暇の完全取得も、他の国では常識です。ところが、日本では取得日数8.8日、取得率48.1%という低い水準です。完全週休2日制にしても、週休2日制が実施されて20年になりますが、まだ実施していない職場があります。先進国として恥ずかしいことです。

こうした状況に手を付けないままに、「ワークシェアリング」をしても、“抜け穴”だらけになるのは目に見えています。労働時間の短縮を進めても、サービス残業の規制や年休完全取得などのルールが確立されていなければ、労働時間短縮分をサービス残業にまわしたり、年休取得を抑え込むような企業が続出することは容易に予測できるからです。

「日本型ワークシェアリング」とは、日本でワークシェアリングによる雇用の創出を図るためには、こうした働くルールの徹底という段階を踏まえなければ、“抜け穴”だらけになるという日本的特殊事情を考慮しなければならないという意味合いを込めて、提起したものです。

「日本型ワークシェアリング」の雇用創出効果

「日本型ワークシェアリング」による雇用創出は大きなものがあります。そのことを明らかにしたのが、近く最終提言としてまとめられる労働総研の研究所プロジェクト「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」です。若者の就職難など今日の深刻な雇用問題を解決するためには「正社員が当たり前の社会」を実現することが必要だとして、そのためにも、正規雇用の創出を図る重要性を強調しています。

当面の課題として具体的に提起しているのは、働くルールの徹底(サービス残業の根絶、有給休暇の完全取得、週休2日制の完全実施)と年間労働時間1800時間への短縮による雇用の創出です。以下、その雇用創出効果を具体的に見ていきましょう(▼図表5「働くルールの徹底と時間短縮による雇用創出と経済波及効果」参照)

サービス残業の根絶で281.3万人の雇用創出

総務省「労働力調査」と「毎勤統計」の2011年の労働時間の差194.0時間を賃金が支払われない労働、いわゆる「サービス残業」と見ることができます。

企業規模5人以上の事業所に働く一般労働者は3190.7万人ですから、年間サービス残業時間は194.0時間×3190.7万人=61億9087万時間を、「労働力調査」の年間労働時間2200.4時間で除すと、サービス残業根絶による雇用創出数を計算することができます。そうして計算すると、281.3万人の新規雇用が創出されることになります。これだけで、2011年の完全失業者284万人のほとんどを正規労働者として雇用することができます。

有給休暇と週休2日の完全取得で139.3万人の雇用創出

年次有給休暇の完全取得と週休2日制の完全実施による雇用創出効果は、それぞれ130.8万人、8.5万人、あわせて139.3万人の新規雇用が創出されます。
働くルールの厳守による雇用創出効果は、サービス残業根絶で281.3万人、年次有給休暇の完全取得で130.8万人、週休2日制の完全実施で8.5万人、あわせて420.6万人の新規雇用が創出されることになります。

時短による雇用創出で非正規の正社員化を

働くルールの厳守だけでは、正規雇用を希望する労働者すべてを正規労働者として雇用することはできません。最近の総務省「労働力調査」(2011年平均)でも、完全失業者は今なお284万人(うち、失業期間が1年以上が約110万人)を超えており、就業希望の「非労働力人口」も約450万人に及んでいます。このほか、355万人の非正規労働者が正規の職に就きたいと希望しています。合計すると、1,000万人を超えます。フランスやドイツなどの経験に学び、日本でも本格的な労働時間の短縮に取り組むことの必要性は、これらのデータからも明らかです。

本格的な「日本型ワークシェアリング」への一歩として、労働総研は年間総労働時間1800時間の実現を提起しています。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の2011年の数字を見ると、従業員規模5人以上の労働者3,191万人の年間労働時間は2006.4時間となっています。これを1800時間に短縮すると、1人当たり206.4時間、労働時間を短縮しなければなりません。年間総労働時間を1800時間に短縮すると、全体では206.4時間×労働者数(3,191万人)=65億8622時間削減することが必要です。これを1800時間で除すと、労働時間短縮で新たに創出される雇用を算出することができます。その結果、年間労働時間を年間1800時間に短縮することによって、新たに雇用は365.9万人創出されることになります。

以上で見てきたように、働くルールの厳守による雇用創出420.6万人と、年間労働時間1800時間の実現による雇用創出365.9万人をあわせると786.5万人にのぼります。

このほか、労働者の賃金や最低賃金を引き上げることも雇用創出効果があります。賃金が上がれば、消費が拡大し、それによって企業の生産も増加します。生産が増えれば、それに見合う要員を増やすことが必要になり、雇用が創出されるというわけです。どのくらい雇用創出効果があるかを試算すると、307万人もの雇用が誘発されるということが明らかにされました。そうすると、ほぼ正規の職に就きたいと考える労働者1000万人余をすべて正規労働者として雇用することが可能になります。

「日本型ワークシェアリング」実現の財源は十分ある

――そうした「日本型ワークシェアリング」を実現するための財源はあるのでしょうか?

たしかに「日本型ワークシェアリング」を実現して雇用を創出するためには、財源をどうするかが問題になります。私は、日本企業にはその財政的基盤が十分にあると考えています。

日本企業が「新型経営」によって、膨大な利益を上げてきたことはすでに指摘したとおりです。日本企業は、この膨大な利益のかなりの部分を内部留保としてため込んできました。日本企業の内部留保(全規模)は1999年度の245.5兆円から2011年度の460.4兆円へと、215.2兆円も積み増しして、1.88倍になっています。「新型経営」の本格化とともに、内部留保が急膨張したのです(▼図表6「1999年の労働法制改悪と機を一にして始まった内部留保の急増」参照)。

2011年度末の内部留保460.4兆円がいかに異常な水準であるのかは、国の借金の目安として使われるGDPの何倍という指標にならって、企業の売上高に対する内部留保の水準を計測してみると、よくわかります。1980年~85年度の順調な経済成長期は9%台、バブル期の1987~90年度は12~13%台です。今回不況の前半である1991~1998年度も15%台にとどまっていました。それが、1999年度から急上昇し、リーマン・ショック前の2007年度には25.5%まで上昇しているのです。その後も、売上高が大きく減少したにもかかわらず内部留保の増加が続き、2011年度には、売上高に対する比率が33.3%にも達しています。この水準はどう考えても異常であり、これほどの内部留保が必要とは到底思えません。

内部留保を活用して、「日本型ワークシェアリング」を実現するための費用は、働くルールの徹底[不払い労働の根絶による雇用創出(7.47兆円)、年休完全取得による雇用創出(3.47兆円)、完全週休2日制実施による雇用創出(0.23兆円)]11.17兆円、年間労働時間1800時間への短縮9.72兆円、合わせて、20.89兆円。これはリーマン・ショックに見舞われた2008年度以降にため込んだ内部留保額31.8兆円の3分の2程度の額です。これくらい取り崩しても、企業経営には何のさしさわりもないことは明らかでしょう。

日本の労働時間はイタリアやアメリカよりも短い?

――日本の労働時間はいまは減少しているのではないかと言われていますが。

日本は、先進資本主義国のなかでも“長時間労働の国”として知られているはずです。「はずです」というのは、日本の公式統計では“長時間労働”になっていなくて、日本の労働時間は年々減少しているからです。

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(毎勤統計)では、2011年の日本の年間労働時間は1747時間となっています。1990年代当初の年間労働時間は2000時間台でしたから、この20年で250時間以上も労働時間が減少したことになります。

国際比較を見ても、日本の労働時間はそんなに長いとはいえない状況になっています。労働政策研究・研修機構『データブック国際比較2012』によると、主要諸国の労働時間は、イタリア1778時間、アメリカ1778時間、イギリス1647時間、フランス1562時間、ドイツ1419時間です。日本は、イタリアやアメリカよりも労働時間が短い国になっています。本当なのでしょうか。

日本の労働時間が統計上、短くなってきたのは、一つには、パート・アルバイトなど短時間労働の非正規雇用労働者が増え、その比重が高まることによって労働時間が短くなってきたということがあります。

しかし、私が実感として感じる日本の労働時間は、もっと長いはずです。どうにも納得がいきません。実感と労働時間の実態を埋める調査がありました。総務省「社会生活基本調査」です。この調査は、国民の生活時間の配分などについて、各種行政施策の基礎資料を得ることを目的として、5年ごとに実施している調査です。この調査は、雇用形態別の就業時間についても調べています。最新の2011年調査では、「正規の職員・従業員」の年間労働時間は、平均で2634.1時間、男性2767.9時間、女性2299.5時間となっています(▼図表7「雇用形態・男女別年間就業時間」参照)。「毎勤統計」の2011年の一般労働者の労働時間2006時間と比べると、実に628.1時間も長いのです。この調査は、全国の世帯から無作為に選定した約8万3,000世帯に居住する10歳以上の世帯員約20万人を対象に実施した調査で、事業所調査である毎勤統計とは性格が異なり、この調査の方が実態を反映しているとみることができます。日本は、主要国でも労働時間が長いアメリカと比較してもダントツの“長時間労働の国”なのです。

想像以上にひどいサービス残業の横行

それにしても、これほどの食い違いが生まれるのはなぜでしょうか。そこには、日本的事情があると見なければなりません。その最大の要因は、欧米諸国では考えられないサービス残業の横行です。私の知人の娘さんは、ある銀行で正規労働者として働いているのですが、仕事が終わった後の残業はすべて残業代が支払われるそうですから、サービス残業についてはいまの日本ではずいぶん恵まれた環境です。それでも、就業開始時間の1時間前には仕事の準備に入るといいますが、その1時間の労働には残業代が支払われていません。それもサービス残業になるわけですね。すると、日本の労働者の平均出勤日数は228日ですから、知人の娘さんはそれだけで200時間以上のサービス残業をやっていることになるのです。

サービス残業の実態は、もっともっとひどい職場がありますから、この比ではないと思います。628.1時間という「社会生活基本調査」と「毎勤統計」の差のかなりの部分はサービス残業と考えて、間違いないと私は確信しています。サービス残業時間を含めて、実際の日本の労働時間を見ると、公式統計「毎勤統計」では考えられないような“長時間労働の国”日本の現実が浮かび上がってきます。ですから「日本型ワークシェアリング」によって、この現状を打開することは本当に意義のあることになるわけです。

いま、日本経済は、デフレ不況が長期化するなかで、雇用の減少→賃金低下→内需縮小・外需依存→国内生産縮小→雇用の減少という“負の悪循環”に陥っています。こうした状況を打開するためには、内需を拡大し、経済構造の基盤をしっかりと再構築する必要があります。そのカギは、国民の圧倒的多数を占める勤労者世帯の生活を改善することであり、国際競争力強化・企業利潤第一主義の経営を、国民生活重視・従業員重視の方向に転換しなければなりません。その一つが、「日本型ワークシェアリング」による雇用創出です。それによって、日本経済を、雇用の増加→賃金収入の増加→内需の拡大→国内生産の増加→雇用の増加という“プラスの循環”に変えることができます。

「日本型ワークシェアリング」をいますすめることは、非正規雇用問題の打開だけにとどまらず、日本経済の再生にとっても重要な課題になっているのです。

英・仏も長時間労働に苦しんでいた

――藤田さんはフランスやイギリスの雇用・労働実態の現地調査もされていますね。

実際に、フランスやイギリスの実情を見て、必要な文献を調べてみると、日本の参考になることがたくさんあります。「日本型ワークシェアリング」をどのようにして実現していくかを考えるうえでも、フランスやイギリスの労働時間短縮の歴史が参考になります。かつてはフランスやイギリスも、今の日本と同じように労働者は長時間労働で苦しんでいました。フランスやイギリスの労働者・労働組合は、どのようにして長時間労働の現実を克服し、労働時間の短縮を実現してきたのか。その歴史は、“長時間労働の国”日本の労働者にとっても非常に教訓的です。

“バカンス発祥の国”の時短の歴史

フランスは“バカンス発祥の国”です。フランスのバカンスは、法律(労働法典)で保障されています。メイン休暇として最長24労働日(4週間)を連続して取得させることが使用者に義務付けられていて、有給休暇の取得(付与)は、労働者の権利であるとともに、使用者の義務にもなっているのです。ですから、経営幹部や部長、課長など管理職も含めて、バカンスを完全取得するのは常識になっています。

しかし、フランスのバカンスは、最初から年5週間だったわけではありません。バカンスの始まりは1936年にさかのぼりますが、最初は2週間でした。それが、いまのように5週間になったのには労働組合のたたかいの歴史があるのです。

第二次大戦後、フランスでは、長時間労働が広がりました。戦後復興・経済再建のための生産が増加し、生産増強に対応するために、長時間労働が恒常化したからです。労働者は、生活水準向上のための長時間労働を受け入れ、労働時間短縮よりも所得の向上を先行させました。当時のフランスでは、超過勤務は普通で、残業代が恒常的な所得の一部となっていたのです。

長時間労働による労災の深刻化と生産性低下

1960年代に入ると、長時間労働による労災事故の深刻化、労働者の疲労蓄積による無断欠勤の増加、労働生産性の低下など、長時間労働の弊害が次第に表面化しました。こうしたなかで、長時間労働に歯止めをかけ、その弊害を防止する力の一つになったのが、労働者・労働組合が掲げたバカンスの拡大要求です。労働者にとっては、賃金の低下につながりかねない労働時間短縮よりも、賃金とは関係なく実現できる年次有給休暇の拡大が中心的要求となりました。このたたかいの先頭に立ったのが、戦後国有化された「ルノー公団」の労働者・労働組合で、1955年の労使協定では、それまでの2週間から3週間の年次有給休暇へ、1962年の労使協定では、4週間の年次有給休暇をかちとりました。

これをうけて、1956年にはギー・モレ内閣が有給休暇3週間を法定化、1969年にはポンピドウ内閣が有給休暇4週間の法定化に踏み切ったのです。バカンスの拡大が、長時間労働に苦しむ労働者の切実な要求として前進した経験は、日本にとっても教訓的といえます。しかし、当時のバカンス拡大の要求は、ワークシェアリングという視点には到達していませんでした。

ワークシェアリングが本格的に検討されるようになったのは、1970年代に入ってからのことです。それまでの高度成長のひずみが表面化し、1973年のオイルショック時には失業率が4%を超え、1985年には10%以上になり、その後も失業率は高止まりの状況が続くようになったのです。こうしたなかで、フランスでは、失業問題を打開するためのワークシェアリングの必要性は、右派、左派という政治勢力の違いを超えた共通認識になりました。バカンスの4週間から、現在の5週間への拡大も、この脈絡の中で実施されました。

フランスにおける週35時間労働法の制定

フランスの現在の週35時間労働法も、左派のジョスパン政権のもとで、ワークシェアリングの一環として実施されたものです。ジョスパン政権の週35時間労働法制定に中心的な役割を果たしたD.タデイは、法定労働時間の短縮に踏み切った理由について、次のように述べています。「はっきり理解すべきは、フランスにおいては自然発生的に労使間交渉が一般化することは決してないということ、そして労働組合が弱すぎるうえに分裂しているのに対して、経営者の方は偏り過ぎたイデオロギーを持っているということだ。両陣営間には紛争のイデオロギー、力関係のイデオロギーがあって、他の国のようなコンセンサスを得ようという考えがない。だから、フランスにおいては労使間交渉を一般化させようと思えば、法を通じて行わざるを得ない」。

フランスでは、こうして国の法律として週35時間労働法が制定され、ワークシェアリングが進められました。週35時間法は、失業問題の根本的解決にはつながりませんでしたが、労働時間の短縮によって、数十万人の雇用創出効果があったと推計されています(フランスの労働者数は日本の約半数)。

日本におけるワークシェアリングは、フランスの労働時間短縮の雇用創出効果と比較にならないほどの成果を生み出すことは間違いありません。フランスは長年にわたって、不況時になると何回もワークシェアリングを実施してきたからです。そのうえでの週35時間法の制定でしたから、その効果も限定的だったとみることができます。

ところが、日本は違います。フランスでは考えられないような異常な長時間労働が日本では野放しになっています。サービス残業が横行し、年次有給休暇もまともに取れない状況が広がっています。加えて、完全週休2日制も未実施の企業も残されています。こうした現状の改善をすめながら、ワークシェアリングに足を踏み出すならば、フランスとは比較にならない雇用創出効果が生まれることは明らかです。

企業経営にとっても時短がプラスに作用

フランスの週35時間実現の取り組みでもう1つ教訓的なのは、労働組合のはたす役割の重要性です。フランスでは、労働時間短縮によって雇用創出、つまり、要員増を要求し、実現した職場と、そうはならなかった職場では決定的な違いが生まれています。

労働時間の短縮と要員増を要求して労使交渉が行われた職場では、労働組合の影響力が職場に広がり、労働組合がなかった職場にも労働組合が誕生するようになりました。たたかいのなかで、労働組合の発言力が高まり、労使間交渉が制度化されるようになっていきました。労使間交渉がきちんと行われ、そのなかで、週35時間労働制に移行した職場では、他の企業と比較して、雇用と付加価値の上昇率が大きく、労働時間短縮にあたって賃下げは行われませんでしたが、賃上げを抑制したことにより1人当たり賃金コストの上昇率が低く抑えられたため、企業経営を悪化させていないことも明らかになっています。日本の企業でもそうですが、経営危機に陥った時、たたかう労働組合がある職場では、企業倒産をさせないためには経営をどう改善するのか、作業スタイルを見直して作業効率をどうあげるのかなどを労資で議論して、経営危機を克服したという事例が報告されています。フランスでもそうした議論が展開されて、労資の信頼関係が深まり、週35時間労働が、労働者にとっても企業経営にとってもプラスに作用したのでしょう。

しかし、週35時間労働制への移行が労働者のまともなたたかいなしに、交渉が企業のイニシアチブで行われ、要員増なしの雇用維持という防衛的協定を結んで移行した職場では、変則的勤務時間、交代勤務、作業方法の変更などによる労働強化が行われ、職場の労働者の一体感が失われてしまい、仕事がおざなりになるようになっているそうです。

労働組合が、労働者の要求を実現するという労働組合存立の原点を守るかどうかが、労働者の生活だけでなく、企業経営の安定を左右することにもつながっていることを、フランスの経験は示しています。これも大切な教訓だと思います。

政治の姿勢が変われば変化は速い

イギリスは、人間らしく働くルールという点で、つい最近まで、日本と同じように、フランスやドイツなどと比べて、非常に“遅れた国”でした。イギリスは、伝統的に、労使間の問題は労使の決定にゆだねるべきであり、政府は介入すべきでないとする考え方が支配的で、イギリスには、労働基準法のような労働条件全体を規制する法律そのものがありませんでした。

労働時間の上限規制と11時間の休息保障

そうした事情に変化が生まれたのは、1997年の総選挙で労働党が勝利し、ブレア政権が誕生してからです。「ワークライフバランス」の実現を目玉政策の1つに誕生したブレア政権のもとで、イギリスでは、EUの「労働時間指令」にもとづく働くルールが次々と確立されるようになりました。1998年には、「労働時間規則」が制定され、労働時間の上限は週48時間とされました。日本は週40時間労働が「原則」ですから、一見、随分緩やかな規制にみえます。しかし、実際は日本以上にきびしい規制です。週48時間の労働時間には残業分も含まれているからです。しかも、労働日と労働日の間に「11時間の休息期間」を保障することも明記されています。日本のように、睡眠時間が3、4時間しか取れないというような無制限の長時間労働はありえないのです。

「1998年労働時間規則」に続いて、フルタイム労働者との均等待遇の権利を明記した「2000年パートタイム規則」、有期契約労働者の均等待遇と正規雇用を要求する権利を保障した「2002年有期雇用者規則」、給与、勤務時間、年休取得などの雇用・労働条件について同等の仕事をしている派遣先の労働者との均等待遇を定めた「2010年派遣労働者規則」、性差別、年齢差別などあらゆる差別を禁止した「2010年平等法」が次々と制定されました。労働者の労働と権利を守るルールがほとんどなかったイギリスで、この10年余の間に働くルールが国の法律として次々と確立したのです。

イギリスはEU加盟国ですから、EUで「労働指令」が決まれば、それを国内で具体化しなければならないという有利な条件があります。しかし、それも労働者と労働組合のたたかいがあってのことです。TUC(イギリス労働総同盟)は、長時間労働の国からの脱却をめざし、ワークライフバランスの実現のたたかいの先頭に立ちました。2001年には、企業にも労働者にもプラスになるようなワークライフバランスの実践的ガイドブックを発行し、これが労働時間規則の徹底やパートタイム規則の実効性を担保する取り組みにつながりました。また、派遣労働者の均等待遇も一貫して要求し、2004年に主要労働組合が労働党との選挙協力で結んだ協定には、EU労働者派遣指令の成立にむけて、EUのなかで、労働党政権として協力することを約束させています。これが2010年の派遣労働者規則の実現の力になりました。

日本には、イギリスのようにEU「労働指令」を国内法化するというような有利な条件はありません。しかし、日本でも、労働者・労働組合が国民に働きかけ、国民世論の支持を得て、政治の流れを変えることができれば、人間らしく働くルールを国の法律として確立することができます。公害基本法や老人医療費無料化など、国民の要求にもとづいて国の法律として実現した経験を、日本の国民と労働者・労働組合は持っています。最近では、最低賃金の改善のたたかいで大きな前進を見せました。こうしたたたかいの経験に学び、「日本型ワークシェアリング」の取り組みを進めることが大切です。

しかも、日本はいま歴史的転機を迎えています。日本の矛盾は深く広く、労働者・国民の間には、政治変革への強い期待が生まれています。労働者・労働組合が、このエネルギーを正しい方向に引き出すことができれば、日本の政治を革新の方向に大きくかじを切りかえ、働くルールを確立する展望を切り開くことができます。政治が転換すれば、働くルールが今の状況では考えられない速さで、一気に前進する可能性があることをイギリスの経験は教えているのです。

 ――本日は長時間にわたるお話、ありがとうございました。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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