民主・維新共通公約の公務員賃金2割削減=「政財官癒着」温存し官製ワーキングプア増やす「労働者の身を切る改革」でGDP4兆5千億円マイナス

日本経済新聞の報道です。

民主・維新、参院選で共通公約 公務員給与2割減、明記へ 安保法は「廃止」

民主党と維新の党が来年夏の参院選に向け、政策協議機関でまとめる共通公約の概要が分かった。維新の看板政策でもある「身を切る改革」を民主党が受け入れ、国家公務員の給与の2割減を明記するほか、国会議員の定数削減も盛り込む方針。安全保障関連法への対応をめぐっては「廃止」とする方向で歩調を合わせる。

2015年10月5日付日本経済新聞朝刊

 

(※以下は、2014年12月に書いた記事です)

国家公務員と言えば「霞が関の特権キャリア官僚」を思い浮かべる人も多いかと思います。いわゆる「政・財・官」の“鉄のトライアングル”において、政権党の政治家や財界トップと癒着して、「天下り」などで甘い汁を吸っていることが批判される特権キャリア官僚は、直近のデータ(2013年度)で、国家公務員一般職24万451人の中の1万5946人と6%を占めています。この国家公務員の中の6%は、「政官財癒着」の只中にいて、それこそ利権に群がり国民の血税を食い荒らす“シロアリ”とも批判され、たとえば原発推進、原発再稼働を狙う“原子力村”のメンバーであったり、武器輸出開発など“死の商人”とともに税金を食いものにする軍産複合体のメンバーなどでもあるわけで、それこそ政権党の政治家の“プライベートコマンド”の役割を果たしているケースが多々あるわけです。(※参考→「世界最大の武器展で日本政府が武器輸出PR=「戦争法案」は軍産複合体のビジネスチャンス、軍需企業の自民党献金は1億5千万円と倍増、世界軍事企業ランキングで上昇幅最大の日本企業、防衛省官僚天下り、末端自衛隊員は戦場へ」)

こうした政権党の政治家と財界の“プライベートコマンド”としての特権キャリア官僚の反国民性をきちんとただす方向での「政・財・官の癒着を切る改革」は今すぐ必要です。しかし、民主党も維新の党もそんなことは選挙の公約にせず、「公務員給与2割を削減する」というものです。6%の特権キャリア官僚を除く国家公務員の94%は、賃金・労働条件については、普通の民間労働者と同じ市民だと考える必要があります。(もちろん、憲法を順守し国民全体の奉仕者として公務サービスに従事するという点は普通の民間労働者とは違うのですが、この公務員の役割については、晴山一穂専修大学教授にインタビューしていますのでぜひお読みください)

この賃金・労働条件については、公務員も民間労働者も同様なのだということを、浦部法穂神戸大学名誉教授(法学館憲法研究所顧問)が次のように指摘しています。

公務員の給与が私たちの支払う税金によってまかなわれていることは間違いない。「もとは私たちのお金だ」というのは、たしかである。だから、税金を負担する側の立場からすれば、公務員の給与を引き下げることで税負担が少しでも減るならば、それは歓迎すべきことだ、ということになろう。その意味で、多くの国民が、公務員給与引き下げキャンペーンに同調する気持ちはわからないでもない。しかし、公務員の給与が私たちのお金から出ているとして、では民間サラリーマンの給与は誰のお金なのか? 自分の甲斐性で稼いだお金だから自分のお金だと思っている人が多いかもしれないが、そういう観点でいえば公務員も同じことになるはずである。民間サラリーマンも、その給与が誰のお金から出ているのかといえば、すべて「私たちのお金」である。会社勤めの人の給与は、その会社の商品等を買った私たちが支払ったお金から出ているのであり、そういう意味で「もとは私たちのお金」であって、公務員の場合と大差はない。要するに「金は天下の回りもの」であって、公務員の給与だけが「もとは私たちのお金」であるわけではない、ということである。そう考えれば、公務員給与引き下げキャンペーンが理に適わないものであることがわかると思う。そのキャンペーンを精力的に張っている新聞社やテレビ局等の社員の給与は、「もとは私たちのお金」なのに、たぶん、公務員よりも、もちろん民間平均よりも、かなり高いはずだから。

出典:浦部法穂神戸大学名誉教授(法学館憲法研究所顧問)「公務員の給与」

 

そして、より肝心なことは、公務員給与の引き下げは公務員だけにとどまらず、必ず民間に波及するということである。公務員の賃金カットは、業績が一向に上向かない民間企業の経営者が従業員の賃金カットに踏み切るきっかけになるだろう。そうして民間の賃金水準が下がれば、また公務員の給与引き下げ圧力が出てきて公務員の賃金カット、それに連れてまた民間の賃金カット、そしてまた……、というように「賃金カットのスパイラル」に陥る可能性すらある。かくして賃金がどんどんどんどん下がれば、国内需要はどんどんどんどん低迷し、いくら増税しても震災の復興財源は調達できず、財政赤字も膨らむばかり、だからまた増税で需要がさらに低迷し……で、日本経済は崩壊するということにもなりかねない。公務員給与引き下げキャンペーンは、低賃金で苦しむ人や納税者心理には受け入れられやすいかもしれないが、安易にこれに同調することは自分で自分の首を絞めるようなものだと認識しなければならない。

出典:浦部法穂神戸大学名誉教授(法学館憲法研究所顧問)「公務員の給与」

 

結局、「政・財・官の癒着を切る改革」ではない維新の党や民主党の「身を切る改革」というのは、公務員部分については、「労働者の賃金を切る改革」に過ぎないわけです。それで、「賃金カットのスパイラル」に実際なることについては、私が所属する労働総研で産業連関表を使って2011年5月に試算したことがあります。それが下の表です。

 

上の表にあるように、人事院勧告の影響を受ける625.8万人の年間収入の累計額は34兆7098億円に達します。その経済的なマイナスの影響は、(1)家計収入の減少総額が6兆9420億円、(2)家計消費の減少額が5兆1874億円、(3)国内生産の減少額が10兆7010億円、(4)付加価値(=GDP)の減少額が4兆5818億円、(5)国と地方の税収の減少額が8133億円という巨額な数値になります。また、付加価値の減少額から推計すると、わが国の年間のGDP(500兆円弱)を0.9%押し下げることになります。(※下の表は、公務員賃下げの影響を直接受ける労働者625.8万人の内訳等です)

 

それから、上のグラフにあるように、日本の公務員・公的部門職員の人件費6.1%は世界最低で、デンマーク18.3%の3分の1、OECD32カ国平均10.6%の6割程度に過ぎません。公務員人件費が財政赤字の原因であるかのような言説がありますが、公務員人件費が最も高い北欧諸国の財政赤字の方が少ないという事実によってデタラメであることが分かります。また、下のグラフにあるように、日本の国家公務員数は減らされ続けていますが、逆に国の借金は増え続けています。

 

ブラック企業による若者をはじめとする労働者の使いつぶしが社会問題となるなか、労働Gメン(“ダンダリン”)としての労働基準監督官の活躍が期待されるわけですが、日本の労働基準監督官の人数はドイツの3分の1以下、イギリスの半分です(▲上のグラフ)。

 

それから、上のグラフにあるように、労働者に占める公務員・公的部門職員数の割合で見ても、韓国に次いで日本はOECD33カ国中2番目に低くなっています。

 

すでに安倍政権は、国家公務員の定員を今後の5年間で10%以上削減する政府方針を今年7月25日に閣議決定しているのですが、こうした国家公務員定員削減は「行政改革」「構造改革」でずっと続いてきました。それによって上の表にあるように、官製ワーキングプアの状態に置かれている国の行政機関で働く非常勤職員は7万人近くにのぼっているのです。とりわけ、労働行政を担う厚生労働省において非正規雇用率が47.1%と半分近くになっていることは異常です。労働者の雇用を守らなければいけない労働行政を担う厚生労働省で働く職員の半分が官製ワーキングプアであることの問題については、次のようにブログで何度か紹介しています。

◆そりゃあんまりだ!ハローワーク職員は官製ワーキングプア
◆求職者に仕事紹介するハローワーク非常勤職員2,200人が失業-理不尽な官製ワーキングプアの実態
◆ハローワーク職員1,200人を年度末雇い止め-公募方式が拍車かける官製ワーキングプアの雇用不安

結局、維新の党や民主党の公務員人件費削減という「身を切る改革」なるものは、あたかも「行政内部で甘い汁を吸っている私腹を切る改革」であるかのように見せかけておいて、実際は巨悪の「政・財・官の癒着」はまったく切ることなく温存した上で、公務員労働者と民間労働者の「賃下げの悪循環」で日本経済を悪化させる「賃金を切る改革」であると同時に、「官製ワーキングプアを増やす改革」「貧困を増やす改革」に過ぎないのです。公務員人件費削減部分の「身を切る改革」は、「労働者の身を切る改革」ということです。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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コメント

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  • コメント (2)

    • 岩佐賢治
    • 2015年 10月 15日

    いつも統計表やグラフでの情報を参考にさせていただいております。
    <日本のここがスゴイ!>①世界第2位の重税国家 ②世界最高の公務員年収③世界最低水準の社会扶助 ④先進国最悪の家計貯蓄率 http://xn--nyqy26a13k.jp/archives/7365 2015/10/12 健康になるためのブログ
    上記の②のような情報が出回っていますが、根拠等があやふやなのでにわかには信じられませんがこれは本当でしょうか。迅速に的確な反論をしておかないと今後の運動に悪影響を及ぼしかねないと思いますがいかがでしょうか。

    • 岩佐さん、ありがとうございます。大変遅くなりましたが、アップしておきました。→「世界最高年収で日本は公務員天国?→日本の公務員の個別賃金はアメリカの6割、総人件費はずっと世界最低です」 http://editor.fem.jp/blog/?p=1038

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