生活保障で税金を「払えるようにする」福祉国家スウェーデン、消費税増税で生活を破壊する日本

天池洋介さん(日本福祉大学非常勤講師)がこのブログ用に寄稿してくださいました。転載させていただきます。(※消費税増税で社会保障を拡充せよとする井手英策慶応大学教授が前原誠司民進党代表のブレーンということで、井手教授の議論をどう考えればいいのか、あれこれFacebook上で書き連ねていたところ、天池さんから寄稿いただいたという経緯です。天池さんの結論である「消費税ではなく所得税や法人税の増税、あるいは1970年代の水準に戻すことで最低限の社会保障サービスの原資を確保し、最低限の生活を保障し税金を「払えるようにする」ことができるようになった後で、更なる社会保障水準の向上をめざして消費税を引き上げていくのが妥当ではないでしょうか。それはスウェーデンの福祉国家がたどってきた道と、同じ道でもあります。」に同感です)

 

税金を「払えるようにする」福祉国家スウェーデン
天池洋介 日本福祉大学 非常勤講師

消費税の税率が議論される際に必ず引き合いに出されるのが、北欧の福祉国家・スウェーデンです。スウェーデンでは消費税(付加価値税)は25%と高率ですが、国民全てが一生安心して暮らせる社会保障制度を築き上げています。それに習っての日本での「消費税を福祉目的税にするから増税に賛成してほしい」、という呼びかけについてどう考えたらいいのでしょうか。スウェーデンの税金と社会保障サービス(福祉)のあり方を参考に、日本の消費税の税率について、今までとは違った視点から見てみましょう。

消費税10%で生活破綻する日本、
消費税25%でも破綻しないスウェーデン

スウェーデンの税制、特に消費税を考える場合に、税額、税率と合わせて、「なぜ高率の税率なのにスウェーデン国民は払えるのか?」、逆に「なぜ日本では10%の税率にすると大変なことになってしまうと予想されているのか?」を考える必要があります。日本では消費税を10%、あるいはそれ以上にすると国民の生活が破綻する人が多数出てしまうこと、逆にスウェーデンでは25%でも国民の生活が破綻しないようになっていることを、多くの人が見過ごしたままスウェーデンの高率の税金を引き合いに出して議論が進んでいます。

消費税が25%でもスウェーデン国民の生活が破綻しない背景には、国民の生活が行き詰まらないように税と社会保障サービスがデザインされていることがあります。特に日本ではあまり注目をされていない、ミニマムコストとマキシマムコストという制度が果たす役割はとても大きなものがあります(*1)。消費税増税で特に打撃を受けるのが年金や社会保障サービスの受給者ですが、スウェーデンでは特に適切な水準の生活を保障するものとして、最低限手元に残さなければいけない生活費が定められていて、所持金ゼロになったり、生活費が不足しないようになっています。

25%の消費税を払う前提として生活費が確保される

まずミニマムコストについてですが、これは日本にはない考え方なのでなかなか理解しにくいのですが、これ以上取り上げてはいけない生活費(約6万円)として設定されている金額です。単純に言うと、必ず毎月6万円は生活費として手元に残さないといけないことになっています。その仕組みですが、経費としてまず税金と住居費を支払い、その上でミニマムコストの6万円をまず確保します。経費とミニマムコストを収入(主に年金)から差し引いて、残った金額が多ければ社会保障サービスの負担額に充てられ、残った金額が少なければ社会保障サービスの負担額が減額されます。収入が少ない場合には住宅手当が上乗せ・追加されます。もちろん、この6万円は誰もが25%の消費税を払う前提、あるいは払えるようにする前提で算定された額です。

社会保障をいくら利用してもこれ以上払わなくてもいい
という上限がある

次に社会保障サービスの負担額ですが、日本では所得に応じて一律に負担額が決定され、支払うことができなければサービスの利用ができません。しかしスウェーデンではマキシマムコスト(*2)という、利用料の上限が定められています。上限なので、収入から経費とミニマムコストを引いた残りの額に応じて利用料は柔軟に変動します。このマキシマムコストが日本の「上限額」と違うのは、日本はこれ以上サービスを利用させてもらえない上限であるのに対して、スウェーデンではいくら利用してもこれ以上払わなくてもいいという上限、ということです。日本では保育園の保育料が似たような運用をしています(*3)。

税金は国民の生活を支えるために徴収するものであって
国民の生活を破壊するものではないのに
日本の消費税は「払えるようにする」制度が欠落している

このようにスウェーデンでは多額の税金を払っても、生活が破綻しないように社会保障制度がデザインされており、税金を「払えるようにする」制度設計がなされています(*4)。翻って日本のように、消費税を「払えるようにする」制度が欠落している状態で、消費税を増税してしまったら、国民の生活を破綻に導く可能性は決して低くありません。福祉国家においては税金は国民の生活を支えるために徴収するものであって、国民の生活を破壊するものではないという基本が、日本社会では共有されていないので、いつも誰が痛みを受けるのか、誰が犠牲を負うかという変な話になってしまいます。「生活はどうなろうとも税金はむしり取られるもの」という考えから、「生活を支えるために税金を払うこと、生活が苦しくて税金が払えないなら、払えるようにするのが政府の仕事」と発想の転換をすることが、日本において福祉国家を展望する上で今、求められていることなのではないかと思います。

そのためにはまず、消費税ではなく所得税や法人税の増税、あるいは1970年代の水準に戻すことで最低限の社会保障サービスの原資を確保し、最低限の生活を保障し税金を「払えるようにする」ことができるようになった後で、更なる社会保障水準の向上をめざして消費税を引き上げていくのが妥当ではないでしょうか。それはスウェーデンの福祉国家がたどってきた道と、同じ道でもあります。

*1:藤原瑠美 (2009) 『ニルスの国の高齢者ケア エーデル改革から15年後のスウェーデン』 ドメス出版.(pp104-107) 参照
*2:正確にはマックスターケット(maxtarket)=最大の上限という意味。介護料金、家賃、食費について定められている。
*3:ただしスウェーデンのマキシマムコストは所得比例ではなくて、全員一律の料金設定になっています。
*4:もちろん、年金受給者を主な対象としたミニマムコストとマキシマムコストだけではなく、様々な社会保障サービスの全体を考慮する必要があります。例えば学生については学費が無料の上、月々の生活費が支給されたり、失業者についても従前所得の80%を保障する失業手当(最低基準額あり)があるなど、どんな状況にあっても生活水準が保障され、税金を「払えるようにする」仕組みになっています。

 

以上が天池さんの論稿です。これを読ませていただいて、やはり「消費税増税で社会保障拡充」という井手英策教授の主張は、スウェーデンの現実から見ても間違っていると思いました。誰もが生活保障される社会保障が前提にあって、スウェーデンの消費税25%があるわけですから、井手教授の議論は逆立ちしていると言えるのではないでしょうか。実際にこれまでも日本において消費税増税が先行してきましたが、下記のように逆に社会保障が改悪されてきたことや、消費税増税によって再分配が更に効かなくなり、子どもの貧困も、若者の貧困も、高齢者の貧困も深刻化している事実を見れば、「消費税増税で社会保障拡充」というのはすでに破綻した政策と言えるのではないでしょうか。

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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