「戦争する軍隊づくり」の「戦争法案」に止まらず「戦争する国づくり」を完成させる明文改憲が安倍首相の願望|渡辺治一橋大学名誉教授

  • 2015/8/8
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渡辺治一橋大学名誉教授に3時間を超えるインタビューを行いました。ごく一部ですが紹介します。(『国公労調査時報』2014年4月号に掲載したインタビューで、先日アップした「安倍政権が集団的自衛権行使に執念を燃やす理由 – 戦後の平和主義を根本的に転換し本気で軍事大国めざす|渡辺治一橋大学名誉教授」の続きです)

解釈改憲だけでは戦争できない9条に縛られた軍隊=自衛隊

解釈改憲だけでは、戦争する権限を持てることにはなりますが、自衛隊が戦争する軍隊にはまだなっていません。自衛隊は国民の強い平和運動の圧力の下で、単に権限を制約されただけでなく実力組織としても極めて特異な組織になっています。

確かに防衛費は世界有数であっても、侵略する軍隊としては極めて脆弱な、9条に縛られた軍隊なんですね。たとえば世界の大国が持っている海兵隊を、日本は持っていません。海兵隊は陸軍、海軍、空軍といった正規部隊とは違って、それぞれの陸上部隊、海軍の舟艇、ヘリコプターなどを三位一体で装備した部隊です。簡単にいえば侵略の尖兵部隊、殴り込み部隊なんですね。朝鮮戦争の時にダマンスキー島に最初に上陸したのは、陸軍でもなければ海軍でもなければ空軍でもなく、アメリカ海兵隊でした。ベトナム戦争で、アメリカ軍で最初にベトナム中部のダナンに上陸を敢行したのも、海兵隊でした。殴り込み部隊として海兵隊が拠点をつくって、図体の大きい陸軍や空軍が後から来る。イラク戦争のときも、最初にイラク本土に上陸したのはアメリカ海兵隊です。この海兵隊は中国もロシアも韓国も持っている。

ところが日本の自衛隊は持っていないのです。自衛隊は、自衛のための最小限の実力だから海外侵攻専門の部隊である海兵隊を持ってはいけなかったのです。しかし日米共同作戦で分担することになれば、海兵隊を持たざるを得ません。

自衛隊に海兵隊と敵基地攻撃能力を持たせる

また、日本の自衛隊は敵基地を攻撃するような弾道ミサイルや巡航ミサイルも持っていません。アメリカは当然、大量の弾道ミサイルを持っていますし、中国も大量の中距離、長距離、短距離の弾道ミサイルを持って、日本とアメリカを射程に入れて沿岸部に備えている。ロシアも大量の弾道ミサイルと核兵器を持っている。北朝鮮も同じです。ところが日本の自衛隊は、核も持てなければ弾道ミサイルも持てない。それはなぜかといえば、自衛のための最小限度の実力だからです。

しかし、このような自衛隊が、アメリカ軍との共同作戦でアメリカを支援できるのか? という話になる。そこで解釈改憲で、戦争できる軍隊にするために、最小限度の実力という限界を事実上、拡張し壊さなければいけない。そして自衛隊にそういう装備をさせなければいけない。それを今回、安倍政権は行いました。

昨年12月に政府は、防衛計画の大綱を再改訂しました。大綱は2010年に民主党政権が変えたばかりだったのを、また再改訂をした。その狙いは、まさに海外で侵攻できる軍隊にすること、海兵隊と敵基地攻撃能力を持たせるということです。ただし、自民党の提言ははっきりとこの2つを目的にしているのですが、今回の大綱の中では極めて曖昧な言葉で表しています。海兵隊という言葉は、自民党提言では「海兵隊的機能を持たせる」としていましたが、あまりにも露骨すぎるということで「水陸機動団」という意味不明の名前に変えました。しかし、そういう形で海兵隊を持ち、敵基地攻撃能力を持たせるようにする。そしてそのためには防衛費を拡大しなければいけないので、16年ぶりに安倍政権は防衛費を拡大した。そして中期防衛整備計画を昨年12月につくりました。そして、2014年度予算でこれを始めながら、実際に強化された自衛隊をアメリカ軍との共同作戦で細かな作戦調整を行うために、今年12月に日米防衛協力のガイドラインを改訂するというスケジュールが示されたわけです。

国会審議なしに「戦争する軍隊づくり」が
完成してしまう憲法9条の危機

私達がもしこれを見逃すことになると、その後に改憲を阻むぞと言っても、事実上、「戦争する軍隊づくり」は完成してしまうのです。しかもマズいことに、この集団的自衛権の解釈改憲や防衛計画の大綱改訂による「戦争する軍隊づくり」は、国会の中でまともな審議をしないのです。今国会で安倍首相が答弁していますが、「解釈改憲には国会での審議は必要ない」と言ってるのです。要するに政府が変えればいいんだ、安倍首相の責任で変えますと言っている。つまり、国会での審議をスキップするということです。そういう意味でいうと、私達がもしここで本気で立ち向かわなければ、憲法9条に大きな穴があきます。今まで数十年に渡って私達がつくってきた憲法の体系、日本の「戦争しない軍隊」というものが大きく転換させられてしまうことになるのです。

「戦争する軍隊づくり」と「戦争する国づくり」

――「戦争する軍隊づくり」が進んでも、「戦争する国づくり」という点ではまだ達成できませんね。

そうですね。「戦争する軍隊づくり」まではいくけれど、「戦争する国づくり」は解釈改憲ではいけないということも大変重要な点です。

「戦争する軍隊づくり」と「戦争する国づくり」を分けている人はあまりいないのですが、簡単にいうと、自衛隊がアメリカの手下になって、共同作戦を行うところまでは解釈改憲でいける。しかし、実際に日本が「戦争する国」になるというのは別の話です。

ここで言う「戦争する国」というのは何かというと、自国の国益を実現するために、場合によっては軍事力が行使できる国です。これはアメリカもロシアも中国もそうです。また北朝鮮も韓国もそうですね。しかし日本は、自国の国益を実現するために、場合によっては軍事力で相手国を脅かし、軍事力を行使して、戦争することによって国益の実現や増進を図る国にはなっていない。それはできない憲法を持っている。だからもしアメリカの手下になって共同作戦をやるだけではなく、それをさらに「前進」させて、自分の国の国益を維持するためにアメリカと共同で軍事力を行使する国になるには、日本国憲法の全体系を根本的に変えないとどうしようもないという側面があります。

安倍首相の願望は明文改憲

アメリカや日本の財界は、とにかく解釈改憲をして、日本がアメリカ軍と一緒に共同軍事行動をとれるところまで早くしろと言っています。ところが、憲法9条を明文改憲するということになると、日本が戦後69年保ってきた日本の立ち位置を根本的に変えることになりますから、これは中国だけではなく、韓国もASEAN諸国も、日本を今まで信頼してきたイラクや中東の国々も、日本は変わるのかということになる。それはアメリカも現在では望んでいないのですね。

ところがさきほど言ったように安倍首相は、日本を根本的に変えてアジアの中で中国に対峙できるような大国にしたい。是が非でも自分の政権でそれを実現したい。支配階級は必ずしもそこまで望んでいないけれど、安倍首相の願望を叶えるには明文改憲まで踏み込まなければ、実際にはできません。

また、いざアメリカ軍に追随して北朝鮮に出かけて行くとか、中台紛争に介入するとか、シリアに出かけて行くということになったら、アメリカが望もうと望むまいと、明文改憲をしなければ実際には武力行使をできる国にはならないと思います。

「戦争しない国」の体系は軍事大国化の障害物

なぜ、明文改憲をしないと日本が武力行使をできる国にならないのかというと、「戦争しない国」ということを定めた日本国憲法は、その全体が軍事大国化のための極めて大きな障害物となっているからです。国の体系として戦争しないことを前提として、戦争する「普通の」大国に不可欠な様々な制度や人権制限、制約の体系などを持っていないからです。

たとえば、戦争した時には20数万人の自衛隊員を海外に出兵させ、戦場に投入することになりますが、まず陸上自衛隊10数万人のほとんどは、戦争をするために自衛隊員になっているわけではないのですね。災害復旧などの社会貢献をしたいとか、技術を習得したいとか、そういう理由で自衛隊員になっている。その人間を戦場に連れて行って、そして人殺しをさせる。これは、いくら訓練していても、そう簡単にはできません。世界最強の軍隊は米軍の海兵隊だと言われていますが、その海兵隊ですらイラクで大量の殺戮を行う中で、兵士に大量の精神疾患を生みました。またイラクでは実際に住民に銃を向けることができなくて、命令を拒否したり敵前で逃亡する兵士が続出しています。アメリカのホームレスの研究では、かなりの部分がイラクとアフガニスタンからの帰還兵だと言われています。戦場で人を殺すということは、トラウマを抱えてしまって市民生活になかなか戻れないという、それくらい大変なことなのです。

戦争に必要な軍法会議はない日本国憲法

戦争をする政府は、兵士達が戦場で離脱したり精神疾患になったりすることを防いで、戦場に縛りつけなければいけません。だから戦争ができる国には、軍法、陸軍刑法や海軍刑法というものがあり、敵前逃亡や「抗命」=命令違反は最高死刑になるのです。かつ、逃亡した人間を内地に送り返して裁判をするわけにはいかないので、戦場で即決で処罰する軍法会議がなければいけない。アメリカも海兵隊の違法者は最高死刑です。『坂の上の雲』で司馬遼太郎が書いていたように、日露戦争の当時最強と言われた日本軍でも様々なところで兵士の逃亡が起きました。これを皆、厳罰に処して兵士を戦場に縛りつけなければいけない。しかし日本国憲法は、そもそも軍法とか軍法会議など全く予定していないわけです。そのためには、日本が9条を変えて「戦争をする軍隊」を持ち、自衛のための戦争をできるということをした上で、憲法全体を変えていくしかないわけです。

また、戦死したらどうするのか。昔だったら靖国神社という国家的な慰霊の施設に行こうという話になったわけですが、今や靖国神社は民間の宗教施設です。これをもう一度公的な慰霊の施設にするには、戦死することを前提にしなければいけないわけですね。しかし日本国憲法は戦争を放棄しているのですから、「戦死」はあり得ない。だから憲法9条も変えなければいけないし、同時に、靖国神社を公的慰霊施設にするには靖国神社に死者を神として祀ることを容認するため憲法20条の改訂も必要だということです。

運動を弾圧するための表現の自由の制限、
非常事態規定がない日本国憲法

そして戦争をする政府にとって一番深刻なのは、戦争に突入した場合に官邸前で毎日、反対運動が起きては困りますから、それを弾圧しなければいけないのに、日本国憲法21条は、全く制約なく表現の自由を認めているということです。だから表現の自由について、「公の秩序や公益に反する」場合には制限してもいいという規定を、憲法上設けなければいけない。

それから、戦争に突入した時にそのことを宣言した上で、国会をスキップして国民を動員したり、市民の自由を束縛することができるよう非常事態規定がなければいけない。日本の明治憲法の場合は、戒厳令というものがありました。アメリカの憲法も中国の憲法もロシアの憲法も、非常事態規定を認めている。しかし今の日本国憲法には非常事態規定はないわけです。自民党が騒いでいるように、憲法は戦争することを予定していないから非常事態規定がないわけですね。こんなものもつくらなければいけないのです。

憲法の全体系を変えなければ実際には戦争できない

つまり憲法の全体系を、そういう意味では戦争する国にふさわしい制度をつくれる憲法に変えないことには、実際には戦争はできない。だから自民党は、2012年に日本国憲法改正草案をつくったのです。戦争する軍隊まではなんとか9条の解釈でできるけれど、いざ戦争を始めるには、9条だけじゃなくて20条も21条も、新たに非常事態規定も、裁判所の制度も、みんな全面的に変えなければならない。それを変えるには、日本国憲法全体を変えなければいけない。

自民党憲法改正草案を読むと、国防軍とか、おどろおどろしい言葉が並んでいますが、それがポイントではないのです。国防軍と言おうが自衛軍と言おうが、それはどうでもいい。それよりも、自民党憲法改正草案は、日本国憲法全体を変えてしまっているということです。安倍首相は、最終的には憲法全体を変えなければ実際に日本が武力で中国と対峙して、場合によっては日本も軍事力で行くぞという体制はつくれないということが分かっている。だから解釈改憲で止まるつもりはないのです。そこまでいかなきゃいけないと考えている。それが非常に強い安倍首相の要求だと思いますね。

▼渡辺治一橋大学名誉教授は、2015年7月17日のSEALDs国会前抗議行動においてスピーチをしています。是非ご覧ください。

▼インタビューの一部を視聴できます。

▼渡辺治一橋大学名誉教授インタビュー記事
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井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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