安倍首相は「夢見る抑止力万能論者」 -「戦争法案」は小さく生んで大きく育てる「トロイの木馬」、その先は戦争とテロの憎しみの連鎖|中野晃一上智大学教授

  • 2015/8/8
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(※1年前に書いたものですが、現時点でも引き続き重要な指摘だと思いますので紹介します)

2014年5月16日に放送されたNHKスペシャル「集団的自衛権を問う」を見ました。出演されていた中野晃一上智大学教授(「立憲デモクラシーの会」呼びかけ人)の指摘がとても重要だと思いましたので、その指摘の一部ですが要旨を紹介します。(文責=井上伸)

衝撃的だった思い込み激しい安倍首相の“紙芝居”

安倍首相の記者会見で衝撃的だったのは、いきなり紙芝居が始まり、おじいさんやおばあさん、子どもや孫が出て来て、このままでは危ないと訴えるのですが、戦後続いてきた専守防衛というページをめくるという重大な問題であるのに、国際情勢を含めその論拠を話さず、感情的なものだったということです。もう一つは、安倍首相は抑止力に対して思い込みが激しいということです。抑止力があれば国民は安全になると言うのですが、そうはならないでしょう。

集団的自衛権を「小さく生んで大きく育てる」

安倍首相の狙いは、とにかく集団的自衛権を「小さく生んで大きく育てる」というところにあると思います。おじいちゃん、おばあちゃんの事例で話すのは違和感があって、これだけで終わらないわけです。安倍首相の話だと、紙芝居の次のページでは、バラ色になって平和になるような感じですが、実際は戦争に日本が参加したことによって、そこから戦争が始まるわけです。戦争が始まると、アメリカでさえ泥沼化するわけですから、バラ色になるわけではありません。事例を語るのであれば、集団的自衛権を行使した後、他の国が反撃し、日本の本土も攻撃される可能性もあることを語らないと、事例すら語っていることにはなりません。

安倍首相の事例はそれで終わりにはなりません。他国から見れば日本が参戦してきているわけで、当然日本の艦船が攻撃の対象になるし、日本の本土も攻撃の対象になってくるわけです。そうすると、日本だけが戦争をやめようという話にはなりません。そこまで考えないでおいて、国民の安全が守られ、お終いになりますという話はおかしいでしょう。

「トロイの木馬」で原理原則を変えようとしている

安倍首相は事例から入り、原理原則を変えようとしています。これは、「トロイの木馬」のようなものです。ここで集団的自衛権を入れておいて大きく育てることができると考えているように見えるわけです。

限定的な集団的自衛権の行使はありえません。個別的自衛権であれば、わが国が攻撃されているわけですから、それは誰が見ても分かる。わが国が攻撃されている以上、自衛しなければいけないというミッションははっきりしているわけです。ところが、集団的自衛権になってくると、わが国が攻撃されていないのに他国が攻撃されて、わが国に危害が及ぶかも知れないからと政府が判断して集団的自衛権を行使するのであって、私たち国民が議論に参加することはできません。そもそもが他国とのおつきあいで一緒にやらなければいけないということで参戦しているわけですから、集団的自衛権を行使してどこで終わるのかというときに終わることができません。そのことでわが国が攻撃されるかもしれない。どんどん戦争に入っていくことになる。限定的というのはありえないということまで考えないと本当に国民の安全は守れません。

安倍首相は「夢見る抑止力万能論者」
まして特定秘密保護法下でとても信じることなどできない

まして特定秘密保護法ができているわけですから、私たち国民がどれだけ事態を知ることができるのかということもあります。政府がいろいろな情報を調べてきちんと決めますからと言われたところで、私たち国民は納得することはできません。抑止力が外に対しては万能であると考えるのと同じように、国内で国家権力を抑制しなければいけないということに関して安倍首相はあまりに鈍感です。安倍首相は「夢見る抑止力万能論者」のようなもので、記者会見でもそうですが、安倍首相は国民に対して「トラスト・ミー(私を信じて)」と言うのですが、私たち国民はとても信じることはできません。国家権力は暴走することがあるから、そのために憲法があるのに、それをこういった形で壊してしまったら取り返しがつかなくなります。

おじいさん、おばあさんの話をするのであれば、自衛隊やわが国が反撃されたときに一体どうなるのかを考えなければ、あの1枚の紙芝居の次はバラ色になって平和になりました、とはならないのです。安倍首相は歴史認識や靖国参拝などで日米関係にまでも問題が起きるようなことをやっておいて、集団的自衛権で軍事力を行使できれば国民の安全は守れるというのはおかしい。抑止力は万能ではないのです。

集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲で、専守防衛からわが国が攻撃されていなくても日本は参戦することが可能になります。そして、「安全保障」の方が憲法に優先することになり、今後は政府が考えて集団的自衛権を行使していくという形になっていくわけです。

――以上がNHKスペシャルでの中野晃一上智大学教授の指摘の一部です。それから、番組の最後に、柳澤協二さん(国際地政学研究所理事長、元防衛官僚・小泉政権で内閣官房副長官補)が「自衛隊員が犠牲となるリスクの高まる集団的自衛権を行使するためには、民主主義の原則として、国民のコンセンサスを得て、改憲の手続きを行う必要がある」と指摘したことに対して、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」座長代理の北岡伸一さんが、「消費税を5%から8%に引き上げるだけで16年もかかった。改憲するためのプロセスはとんでもなく長くなる、そんな時間的猶予はない」と感情的にキレていたところに、今回の安倍政権の本音を垣間見る思いでした。

集団的自衛権の行使は、アメリカのために日本が世界中で軍事力を行使し、他国のために日本の若者がリアルに殺し殺され、国家統治を破壊するものです。中野晃一上智大学教授が指摘されているように、たとえ必要最小限度の限定的な集団的自衛権の行使でも一端容認されてしまえば、特定秘密保護法もある中で「大きく育てる」ことがいくらでも可能になります。そして、アメリカのイラク戦争などのように戦争の泥沼化に日本も入っていき、日本の本土も攻撃にさらされることになっていきます。戦争の泥沼化、戦争の憎しみの連鎖は、アメリカに見られるように、日本国内へのテロも引き起こすことになります。日本の狭い国土には、まだ原発事故の収束もできていない福島第一原発と50機もの原発があります。日本国内の原発が攻撃を受けた場合の被害予測を外務省が研究し報告書を作成していますが、その報告書によると、大量の放射性物質が流出して最大1万8千人が急性死亡するとされています。日本の国土は、核兵器による攻撃を受けなくても、日本の集団的自衛権行使への他国の通常兵器による反撃でも、こうした事態が現実のものとなるのです。こうしたことも放置しておいて、「しっかりと日本人の命を守ることこそが総理大臣である私の責任であると確信します」「国民の命と暮らしを守るため」に集団的自衛権の行使が必要だと何度繰り返しても、安倍首相は「夢見る抑止力万能論者」でしかないでしょう。そして、リアルには集団的自衛権を行使すれば、イラク戦争のような泥沼化、アメリカのようなテロの悪循環へと日本も入っていくことを、安倍首相自身も自著の中で次のように明言しています。

安倍首相は日本の若者が血を流すことが有益と明言している

「私はASEANの国々において、憲法改正や集団的自衛権の行使など、安保法制懇の検討事項について説明しました。たとえば、自衛隊のイラク派遣を 例に挙げ、次のように説明しました。「サマワで日本はオランダ軍とともに活動していましたが、もし仮にオランダ軍が攻撃を受けて日本に助けを求めてきた 際、日本は『ここは戦闘地域になったので、私たちはこれから撤退します。お先に失礼しますが、オランダ軍の皆さん、どうか頑張って下さい』と言い残して帰 国することになるんです」と。」(安倍晋三・百田尚樹著『日本よ、世界の真ん中で咲き誇れ』ワック株式会社、35~36ページ)

「いうまで もなく、軍事同盟というのは“血の同盟”です。日本がもし外敵から攻撃を受ければ、アメリカの若者が血を流します。しかし今の憲法解釈のもとでは、日本の 自衛隊は、少なくともアメリカが攻撃されたときに血を流すことはないわけです。」「日米安保をより持続可能なものとし、双務性を高めるということは、具体 的には集団的自衛権の行使だと思いますね。この問題から目をそむけていて、ただ、アメリカに文句を言っていても物事は前進しませんし、われわれの安全保障 にとっても有益ではないと思います。」(安倍晋三著『この国を守る決意』扶桑社、63ページ) 「靖国神社の問題は、常に国家の問題を考えさせられます。 私たちの自由など、さまざまな権利を担保するものは最終的には国家です。国家が存続するためには、時として身の危険を冒してでも、命を投げうってでも守ろ うとする人がいない限り、国家は成り立ちません。その人の歩みを顕彰することを国家が放棄したら、誰が国のために汗や血を流すかということですね。」(安 倍晋三著『この国を守る決意』扶桑社、150ページ)

 

過去の日本の侵略戦争さえも国家を守る戦争だったのだから国家は侵略戦争の遂行をも顕彰する必要があるとする安倍首相のような政治家が、集団的自衛権の行使を判断することになるのです。集団的自衛権の行使は、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることになる日本社会が現実のものになってしまうということです。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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