ギリシャ財政破綻への処方箋=監査に立ち上がる市民たち、1%による不当債務を99%にツケ回すな

先ほど、配信されたニュースです。

ギリシャ議会選 与党が半数近い議席獲得

財政難に陥っているギリシャで行われた議会選挙で、チプラス前首相が率いる与党は半数近い議席を獲得し、今後、国民の支持をよりどころに、ドイツに債務負担の軽減を求めるなど強気の姿勢を打ち出すのではとの見方も出ています。20日に行われたギリシャの議会選挙の開票作業はほぼ終わり、チプラス前首相率いる「急進左派連合」が、35%余りの得票で定数の半数近い145議席を獲得しました。チプラス氏は反緊縮の公約を守らなかったとして批判にさらされていましたが、予想を上回る支持を集め、勝利演説では「国の内外で戦い続ける負託を与えられた。国民の誇りを取り戻してみせる」と述べ、政権運営に強い意欲を示しました。

NHKニュース 9月21日 11時42分

 

関連して、以下、2011年11月に書いたものですが紹介しておきます。

ギリシャ財政破綻への処方箋=監査に立ち上がる市民たち、1%による不当債務を99%にツケ回すな

「財政赤字の解消」を理由にして、庶民増税や社会保障削減、公務員労働者をはじめとした働くもののリストラ・賃金削減など国民犠牲の「緊縮政策」が、ギリシャなど欧州諸国に広がっています。

日本においても「このままではギリシャのようになるから、消費税増税、社会保障改悪、国家公務員の賃下げが必要」などといった主張が強まっています。【★日本とギリシャの財政赤字が質的にまったく異なるものであることは、国公労連のブログで山家悠紀夫さんが解明してくださっていますのでそちらを参照ください。→「どうみる?日本の財政赤字(3) – 日本がギリシャのようになる?(山家悠紀夫さんに聞く)

そのギリシャで、国民犠牲の「緊縮政策」に反対する大きなデモやゼネストなどがいま取り組まれています。同時にギリシャ国民が、財政赤字の原因や実態を追及する市民の手による「監査委員会」を発足させ、国民の立場から財政再建をめざしていることが、海外ドキュメンタリー「ギリシャ財政破綻の処方箋――監査に立ち上がる市民たち」(NHKBS1、2011年11月7日放送)で紹介されていました。

このドキュメンタリーは、ギリシャ市民が募金を集めて自主制作したもので、アメリカの巨大銀行であるゴールドマンサックスの社員がギリシャの公的債務管理庁の長官となるなど、欧米の巨大銀行がギリシャ支配層と癒着・腐敗して財政赤字を拡大してきた事実や、欧州の軍需産業なども結託しギリシャに借金をさせて高額な兵器を必要もないのに購入させてきた実態などを告発しています。そして、欧州諸国の財政危機は、大銀行や大企業の救済のための各国の膨大な財政支出をベースにした、大企業のルール無き投機的金融活動にこそ根源があることを指摘しています。

ギリシャ市民の手による「監査委員会」は、こうした欧米巨大銀行とギリシャ支配層の癒着によって拡大された財政赤字は国民の利益を損なう「不当債務」だと主張しています。そして、こうした「不当債務」を理由に「緊縮財政」として国民に押しつけられる年金や福祉の削減、公務員労働者をはじめ働くもののリストラ・賃金削減、庶民増税などは財政再建にも逆行する間違ったやり方だとギリシャ国民は反対しているわけです。

ひるがえって日本の財政赤字はどうでしょうか? ギリシャとは質的に異なるものであることをおさえた上で、日本にも「不当債務」のような問題はないでしょうか? たとえば巨額の財政赤字を抱えながら他国では考えられない巨額な「米軍への思いやり予算」を支出することなどは「不当債務」のようなものだと言えないでしょうか? 日本においても「国民の利益を損なって」財政赤字を拡大してきた問題を国民の手で告発・追及する必要がないでしょうか?

以下、海外ドキュメンタリー「ギリシャ財政破綻の処方箋――監査に立ち上がる市民たち」(NHKBS1、2011年11月7日放送)の内容要旨を紹介しておきます。(※いつもの私が関心を寄せた部分だけの要約ですので御了承を。文責=井上伸)

ギリシャ 財政破綻への処方箋
――監査に立ち上がる市民たち

ユーロ圏で財政赤字国である5カ国は、銀行家などから侮蔑を込めて「ピッグス」と呼ばれています。ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインの5カ国です。

ギリシャの財政破綻を政治家は、「国民の責任だ」と言っています。私たちは本当にヨーロッパ経済を脅かす「放蕩息子」なのでしょうか?

グローバル化の中で、資本家は安い労働力を国外で確保し始めました。すると国民取得の中の賃金収入が低下するという現象が起きました。これが問題となります。購買力がない相手にどうやって商品を販売するのか? ツケで売るというのがその答えでした。「信用経済」によって、買いたい物と手持ちの金との隔たりを埋めたのです。これで80~90年代には景気が回復しました。しかし90年代末になると、この方法は長続きしないと気づき始めました。70年代の危機を脱したこの方法こそが今回の危機の下地となったのです。

アメリカの住宅バブルがはじけたとき、世界中の金融システムは危うく崩壊しそうになりました。そしてすでに構造的な問題を抱えていた実体経済に大きく影響しました。各国は緊急措置を取りました。銀行を救済し需要を回復するために公的資金――つまり税金を投入したのです。この結果、金融危機は国家の財政危機に広がりました。税金で救済された金融機関は再び投機に走りました。ギリシャでも投機が危機を悪化させました。今回は問題が一層深刻化しています。いまギリシャの問題にユーロ圏全体が向き合わなければならなくなりました。しかし、ユーロは国を持たない通貨です。

国の後ろ盾のない通貨などありえません。米ドルの強みはアメリカという国の存在です。一方「欧州」という国家はありません。加盟国を統合する真の政治権力は存在しないのです。政府とFRBが州の格差に介入するアメリカとは違いユーロ圏では国家間の格差が拡大してきました。EUの貧しい周縁国がこうして生まれました。

ユーロ圏は中核の国々と周縁国に二分されてしまいました。周縁国では深刻な財政危機が起きている一方で、中核国、特にドイツはユーロによって勝ち組になりました。中核の国々と周縁国の競争力に差がつきEU周縁国の経済力は徐々に低下しています。統一通貨ユーロがもたらした結果です。

周縁国が遅れを取っているのはなぜでしょうか? 国家間の格差が広がり続けているのはなぜなのでしょうか? 「ナマケモノの周縁国」と「勤勉なドイツ」という神話があります。ドイツは国際競争力強化のため自国の労働者に宣戦布告しました。過去10年間、労働者の賃金を抑える政策をとっています。

近年ドイツの賃金上昇率は7%でしたがユーロ圏のほかの国々は27%でした。この隔たりが周縁国の競争力を失わせました。ドイツだけが賃金上昇を抑えれば競争力は当然高まります。そしてほかの国々は追いつくことは困難です。ユーロ圏の国々は自国通貨を持たず切り下げによる経済回復は望めません。現在のような状況に陥ってしまうメカニズムなのです。

競争力の喪失は危機の決定的な要因となります。自国の経済活動が諸外国と競争できなければ経常収支に大きな赤字が出ます。ギリシャはEUの中で最大の赤字を出しました。

EUにとってギリシャは貧しい身内です。ヨーロッパ大陸の周縁国という位置づけの国家です。ユーロ圏に加入すればギリシャの国債発行高が増大するのは自明でした。ギリシャ人が「ナマケモノ」だから危機を招いたわけではありません。

ユーロ圏は周縁国の経済安定化のシステムを破壊し全世界を危機にさらしました。EU周縁国のアキレス腱は財政赤字と債務です。ギリシャの場合、債務は国の歴史に深く根ざしています。ギリシャの膨大な債務の背景には、欧州の中でも最も所得格差が大きいギリシャの特権階級社会の存在があります。ギリシャの特権階級層、まさに「1%」の特権層は、数十年にわたって政治と経済運営をも支配し、効果的で公平な税負担を実現させなかったのです。

パパンドレウ政権(1981~90、93~96)は、社会保障制度を整備しましたが、企業や高額所得者への増税は実施しませんでした。次のミツォタキス政権(1990~93)でも借金が増えました。ユーロ圏への加入をめざしていましたが、財政赤字をGDPの3%に抑えるという加入条件には遥かに及ばぬ状態でした。シミティス政権(1996~2004)下の2001年、ギリシャはユーロ圏に加入しました。ヨーロッパの金利の低下と高い成長率、さらに粉飾による国家財政の赤字隠しのおかげです。この時期、債務の割合はわずかに減ったように見えました。カラマンリス政権(2004~2009)はキャピタルゲイン課税を10%引き下げ債務額は再び上昇します。G・パパンデレウ政権(2009~)で、2010年、過去の巨額な財政赤字の隠蔽が発覚しました。累積債務はGDPの167%に達すると見られています。ギリシャと同じような状況に陥った国はIMF(国際通貨基金)の査察を受け、その構造改革プランに従うことを条件に融資を受けます。アルゼンチンは1824年にイギリスから最初の融資を受け、借金と財政赤字の罠にはまりました。1992年アルゼンチンはインフレを抑制するために自国の通貨ペソと米ドルの固定相場制を採用。その結果、独自の通貨政策を実施できなくなりました。IMFはアルゼンチンを市場原理主義の実験場にしました。アルゼンチンがやむなく頼った主はIMFだけでしたが、ギリシャにはお使いする主が複数います。ユーロ圏の金庫番である欧州中央銀行の指示にも従わなければなりません。この欧州中央銀行は市場原理主義を推進するための装置でした。現在IMFと欧州中央銀行が共同で打ち出しているギリシャ救済策がうまくいく見込みはほとんどありません。救済策はギリシャが破産しないようにするだけのものです。借金を減らす政策ではありません。緊縮策をとってもさらに借金が増えていくのは明らかです。この緊縮策は貸し手や銀行の保護だけを目的としたものと言えます。

わずか数カ月でギリシャ政府は銀行に1,080億ユーロを支払いました。これはIMFとユーロから受け取った金額のほぼ全額です。アルゼンチンが同じ状況になったとき、政権の責任者たちは厳しく糾弾されました。大統領がヘリコプターで官邸から脱出する様子はIMF関係者の脳裏に強く焼き付いています。いまギリシャ国民は「アルゼンチンと同じだ。ギリシャでは誰がヘリに逃げ込むか見届けよう」と話しています。

IMFの介入から1年。ギリシャでは緊縮策、資産売却、合理化など徹底した財政再建が始まっています。アテネにはIMF、EU、欧州中央銀行の代表が常駐し経済政策に指示を出しています。

「いまのギリシャは自由な国か?」「イエス」。「では独立国か?」「ノー」。ギリシャは属国に格下げされました。自由と主権はまったく別のものです。ギリシャの問題は主権を失ってしまったことです。

政府は外国の債権者への返済のため、緊縮策を実施しました。その結果、起きたことは倒産と失業、そして貧困でした。

アテネの中心街は人道的な危機にみまわれています。薬が買えず、医療も受けられないホームレスが大勢います。彼らが広場をうろついている様子は第三世界の光景とあまり変わりません。

民衆は抵抗を示しました。政府の対応は民主主義の原則にすら反するものです。民主主義は「借金本位主義」に取って変わられるのでしょうか?

財政危機を発生させた張本人たちの債務をギリシャ国民が支払う義務があるのでしょうか? このような「不当債務」=Odious Debtと呼ばれる不当債務を国際法の条件に乗っ取って拒否した例が過去にさまざまな国でありました。

「不当債務」という考え方を理論化したのはアレクサンドル・サックです。サックはヨーロッパやアメリカの大学で教鞭をとっていました。1927年、サックは「不当債務」の概念を提唱。国際間で次の3つの条件がそろったときの債務は不当であり、返済する必要はないとする考え方です。①政府が国民の認識なしに融資を受けた場合、②その利益が国民の利益にならないものに使われた場合、③貸し手がこの状況を知っていたにもかかわらず見て見ぬふりをした場合です。

ギリシャ財政破綻の原因のひとつには明らかな不正取引の横行があります。たとえば、ギリシャ政府当局者とドイツ企業との贈収賄疑惑があります。ドイツのシーメンス社はギリシャの子会社シーメンス・ヘラス社を通じて10年間にわたり閣僚や官僚に賄賂を渡していました。もちろん契約を独占的に受注するためです。また、2001年にギリシャ政府からアメリカの投資銀行ゴールドマンサックスは数百万ドルの報酬を得ています。米上院議員M・カーク氏は、「ギリシャの借入金を麻薬にたとえればアメリカの金融会社の立場は密売人です」と語っています。ギリシャ政府はさらに協力者に報酬を与えました。ゴールドマンサックスの社員をコンサルタントとして雇い国民の税金で給与を支払っていたのです。

フランス『リベラシオン紙』のJ・キャトルメ記者は、「ギリシャ政府のコンサルタントをつとめる一方で政府の利益を損なう行為もしていました。財政赤字の粉飾が明らかになったのは2010年。その直前にはゴールドマンサックスの社員が公的債務庁の長官になっていました。この人物がギリシャの債務を扱っていたのです」と指摘します。

ギリシャとゴールドマンサックスの契約についてはいくつかの国から非難の声があがりました。しかし同じ国々が一方でギリシャに高額で武器を売却していたという事実があります。1年前、ドイツがギリシャに金融支援の話を持ちかけたとき、ドイツ製の武器の購入が条件の1つとしてあげられていました。「年金や社会保障は削減すべきだが武器の購入は続けろ」というわけです。ドイツは自国の軍需産業は守り、ギリシャ国民にそのしわ寄せをしたのです。

欧州議会議員のD・コーン・バンディット氏は、「我々は偽善者だ。先月、フランスはギリシャにフリゲート艦6隻を購入させた。さらに4億ユーロのヘリコプターや1億ユーロの戦闘機も数機、ギリシャに購入させた。総額は30億ユーロに達する。ドイツは10億ユーロで潜水艦6隻をギリシャに購入させている。我々はギリシャに金を与えて武器を買わせているのだ」と指摘しています。

ギリシャのため、あるいはギリシャの将来の発展のためという名目で、さまざまな偽善的行為が続けられてきました。結果的にそれがギリシャの財政危機をさらに悪化させているのです。

第三世界債務廃絶委員会のE・トゥーサン代表は、「巨額の支出がいまギリシャ国民にのしかかっています。オリンピック開催で受けた融資も税金で返済しています。予算が大幅に膨張した理由とその金の使い道を国民が知りたいと要求するのは当然のことです。明らかになったシーメンスやゴールドマンサックスとの不正契約もごく一部に過ぎなのです」と語ります。

ユーロ圏でのギリシャの債務の一部は国民の利益に反するものです。政府が作ったこのような債務を国民は返済する必要はありません。実際にこうした国民の利益に反する「不当債務」のすべてを監査によって明るみに出すことができるということをエクアドルなどの国ははっきりと示しています。

どんな債務なのか? 額はどのくらいなのか? 誰に借金しているのか? ギリシャ政府は説明しようとしません。だから市民の手による監査が必要なのです。監査をすれば債務内容が正確にわかります。政府のウソをすべて暴き出さなければなりません。国民のお金を握っているのは彼らなのです。そして政府にすり寄る人々はたっぷり金をもらっています。監査委員会をつくるにあたってはメンバーの人選に慎重にならなくてはいけません。政府の息のかかった委員会になってしまっては元も子もないからです。

2011年3月、ギリシャ国民は市民の手による監査委員会の設立を要求しました。監査委員会はまずどれが「不当債務」であるかを洗い出します。そしてギリシャの法律を国際法に乗っ取って国民には返済する義務がないことを証明する取り組みをしています。

ギリシャ市民たちは語ります。

「金融市場の腐敗のせいで生じた債務は不道徳な債務であり、不道徳な債務を返済するのは不道徳なことです」

「監査委員会の設立は国民の大きな武器です。たたかいを避けている限り、いつまでも債務は国民につきまとうでしょう。行動を起こすことによってのみ事態は変化するのです」

「私たちは従順さを捨てなくてはなりません。自らをIMFから解放するのです。欧州中央銀行からEUから解放するのです。この三者がギリシャを経済の奴隷にしようとしているからです」

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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