デンマークの「解雇自由」「フレキシキュリティ」を支える組織率87%の労働組合、「正社員の解雇自由で日本はハッピー」とする竹中平蔵パソナ会長の暴論

  • 2015/8/23
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(※2009年10月に書いた記事です。竹中平蔵パソナ会長がデンマークなどを見習って日本も「正社員の解雇を自由にして、セーフティーネットを充実すればOK」などと今でも言っていますが、デンマークと日本の違いをまったく踏まえない暴論だということがよく分かります)

大学院生など青年たちが中心になってつくっている『POSSE』という雑誌を創刊号から定期購読しているのですが、その雑誌を発行しているNPO法人POSSEがめでたく3周年を迎えました。それで3周年記念企画の案内がきましたので参加してきました。その企画は、シンポジウム「どう変わる? 新政権のセーフティネット」(2009年10月18日開催)で、シンポジストは五十嵐仁さん(法政大学教授、大原社会問題研究所所長)、池田一慶さん(ガテン系連帯)、竹信三恵子さん(朝日新聞編集委員)でした。なかでも竹信三恵子さんの話が、とてもおもしろかったので要旨を紹介します。(文責=井上伸)

最近、とても気になっている論調のひとつに、「日本における正社員の解雇規制を自由にして、セーフティーネットを充実すればすべてOK」というものがあります。つまり、「クビをどんどん切ったって、セーフティーネットさえちゃんとしていればいいんだ」という主張です。

そして、その主張を支えるものとして、「解雇の自由な国」「フレキシキュリティ政策を実施する国」としてデンマークがあげられています。デンマークでは、解雇規制を自由化してしまって、セーフティーネットをきちんと整備している。だからデンマークに習って解雇規制を日本でも自由化すべきだというわけです。

私は、今年の3月にヨーロッパ5カ国に実際に行って、雇用に関する取材を行いました。デンマークの取材では、本当に「解雇の自由な国」なのかという点を見てきました。

日本において、解雇自由化を主張する人たちの考えの根っこのところには、おそらくグローバル化というのがあるのではないでしょうか。グローバル化の中では、企業の負担が少しでも増えると企業はすぐ海外に逃げ出してしまう。グローバル化の中では、労働者をすぐ解雇できないと企業がもたない、逃げ足の速い企業に対応できない、小回りのきく雇用システムが必要だ。だから、正社員もすぐ解雇してもいいんだというのが大まかな主張だろうと思います。

ところが実際に、デンマークへ行ってみると、こうした日本における考え方とはまったく違う話だということが分かりました。たしかにデンマークの解雇規制はゆるくて、妊娠している女性以外は基本的に解雇していいとか、解雇理由も労働者に聞かれなければ開示しなくてもいいとか、一見すると驚くような話が出て来るのですが、じつはよくよく聞いてみると、労働者の解雇から再就職までのプロセスにおいて、労働組合がしっかり監視し、規制し、再就職支援をきちんと実施している事実があるということです。

デンマークの労働組合の組織率はなんと87%です。どんな職場にも必ず労働組合があり、すべての労働者の周りには必ず労働組合員がいるのです。そもそも、労働者の人権を無視した経営側の一方的な解雇というのが原則として起こり得ない職場環境にあるのです。

日本の解雇のひどいのは、グローバル化で逃げ足の速い企業が仕方なく整理解雇する--つまり仕事がなくなって仕方なく整理解雇するということではまったくないということです。いま起きている解雇の多くは、パワハラ解雇など気に入らないからクビを切るというような、とにかくグローバル化なんだから何をしてもいいと言わんばかりの解雇が異常に多いのです。最近、私が実際に取材したケースでは、目が細いからという理由で解雇された正社員の女性が本当にいます。また、ジョークがおもしろくないという理由で解雇された男性正社員も実際にいます。そうした企業がまれにあるブラックな企業というわけでなく、普通の企業の中に続出しているのが日本の現状です。つまり現実の職場ではすでに企業側にとって解雇はほとんど自由になっているわけです。ヨーロッパ諸国には解雇規制法がきちんと存在しますが、そもそも日本には解雇規制法はありません。解雇を規制する法律も存在しない上に、日本の労働者は18%しか労働組合に入っていません。デンマークの87%とは天と地の差があるのです。日本には整理解雇の4要件がありますが、それが機能するのは実際のところ、それを背景に労働者を支援できる労働組合が存在したり、蛮勇をふるって裁判などに立ち上がることができる一部の労働者だけというのが日本のリアルな現実です。

そういう日本社会とデンマークの社会は大きな違いがあるのです。デンマークのようにほぼ全員に近い労働者が労働組合に入っていて、労働組合が本当にこの人たちを解雇していいのかという相談に乗るところから出発して、企業の経営実態なども精査をして、本当にどうしようもなくて解雇しなければいけないとなるデンマークと日本とは大きな違いがあるのです。

実際、今回のリーマンショックで、デンマークの大手企業でも大量の解雇がありました。しかし、そのときでも、一人ひとりの労働者が企業側から解雇通告を受けるときに、労働組合の人間が労働者が解雇通告を受ける部屋の外で待っていて、すぐに個々の労働者への支援をするのです。個々の労働者が解雇通告を受けて精神的なショックを受けていれば、ちゃんとカウンセラーを労働組合の責任で手配したり、公共職業紹介所から、労働組合が次の仕事のリストをもらってきて、個々の労働者にどの仕事をしたいか希望を聞き、そして次に移りたい企業と労働組合が交渉をして、その仕事に移るための職業訓練費を企業からも出させるのです。もちろん労働組合からもお金を出し支援します。

私が取材した大手企業では、解雇された工場労働者が、次の仕事にバスの運転手を希望していました。バスの運転手を希望する労働者が数名いて、それでチームをつくって、解雇される企業の工場の敷地内でバスの運転手の講習をやって、解雇の期限が来るまでには、バスの運転手の訓練ができていて、次のバス会社で仕事ができるようになっているわけです。そこまで労働組合が、解雇された労働者を支援しているわけです。こうしたデンマークの実態を見ると、いま日本で言われている「解雇を自由にして、セーフティーネットを充実すればOK」などという簡単な話ではないことが分かるでしょう。

労働者は、解雇され、仕事を失えば、生きていけません。しかし労働者には生存権があります。生存権から言えば、企業が安易に解雇できるということは原則的にはありえないわけです。

しかしながら、産業の消長があまりに激しい今の時代に入って、どうしても産業が衰退し、仕事が無くなってしまうケースは以前よりは多くなっているとはいえるでしょう。そうしたときに、デンマークは、解雇の規制がゆるくても、労働組合がきちんと規制しながら、労働者の次の新しい仕事への移行まで、労働者をサポートするということを行っているわけです。デンマークでは、そういう形で、産業の構造転換に対応しているわけです。

ですから、デンマークにおける「解雇の自由」「フレキシキュリティ政策」というのは、企業の人件費削減のためにやっているわけではなくて、産業構造の変動による労働者の移動をなるべく被害が少ないように、雇用を柔軟化させていく、食べられなくなった産業から食べていける産業へと労働者を移動していくために、解雇を比較的ゆるやかにして、労働組合と企業と国が協力しあっていくという仕組みです。

いま日本で、「とにかく解雇規制を無くして、失業手当を少し手厚くすればOK」などと主張している人は、デンマークなどの現実がまったく分かっていらっしゃらない方だと私は思います。労働者の生存権を守っていく主体である労働組合が87%の組織率を持つデンマーク社会と、労働組合の組織率が18%しかなく力関係で圧倒的に企業側が優位に立つ日本社会で、これ以上、労働者の解雇規制を自由にすると、労働者の生存権が守られず、自殺者年間3万人どころか餓死者が多発するようなことにもなりかねないと思います。

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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