オランダのフレキシキュリティは「同一労働・同一待遇」と社会保障拡充で雇用不安のない社会めざすもの、竹中平蔵パソナ会長の「オランダ見習うべき」は底辺への競争による雇用破壊にすぎない

  • 2015/8/23
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(※2009年7月に書いた記事です。今でも竹中平蔵パソナ会長は、「オランダを見習うべき」と言って労働者派遣法改悪を強行して「生涯派遣・正社員ゼロ」を狙っていますが、下記記事にあるように、オランダでは派遣社員に対して正社員並みの賃金、「同一労働・同一待遇」が法律で定められ、安定した社会保障、そして職業訓練の提供などが保障されることによって雇用不安のない社会をつくってきたわけで、竹中平蔵氏の言っているのは現在の賃金差別、待遇差別されている派遣労働者のままで、オランダのように多くの派遣労働者を企業が使えるようにしろと言っているだけです。さらに言えば、竹中氏の言う「オランダのように同一労働・同一待遇にせよ」は、社会保障や職業訓練の提供などは一切充実しないでおいて、今の賃金差別されている低賃金の派遣労働者のレベルにまで今の正社員の賃金を下げるとともに、今の派遣期間中でも「派遣切り」される雇用不安の中に置かれている派遣労働者のレベルまで今の正社員もクビ切り自由にせよ、ということにほかならないのです)

NHKBSで2009年7月26日、「未来への提言 元オランダ労組連合議長ロデバイク・デ・ワール~雇用不安のない社会をつくる」が放送されました。番組内容をメモったので紹介します。聞き手は、中央大学の山田昌弘教授です。(文責=井上伸)

2009年4月の失業率、日本5%、ドイツ7.7%、フランス8.9%、アメリカ8.9%、スペイン18.1%、そして、オランダは3%と先進主要国の中で最も低い失業率です。

昨秋以降の経済危機で、オランダにおいても派遣社員が多数解雇されています。大手トラックメーカーのダフ社では、生産ラインの派遣労働者を1,500人解雇しています。しかし意外なことに、派遣労働者の間に大きな混乱は見られませんでした。まして、日本のように派遣労働者が路頭に迷い、首都の真ん中に「年越し派遣村」が出現することもありませんでした。

番組では、仕事帰りのオランダの労働者へ街頭インタビューを実施。こんなやりとりがされていました。

「経済危機の影響をどう思いますか?」

「僕は突然通知が来て、今度の金曜日に解雇されることになったんです」

「これからどうするか心配ですか?」

「それほど心配ではないです。オランダでは他にも仕事につけるチャンスがあるし、大丈夫だと思います」

オランダにおいて、派遣労働者が大きな混乱に陥らない背景には、失業保険など十分なセーフティーネットで守られていることがあります。

かつてオランダには、日本同様の正社員だけに手厚い社会保障制度がありました。その制度が1990年代以降、派遣社員など非正規社員にも広げられていったのです。

オランダにある世界有数の家電メーカー、フィリップス社。ここで働く労働者のうち10%が派遣社員です。派遣社員の賃金は、同じ仕事をする正社員と変わりません。しかも万が一、失業しても給与の70%を最大3年間受け取ることができます。

フィリップス社で働く派遣労働者が、「派遣社員として働いてどう感じますか?」と聞かれ、「とても満足しています。オランダでは派遣社員か正社員かということをまったく意識することはありません。誰もが平等に扱われています。もし失業したら失業保険が受けられます。そしてまた派遣会社に登録して、仕事を探します」と応えています。

また、オランダでは、一人ひとりの労働時間を短くして雇用を守るワークシェアリングが定着しています。90年代以降、パート労働者にも正社員と同等の賃金と社会保障が得られるようになりました。そして、一人ひとりがライフスタイルに合わせた自由な働き方を選択しています(番組の中では、週に3日働き4日休むパートタイムの警察官などが紹介されていました)。この結果、労働者全体の収入が安定し消費がのびたことで国の経済は飛躍的に成長。「オランダの奇跡」と呼ばれました。こうしたオランダが進めた雇用政策はEUでも高く評価され、21世紀の新しい働き方のモデルとして、各国に大きな影響を与えています。

日本では、首都の真ん中に「年越し派遣村」が出現し、加えて全国各地にも「派遣村」が広がっています。一方、オランダでは、労働者が解雇されても安心な社会になっているとのことです。こうしたオランダ社会をつくりあげてきたのが、労働者の代表として政府や企業と粘り強い話し合いを重ね、「フレキシキュリティー」=フレキシビリティー(労働市場の柔軟性)とセキュリティー(雇用と生活の保障)を実現してきた、元オランダ労働組合連合議長ロデバイク・デ・ワール氏です。オランダでワーキングプアを生み出さない社会をつくった立役者に番組はせまります。(以下、中央大学の山田昌弘教授とデ・ワール氏のやりとりの要旨を紹介します。※あいだにナレーションや経営者側のインタビューなども入ります)

山田 いまの経済危機の中で、雇用不安をなくすために必要なことは何だと思いますか?

デ・ワール まず経済が安定しなければなりません。経済成長は必要ですが、アメリカのサブプライムローンのような問題を起こさないように、持続可能な成長と、その成長を国民全体が分かち合うための努力が必要です。すべての労働者が労働によって得た収入を均等に分かち合う。その労働に参加できない人に対しては、社会システムが保障する。社会保険や年金のおかげで人々は安心を手に入れることができますし、職を失ってもつらい思いをすることもありません。政府や職場の仲間、それに国民が支えてくれるのです。

ナレーション 派遣労働者など非正規労働者にも与えられる安定した雇用と社会保障。こうした制度を確立するまでには、オランダの国中を巻き込んだ激しい議論がありました。90年代半ば、派遣社員の低い待遇が社会問題になっていたオランダでは、現在の日本と同様、派遣労働が貧困や格差の温床になっていたのです。労働組合は、自分たちの仕事が派遣社員に奪われるといった危機感から「派遣業を国に規制して欲しい」と要請していました。

デ・ワール とにかく派遣社員の賃金は低すぎました。このままでは正社員の賃金まで下がってしまう恐れがあったのです。

ナレーション 一方、経営者側であるオランダ経団連は、派遣労働の規制は、国際競争力の低下につながると反対しました。オランダにおける派遣労働を守り抜くという立場でした。派遣がなくなってしまえば、雇用調整ができなくなってしまうからです。話し合いは難航しました。解決の糸口が見つからないまま、1年以上も議論は平行線をたどりました。1996年、デ・ワール氏は、経団連の代表を自宅に招き、話し合いを続けます。

デ・ワール 労働組合の側も、経営者側も変わる必要がありました。派遣社員の役割が高まっているなら、派遣社員も労働組合に加わってもらう必要がありますし、派遣社員に福利厚生や社会保障を与えた方が、派遣社員をモノのように放り出すよりは良いと説得しました。

オランダ経団連代表 確かに何の社会保障もなく、解雇がしやすいというのは、よくありませんでした。労働者からの反発を招き、常に問題を抱えることになるからです。社会保障への出費はやむをえないと感じました。

ナレーション デ・ワール氏の提案を経団連が受け入れ、1998年一つの法律ができました。「フレキシビリティー&セキュリティー法」、いわゆる「フレキシキュリティー」と呼ばれるもととなる法律です。

企業には労働者をいつでも解雇できる「雇用の柔軟性」=フレキシビリティーが認められます。そのかわり企業は派遣社員に対して十分な社会保障=セキュリティーを与えなければいけないという法律です。

この法律によって、オランダでは派遣社員に対して正社員並みの賃金、安定した社会保障、そして職業訓練の提供などが保障されることになりました。

山田 「フレキシビリティー&セキュリティー法」によって、労働者はどう変わったのでしょうか?

デ・ワール この法律によって、労働者がより多くの恩恵を受けられるようになったと思います。また人々は、派遣という方法を自ら選択して働けるようになりました。以前は派遣で働くのは、他の選択肢がないからでしたが、いまは派遣をあえて選ぶ人もいます。特に若者は正社員の仕事に就く前に、派遣社員としていろいろな仕事の経験を積みます。つまりセーフティーネットが十分に整っている環境の中で、さまざまな仕事の経験を積むことができるのです。

でも問題がないわけではありません。こうした社会保障システムに従わない派遣会社もあれば、外国人労働者を不法に雇う会社もあります。ですからオランダではすべてがうまくいっているというわけではありません。

ナレーション 2009年4月の失業率、オランダは3%と最も低い失業率です。日本5%、ドイツ7.7%、フランス8.9%、アメリカ8.9%、スペイン18.1%。オランダの失業率が低いのは、「同一労働・同一賃金」が法律に明記され、あらゆる仕事でワークシェアリングが進んでいるからです。

オランダでは、フルタイムでもパートタイムでも同じ仕事には同じ賃金を支払わなければならないと法律に明記されているのです。正規社員も非正規社員も「同一労働・同一待遇」の均等待遇で、パートタイムでも管理職になれます。仕事で「何をしたか」、「何ができるか」がすべてなのです。
パートタイムは急増し、83年の100万人から、09年280万人へ3倍近くに増えました。その一方で失業率は14%から3%へ大幅に低下したのです。

1982年、ワッセナー合意がオランダ型のワークシェアリングに道を開きました。1970年代の石油危機の時代、オランダは黒海の油田で空前の好景気にわきました。巨額な外貨を得ましたが、一方で通貨が高騰するなど、失業率が14%となり、「オランダ病」と呼ばれるほど経済は低迷を続けていました。それが現在、もっとも失業率が低く、ワーキングプアも生み出さない、「オランダの奇跡」と呼ばれるまでになったのです。

デ・ワール 私たちも長い道程をへてやっとここまで辿り着いたのです。1940年代、50年代のオランダ社会では、女性が働くことでさえ例外的でした。それが労働時間の短縮やパートタイムの導入によって、急速に変化していきました。どんな条件で働く労働者にも社会保障をと考え、労働組合が力を合わせ、経営者側もそれを承知した。もちろん同じ考え方を持っているわけではないし、今でも抵抗があります。社会は一夜にして変わることはありません。

山田 最後に、未来を切り開くためのキーワードを教えてください。

デ・ワール 未来を切り開くためのキーワードは「信頼」だと思います。お互いに妥協しながら、お互いに利益を得るという考え方に通じています。お互いに利益を得るためには、相手を信頼して、少しずつ妥協することが重要です。そうすれば理想を手に入れることができます。互いに信頼していなければ妥協には至りません。妥協に至らなければ国は滅びます。家族も滅びます。夫婦が互いに信頼しないと失敗します。親子が信頼しないと失敗します。労使が信頼しないと失敗します。そして信頼を築けばうまくいくのです。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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