人災の就職氷河期、「自身の収入のみ」で暮らす20~34歳は44%、40代へ広がる孤立無業者162万人

  • 2015/8/18
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2013年2月にインタビューしたものなのでデータ類は古くなっていますが、非常に示唆に富む内容ですので紹介します。

「日本型ワークシェアリング」で若者の雇用は改善できる
労働運動総合研究所・藤田宏事務局次長インタビュー
『国公労調査時報』2013年4月号所収)

就職難が続き「就活自殺」や「就活うつ」などという言葉もマスコミで報道されています。若者の雇用問題をどうすれば改善できるのでしょうか? イギリスやフランスの雇用・労働実態などの現地調査も行っている労働運動総合研究所(労働総研)事務局次長の藤田宏さんにお話をうかがいました。

雇用破壊と賃金破壊が同時に襲った19年間

――若者の雇用・労働の実態はどうなっているのでしょうか?

バブル景気が崩壊した直後の1993年からこの19年間は、労働者に「雇用破壊」と「賃金破壊」が同時に襲いかかった時期でした。

まず、「雇用破壊」についてです。完全失業者は、1993年は166万人でしたが、2010年には334万人とほぼ倍加、2011年は若干減少しましたが、それでも93年と比べて118万人増の284万人という高い水準です。非正規労働者は、986万人から1,756万人へと770万人も増加しています。その一方で、正規労働者は3,756万人から3,355万人へと401万人も減少しました。驚くべき勢いで「雇用破壊」が進んだ19年間ということができます。

そのなかでも、若者の非正規雇用の割合が急上昇しているのが大きな特徴です。厚生労働省の「労働力調査」によると、若年労働者の中に占める非正規雇用比率は、雇用者全体の非正規雇用比率を大幅に上回る勢いで増加しています。雇用者全体の非正規雇用比率は1990年の20.2%から2010年の34.4%へと1.70倍になっています。若年労働者の非正規雇用比率は、15~24歳層では20.6%から46.3%と2.25倍になり、25~34歳層も11.7%から25.9%と2.21倍の伸びとなっているのです。

そして、直近の厚生労働省「就業形態の多様化に関する実態調査」(2010年)によると、学生アルバイトを含む民間企業の20~24歳の若者の非正規雇用比率は、男性が46.7%、女性が44.2%となっています。以前は、女性の方が非正規雇用比率は高かったのですが、いまでは若者の間では男女の別なく非正規雇用が広がっているということです。

「就職氷河期」と若者の雇用

――どうして若者の間でこれほど「雇用破壊」が急速に進んだのでしょうか?

若者の間で「雇用破壊」が急速に進んだ直接・最大の要因は、「就職氷河期」といわれる状況が続いてきたことです。

「就職氷河期」は、1993年~2005年まで10年以上続き、2005年~2008年の好況期には、若者の就職難は多少改善されましたが、08年秋のリーマン・ショックによる経済危機が深刻化するなかで、いままた「新・就職氷河期」が続いています。

「就職氷河期」の到来は、雇用の入り口から「雇用破壊」が始まったことを意味します。その点について、厚生労働省の「大学等卒業者の就職況調査」で具体的に見ていくことにしましょう。この調査は、大学生の就職内定率が実態よりかなり高めに出てくるといわれているのですが、その理由は、就職を希望しながら、正規雇用の職を見つけることができなかった場合、“就職浪人”するより新卒での就職のほうが有利だと留年したり、大学卒業後に専門学校に“進学”するなど、「新卒」の「資格」で就活に備える学生が増加しており、これらの学生は就職未定者には含まれないからです。

こうした不十分な調査によっても、大学生の就職内定率は、2006~08年の景気回復を除いて90%台前半で低迷し、2010年3月は91.8%、そして2011年3月には91.0%と最悪水準を記録しています。ほぼ10人に1人は“就職浪人”ということになってしまったのです。その結果、卒業期の3月を過ぎても就職先が決まらない学生は2010年には6万6,000人、2011年は7万2,000人にも上っています。

学生の就職難が社会問題化するなかで、事態を重視した文科省は、2012年4月に大学を卒業した若者55万9,030人の進路についてさらに詳しい調査を行いました(文科省「学校基本調査」)。それによると、正規の職につけたのは60.0%(35万7,208人)でしかありません。今回の調査で初めて調べた「安定職なし」のうち、職につけても派遣など「正規職員でない者」は2万2,000人(3.9%)にのぼり、「一時的な仕事に就いたもの」1万9,596人(3.5%)、「就職も進学もしていない者」8万6,638人(15.5%)となっています。つまり、大学院や専修学校など進学者を除いた大卒の若者のうち36%が安定した雇用につけないという厳しい就職状況が明らかにされたのです。

これは本当に深刻な事態だと思います。というのは、大学を卒業して安定した雇用につけずに非正規雇用労働者として働き出した若者は、正規労働者として働く希望を持っていても、正規労働者として働くことが困難な状況に直面することになるからです。正規労働者の新規採用そのものが狭まっていることに加えて、企業の正規労働者の採用は新卒採用が一般的になっていることもあり正規労働者として働くことが一層むずかしくなっているのです。

厚生労働省の「2009年若年者雇用実態調査」によると、最終学校から1年の間に、「正社員以外の労働者として就職」した若年労働者は22.9%、「無業だった」若年労働者は5.2%となっています。3割近くが正規雇用の職につけなかったことになります。その後、これらの若年労働者のうち、正規労働者として採用されたのはわずか35.3%で3人に1人にしか過ぎません。それ以外の圧倒的多数は、正規労働者になれず、非正規労働者として働き続けざるを得ない状況になっているのです。たとえ運良く正規の職につけても、きびしい労働環境のもとで、正規の仕事を辞めざるをえなくなり、非正規の職に就く若者も増えています。若者の非正規雇用比率が上昇するのは当たり前で、若者の間に構造的な不安定就労層がつくられるようになったのです。それが、今の若者雇用の最大の特徴になっていると思います。まさしく「雇用破壊」が若者を直撃しているのです。

「就職氷河期」は“天災”なのか“人災”なのか

若者の雇用悪化の直接・最大の要因は「就職氷河期」にあることを見てきましたが、問題は、「就職氷河期」が“天災”なのか、“人災”なのかということです。

結論から先に言うと、「就職氷河期」は明確な“人災”です。私は、「就職氷河期」の背景には、1993年のバブル崩壊直後から、財界・大企業がとってきた「新型経営」戦略があると考えています。「新型経営」とは、グローバル経済のもとで日本企業が生き残るためには「国際競争力」を強化し、海外市場に販路を広げることが必要だとして、徹底した総額人件費削減をはかることによって「売り上げが伸びなくても利益が上がる効率経営」のことです。

この「新型経営」戦略にもとづき財界・大企業は、売り上げが伸びなくても利益を上げる体制をつくりあげてきました。このことは、大企業(資本金10億円以上)の売上高と経常利益の推移をみると、一目瞭然です。売上高は、1993年度から2010年度までほぼ横ばいで、501.0兆円から542.5兆円へと1.08倍になったにすぎません。しかし、経常利益は10.3兆円から25.9兆円へと15.6兆円も増やしています。実に、2.52倍にもなっているのです。文字通り、売り上げがそんなに伸びなくても利益だけは上がるようになったのです。
この「新型経営」は2つの段階をへて具体化されてきました。

「就職氷河期」の始まりと重なる「新型経営」の具体化

第1の段階は、1993年から1997年にかけての時期です。「就職氷河期」の始まりとピッタリ重なる時期です。個々の企業レベルで、日本的労使慣行といわれてきた終身雇用制と年功賃金制の縮小・解体の攻撃が強められました。正規労働者のリストラを徹底すると同時に、正規雇用の採用を極力抑え、可能な限りで正規労働者にかわって非正規労働者を活用する方向が追求されました。要するに、労働者の人件費コストを削減すれば、「売り上げが伸びなくても利益が上がる効率経営」が実現できるというわけです。

このねらいを全面的に実行に移すのは、企業レベルでのとりくみには限界がありました。なにより、労働基準法では、「期間の定めのない雇用」が原則とされ、有期契約には規制がかけられ、労働者派遣法も一定の対象以外は原則禁止とされていました。有期雇用や非正規雇用を大々的に活用したくても、法律の規制が厳しかったため、思い通りには非正規雇用を活用することができなかったのです。

労働法制改悪と「新型経営」の全面的展開

第2の段階は、新自由主義的「構造改革」路線にもとづく労働法制の規制緩和が強行された1998年から現在に至る時期です。

1998年の労働基準法改悪によって、有期雇用の上限規制の緩和が導入され、企業は非正規の契約社員を大量に活用できるようになりました。また、1999年には労働者派遣法が改悪され、派遣労働の対象業務が拡大し、2003年には、製造業への労働者派遣も解禁されました。企業が、正規労働者の枠を狭め、非正規労働者が正規雇用で働くすべを奪うことによって、労働市場での労働者間競争を激化させ、低賃金で使い捨てできる無権利な非正規労働者を大量に活用できるようなシステムを社会的に作りだしたのです。

1998年以降、「雇用破壊」は急加速することになります。この時期、正規労働者は減少の一途をたどり、97年の3,812万人から2010年には3,355万人へと、457万人も減少しました。その一方で、非正規労働者は、1,152万人から1,756万人へと604万人も増加しています。

財界・大企業は、安上がりで、いつでも解雇することのできる無権利の非正規労働者を大量に採用し活用できる社会的条件を当時の自公政権と協力して作りだすことによって、非正規労働者を大々的に活用して、「売り上げが伸びなくても利益だけは上がる新型経営」を実現したのです。

そのことは、▼図表1(「新型経営」と労働者)を見ると、よくわかります。経常利益は、1999年度以降急速に伸びています。15.34兆円から23.98兆円へと1.56倍になっています。給与総額は同時期に、207.5兆円から186.7兆円へと20.8兆円も減り、10.1%減になっています。非正規労働者の賃金は、正規労働者の5割から3分の2くらいといわれますから、非正規労働者が増えれば増えるほど、人件費コストが安くなります。その非正規労働者は、1,225万人から1,733万人へと508万人も増加しているのです。非正規労働者を大量に活用して、労働者の賃金水準を大幅に引き下げ、売り上げが伸びなくても利益だけは上がる「新型経営」の秘密が、この図表に典型的に示されています。

「賃金破壊」の進行で増大するワーキングプア

「雇用破壊」をテコにして「賃金破壊」も急速に進行します。非正規雇用が増大すれば、労働市場は買い手市場になります。「給料が多少安くても正規雇用であれば、非正規雇用よりもいい」という求職者が増え、「非正規雇用の労働者があんなにまじめに働いているのに給料は正規の労働者より安い。正規労働者もグローバル経済のもとで、国際競争力が厳しいのだから賃上げは我慢すべき」という財界・大企業の主張がまかり通るようになり、「給料が安くて不満なら会社を辞めてもらって結構。正規の変わりはいくらでもいる」という経営者が増えるようになっています。

ですから、民間企業に働く労働者の賃金は、どんどん減ることになります。そのことは先の図表1で確認することができます。それは、正規労働者も例外ではありません。「雇用破壊」が進行するもとで、正規労働者の賃金もどんどん減っています。実際、5人以上の規模の企業に働く一般労働者の現金給与総額(月)は、1999年の41万6,867円から2011年には40万3,563円へと、1万3,304円も減っているのです。年間16万円近くの減収です。

労働者全体の賃金が減少するなかで、年収200万円以下のワーキングプア(働く貧困層)が急増するようになっています(▼図表2「増大するワーキングプア」参照)。1999年のワーキングプアは803.7万人でしたが、2011年には1,069.2万人へと265.5万人も増加しています。民間企業で1年を通して働いた労働者の中に占めるワーキングプアの比率は、1999年の17.9%から2011年には23.4%へと5.5ポイントも上昇しています。

「自身の収入のみ」で生活できない若者

ワーキングプアが増大するなかで、若者の生活の窮乏化が進行しています。厚生労働省の「若年者雇用実態調査」(20~34歳が対象)は、若年労働者の雇用状況などについて把握することを目的にした調査ですが、直近の2009年調査によると、「自身の収入のみ」で生活している若年労働者は半数以下の44.0%に過ぎません。「自身の収入+他の収入」で生活している若年労働者は46.8%、「他の収入のみ」が8.6%となっています(▼図表3「親の収入に依拠する若年労働者が3割以上」参照)。

正社員でも「自身の収入のみ」で生活しているのは半数ちょっとの51.6%で、正社員・男性では61.7%、同女性では37.0%にとどまっています。正社員以外、つまり非正規労働者では、「自身の収入のみ」で生活している若年労働者は30.3%でしかありません。非正規・若年労働者の7割は、「他の収入」に依拠しなければならない状況になっているのです。

年齢別にみると、「自身の収入のみ」では、当然のことながら、年齢階級が上がるほど割合が高くなっています。しかし、その比率をみると、20~24歳では35.7%、25~29歳で48.4%、30~34歳でも49.7%と、確かに割合は高くなっていますが、それでも半数以下でしかないのです。「自身の収入のみ」で生活している若年労働者のなかでは、正規労働者の30~34歳が最も高くなっていますが、その割合は56.9%にすぎません。

正社員以外は当然のことながら一層深刻です。「自身の収入のみ」で生活しているのは、20~24歳25.1%、25~29歳で39.9%、30~34歳では33.1%です。

「自身の収入+他の収入」で生活しているといっても、結婚して「配偶者の収入」で生活していれば、自活して生活しているということができます。しかし、そうではなく「親の収入」に依拠して生活していれば、自活した生活を送っているといえません。そうした「親の収入」を頼りにして生活している若年労働者はどのくらいの割合になるのかというと、「自身の収入+親の収入」で生活している若年労働者は全体で30.6%、うち正社員28.3%、正社員以外34.8%です。このほか「他の収入のみ」で生活している若年労働者は8.6%となっていますが、このなかにも「親の収入」に頼っている若年労働者が含まれることが推測されます。その正確なデータは示されていませんが、正社員以外では4割前後が「親の収入」に頼って生活せざるをえない状況になっていると見ることができます。

40歳代にも広がる深刻な「孤立無業者162万人」

重大なのは、自活できない若年労働者が30歳代から40歳代に広がり始めていることです。つい最近、マスコミの見出しをにぎわしたのは「孤立無業者」が162万人にも増加したということでした。孤立無業者とは、「20~50歳代の未婚男女で仕事も通学もせず、無作為に選んだ連続2日間ずっと1人か、一緒にいたのが家族だけだった人」と定義づけられていますが、「景気低迷に伴う就職難やリストラなどが響き、06年(112万人)と比べて4割強増えた」というのです。調査した玄田有史東大教授は、「孤立に陥ると職探しへの意欲が失われがちだ。いまは家族が支えても将来、経済的に厳しい状況に陥る」と話しています。

若年労働者の親世代の圧倒的多数は、“団塊の世代”以後の世代であり、退職期を迎えたり、退職を間近に控えた世代です。退職すると、現役時代と違って収入は大きく減ることになります。いつまでも「親の収入」を頼りにすることができない状況に置かれるのは目に見えています。現状のままでは、生活の未来は見えてこないという窮迫した状況に、多くの若者が追いやられており、この現状を打開するために、若年労働者に正規の仕事を保障することが緊急の課題になっていると思います。

雇用悪化による「就活自殺」の急増

――若者の自殺が増えるとともに「就活自殺」という痛ましい事態も広がっています。

多くの若者が未来の見えない窮迫した状況に追い込まれるなかで、若者の自殺が増加しているのです。本当に痛ましいことです。警察庁の「自殺対策白書」によると、自殺者数は全体として減少傾向にむかいつつあるとしています。といっても、1988年に自殺者数が急増して以来、2011年までは14年連続で年間自殺者数が3万人を超えていることには変わりはありません。2011年の自殺者数は、総数3万651人、男性2万955人、女性9,696人となっており、前年に比べ1,039人(3.3%)減少しているにすぎません。それでも、3万1,000人を下回るのは、88年の急増以降初めてのことだといいます。

重大なことは、そのなかで、20歳代の自殺死亡率の上昇がみられることです。「自殺対策白書」は、若者の自殺死亡率上昇について、「派遣社員、パート、アルバイト等の非正規雇用の割合の増加など、若者層の雇用情勢が悪化していることも影響している可能性があると思われる」と指摘しています。まっとうな分析だと思います。「白書」は続いて、「特に20歳代以下の若者の『就職失敗』による自殺者数が平成21年を境に急増していることにも注意を払う必要がある」と強調しています。「原因・動機別」を見ると、▼図表4にあるように、就活自殺(原因・動機別の学生・生徒等の「就職失敗」)は52人と2007年比で3倍以上の増加が続いています。

私の息子も大学を出て就職できずにいた時がありました。何十社と履歴書を送り、就職活動を続けていましたが、ほとんどが“なしのつぶて”です。返事すらきません。たまに、連絡があって面接通知が来ると、勇んで面接に行くのですが、結果は不採用。そんなことが続くと、家の中でも目立って口数が少なくなり、表情も暗くなります。自分の部屋に閉じこもりがちになり、「不採用通知」の一つひとつが、「お前は社会にとって必要のない人間なんだ」と通告されているような気持になるようでした。その姿を見ていて、親としてとてもつらい気持ちになりました。

いま、少なくない学生が、そうした心理状況に追い込まれているのではないでしょうか。「就職失敗」で自殺した学生は“氷山の一角”で、「うつ病」や「進路の悩み」、就職戦線にも加わることができずに「学業不振」等で自殺した学生も増加傾向にあります。これも「就活」の問題とまったく無縁とは考えられません。大学生協共済連の給付データによれば、「大学生の死亡原因トップは『自殺』」という状況になっているのです。(森岡浩二「『辞めたくても辞められない』雇用悪化、過労死が急増」『経済』2013年3月号)

ブラック企業による若者の使い捨ての横行

就職の入り口で、正規の職をなかなか見つけることができない、いくら「就活」をしても就職先が決まらないということに若者のつらさはとどまりません。運よく正規の職につけたとしても、過酷な労働環境が待ち受けています。正規労働者も、非正規労働者が増加する中で、労働市場が買い手市場になり、長時間労働への不満を抱いたり、容赦のないノルマ達成目標に届かなければ、「正規労働者の変わりはいくらでもいる。文句のある労働者は、うちの会社には必要ない」と言わんばかりのパワーハラスメントにさらされたり、「自発的退職」を強要され、失業者に追いやられかねない状況に置かれています。最近、マスコミでも取り上げられ、社会問題化しているブラック企業はその典型的な事例です。

労働総研は、こうした事態を重視して「労働総研ブックレット」で、この問題を取り上げました。『ブラック企業と就活・働く権利』(生熊茂実・鹿田勝一著、本の泉社)がそれです。取材した筆者に聞いてみると、若者の職場環境は本当にすさまじいものでした。たとえば、日本IBMです。かつては、就職人気ランキングでトップになったこともある企業です。それがブラック企業化している。「成績不良」を理由に「君は解雇だ。ただちに私物をまとめて社内から出ていけ」といって解雇するのです。よくアメリカ映画のシーンで、そうして解雇を通知され、段ボール箱に私物を入れてオフィスから出ていく場面がありましたが、あれとまったく同じです。ロックアウト解雇といわれていますが、こんな乱暴なことが大企業で行われているのです。

気象予報会社大手のウェザーニュースでの過労死事件(2008年10月)もひどいものです。就活を勝ち抜いて採用された新入社員は「勝者」と呼ばれるのですが、採用後は、入社6カ月の試用期間中に「予選」と呼ばれる「相互評価期間」があり、その研修選抜競争に勝ち抜いて初めて正社員になれるというシステムが導入されているのです。「天気は眠らない。私たちも眠らない」がスローガンとされ、「予選」に勝ち抜くために、入社後の半年間、月の残業がときに200時間を超えるような過酷な労働をしながら、目標が達成できずに「なんで真剣に生きられないのか」と罵倒され、それでも歯を食いしばってがんばったのに、「『予選』通過は難しいかもしれない」と通告され、ついに自ら生命を断つことになったのです。

こんな例もあります。日本海庄やの従業員Aさん(24歳)が急性心臓死したケースです。これもひどい。求人広告には、「正社員、新卒初任給19万4,500円」とかかれていました。正社員で給料もそんなに悪くはありません。あちこちに店舗がある有名企業です。Aさんが就職してみると、給料の内訳は、基本給が最低賃金を基に計算され、12万3,200円、役割給が7万1,300円となっています。ところが、月80時間の時間外労働をしないと不足分が時間給単価で控除されるという仕組みになっているのです。月80時間の残業をしないと最低賃金になる賃金表です。Aさんの時間外労働時間は、死亡前1カ月103時間、2カ月目116時間、3カ月141時間。過酷な長時間労働にさらされたAさんは急性心臓死に見舞われ、命を奪われました。

若者が企業の使い捨てにあい、時には命まで奪われる過酷な労働環境に置かれています。とても腹が立つのは、そうした企業の多くが「正社員」を表看板にして若者を雇用していることです。「正社員」なら、若者が「安定した生活が可能になる」と考えて、飛びつくだろうという計算にもとづいて表看板にしているのです。そうして、若者を使い捨てにしても「正社員」ならいつでも代わりがいるから、労働条件は劣悪でもかまわないという、いやしい経営者の“儲け根性”が丸出しになっていることです。非正規労働者が3分の1をこえ、4割近くになるということは、儲けのためには働くルールはもちろん、労働者の命さえも無視してかまわないという利潤第一の資本主義の“本性”があらわになる時代になったということでもあると思います。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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