貧困率改善?→物価上昇分を考慮すると2012年と比べて2016年の所得分布が改善したわけではない

  • 2017/9/16
  • 貧困率改善?→物価上昇分を考慮すると2012年と比べて2016年の所得分布が改善したわけではない はコメントを受け付けていません

福祉国家構想研究会が8月19日、北海学園大学で講演会を開催しました。後藤道夫都留文科大学名誉教授による「貧困克服・社会再生のための選択肢――連合政権から福祉国家へ」と題した講演から、私自身ずっと気になっていた政府の貧困率の問題について指摘している部分を紹介します。(文責=井上伸)

政府が今年の6月27日、貧困率を発表しました。

全人口の貧困率は、2012年の16.1%から2015年の15.6%。子どもの貧困率は16.3%から13.9%へ減少したとしました。

この発表に対する多くの論評は、依然として貧困は深刻な状況ではあるが改善の方向であることは喜ばしい、というものでした。

しかし、よく見てみると、可処分所得の分布の実質値で見た場合、状況は悪化しています。貧困の改善どころの話ではありません。

実質値(1985年の物価水準を基準とする)の貧困線が2012年の111万円から2015年の106万円に下がっています。可処分所得の全体が下がっているわけです。そして、全体が下がると貧困線も自動的に下がるわけです。

2012年の貧困線111万円で2015年の数字を出してみると、全人口の貧困率は17.0%となり、むしろ上がっていることになります。子どもの貧困率は15.0%で少し改善していますが、子どもの貧困率が改善したのは、低所得の世帯の有業人口が増えたからです。

ですので、貧困率が下がって良かったね、という話ではまったくありません。

政府が発表する相対的貧困率は国際比較するときに役立ったりするわけですが、実質的には「相対的低所得率」の測定ではあっても、本当に生活ができるかどうかの実質的な貧困率とは言えません。

そこで、さまざまな問題がありつつも生活保護の基準となる最低生活費未満を実質的な貧困として、グラフにしたものが以下です。

 

 

グラフにあるように、2012年の基準を固定し、物価上昇分を考慮すると、その基準に達しない人口は3,079万人(24.3%)となり、2012年と比べて所得分布が改善したわけではないことがわかります。18年前の1998年が12.9%ですから、2016年は2倍近くも増加しているのです。これが、日本社会の貧困の実態に近いものだと考えています。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

ピックアップ記事

  1. 2021年の仕事納めってことで2021年に私がツイートしたものでインプレッション(ツイートがTwit…
  2. 国公労連は、#春闘2021 のハッシュタグを付けるなどしてツイッターでキャンペーンを展開中です。3月…
  3. 2020年で自分のツイッターアカウントにおいて、インプレッション(ユーザーがツイッターでこのツイート…
  4. 5月1日のメーデーで、国公労連と各単組本部は霞が関においてソーシャルディスタンスを確保しながらスタン…
  5. 京都総評
    2019年の自分のツイートのインプレッション(読まれた回数)を見てみました。15万以上読まれたのは以…

NEW

ページ上部へ戻る