最低賃金1500円のリアリティ――労働組合は経済イシューで大規模キャンペーンの展開を|後藤道夫都留文化大学名誉教授

  • 2016/6/28
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後藤道夫都留文科大学名誉教授にインタビューしました。テーマは、「若年層の貧困と最低賃金1500円のリアリティ――労働組合は経済イシューで社会運動を」で、月刊誌『KOKKO』7月号に全文を掲載します。ごく一部になりますが、「国公労新聞」6月25日付に掲載しましたので紹介します。(※以下はごく一部なので、ぜひ月刊誌『KOKKO』7月号を購読ください)

最低賃金1500円のリアリティ
――労働組合は経済イシューで参院選大規模キャンペーンの展開を
後藤道夫都留文化大学名誉教授インタビュー

AEQUITAs(エキタス)など若い世代による最低賃金1500円をめざす運動が広がっています。7月10日に投開票される参議院選挙にあたって、若年層が置かれている状況と、経済イシューでの対抗運動の重要性について後藤道夫都留文科大学名誉教授にインタビューしました。その一部分を紹介します。インタビューの詳細については、『KOKKO』7月号に掲載しますので、ぜひご購読ください。(聞き手=国公労連調査政策部・井上伸、インタビュー収録=5月13日、タイトルと中見出しの文責=編集部)

最低賃金プラスαの労働者が広がっている

――最低賃金1000円では生活保護基準以下になりますね。

労働組合は力関係のリアリティという点でやむを得ず最低賃金1000円を要求してきたという解釈もできるのですが、たぶんそれだけではありません。日本の場合、最低賃金の特殊な位置があったからだろうと思います。

日本の場合、男性の正規雇用賃金が男性世帯主賃金という世帯の生活できる賃金というふうに年功型賃金が性格づけられて、それと対比されて家計補助労働者の賃金という構造にある種、制度化されてしまった。他の国々は同一労働同一賃金原則、均等待遇の原則がどんどん整備され、そして最低賃金額が上がり、当初の女性と年少労働者を特にという位置づけが実際問題として相当下がってきました。現在は欧米だとすべての不熟練労働者の最低賃金という位置に落ち着いてきていると思います。日本の場合には、すべての不熟練労働者の最低賃金とは落ち着かないで、年功賃金の体系とは全く別の家計補助労働者の最低額に位置が落ち着いて固定化してしまった状態が何十年も続いたということです。

▼図は5人以上の事業所で、男女労働者計で短時間労働者も全部含んでいますが、最低賃金の加重平均プラスαよりも下にいる人たちが何%いるかという数字です。たとえば1割増しのところを見ると、2001年では最低賃金の1割増し以下にいる男女労働者は4・2%だったのが2015年には10・1%になっているのです。2割増しで8・1%が17・4%に、3割増しで12・4%が24%になっています。

こうした状況が広がっていますから、自分がこれから先、年功賃金を見込めるかというと、たぶん見込めないと判断する人が増えている。そして、1500円という数字の根拠ですが、1500円を155時間(フルタイム労働者の1カ月の所定内労働時間の平均)で計算すると279万円になりますから、全労連が実施している最低生計費試算調査で出している数字と同じぐらいになります。

最低賃金1500円と経済イシューでの社会運動の重要性

――最賃1500円の運動をどう見ていますか?

最低賃金1000円から1500円への「要求のリアリティ」が生まれた背景に日本型雇用の大きな衰退があり、家計補助労働と世帯主賃金という区分が役に立たなくなってきたことの反映だということと、もう1つ大事な点は、これが市民運動として現れたということの意味だと思っています。やはり労働組合が最低賃金を扱う扱い方が狭過ぎたのではないか。いままでの労働組合の最低賃金の扱い方は、地域の最低賃金審議会や国の中央最低賃金審議会にどういう運動を行い、どのぐらい審議委員をきちんと送り込んでいくかという話です。

これはずいぶんご苦労されてやってこられたと思いますが、「要求のリアリティ」が1500円だと感じている大半の人には実は届いていないので、世の中を動かす大きな力になりにくいと思うのです。いま多くの人たちに届く社会問題のキャンペーン、経済イシューのキャンペーンを大きく展開する必要があります。

このキャンペーンの重要性という話を、労働組合の側はいまひとつわかっていないところがあるのではないかと考えています。キャンペーンをやったからといって、少々上げる力にはなるでしょうけれど、すぐにそれが実現の力になるわけではないし、労働組合の実力は具体的に組織するしかないわけですから、その力にすぐになるわけでもない。

しかし、大きなキャンペーンをやって若い人たちが陥っている社会的な危機状態に、労働組合はよくそのことを理解してそのためにたたかっているのだという姿勢を、一番大事なこととして見せてほしい。その辺のキャンペーンの現在の社会での重要性みたいなものが、いまひとつピンときていないのではないか。だから市民運動という形式で出てきたのだろうなというのが1つです。

もう1つは、実は市民運動の形式がこの数年間でずいぶん発達したということだと思います。AEQUITASの運動の仕方というのは、原発反対の市民運動と戦争法反対の市民運動の影響といいますか、高みをちゃんと受け取って、それでやっているわけです。その意味でここ数年発達してきたというか、日本の中に定着してきた市民運動の形式をちゃんと受け継いでやったので、とても多くの若者にとって魅力のあるデモになっているということがもう1つあると思います。

労働組合は大規模キャンペーンの展開を

そのときに旗問題というのがあったわけです。原発のときからずっとありますが、これは日本の労働組合の運動がどのぐらい普通の若い人たちから見て距離が遠いのかということに、労働組合の側はもう少し思いをいたしてほしいと思います。労働組合が旗を持って大量に参加するということでないと、最後の段階では何十万という人たちは集まってこない。これは市民運動の人たちもよく知っていると思います。最終的にはそういうふうに人々が集まって一緒に大規模なデモンストレーションをやりたいと、市民運動の側はみんなそう思っていると思うのです。

しかし、スタートするときにはいきなり旗が林立すると市民運動のイシューが十分に世間に伝わらない。最初しばらく独自性をしっかりとつくるまでは労働組合の旗を林立させないでくれと実際にやっているわけです。これはある意味では市民運動の方がはるかに政治的にたけているということを意味しています。労働組合が、労働組合の利益を得てない人たちからどう見えているかという問題について、もっとよく考える必要があります。

たとえば、日本の非正規と正規雇用の身分の差は法制度的にもかなりがんじがらめにされてきたところもあって、実際に整理解雇の4要件でも、あらかじめ十分な努力を行ったかという要件で、非正規をまずクビを切ったかという話が当然のように入っているわけですね。非正規をまず先にクビを切れという話で合意してきた労働組合を、非正規の人たちがまず自分の味方だと思うのかといえば、それは思うわけがないでしょう。だから、この旗を持っている人たちは自分たちとは異質な人たちだとかなり多くの人が感ずるのは当たり前の話であって、そうではないということは、逆に労働組合の側が運動で見せて説得してくれなくてはいけないことで、そう感じることがおかしいという方がおかしいと思います。

そうした点をクリアーしながら、労働組合は今回の参議院選挙において、経済イシューについての大規模なキャンペーンを展開して欲しいと思います。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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