同一労働同一賃金なき世界最悪の日本の派遣労働、「同一労働差別賃金」「団結破壊法」の派遣法をなくさなければ労働者の権利・雇用は守れない|脇田滋龍谷大学教授

  • 2016/8/16
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2008年6月29日に書いたものですが、安倍政権までが「同一労働同一賃金の実現」を言い出しているので、脇田滋さんなど労働法の研究者の言説をあらためて学び直すことが大事だと思いますので紹介します。

昨日(2008年6月28日)、全労働省労働組合結成50周年フォーラム「人間の尊厳をとりもどせ~今こそ『働くルール』の確立を」に参加しました。

企画のメインとして、「労働者使い捨て社会に立ち向かう」をテーマに、首都圏青年ユニオン書記長の河添誠さん、朝日新聞労働グループデスクの林美子さん、龍谷大学法学部教授の脇田滋さんによるシンポジウムが行われました。ここでは、脇田さんのお話の要旨を紹介します。(※文責=井上伸)

「パンドラの箱」を開けた派遣法
派遣労働で労働者の権利と労働組合そのものが壊れていく

1985年に重大な転機となる派遣法ができました。派遣法ができれば、労働者がこれまで勝ち取ってきた労働法制や雇用保障、あるいは労働組合そのものが壊れると私は当時指摘していましたが、いま現在の状況からも、派遣法はまさに「パンドラの箱」を開けたと言えるでしょう。

労働者派遣法では、使用者側は一切痛みのない労働者解雇が可能になります。普通なら自分の会社の社員の首切りは痛みをある程度感じるものですが、派遣元に首を切らせればいいのですから、簡単に痛みのない解雇ができます。派遣はまさに労働基準法が形骸化する仕組みとして機能しているのです。

日本政府は派遣を広げたいから、派遣に関する問題点が表に出る統計等も極力出さないわけで、私は独自にホームページを開設し、数千件のメール相談を行ってきました。正社員1人の賃金で派遣労働者が3~4人雇えるという“派遣の売り”にみられるように、「派遣会社の利益は労働者の涙」というのが実際のところです。

2006年に韓国では派遣法が改正され、正社員との差別是正を派遣労働者が労働委員会に訴えることが可能になりました。使用者の方にそれは差別ではないという立証責任があり、立証できなければ救済命令が出されます。

派遣は正社員雇用を壊す財界・大企業の特効薬

日本の場合は、派遣法に「均等待遇」という言葉もないし、「差別是正」という言葉もありません。こうした日本の派遣法は世界に例がない最悪のものです。いつでも労働者の首を切れて、労働組合への組織も困難で、賃金は3分の1、4分の1、「同一労働差別賃金」「同一労働差別待遇」の無権利の雇用形態、これを国が作ってきた。政府が作って拡大してきたのです。こんな国はどこにもありません。日本の派遣は、正社員雇用を壊す財界・大企業の特効薬として使われているのです。

労働者の団結破壊法として職場で機能する派遣法

派遣労働者は一時的な雇用となるため、ヨーロッパでは、正社員と同等以上の待遇を派遣労働者に保障しています。そして、産業別労働組合のたたかいにより、企業間の格差は基本的にヨーロッパにはありません。日本は企業別組合で、大企業は賃金が高く、中小企業は賃金が低い。同一労働同一賃金ではなく企業ごとに賃金が違い、企業内でも年功や性別で賃金が違うという日本の常識は世界の非常識です。こういう国で派遣が入ったらどうなるでしょうか。ヨコで同じ仕事をしていても、正社員と派遣社員は違って当然とみなされ、企業別正社員の労働組合も派遣労働者を仲間と扱わず、派遣法は労働組合つぶし、労働者の団結破壊法として現実の職場で機能することになるのです。

そうすると、堕落した企業別の正社員労働組合は、一番恵まれた大企業正社員や正規公務員の組合員だけを守る利己的団体となってしまい、労働組合の役割は果たせません。

同一労働同一賃金が確立していない企業別労働組合の国に派遣法を入れたのは、日本と韓国だけです。ヨーロッパでは企業を超えた同一労働同一賃金、同一労働同一待遇、正社員の雇用を壊さないという大前提のもとに、一時的な仕事に対して派遣労働はあります。

日本ではこの10年間で派遣労働者が4倍近く増えています。同一労働差別待遇の派遣労働をなくさない限り、労働者の権利・雇用は守れません。派遣法自体の廃止が必要です。現在の韓国の労働組合の要求は「派遣廃止」なのです。

日本のような企業別正社員労働組合のままでは労働組合自体が消えていく、韓国では企業別労働組合を解散し産業別労働組合めざす

1998年に派遣法ができた韓国では、いま非正規労働者が55%。日本と同じ企業別正社員労働組合でしたが、このままでは、日本のように労働組合自体が消えていくという認識のもと、労働組合の再生のために、ヨーロッパ的な産業別労働組合をめざしています。韓国の全国労組(民主労総など)は、企業別労働組合を自ら解散し、今年1月現在で90%が産業別労働組合化し、いま産別団体交渉を強力に推進しています。

日本において即ヨーロッパ的な産業別労働組合をめざすのは難しいかもしれませんが、韓国の場合は日本と同じ企業別労働組合でした。これを脱皮して産業別労働組合をめざしているのです。この韓国の例は、日本の労働組合にとってもモデルになるのではないでしょうか。

新しい連帯・運動で、労働組合のピンチをチャンスに変えよう

ピンチはチャンスだ。企業側が企業別正社員労働組合の基盤をも崩して、派遣・非正規・貧困で苦しむ労働者を増大させている。

例えば、いま日本の派遣労働者は政府統計で300万人です。もし一つの労働組合をつくったら、巨大な力を持つ労働組合となるのです。あらゆるところに派遣されている300万人の労働者がストライキを打てば、大きな影響力を持ちます。今までのような考え方の延長線では、労働組合はじり貧以外にありませんが、新しい労働者の連帯・運動、労働者全体を代表する運動を生み出していけば、労働組合のピンチをチャンスに変えられると思います。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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