『誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走』|松本創さん

  • 2016/8/13
  • 『誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走』|松本創さん はコメントを受け付けていません。

きょう贈賞式が行われた2016年度「JCJ賞」(日本ジャーナリスト会議主催)に、フリーライターの松本創さんの著作『誰が「橋下徹」をつくったか―大阪都構想とメディアの迷走』が輝きました。私、松本創さんにインタビューしたことがありますので、一部分ですが紹介します。

【インタビュー】
誰が「橋下徹」をつくったか
フリーライター  松本 創さん

激しい公務員バッシングなど「敵を作る政治」の演出、メディアへの恫喝と責任転嫁、前言撤回もどこ吹く風―こうした「橋下劇場」はなぜ起こるのか? ベストセラーになっている『誰が「橋下徹」をつくったか―大阪都構想とメディアの迷走』を書かれたフリーライターの松本創さんに2時間にわたってインタビューしました。その一部分を紹介します。インタビューの詳細については、『KOKKO』5月号に掲載していますので、ぜひご購読ください。(聞き手=国公労連調査政策部・井上伸、インタビュー収録日=2016年2月25日)

橋下氏の従軍慰安婦発言とメディアの危機的状況

――この本をつくるきっかけは何だったのでしょうか?

直接のきっかけは2013年5月に起こった橋下徹氏の従軍慰安婦発言をめぐる問題です。

橋下氏が「大戦当時、慰安婦制度が必要だったことは誰でもわかる」などと発言した上に、沖縄・普天間基地の米軍司令官に「風俗活用」を勧めたことも自ら明かした。この発言によって国内外で批判にさらされると、橋下氏は「大誤報をやられた」などと事実を報道しただけなのにメディアに責任を転嫁したわけです。

ところが、メディア側は「大誤報」という報道の信頼性を失わせる発言にも沈黙し、反論も、記者クラブで団結して抗議することもしませんでした。

これがきっかけで、橋下氏とメディアの関係を検証する必要があると思ったのです。

また遠因としては、私が新聞記者だった時代の小泉ブームのとき、ワンフレーズ政治やテレポリティクス(テレビ政治)などに対する違和感と、自分もそれに末端ながら加担していたという事実もあります。

そして小泉政権が終わった後、その弊害が特に格差社会、貧困問題という形で噴出し、メディアのあり方への疑問が深まっていました。この小泉劇場と同じようなことが橋下劇場でも起こっているのではないかという危惧などがこの本をつくったきっかけです。

橋下氏と一体化した大阪メディア

――小泉ブームと橋下ブームはやっぱり似ていますか?

質的には同じだと思いますが、橋下ブームは大阪ではもっと凝縮されて同調圧力みたいなものが強まっている感じがします。

それは小泉ブームが国政レベルで、関西からすれば地理的にも遠かったのが、小泉ブームの手法をもっと凝縮した形で大阪という地方自治体にもってきた橋下氏に、大阪のメディアがより熱狂したし、それが府民・市民への熱狂につながったと思います。

――私たち東京の人間からすると、大阪府民が橋下氏に熱狂する理由がよくわからなかったのですが、松本さんの著書の「第1章 一体化するメディア」を読ませていただくと、大阪メディアに橋下氏がうまく乗ったことが具体的にわかります。

大阪のメディアだからこそ橋下氏とより一体化したというのは、いろいろな点で見られます。たとえば、キー局に送り出すような政治の全国ニュースがいままでなかったのが、橋下氏の存在によって大阪発の全国ニュースネタが次々生まれることに大阪メディアが喜々とする。

あるいは番組のつくり方で、お笑い芸人さん的な「しばきあげ」の思想みたいなものが橋下氏の公務員バッシングなど「敵を作る政治」の演出に共鳴してしまい、本来ならメディアは政治権力者をチェックする必要があるのに、売れっ子タレント弁護士だった橋下氏と「身内」同然のように在阪テレビ各局は橋下氏の主張やコメントを垂れ流したりしたわけです。

たとえば、「ちちんぷいぷい」という毎日放送(MBS)のワイド情報番組があるのですが、政治・行政取材の経験もない若手アナウンサーを「ちちんぷいぷい政治部キャップ」という設定にして、本人いわく「お友達になれたらいいなという感覚」で登庁時の橋下氏の一言コメントを取り、毎日お茶の間に流し続けました。この「政治ごっこ」が橋下氏の登庁・退庁時の「囲み取材」に発展していったのです。

ただし、こうした大阪メディアだからこそ橋下氏と一体化してしまったという面と、一方では大阪に限らない普遍的なメディアの問題でもあると私は思っています。

それは、東京のメディアの政治部が政治家とベッタリになるとか、政党の代弁者になるという構造が見受けられるからです。

メディアの番記者制度とか記者クラブ制度というものが取材対象と一体化してしまう、取材対象の論理をメディアが身にまとってしまうというのは、大阪に限らない問題です。

そうすると、橋下的な手法をとる政治家が東京や中央政界に現れたら、むしろ大阪のメディアよりもっと簡単に一体化していくのではないでしょうか。

橋下的な実体のないイメージに抗(あらが)う

橋下氏は、「フワッとした民意」という雰囲気に流されやすい人たちをつかめれば選挙に勝てるし、それでいいと思っている節があります。

無党派というとしがらみのない洗練された層に見えますが、はっきり言えばあまり政治について深く考えていない層で、全体主義を支える層だと橋下氏は思っているのでしょう。

そうした人たちは、大した実体がなくてもメディアが作り出すイメージで判断してしまうと思っているから、橋下氏はメディアを重視しているのだと思うし、メディアが生み出すイメージによって政治を動かそうとしているのだと思います。

それに抗うことが必要だと私は思っています。そして、「そうじゃない」と言うためには、橋下氏の発言、やってきた不祥事、一つひとつの政策の評価に対して、一つひとつ立ち止まってきっちり検証していく必要があります。本来、こうしたことを行うのがメディアの役割ですし、私もその一端を担う者として役割を発揮していきたいと思っています。

フリーライター  松本 創さん
まつもと はじむ 1970年、大阪府生まれ。神戸新聞記者を経て、現在はフリーランスのライター・編集者。関西を拠点に、政治・行政、都市や文化などをテーマに取材し、人物ルポやインタビュー、コラムなどを執筆している。著書に『誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走』(140B)、『日本人のひたむきな生き方』(講談社)、『ふたつの震災[1・17]の神戸から[3・11]の東北へ』(共著、講談社)、取材・構成に『生きるためのサッカー』(ネルソン松原、サウダージ・ブックス)ほか。

 

▼『KOKKO』第9号(2016年5月号)

[特集] 再検証「官から民へ」
〈インタビュー〉
誰が「橋下徹」をつくったか ……………… 005
松本 創 フリーライター
官から民への「行政改革」を問う ……………… 015
鎌田 一 国公労連書記長
「ハローワークの民営化」問題
―職業紹介業務の民間開放等をめぐる動向 ……………… 027
全労働省労働組合
国の行政における
民間委託の現状と問題点
―官製ワーキングプア化する委託労働者 ……………… 037
笠松鉄兵 国公労連書記次長
[リレー連載] 運動のヌーヴェルヴァーグ 
リレー対談 藤田孝典→エキタス
「最低賃金1500円」の新しい波 ……………… 047
藤田孝典 NPO法人ほっとプラス代表理事
小林俊一郎 AEQUITASメンバー
[連載] ナベテル弁護士のコラムロード 第9走
今の政治状況から振り返る
「大阪市解体住民投票」の意味 ……………… 053
渡辺輝人 弁護士
[連載] スクリーンに息づく愛しき人びと 第9作
映画『あん』が揺さぶる
観客の想像力 ……………… 057
西口 想 国公労連書記
[書評 第05回] ジョセフ・ヒース著
『啓蒙思想2.0
─政治・経済・生活を正気に戻すために』 ……………… 062
吉川浩満 文筆家

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

ピックアップ記事

  1. 紹介してきた中野晃一上智大学教授へのインタビューの最後になります。 あわせて冒頭に中野先生が昨…
  2. 国公労連(日本国家公務員労働組合連合会)の機関誌として発行してきた『国公労調査時報』を9月から新雑誌…
  3. 私が企画・編集した座談会「生涯派遣・ブラック企業暴走の労働法制大改悪は許さない」(『国公労調査時報』…
  4. (※2014年9月23日にテレビ東京で放送された「ガイアの夜明け もう泣き寝入りしない!~立ち上がっ…

NEW

ページ上部へ戻る