オリンピックのメダル獲得至上主義と「勝ち組」礼賛、過剰な商業主義、プロアスリートという名の「使い捨て芸能タレント化」、ナショナリズム高揚へのオリンピック利用、歪む日本のスポーツジャーナリズム

※2008年7月31日に書いたものですが、オリンピック中だからこそ考えたいということで紹介します。

2008年7月25~26日と機関紙大学で講師をつとめました。その機関紙大学の冒頭に、北京オリンピック(2008年8月8日~8月24日)を直前にして「スポーツジャーナリズムとスポーツ」をテーマに、スポーツジャーナリスト(元毎日新聞編集委員)の大野晃さんの講演がありました。

スポーツをすることはすべての人にとっての基本的権利

大野さんによると、「スポーツをすることはすべての人にとっての基本的権利である」とのこと。ユネスコ(国連教育科学文化機関)が「スポーツ国際憲章」(1978年)で、「人格の全面的発達、教育と文化にとって不可欠な要素。社会生活に不可欠なフェアプレーを発達させる」ものとして、スポーツを位置づけているそうです。

そして、世界中のすべての人に、「スポーツ権」として、「スポーツをする」「スポーツを見る」「スポーツで学ぶ」「スポーツで表現する」「スポーツを生活化する」などの権利があるそうです。

本来、スポーツジャーナリズム(マスコミ)には、基本的人権としての国民のためのスポーツの保護・発展を支援する使命があるのに、オリンピックの報道に顕著にみられるように、勝利(メダル獲得)至上主義と「勝ち組」の礼賛、過剰な商業主義、プロアスリートという名の「使い捨て芸能タレント化」、娯楽性追求のみのワイドショー的話題集めなど、日本のスポーツジャーナリズムの歪みや質の低さを指摘します。

一方で、「誰でも、どこでも、いつでも」すべての国民がスポーツを楽しむ環境条件整備にはほとんど目を向けないスポーツジャーナリズムの姿勢は、スポーツの「自己責任」化をおしすすめ、実際に国民がスポーツにふれる機会を減少させていると批判しています。

また、企業スポーツ部の休廃部続出の問題についても企業批判は皆無で、競技者の生活難などは軽視し、「痛み」には冷たいスポーツジャーナリズムとなっています

そして、学校スポーツにおいても学校の広告塔化を助長し、高校特待生とスカウトの暗躍や他県留学生による郷土代表の矛盾を黙認、熱血指導者の無批判賛美や勝利至上主義の強制を美化、過剰トレーニングや心理的圧力を隠す根性論の横行、指導者絶対の封建的人間関係や暴力の横行、こうした歪みも背景としたバーンアウト(燃え尽き症候群)の増加など、スポーツジャーナリズムが助長する歪みははかり知れません。

北京オリンピックを直前にして、大野さんは、「国の代表と言っても、国のスポーツ状況を代表しているわけではない。だから、トップアスリートばかりを追っても世界のスポーツ状況は見えてこない。メダル争いを追うことばかりに集中すると世界スポーツの上澄みしか見えなくなる。そして、国家主義的なナショナリズムや国威発揚など国策へのオリンピック利用を許さないようにしよう。北京オリンピックをチャンスに、各国に広くスポーツライフを拡大し、スポーツを通じて平和な世界を築いていこう。それぞれの国民すべての権利としてスポーツが自由自在に楽しめる環境条件を整備していこう」と訴えて講演を終えました。

【追記2016.8.17】
国民すべての権利として「スポーツをする権利」があり、「誰でも、どこでも、いつでも」すべての国民がスポーツを楽しむ環境条件整備をすすめる必要があるのに、日本は先進主要国(OECD加盟国)の中で、国民が最もスポーツする時間を持てない国になっています。それは、以下のグラフにあるように、世界一の長時間労働に主因があることは明らかでしょう。

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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