「派遣労働者ばかりの世界に」が現実となり一般企業はもちろん人材派遣ビジネスに大きなメリット生む派遣法改悪|田端博邦東京大学名誉教授

  • 2015/9/8
  • 「派遣労働者ばかりの世界に」が現実となり一般企業はもちろん人材派遣ビジネスに大きなメリット生む派遣法改悪|田端博邦東京大学名誉教授 はコメントを受け付けていません。

田端博邦東京大学名誉教授にインタビューしました。安倍雇用改革の問題点と労働者派遣法に関する指摘を中心に紹介します。

安倍雇用改革をどうみるか?
――労働時間の規制緩和と派遣法改悪
田端博邦東京大学名誉教授インタビュー

アベノミクス第3の矢の中心である安倍雇用改革の問題と、労働組合運動や社会のあり方などについて、田端博邦東京大学名誉教授にインタビューしました。

非正規雇用拡大を成長戦略と考えている安倍政権

――アベノミクス第3の矢として位置づけられている安倍政権の雇用改革について、田端先生はどのように見ていらっしゃいますか?

雇用改革はアベノミクス第3の矢の成長戦略の一環として提案されています。ですから、最初に成長戦略とは何なのか? ということを問題にする必要があります。雇用改革で、日本企業の国際競争力を強化することが、安倍政権の基本的な目標であって、労働者が働きやすくなるとか労働者の生活を良くしようということが安倍政権の目的ではありません。まずそこをはっきりしておく必要があります。

それでは、成長戦略で国際競争力を強めるとは、具体的にどういうことなのか。国際競争力そのものの内容については、研究開発や新規事業立ち上げなど様々な提案が含まれていますが、国際競争力を強化する上でかなり重要なもののひとつが労働コストです。安倍政権の雇用改革では労働コストを削減することが、基本的な目標になっているのではないかと思います。

雇用改革で労働コストを削減するための重要な方策として、有期労働と派遣労働の規制緩和が進められています。労働者派遣法の改悪法案は審議入りしていますし、有期労働はすでに改革が進んでいます。これらの法制度を規制緩和するということは、基本的に非正規雇用を拡大するということです。企業の側からすると労働者をより使いやすくするということを意図しているわけで、規制緩和によって正規・非正規の二極分化をさらに広げて、非正規雇用をさらに拡大させるという結果を生むと思います。

直近の統計では、非正規雇用の人数は約2,000万人になっています。非正規雇用率は4割近い状況にあるのに、これをさらに拡大させるのが安倍政権の雇用改革の特徴だということになります。

この非正規雇用の拡大は、コスト面からすると企業にとって非常に大きなメリットになりますから、労働コスト削減が国際競争力を高める成長戦略になると安倍政権は基本的に考えているわけですね。

正規雇用にもメスを入れようとしている安倍雇用改革

他方で、注目すべき点は、正規雇用に規制緩和のメスが入り始めたことです。ホワイトカラーエグゼンプションはその第一弾で、並行し第二弾として、多様な労働者というジョブ型や地域限定での限定正社員をつくろうとしています。

正社員の世界で、法定労働時間の枠を外すことによって様々な面でのコスト軽減を図る。そして、限定正社員という多様な労働者をつくることによって、人件費コストと人員整理コストの両面で効果が上がると見込んでいる。さらに、今年3月に最初の口火が切られましたが、規制改革会議の雇用ワーキンググループが、労働者が同意する場合のみと限定して金銭解決の解雇制度を提案しています。

要するに解雇規制緩和にかなり大きく踏み出す可能性が出てきているということです。そして正規雇用の世界そのものにかなり厳しい規制緩和をし、労働法制を大幅に後退させ、企業が合理化・効率化できる人事管理を可能にするということが意図されているといえます。そういう正規雇用の改革がついに始まった。これらすべては、やはり労働コスト削減ということで説明できる。少なくとも基本的な動機は労働コスト削減でしょう。

繰り返しになりますが、成長戦略としての安倍雇用改革をまとめて言いますと、全体としてグローバル企業の競争力を強めることが基本的な目的であって、日本経済の全体を強めるとか国民生活を良くするというものではありません。今の経済はグローバル化していて、国内の設備投資よりも国外への設備投資の方が大きくなってきているほどですから、グローバル企業の競争力が強まっても、それが日本経済を良くすることにつながるかどうかは全く不明です。

しかも、日本経済が良くなれば国民の生活が良くなるかということも、実は直結していない。特に労働者の賃金が上がったり労働時間が短くなることには直結しません。経済全体のパイが仮に大きくなったとしても、所得税などを含めた所得分配のメカニズムがどうなるかによって変わってきます。

賃上げを利用して政治的基盤強化をねらう安倍政権

安倍雇用改革にかかわって注意してもらいたいのは、この間の賃上げです。安倍首相は、賃金を上げることによって好循環を実現する、景気を回復すると言っていますが、果たしてそれは何を意味するのかということです。賃上げすること自体は悪くないわけですが、安部政権の政策全体を見ると、有期雇用や派遣労働の規制緩和や、ホワイトカラーエグゼンプションや限定正社員などの一連の雇用改革プログラムは、むしろ雇用者所得を引き下げる方に働きます。

そうすると、安倍政権の言う賃上げというのは、結果的に一部の大企業の組織労働者の賃金だけが、ある程度上がるということに過ぎないわけです。それが十分な賃上げかどうかという議論もありますが、仮に上がったとしても、日本経済の雇用者所得全体の水準がどうなるかは分かりません。一方で賃上げを応援しますと言いながら、他方で非正規等の労働者の低賃金を維持し再生産する政策を進めるというのは整合性に欠けている。まともなエコノミストが政府のブレーンにいるならば、こういう矛盾に気がつかないはずはない。そうすると、そうした矛盾を抱えながら、なぜ賃上げ賃上げと騒いでいるのか? ということの方がむしろ問題になるし、疑問が湧くわけです。

安倍政権は賃上げを実現すると言ってはいるけれど、じつは本気ではないのではないか。それでは、本気ではない賃上げをなぜ大々的にキャンペーンしているのか。それは「賃上げを応援する」という政治的な意味合いがあるからではないかと思っています。一つは、現在の国民の大部分がサラリーマン世帯ですので、この間の非常に長い不況に耐えている国民に対して「賃金を上げてやるぞ」と言えば非常に好感を持たれるメッセージになるということです。

事実、安部政権の世論調査の支持率を歴代内閣と比較すると現在でも異例に高い。もう2年半近くに渡っていますが、未だに支持率が50%を超えています。小泉政権以降ではこうした高い支持率は続かなかったように思います。そして、安倍首相がいちばんやりたいことは集団的自衛権の行使を含む安全保障法制を確立して、強力な軍事力を形成するということと、そのために憲法9条を変えるということです。

いちばんやりたいことだけれど、とりわけ軍事問題には強い反対が起きる可能性があるので、まずは強固な政治的基盤が必要だ。そこで、賃上げでサラリーマン世帯を喜ばせておこうということではないか。サラリーマン世帯の支持を獲得する上では上手い手法だと言えます。

“労働組合対策”としての賃上げ支援

もうひとつは、労働組合に対する対策もあるのではないかと思います。派遣労働や法定労働時間などの規制緩和だけで雇用改革を押し出すと、労働側が結束して反対に回るに違いない。それを雇用改革隠しのような形で、雇用改革の危険性を少し薄める効果を狙っているのではないでしょうか。労働運動のメインストリームが大企業の組織労働者ですので、そこの賃金が上がっていけば、安倍雇用改革に対する反対運動を弱める上で少しは役に立つのではないかと考えたとしてもおかしくありません。

大企業の正社員の組合員からすれば、非正規労働者が大変らしいことは知っていたとしても、それこそ自分自身の問題として切実には思っていないし知識もそれほどあるわけではありません。正社員だけだとしても自分の賃金が上がる方がインパクトが強い。正社員は少なくともマイナスになることはないだろうと安心する。おそらくそうした当面の政治的な狙いをもってて、安倍政権は賃上げ支援政策をやっているのではないかと思います。
ですから、雇用労働者全体の賃金水準を本気で大幅に底上げしていくということではない。結局、この賃上げによって好循環を生もうという政策は、中長期的に成功する可能性が低いのではないかと私は見ています。

労働者保護の法制度を解体する安倍雇用改革

3点目に、この雇用改革の問題点は、様々な領域に出ている改革が全体として労働者保護の観点を欠いているということです。むしろ労働者が働きやすくなると言われたりもするわけですが、全体としては労働者の雇用や労働条件や生活を保護するための法制度が解体過程に置かれるに至っている。これが今回の雇用改革の重大な欠陥だと思います。

この欠陥の性質というのは、ネオリベラリズムそのものなので歴史は古い。比較的新しい時期から見ても、1990年代半ば以降から労働法制の規制緩和がずっと進んできているので、今回の安倍雇用改革もその延長線上に位置していると言えます。ただ、安部政権の前の民主党政権時代に、有期雇用と派遣労働について労働者保護の規制を強める改革が行われた。これを「取り戻す」というのもひとつの狙いです。もともと何十年来の規制緩和の大きな流れを、もう一度再起動しようとしているわけです。

ですから、とりわけその途中に生じた障害物はなるべく早く取り除きたいわけですね。有期雇用の労働契約法の第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)、第19条(有期労働契約の更新等)、第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)や、労働者派遣法の新40条の6(違法派遣についての派遣先による労働契約の申込み)や23条5項(マージン率の開示)などの規制強化部分を早く取り除きたいと思っているのでしょう。

この雇用改革を誰が推進しているのか?

今の政権基盤が強いうちに全面的な労働法制の再編を行おうというのが、安倍雇用改革の狙いです。そのことは、産業競争力会議や規制改革会議などの議事録や報告書の中に今後数年間を「集中改革期間と位置づける」という言葉が登場していることでわかります。これは、政権基盤が強固である時期と一致する。それを誰が言っているかというと、経済界の人です。

4つめに指摘しておきたいのは、この雇用改革は誰が推進しているのか? という点です。安倍首相個人が推進しているように見えるけれど、そうではありません。推進している社会的な力、推進勢力がある。それは何なのか。日本経団連は2013年の「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」の中で、「近年、労働規制の強化の動きが続いており、その多くは企業活動を制約する」と言っているのです。今ようやく状況が変わったので、この機会にきちんとした規制緩和をして、経営環境を改善していく必要があるということを主張している。つまりこれが、経済界が一番望んでいる改革なのです。それが安倍雇用改革のエンジンになっている。

原動力は経済界であって、経済界を牛耳っているのはグローバル企業なのです。特に製造業ですね。そうしたグローバル企業を中心とする経済界が、安倍雇用改革の真の推進者であると私は見ています。

改革プロセスで労働側を排除し、人材ビジネスが跋扈

そしてそれは、実際の改革プロセス、手続きにも表れています。本来の労働法制の改革ならば、労使を含めた審議会で政府案を叩いてもらって、それを厚生労働省が出すわけです。けれど小泉内閣の時から定着したやり方は、官邸主導で官邸が省庁の頭越しに基本的な意思決定をしてしまう。省庁の官僚はそれに従わざるを得なくなる。厚労省なら厚労省独自の考え方があるはずなのに、それがなかなか活かせない。官邸はどのように基本的な方針を決定するかというと、各種の官邸の審議会です。

さすがに政府だけで決めるのはまずいですから、民間の代表者のいる審議会で国の経済の基本方向を定めるという建前で、従来非常に多用されていたのは規制改革総合会議など名称はいろいろ変わりましたが、まさに公務部門の行革や効率化を進めた審議会でした。今回で言えば規制改革会議と産業競争力会議です。

さらに、今回生き返った経済財政諮問会議を加えてこの3つが、基本的な官邸の基本方針を定める審議会です。ここにはトップクラスの財界人が入る。そして有識者と言われる、比較的政府の政策を支持している有識者も入ります。しかし、労働側は入らない。ですから労働側抜きの審議会で基本的な方針の決定をしていくのです。

この審議会を見ていて非常に興味深いのは、人材ビジネスの代表者がかなり入っていることです。日本経済における産業の構成からして、人材ビジネスは7~8人の民間議員のうち1人や2人を占めるほどではありません。経済実態の割合と不釣合いに人材ビジネスの経営者が入っているという構成になっています。これが重要な問題だと思います。

この間の労働法制の改革を見ていると、労働側が入っているのは労働政策審議会だけです。しかし労政審の段階では基本的な原案ができてしまっていて、これで審議することになってきますので、基本的な方向転換はそこではできません。労働側が抵抗できるのは、退席して労政審としての方針が出せないとか、その程度です。それでストップするのはひとつの手ですが、それもなかなかできないとなると、今回のホワイトカラーエグゼンプションの労政審の最終報告であったように、労働側委員と使用者側委員それぞれの意見が併記される形に持っていくことになる。あれが精いっぱいの抵抗の形です。

1年以上かけて各種審議会で新しい制度のアウトラインを議論する、その過程に労働側が全然入っていないというのが現状です。そこに、雇用改革の推進力がどこにあるのか? ということが示されているのです。

EUの派遣は「一時的労働」で有期雇用と重なるルール持つ

――労働者派遣の問題ですが、EU指令では入り口規制がありますね。

しかし、EUも残念ながら理想的な状態ではありません。というのは、アメリカのように雇用・労働に関するルールが非常に不十分な国と、ヨーロッパのようにルールが手厚く出来上がっている国ではあまりにベースが違うため、この間のグローバル化の勢いの中で、次第に規制緩和が進むようになってきているからです。

グローバリゼーションの下ではヨーロッパの経営者からは不満が起きるということになります。EUの統一市場を形成する際に経営側は可能な限り企業活動の自由を拡大する、つまり雇用労働条件に対する法規制を緩和するということを意図してきたのです。そのためにヨーロッパ世界の中で、経営側と労働側の間に非常に強い緊張関係が起きることになりました。

その結果、労働側が押されて規制緩和が進むようになってきているのが現状だといっていいでしょう。確かに労働時間が社会生活の中に定着しているように、そう簡単には壊れない部分もありますが、法律規制などの技術的な制度については規制緩和がかなり進んできている。その点をまず注意していただきたいと思います。

そういう中で、EUでは有期指令が1999年にでき、派遣指令が2008年にできました。

まず派遣労働についてのEU指令を考える時には、派遣指令と有期指令の両方を合わせて見た方がいいですね。というのは、派遣労働という形態自身がテンポラリーワークとなっているからです。日本の派遣を英訳すると Dispatched workで、「派遣される労働」と直訳している場合が多い。Temporaryは一時的という意味ですから、派遣労働は本来一時的な労働だということになっています。ですから当然、派遣労働は「一時的な雇用形態」で、有期雇用のルールと重なり合う部分があるわけです。入り口規制がとられるときには、派遣も有期も同一の許可事由になっている場合も多いのです。

ただし決定的に違うのは雇用関係です。ヨーロッパでは有期雇用の大部分が対象として考えているのは、直接雇用の有期です。日本では、有期雇用で派遣労働というのが普通になっています。

派遣法の三面関係については、特別この指令にだけある規制はないように思います。ただ、派遣指令の全体像でいうと、日本の派遣と違って、常用派遣を原則として考えています。ですから、日本のような登録型派遣を念頭において規制ルールを考えるという規定がありません。

有期雇用指令の入り口規制

入り口規制で重要なのは有期雇用の指令ですね。3つの条件があります。

有期雇用を導入する場合、その3条件の1つが入り口規制です。これは有期雇用を正当化する事由、つまり有期雇用を導入する正当な理由がなければならないということです。もう1つは有期雇用の期間の上限を設定することです。そして3つ目は更新回数の規制をすることです。

有期雇用指令ではこの3つのいずれかをとればよいということになっていますので、入り口規制は残念ですが義務的ではありません。EU指令のレベルで見ると、派遣指令には期間についてのルールは全く出てこない。派遣元で有期であれば有期指令が適用になり、派遣元で無期であれば派遣指令だけが適用になる。あとは一般的な労働契約に関するルールが適用になります。

日本の派遣労働者は二重に不安定

派遣指令の前文パラグラフ15に「雇用契約は期間の定めないものを原則とする」という規定があります。派遣指令でこういう原則的宣言条項が入っているということは、派遣といっても派遣元との雇用関係はテンポラリー(一時的・臨時的)ではないということです。派遣会社から受け入れ企業に行って、仕事をしている期間が一時的だけれども、雇用関係はしっかりした期間の定めのない契約でなければならないというのが前提だということです。

日本で派遣労働者というと、二重に不安定だという感じになっていますよね。派遣の大部分を占めている登録型派遣では、派遣元でも有期で、派遣先では当然切られるみたいなことになっています。二重の不安定雇用で本当に危うい雇用になっています。

ヨーロッパでの基本的な考え方に、入り口規制の話があります。テンポラリー(一時的な派遣労働)が必要な理由は、受け入れ企業が、産休であるとか怪我して一時休みが出るとか、臨時的に人手が足りなくなるとか、特殊な事情があって一時的に仕事がふえたとか、という時にパーマネントに雇うことはできないので派遣会社からの派遣を受ける。テンポラリーな事情に対してテンポラリーな雇用を受け入れる仕組みをつくろうというのが派遣なのです。しかしそれは仕事がテンポラリーだということであって、労働者がテンポラリーではない。労働者は派遣会社で、原則として、期間の定めなく雇用されていると考えられています。これは派遣指令の基本的な考え方です。

そのほかにEU指令から学べるものは何かと考えてみますと、1つの重要なポイントは「平等原則」です。現在の日本の法律は非常に不十分であらゆるところで「均衡待遇」と言っています。これは算数的に1=1である必要はないということです。1≒1でよいというのが均衡待遇。≒の幅ははっきりしていません。だから均衡待遇原則というのは当てにならないというのが私の考えです。

どこまでいけば均衡を外れてしまうのか。選挙の投票権の不平等問題じゃないですが、2倍以下なら諦めなきゃダメだろうとか、一体何倍ならいいのか? それに類したもので、考える人によって全然違うんじゃないかと思う。裁判所でさえ分かれてしまう。当てにならないんですね。

EUの3指令は、「均等待遇原則」「平等原則」を適用しています。有期での均等のはかり方は、まず有期労働者が働いている職場で同じ仕事をしているパーマネントの労働者の処遇、賃金と同一でなければいけないというものです。よく日本の議論で「ヨーロッパでは有期であろうが非正規雇用であろうが、産別協約があるので均等待遇が可能なんだ」と言われます。「日本は年功賃金で横断的な賃金率ではないから、そういう平等原則はできない」「年功などいろいろ複雑なものが企業の中にある」というわけですね。しかしEU指令の第1原則は、職場で比べるということなのです。職場で比べるという考え方は日本でも可能ですよね。職場で比べる均等待遇というのであれば、日本でも使えるということになります。労働契約法の第20条はややそれに近い規定になっているので今後どう運用されるか注目されるところです。

EUの派遣指令で注意すべき点は、先ほど言ったように原則派遣元の常用雇用で派遣元に賃金体系があって、場合によってはそこに産別の労働協約が適用されるかもしれないということです。そこで賃金が決まっていると、いろいろな会社にテンポラリーに働きに出かけた時に、その職場の労働者と同じ賃金にした場合、返って不都合が生じる可能性がある。だからそうしなければいけないとは書いていませんが、そういうことがあり得るので、派遣労働者がパーマネントな契約で派遣会社に雇用されている場合には、平等原則の適用除外をしてもよいと書いてあるわけです。労働者に不都合が生じないように、派遣先の賃金体系ではなくて、派遣元の賃金体系でよいとしているのです。

派遣元でも派遣先でも派遣労働者に発言権ある仏

日本の派遣の実態と合わせると、EUの派遣指令がすごく役立つかというとそうではない。派遣の実態と法制度の仕組みが非常に違い過ぎるのですね。さらにいうと、日本にはありませんが、EUの指令では2カ国以上を横断した多国籍企業については、労使協議の委員会をつくらなければいけないということになっています。

また、各国ごとにも企業と労働者代表で構成する伝統的な委員会があります。平等待遇の問題として、そこに派遣労働者を参加させるかという問題がありました。そうした制度は派遣会社にも当然適用されます。テンポラリーの人はしょっちゅう外に働きに行っているから、職場の労働条件などは職場では決められないじゃないかという疑問もありえますが、指令によれば派遣元会社には派遣労働者全員が参加できるような委員会をつくらなければいけない。

この指令ではそれ以上のことは言っていませんが、フランスなどでは、派遣労働者が派遣先の職場でもそうした委員会に入る権利を持っています。雇われた元でもそうだし、実際に仕事をする就労先でも発言する機会を保証されるというふうになっています。日本はどっちもないし、どっちについてもアイデアさえ出てこないような状況ですから、派遣制度そのものについてあまりに落差が大きいですね。

日本の今回の派遣法改悪の動きについていうと、ヨーロッパがこうなっているからというのは、あまり意味がないかもしれません。

日本の派遣で一番大きな問題は、有期の問題ですよね。派遣労働者の側からすると、派遣で働く先が変わるだけではなく、雇用も有期です。ほとんど8割以上の派遣労働者はそうじゃないでしょうか。派遣元では、事実上常用に近い、登録型も少なくないようです。ある派遣が1年や3年で終わると、次はこれがありますよというふうに紹介される、という形ですが、こうなると事実上、派遣会社は常用的な派遣労働者でも有期雇用で組み立てているということになる。ですから日本の派遣労働に関する圧倒的に重要な問題は、派遣労働者の側から見ると有期雇用の問題ですが、法案はこの点をまったく解決していないのです。

パーマネントな仕事に有期雇用あてる日本の異常

有期雇用問題でいうと、民主党政権時の労働契約法改正で無期転換権が入って少しは良くなったと言われていますが、安倍政権が続けばまたひっくり返されるかもしれないですね。

無期転換が良いかどうかも非常に議論があるところです。ずっと今まで有期を反復更新してきた有期労働者からすると、期待権があるわけです。この労契法18条の「5年」は改正規定の施行後に開始するということになっているために、経営側は、労働者に「施行は先だから今回からは向こう5カ年限り」と言って「無期転換権が発生するまでしか更新はしませんよ」という取り決めをしているところが多いのです。そうすると、無期転換の試みが裏目に出て、実際は有期雇用労働者の雇用打ち切りを生むに至っている。非常に皮肉な結果になっているんですね。立法した時の立法者の考え方は、無期労働者の雇用を直接雇用に転換させていこうという考えだったと思いますが、それが裏目に出てしまっているということです。

なぜそうなるのか。期待権が裏切られて切られたと当事者が思うのは当然で、いわばある種期待権の侵害です。経済的には非常にピンチになりますね。そういう本来あらざる結果が出るのはなぜかというと、無限に更新し続ける有期雇用という、雇用の仕方自体が問題だからです。

先ほど、EUの有期雇用指令は3つの条件のどれか1つでいいから非常に緩いと話しましたが、実態として見れば、どれかを取るだけでもかなり限定されることは明らかです。

さらに、これはEU全体のガイドラインの指令ですので、実際の法律規制は各国ごとに詳しいものがある。だいたいフランスでは更新を含めて1.5年。フランスは入り口規制がある上にそうなっています。ドイツは元々はもっと短かったのですが、最近では2年くらいになっています。いずれにしてもヨーロッパの場合の有期規制というのは、まず入り口規制で一時的・臨時的な事情がなければダメだということ。そして有期の更新を含むマックスが必ず決められていること。国によっていろいろですが、この間に随分緩んできてもフランスで1年半。その前後に各国が配置されているということで、少なくとも2年を超えて更新を続けられるというところはほとんどないと思います。

日本の場合は更新回数を制限する規定がないために5年、6年、多い人は10年以上更新を続けている。そういうこと自体が問題で、実態は有期雇用ではありません。実態はパーマネントと同じです。つまりパーマネントな雇用を、企業の雇用政策として法形式的に有期雇用契約という形で構成してきた。さらにそれを規制してこなかった法体系、ここに問題があるのです。日本の法律ではもともと有期契約の期間の上限1年(現行では原則3年)ということでやってきましたが、更新回数に制限がない。昔のパートの人は2カ月契約が多く、更新限度が法律上何の規制もないために慣行としてそうしていました。ある種脱法的な運用だと思いますが、パーマネントな仕事があるにも関わらず、そうしたことが行われている。

逆にいうと、パーマネントな仕事に有期雇用を当ててはならないと考えるべきなのです。パーマネントな雇用にはパーマネントな雇用をしなければならない。そういう原則を日本でどうやってつくっていくかということを真剣に考えなければいけません。

ヨーロッパとの比較でいうと、ヨーロッパの法制はだいたいそういう考え方が原則になっている。派遣指令にあったように、雇用の基本的な原則は派遣労働者もパーマネント雇用だということなのです。

めざましい人件費削減をもたらす派遣法改悪

今回の法改正では、そういう考え方のベースがガラリと変わっています。これまでは常用代替防止という考え方が原則だとされてきましたが、ついに派遣受け入れ期間の制限をなくすということになっている。

労働者派遣法は規制緩和でどんどん緩んできて、当初1年とか専門業務だけだったのが、結局最長3年(専門業務は期限なし)ということになり、さらに今回の改正案につながりました。現行法では、一般業務について同じ職場で同じ仕事に就く派遣労働者を導入できるのは、原則1年、3年になっています。一般的な仕事についていうと、3年というだけでも非常に緩いですが、期間が長いという点を除いて考えれば、以前はヨーロッパの派遣受け入れと同じように、臨時的な事情に対してテンポラリーな労働力を活用することができるという仕組みでした。

しかし今度の法案では原則がまったく変わっている。派遣労働者については、派遣先で労働できるのは3年。ところが派遣を受け入れる企業側からすれば、同じ仕事であっても派遣労働者を替えればさらに派遣労働を継続することができるという仕組みです。これは、受け入れ側の立場から見れば、非常に重要な原則を180度転換させるという意味を持ちます。企業の側から見れば、一時的にしか使えなかった派遣労働を、文字通りパーマネントに使えるわけです。たとえば何々課の何々係の仕事を派遣労働者に頼んでやらせることが可能だとなった場合、今までなら同じ係にもう一度派遣を入れることはできなかったわけですが、今度は派遣労働者さえ替えればいい。

派遣労働者の雇用の安定性は全く改善されません。派遣を受け入れる企業の利便性だけが格段に向上するというのが、今回の法案の基本的な仕組みです。

だから派遣労働者の立場に立って見た場合と、企業側から見た場合で非常に大きな違いがある。派遣労働者から見ると変わらないかもしれません。今までも3年以上超えたらいけないという事情は変わりませんからね(ただし、専門業務については新たに3年の制限がかかる)。ところが派遣受け入れ側からすると、ほとんどパーマネントに派遣でこなせるということになる。するとそのセクションについての人件費を圧倒的に削減することができます。派遣の人権費は、派遣労働者の賃金ではなく派遣料金という形になりますが、半減近くまで人件費を減らすことが可能になるでしょう。

専門性の高い派遣を除いて考えた時、時給単価や月給ベースではそれほど違わないかもしれませんが、一時金や退職金を用意しないでいい。また人員整理をしなきゃいけない局面があるかもしれない時に、退職金の上積みなどでパーマネントはすごくコストがかかります。社会保険料も一時金を含めば人件費がベースになりますから、非常にたくさんかかるわけですね。そうした雇用責任を全部派遣会社に丸投げして、労働の部分だけ享受できるということになると、人件費の総コストの削減はめざましいと思います。

雇う側からすると、私が嫌いな言葉ですがまさに「おいしい話」ですね。そういう「改正」が今回の労働者派遣法案だということになります。

「派遣労働者ばかりの世界に」が現実に

労働関係の弁護士の方達はすでに「派遣を恒久化する」とか「派遣労働者ばかりの世界になる」と指摘していますが、当たっていると思います。もし今回の派遣法改悪法案が成立して施行になった場合、経営者の立場になって考えれば、派遣労働者でやれる仕事は可能な限り正規労働者から派遣労働者に切り替えていこうと考えるのが自然です。定年まで雇い続けなきゃいけない人がいるとかいろいろ事情がありますから、一気に大量に切り替えることは難しいとしても、そういう方向で中長期的に考えていくということは、経営者の自然な選択になります。

現段階では、派遣の比率は非正規の中ではかなり低いです。しかし今回の法案が通れば今後かなり増えていくでしょう。派遣労働者を受け入れる企業は大幅な人件費コスト削減の利益を受けることができるのですからそれは当然の流れになっていくでしょう。

人材ビジネスに大きなメリットを生む派遣法改悪

他方、これも重要ですが、今度の仕組みの興味深いところは、ほぼパーマネントに近く派遣労働者を受け入れることを認めながら、受け入れ企業にはなぜか労働者を替えさせるということです。派遣労働を繰り返していいのに、なぜ労働者を替えなければいけないのか?

結果として明らかなことは、そのように企業経営者が考えて派遣労働のウェイトを徐々に高めていき、その都度派遣労働者を切り替えなければならないとなれば、まさに人材ビジネスの需要が増える、膨らむということです。人材ビジネスの対象が非常に拡大する。計算上どうなのかは分かりませんが、その人が同じ派遣先に居続けるよりも紹介料が繰り返し取れるわけですからね。

ということは、今回の派遣法改悪は、派遣労働を受け入れる一般企業のメリットになるだけでなく、派遣ビジネスにとっての非常に大きなメリットになるということです。

実は雇用改革に関係するいろいろな政府の審議会に、人材ビジネスの経営者がこの間絶えず顔を出しているということを先に述べました。政府側がなぜ入れるのかも問題ですが、派遣ビジネスの側からいえばそういうところに入れることのメリットはすごく大きいということですね。

従って今回の派遣法改悪は、大企業が中心になっている財界、経済界と、人材ビジネスが結託をして推進力になっている改革だと見ていいのではないかと思います。

他方、派遣労働者の側からすれば、現状を改善する面は全くない。専門業務の場合には、むしろ派遣先の就業期間が制限されるという不利益が生じる。ただ、いろいろと誤魔化すための修飾をしてあります。派遣労働者の「雇用安定措置」とか、「均衡待遇の強化」とか。しかし恐らくその点の現状は変わらないでしょう。

そして法案で強調されている研修も、人材ビジネスにとっては非常に商圏拡大につながります。キャリアコンサルタントとか、いろいろな資格をつくることで人材ビジネスの仕事が増える。私はそうした人材ビジネスによるものは全部不要だと思っています。

本来、トレーニングについては、公共的な職業教育、職業訓練の機構をもっと整備すべきなのに、逆に公共的なところはどんどん縮小しておいて、職業訓練などを市場に委ねて補助金だけは政府が出すという形になっている。それによって人材ビジネスがどんどん膨らむ。そういう流れになっていることも大きな問題だと思っています。

たばた ひろくに 1943年生まれ。東京大学名誉教授。専門は、労働法、比較労使関係法、比較福祉国家論などを中心に研究。フランスをはじめ多国籍企業の労使関係にも明るい。現在、一橋大学フェアレイバー研究教育センターのプロジェクトのひとつ「社会運動ユニオニズム研究会」の中心メンバーとして、社会運動ユニオニズムの日米比較をはじめ、主に労働運動や地域運動のほか、政治・経済問題など多岐にわたる研究活動を行っている。著書に『グローバリゼーションと労働世界の変容――労使関係の国際比較』(旬報社)、『幸せになる資本主義』(朝日新聞出版)。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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