労働者派遣法改悪は労働者の命を奪う=貧困層の死亡率は富裕層の3倍、うつ状態は7倍高く、格差拡大で年間2万3千人死亡

  • 2015/9/8
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(※2012年6月に書いた記事ですが、いま安倍政権が狙っている「労働者派遣法改悪」=「3年ごとに必ずクビ切る人権侵害法案」は、労働者の命を確実に奪うものであることが分かります)

近藤克則日本福祉大学教授の講演「所得格差がもたらす『健康の不平等』――何が心と社会を蝕むのか」を聴きました。私が感心を寄せたところだけですが講演の一部要旨を紹介します。(※文責=井上伸)

▲上のグラフは私が担当した研究プロジェクトで、3万2,891人の65歳以上の高齢者を調査したものです。65歳から69歳で所得が100万円未満の人では、うつ状態の割合が所得400万円以上の人の7.3倍にも達していることが分かりました。

▲そして上のグラフは65歳以上で要介護認定を受けていない2万8,162人を4年間追跡調査したものです。介護保険料区分でもっとも低所得の高齢者と、もっとも富裕な高齢者とを比較すると、低所得の男性は3倍以上、低所得の女性は2倍以上、富裕な高齢者より死亡する割合が高いことが分かりました。所得によって死亡率にこれだけの差があり、高所得層なら避けられている死が低所得層に集中しているのです。

また、▲上のグラフにあるように、健康状態の格差のみならず、医療アクセスにおける格差も顕著になっています。低所得の人ほど医療機関の受診を控え、窓口負担の割合が高くなると受診抑制を招いているのです。

低所得者は、経済的に余裕がなく医療を受けづらく、要介護状態になりやすいのです。これを予防する施策こそ必要なのですが、今の流れである税や保険料の負担は予防に逆行することになります。

山梨大学の近藤尚己助教と米ハーバード大学の研究グループによる2009年の研究によると、所得格差が拡大すればするほど人が早く死亡する危険が高まり、格差が原因で2008年の1年間で増えた過剰死亡(死者数)は日本で約2万3千人、日米など15カ国で154万人にも上るとのことです。

所得格差の指標となるジニ係数が0.3を超えて格差が大きくなると、健康への悪影響が出始めるとのことで、格差拡大による過剰死亡(死者数)は、OECD加盟の30カ国のうち、米国が88万人と最多で、ジニ係数が高いメキシコやトルコが続き、日本は約2万3千人と4位で、イギリスの約2倍に上っているとのことです。所得格差は健康格差につながり、格差社会そのものが健康に悪いことが明らかになっているのです。

WHO(世界保健機関)の2002年の報告書「健康の社会的決定要因」でも「貧困、相対的貧困、社会からの排除は、当人の健康に大きな影響を与え、死を早める原因となる。貧困の中で生きていくことはいくつかの社会的集団に大きくのしかかる。貧困の中のストレスは特に高齢者に対する害が大きい」、「どの政府も税、年金などの給付金、雇用、教育、財政や他の多くの分野を通して、所得分配に多大な影響を与える。こうした死亡率や罹患率関連の政策の効果に関する明白な根拠は、絶対的貧困を排除し物質的な不平等を無くすことが行政の責務であることを示している。あらゆる人は最低所得、最低賃金を保障され、行政のサービスを受けられるよう守らなければならない。貧困と社会的排除を減らすためには個人と地域の両方に対して政策介入が必要である。法律によって少数者グループや弱者を差別や社会的排除から守ることができる」と指摘されています。

また、格差社会では人と人とのつながりが弱くなります。ソーシャル・キャピタルと呼ばれる職場や地域社会などでの人びとの信頼関係や結束力が貧しくなるほど、その構成メンバーの健康状態が悪くなるという研究報告も増えています。

ソーシャル・キャピタルが壊れた社会では、人々の健康状態が悪くなるだけでなく、うつ病の増加で自殺が増えたり、犯罪が増加します。困っていてもお互いに助け合うことが減ってしまい、人々のストレスは高まり、中流層以上も被害をまぬがれることができない不安定な社会状況に陥ってしまうのです。

なぜ社会が蝕まれていくのでしょうか? それは社会保障を抑制し改悪してきたからです。社会保障は高所得者から低所得者へ所得を再配分する役割を果たしますが、社会保障改悪で格差を拡大させている日本社会は所得再配分機能が非常に弱くなっているのです。

それでは、健康に良い社会をつくるにはどうすればいいのでしょうか? それには、社会保障を手厚くすることで、所得再配分機能をきちんと取り戻し、貧困と格差をなくすことです。

「社会保障を手厚くしよう」「格差をなくそう」と主張すると、必ず出て来るのが「社会保障を手厚くしたら働かなくなる」、「平等な社会は経済効率が悪い」、「国際競争力が落ちる」などという意見です。

しかし、もっとも所得格差の小さい北欧諸国の国際競争力や経済成長率は日本よりも高いのが事実です。日本のように、多くの若者を不安定で劣悪な非正規雇用などの状態に置いていることは、次代を担っていく若者の能力を伸ばしていくチャンスも失っていて、マクロで見れば大きな社会的な損失を続けていることになります。

また、社会保障を手厚くすると「大きな政府」になって非効率を招くという批判もあります。しかし、これも「効率的な小さな政府」か「非効率で大きな政府」かの二者択一ではなく、北欧諸国などのように、きちんと貧困と格差の問題を改善していく「大きくても効率的な政府」をめざすべきです。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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