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駅前トイレで寝泊まりするトリプルワークの女子高生、100円ショップの薬用オブラートで空腹まぎらわす子ども、深刻な6人に1人の子どもの貧困を深刻化させ経済成長も損なう安倍政権

(※2014年12月に書いた記事です)
日本の子どもの6人に1人が貧困状態に置かれている実態を告発する書籍の出版が最近目立っています。その中から、いくつか紹介します。
過酷なトリプルワークで睡眠2時間
駅のトイレで寝泊まりする女子高生
◆アルバイト代で学費や自分の生活費を稼ぐだけでなく、家計の援助もしなければならない高校生たち
◆100円ショップの50枚入り薬用オブラートで空腹をまぎらわす高校生たち
◆東京近郊の私鉄の駅前にある多目的トイレで寝泊まりする女子高生。彼女は午前6時から9時までコンビニのレジ打ち、午前10時から午後3時までファストフード店で働き、午後5時半から9時まで定時制高校の授業、その後、飲食店で深夜労働という過酷なトリプルワークをこなし学費と生活費を稼ぐ。時間がないので、駅のトイレで「1日に2時間眠れたらいい方」。
◆子どもたちが朝食を求めて行列ができる大阪の公立小学校の保健室。給食のほかは何も食べられない子どもなどが増えているため2008年から保健室で朝食を出すようになった。お金がかかるから歯医者に行けず、視力が低下してもメガネを買えない家庭も増えている。
◆「先生、孫だけでも夜、保育園に泊めてもらえませんか」「1カ月前から、家族で車の中で寝泊まりしているんです」
◆ガリガリにやせて、体がふらふらして保育園の廊下を真っすぐ歩くのが大変な子ども。
【保坂渉・池谷孝司著『ルポ子どもの貧困連鎖――教育現場のSOSを追って』(光文社)より】
病気になっても病院で診てもらえない
予防接種も受けられない子どもたち
◆大阪の公立高校。修学旅行に行く2年生140人中、家庭の経済的事情で積立金滞納などによって20人が修学旅行を欠席。
◆月8千円の学童保育料が払えず留守番をする小学生。
◆無保険の中学生以下の子どもは全国に約3万2千人。無保険世帯の子どもを年齢別にみると、0~6歳の乳幼児は5,275人、小学生は1万6381人、中学生は1万1120人(2008年、厚労省調査)いることが分かり、2009年春から国保法改正で滞納世帯でも中学生以下には短期証が交付され、窓口での全額負担をしないですむようになった(2010年7月から高校生も短期証発行の対象となった)。しかし、滞納以前に高額の保険料が壁となり、国保に加入しない「本当の無保険」の家庭がある。国保加入を前提にした法改正には、すべての子どもを救いきれていない落とし穴が残っている。子どもの無保険問題に取り組む大阪社会保障推進協議会(大阪社保協)によると、金銭的事情で保険証の取得が念頭になかったり、保険申請の仕方がわからなかったりする保護者もいる。だが、厚生労働省は「基本的に何の保険にも入っていない人はいない。加入手続きをするのが大前提」と、国民皆保険を強調し、無保険者の実態を調査していない。大阪社保協の調査(2012年)によると、所得200万円の40歳代夫婦と未成年の子ども2人の4人世帯の場合、大阪市内の自治体の平均国保料は約41万円。高いところだと、守口市で約50万円だ。寺内順子事務局長は、「ご飯を食べないで保険料を払え、というのは絶対おかしい。親の事情がどうであれ、子どもは社会で守られなくてはならない。子どもに限っては未加入でも国保に入っているとみなすなど、医療費負担を減らす仕組みを作るべきだ」と指摘する。
◆毎年約1千人の子どもがかかる細菌性髄膜炎のうち、肺炎球菌が原因の場合は約7%が死亡し、約4割で手足のまひや知的障害が残る。この細菌性髄膜炎を防ぐ予防接種を受けた割合は、被用者保険91%、国保9%(日本外来小児科学会での高崎中央病院の鈴木隆院長の報告。2010年4~7月の調査。同院での予防接種の自己負担は5,250円から6,300円)
◆短期証が、子どもの健康格差を根本的に解決してくれるわけではない。和歌山市の生協こども診療所長の佐藤洋一医師は、2012年4~6月の間に、同診療所で受診歴があり、ワクチン接種した就学前の子どもを対象に、麻疹・風疹混合ワクチンの接種状況を調べた。通常の国保と社保の保険証を持っている場合、どちらも40~50%が接種していた。しかし、短期証の場合0%。
◆インフルエンザが流行していた時期、クラスの子が3日間学校に来なかった。心配になって家に電話したら、父親は「インフルエンザになっても病院に行くお金がないから休ませる」(高知県内の小学校の男性教諭)
【中塚久美子著『貧困のなかでおとなになる』(かもがわ出版)より】
――こうした子どもの貧困が深刻化するなか、下のグラフにあるように、所得上位10%の富裕層による富の独占は増えていて、直近データの2010年で日本全体の富の40%以上を独占しています。
そして、下のグラフは、内閣府「年次経済財政報告(経済財政白書)」(2009年)に掲載されている「再分配効果の国際比較」です。
上のグラフを見て分かるように、日本は「公的移転による再分配効果」は下から3番目、「税による再分配効果」は最下位です。このグラフは2009年のデータによる国際比較ですから、まだ消費税の税率が5%のときのものです。消費税は低所得者に高所得者の2倍以上の負担を強いる逆進性の高い税金ですから、「税による再分配効果」はマイナスです。日本は消費税率5%の時点ですでに「税による再分配効果」は世界最下位ですから、消費税だけの再分配で考えるとすると、消費税率8%、10%への引き上げによって、「税による再分配効果」はますます下がってしまうことは明白です。
そして、「公的移転による再分配効果」が低く、社会保障費が今でも少ない日本で、安倍政権はさらに社会保障費を削減しようとしています。
政府が年内に決定する「2015年度予算編成の基本方針」の原案が17日、明らかになった。膨張を続ける社会保障費について「『自然増』も含め聖域なく見直す」と明記し、歳出抑制を目指す姿勢を打ち出した。
出典:時事通信12月18日付け 社会保障「自然増含め見直し」=新規国債はマイナス-15年度予算方針原案
加えて上のグラフにあるように、そもそも社会保障費が財政赤字の原因ではありません。それなのに安倍政権が2015年度予算で強行しようとしている社会保障費削減と4月からの消費税増税は、それ以前からすでに世界最低レベルであった「公的移転による再分配効果」と「税による再分配効果」をさらに押し下げます。「再分配効果が低くなる」ということはいったいどういうことなのか、私たちはきちんと具体的に考える必要があると思います。それは、日本社会において、6人に1人の子どもが貧困状態に置かれている現状をさらに深刻化させるということです。最初に紹介した子どもの貧困状態がもっと深刻化し、さらに多くの子どもたちが貧困の中に放置されるということです。
こうした安倍政権の社会保障費削減と消費税増税路線は、貧困と格差の拡大を加速させるものですが、じつはこれでは経済成長そのものを損なうというワーキングペーパーをOECDが12月9日に発表しています。
「所得格差は経済成長を損なう」と題したOECDのワーキングペーパーは要旨次のように結論づけています。
◆富裕層と貧困層の格差は大半のOECD諸国において過去30年間で最も大きくなっている。(上のグラフ参照)
◆現在、OECD諸国では人口の上位10%の富裕層の所得が下位10%の貧困層の所得の9.5倍に達している。1980年代には7倍だった。
◆この所得格差の拡大は、経済成長を大幅に抑制している。
◆格差拡大のために経済成長率はこの20年間でアメリカで6%、日本で5.6%押し下げられた。
◆経済成長にとって最も重要なのは、置き去りにされている低所得の世帯である。
◆貧困層ばかりでなく、下位40%の所得層=中間層の所得低下も実際に経済成長にマイナス影響をもたらしている。
◆租税政策や移転政策による格差是正、再分配の取り組みは、子どものいる世帯や若年層を重視すべきである。とりわけ、子ども、若年層への教育と、人的資本投資として生涯にわたる技能開発や学習を促進すべきである。
【OECDワーキングペーパー「所得格差は経済成長を損なう」より】
このワーキングペーパーの発表に伴って、東京新聞によると、英紙ガーディアンは1面トップで「OECDはきょう、トリクルダウンという考え方を捨て去った」と報じているとのことです。
OECD(経済協力開発機構)というのは、先進諸国が協力して経済成長をめざすために調査等の取り組みを進めているところですから、今まで基本的に、トリクルダウン、新自由主義的な考え方でやってきたわけです。それでやってきた結果、各国で貧困と格差が拡大して、経済成長をも損なっていることが分かったというわけです。
そうすると、トリクルダウンの典型であるアベノミクス(法人税減税、消費税増税、社会保障削減、労働法制全面改悪)も、「経済成長を損なう」ことになります。「景気回復、この道しかない」とする安倍首相の「この道」は、「所得格差拡大で経済成長を損なう道」でしかないことが、皮肉にも経済成長をめざす先進諸国クラブ=OECDによって証明されてしまったのです。
このOECDのワーキングペーパー「所得格差は経済成長を損なう」は、12月9日に発表されたばかりですから、まだ安倍首相は読んでいないかもしれませんが、ぜひ安倍首相には、先進諸国における過去30年間の格差拡大の総括で出たこの結論をきちんと学んでもらって、アベノミクスの方向を全面的に転換していただきたいと思います。