犯罪者をモンスター化し死刑・厳罰化すすめれば囚人爆発と治安悪化の悪循環うむ、厳罰化は追い込まれて間違い犯した人間を報復で苦しめもっと悪い人間にしようとするもの=“囚人にやさしい国”ノルウェーからの提言

  • 2015/10/10
  • 犯罪者をモンスター化し死刑・厳罰化すすめれば囚人爆発と治安悪化の悪循環うむ、厳罰化は追い込まれて間違い犯した人間を報復で苦しめもっと悪い人間にしようとするもの=“囚人にやさしい国”ノルウェーからの提言 はコメントを受け付けていません。

(※きょう10月10日は、第13回「世界死刑廃止デー」です。2009年10月に書いたもので少々古いですが、紹介しておきます)

2009年10月25日にNHKBSで放送された「未来への提言 犯罪学者ニルス・クリスティ~囚人にやさしい国からの報告」の内容が、とても興味深かったので要旨を紹介します。(※文責=井上伸)

いま世界では犯罪者への刑罰をより厳しくする「厳罰化」の流れが加速しています。その結果、刑務所に収容される囚人の数が多くの国々で増加。「囚人爆発」とも呼ばれる世界的な現象によって、暴動や感染症の拡大などの問題が噴出しています。

こうしたなか、世界でもっとも“囚人にやさしい国”として注目されているのがノルウェーです。まるで自宅でくつろいでいるかのような囚人たち。テレビやパソコンも自由に楽しめる快適な刑務所生活。休暇を取って自宅に帰ることもできます。

囚人に寛容なノルウェー社会。その社会のあり方には裁判に参加する「参審員」と呼ばれる一般の市民が大きな役割を果たしています。「参審員」は、犯罪者が置かれた社会状況や家庭状況などを理解することで、厳罰を下すことに慎重になるのです。「参審員」を経験した一般市民の多くが、犯罪へと追い込まれていった社会的な背景を目の当たりにすることによって、問題となる状況に置かれることで「誰が犯罪をおかしてもおかしくない」「自分と犯罪者は同じ人間に過ぎない」と思い至るのです。

かつてノルウェーでも厳罰化が進められましたが、その流れに強く反対し、ノルウェーの司法制度を市民参加型へと導いたのが犯罪学者でオスロ大学法学部教授のニルス・クリスティさんです。クリスティさんの唱える市民参加型の刑事政策は、北欧諸国はもちろんのことイギリスやオーストラリアなど多くの国に影響を与えてきました。

「私は凶悪犯罪をおかしてしまった多くの人と会ってきましたが、これまでモンスターのような犯罪者に会ったことはありません。どんな犯罪者でも人間です。生活環境を整えれば必ず立ち直ります」、「犯罪につながるような問題、たとえば貧困や差別、ドラッグなどの問題は、市民も参加して話し合うことが必要なのです。身近な場所で話し合うことによって解決の道が見い出せるのです」と語るクリスティさん。

社会から犯罪を減らすためには、いま何が必要なのか? 私たち市民の役割とは何か? 日本で進む厳罰化の流れにずっと疑問を感じてきた映画監督で作家の森達也さんがクリスティさんを訪ねました。

日本が厳罰化へ舵を切ったのは1990年代。多くの人が無差別に命を狙われた地下鉄サリン事件の頃からでした。この10年間で死刑囚は2倍増。さらに少年による凶悪犯罪が相次ぎ、刑事処分の対象となる年齢は16歳から14歳へと引き下げられました。

ノルウェーやフィンランドは厳罰化とはまったく逆の政策を取り、しかも治安もよくなっています。つまり、「厳罰化イコール治安がよくなる」とは言えず、むしろ逆のことが起こっているのです。

森さんの最初の訪問先はノルウェーのオスロ刑務所。収容されている囚人はおよそ400人。森さんが訪ねたときはちょうどランチタイム。刑務所の所長と囚人たちが一緒のテーブルで談笑しながらランチを食べています。驚いた森さんが、日本の刑務所ではこんなことはありえず、非常に厳しい環境に受刑者は置かれると説明すると、受刑者は、「刑務所でそんな暮らしをしていたら社会に戻るのが難しくなりますよね。日本の刑務所は変えた方がいいと思います」と語り、刑務所の所長は、「こういう環境にしているのは、最終的にはちゃんと社会に戻って欲しいからなのです。受刑者が厳しい環境ですごして、ひどい扱いを受ければ、そのままひどい人間となって社会に適応できなくなると考えているのです」と述べます。

 日本ではこの数年、死刑の判決や執行が増えています。死刑だけじゃなくこの十数年、厳罰化が進行しています。刑務所の過剰収容も問題になっています。

クリスティ いま日本やノルウェーでは、国民の1,300人から1,600人に1人が受刑者です。これは世界的にはとくに少ない割合です。他のヨーロッパ諸国ではもっと多く、なかでもイギリスは600人に1人の割合にまで悪化しています。そして世界で最悪の状態にあるのがアメリカです。アメリカはなんと国民の100人に1人が受刑者という恐ろしい状況です。これは日本やノルウェーの10倍以上にもなります。その原因は、国民の中でもっとも傷つき苦しんでいる社会的な弱者をないがしろにしていることにあります。人種差別や貧困と格差が広がっている社会がどんなに恐ろしい事態を招くのか。アメリカはその見本となっているのです。

ナレーション いま世界中の国々で、受刑者の数が著しく増加しています。世界的に治安のよさで知られる日本ですが、厳罰化の影響などもあり、15年前の2倍近くまで受刑者が増加しています。

世界でもっとも受刑者が多いアメリカ。その数は全米で230万人。いまや成人の100人に1人の割合にのぼっています。

アメリカで受刑者が急増したのは、いまから30年近く前。1980年代のことでした。低所得者層が住む地域を中心に南米から安いクラックコカインが大量に流入。中毒者による犯罪が激増しました。またこの頃から殺人や虐待など凶悪事件の恐ろしさがメディアを通じて盛んに社会に伝えられるようになり、「犯罪者は厳罰に処すべきだ」という世論が高まっていき、凶悪犯罪でなくても犯罪を3度繰り返すと厳罰に処すというスリーストライク法が導入されます。

スリーストライク法の導入から16年。受刑者の数は70%近く増加し、アメリカのほとんどの刑務所で過剰収容が問題となっています。収容人数の2倍の受刑者であふれ、体育館に3段ベッドを並べる刑務所。感染症の多発や、殺人や放火、暴動に発展することも珍しくなく、刑務所の環境は悪化の一途をたどっています。

こうした「囚人爆発」とも呼ばれる現象によって、アメリカではさらに深刻な問題が噴出しています。受刑者にかかる費用が増え続け、財政難に追い込まれる州が相次いでいるのです。そのため、刑務所内で行われていた教育プログラムが次々とカットされ、社会復帰に向けた基本的な技能や心構えを身につける更正という刑務所機能が大幅に削られているのです。

 アメリカのスリーストライク法をどう思われますか?

クリスティ まったくひどいものだと思います。スリーストライク法で、犯罪をおかした人と、一般市民との間にさらに大きな隔たりが生まれてしまいました。この法律には血がかよっていません。人間を機械的に扱っています。

 治安がよくなることを求めて人々は厳罰化を進めているのですが、逆にそれで治安が悪くなるということでしょうか?

クリスティ 現実にはそうなっています。なぜなら更正のために入る刑務所が、いま逆に悪いことを学ぶ学校になってしまっているからです。一般社会から遠ざけられ、塀の中に閉じ込められ、話すことができるのは受刑者同士だけなどという状況は明らかに破壊的です。

ナレーション いま世界で進む厳罰化。じつはノルウェーでも1960年代以降の少年犯罪の増加にともない、政府は厳罰化を推進しました。犯罪をおかした少年を隔離する政策をとります。しかし少年犯罪は減らず、再犯率は90%にまで達しました。そこで1970年代後半、ノルウェー政府は刑事政策の抜本的な見直しを始めます。犯罪者は社会から隔離するのではなく、逆に社会に積極的に出し、奉仕活動を行うことにより社会と関わらせるという「社会的刑罰」という考え方が導入されました。社会復帰のための更正が、刑務所の最大の目的になっていったのです。

凶悪犯罪をおかし、長期の刑罰に処せられた受刑者の多くは、貧困状態におかれ、経済的、家庭的に恵まれない環境で育ち、十分な教育を受けていません。ノルウェーの刑務所では文字の読み書きから、望めば大学レベルの授業まで受けることができます。与えられた仕事をこなせば、それ以外は自由にすごせます。炊事や洗濯など身の回りのことは自分で行うよう自立した生活をおくり、人間らしさを取り戻していきます。さらに周りの人たちと助け合って暮らすことで社会生活の基本を身につけていきます。また受刑者が自由に自宅に帰れる休暇制度は、家族や社会との関わりが途切れてしまわないように、ノルウェー政府が積極的に取り組んでいる政策です。

 日本人が一般的に思っていることは、犯罪をおかす人たちはとても凶暴で邪悪な人たちなんだということです。だから社会から隔離しなければいけないと思ってしまう。

クリスティ 日本の刑務所に入っている受刑者たちは、みんな普通の人間です。私たちは、彼らは特殊な人間なんだから、自分たちから遠ざけておきさえすればいいんだという考えはやめて、受刑者のことをもっと知ろうとつとめなければなりません。刑務所の環境についても、受刑者たちはもちろん、私たち市民もともに責任を持って考えていかなければなりません。日本の刑務所の状態をよく見れば、あの中にいること事態が拷問なんです。拷問は本当の意味で人を更正させることはできないのです。ノルウェーの刑務所でもかつてまずいものを食べさせるのが罰になると考えられ、ひどくまずい食事が出されていた時代がありました。それではダメです。たとえそれが犯罪者であっても衣食住の環境が劣悪であってはいけません。私は、世界の多くの刑務所のように、犯罪者をひどい状況に置けば、それに懲りて二度と罪をおかさなくなるといった考えは間違っていると思います。

 日本の刑務所の現状はまさしく言われたとおり、あってはいけない形そのものです。すべてがあてはまります。それはとても大きな問題だと思うのですが、同時にいまのこの厳罰化、あるいは刑務所の過剰収容、これは社会にとってどんな悪い影響を与えますか?

クリスティ いま多くの国では厳罰化を進め、劣悪な環境の刑務所にたくさんの受刑者を長期間隔離しています。このようなことを推し進める背景には、犯罪者が苦しめば苦しむほどいい社会につながるんだという考え方があるのですが、実際にはその逆に結果が現れています。

 いま僕はとても古典的な命題について考えています。それは罪と罰です。罰というのは苦痛を与えることなんだと、つまり傷つけることであると一般的には思っているわけです。

クリスティ その背景には刑罰とは報復であるべきだという考え方があるのです。しかしちゃんと学んできた方なら分かるはずです。受刑者のほとんどは、これまで生きてきた中で十分苦しんできたんだということをね。報復として刑罰で苦痛を与えるということは、追い込まれて間違いを犯した人をさらに苦しめ、もっと悪い人間にしようとすることなんです。

現代社会は、お互いを知らなさすぎるのです。一般の人たちは、犯罪者をモンスターだと思っています。しかし、私はこれまで数多くの凶悪犯罪をおかした受刑者に会ってきましたが、モンスターには会ったことはありません。社会的な生活環境を整えれば、彼らを人間として見ることができるようになるのです。「すべての人間は人間である」ということを忘れてはいけません。

 犯罪者と市民の間にある壁を取り払わなければなりません。すべての人間は人間である。こうしたあたり前のことを人は忘れがちで、犯罪者をモンスター化してしまいがちです。個々の犯罪者の固有の素養よりも社会的な環境によるものの方が大きいということを考えなければなりません。

クリスティ 加えて、犯罪をなくすためにはすべての人が生きる基盤を持たなければなりません。家はすべての人に生まれながらにして与えられるべきもので、決して奪われてはならないものです。この当たり前のことがみんなに広がって欲しいと願っています。

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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