参院選の野党共闘はU字回復の途中、政治家に私たちの声を聴かせよう、ポジティブなレジスタンス運動を|中野晃一上智大学教授(みどりさんのブログ「労働組合ってなにするところ?」より転載)

  • 2016/9/10
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ブログ仲間のみどりさんが中野晃一上智大学教授の講演要旨をブログで紹介しています。みどりさんご本人に了解いただきましたので転載させていただきます。

【▼みどりさんのブログ「労働組合ってなにするところ?」より転載】
第24回埼玉社会保障学校 第1講座
2016年09月06日

9月4日、埼玉県社会保障推進協議会主催の第24回埼玉社会保障学校が開催され、197人が参加しました。

第1講座は上智大学国際教養学部教授の中野晃一先生が講師で、「今後の日本の政治と憲法」というテーマで行なわれました。

中野先生は市民連合のメンバーとして、野党共闘のために日本全国を飛び回り、オール埼玉総行動の集会でもゲストスピーチをしてくださいました。

また、埼玉県出身で、1982年から85年まで埼玉大学付属中学校に通っていて、県庁に「憲法をくらしにいかそう」という垂れ幕が下がっていたのを覚えているそうです。その後は蓮田市に住んでいて伊奈学園に通い、大学は東京だったそうです。

中野先生は、今はいろいろな意味で辛い状況だと述べました。運動の中でも不平不満が出て来ているそうです。

参院選、都知事選の結果は残念なものでした。頑張ってきた人ほど、期待が高かった人ほど意気消沈し、疲労困憊してしまっているそうです。しかし、今は考え直したり、気分転換したり、本を読んだり、話し合ったりする時だと指摘しました。

真面目過ぎるのもよくなく、不真面目な政権が続いているのだから、こちらも真面目な部分と、ま、いいかという部分を持つべきだということも述べました。

がっかりしている人たちは読みが甘かったと指摘されました。野党の議席がV字回復することはなく、U字回復の途中だと考え、L字にしないように今後の努力をするべきだということが指摘されました。
成果と課題を整理すべきであり、まず成果が取り上げられました。

32の1人区で野党共闘が成立しましたが、複数区では共闘は行なわれなかったので、この二つは分けて考えるべきだということが指摘されました。自民党が弱い都市部が複数区であり、1人区は自民党が強い地方で、合区にされたところも与党が勝てるところだったそうです。非民主主義的な選挙制度の下で与党がのさばっているという状況であり、本来ならば政党ごとに選挙を闘うべきですが、歪な選挙制度に対するために無理を承知で共闘をしているのであり、考え方は違って当然だということが指摘されました。3年前の参院選挙では、31の1人区のうち29区で与党が勝利し、野党が勝てたのは沖縄と岩手だけだったそうです。ですから、今回11の1人区で野党が勝てたのはすごい成果だと指摘されました。つまり、自民党が強いはずの選挙区で野党が勝てたのだということをわきまえるべきだということです。

連合は、野党共闘すると「保守層が逃げると思われる」という考えを示しているそうですが、それは証明されていないということが指摘されました。

「中央公論」で、投票行動の専門家の菅原琢氏が参院選挙の結果分析を行なっており、共産党は候補を立てていない選挙区でも比例票に差はないので、共闘によって損はしておらず、共産党と民進党が組んだことで保守層の票が逃げたのかを、3年前の参院選挙の結果と比較して統計上の分析を行なうと、3年前に維新やみんなの党に入れた人たちは自民党よりも野党共闘の候補に投票しており、保守よりも反自民の方が強いということが示されたそうです。

次の選挙は衆院選挙なので、参院選の1人区のロジックが参考になるということが指摘されました。野党共闘がさらに説得力を持てば、相当の議席がひっくり返る可能性があり、与党は衆院の3分の2を失うことになります。自民党の細田氏は、簡単に衆院解散できる状況ではないと述べたそうです。このことは、自民党も民進党もわかっているということが指摘されました。

市民が後押しする野党共闘が都市部でも実現すれば、大きな効果が期待できるそうです。今回の参院選で「限界が見えた」とするのは誤りで、ジャムの蓋のように、1度めは開かなくても、その後もう1度力を込めてみれば開くことがあるように、今はもうちょっと頑張るべき時だということが指摘されました。

また、工夫や学びも必要であり、小選挙区であることを逆手にとって、自民党と野党共闘の対決を強調し、波及効果を狙い、「選挙に行かなきゃ」と思う人を増やすというやり方が今回は失敗しましたが、その原因が取り上げられました。

原因の一つに、マスメディアがひどかったことが挙げられました。選挙についての報道量がこれまでの3~4割減少し、争点どころか参院選挙そのものが隠されました。取材に来てもニュースにはならず、編集段階で止められてしまうということが続きました。上層部は「寿司友」である安倍首相や菅官房長官の考えを忖度してしまうのです。選挙戦が終わった途端、「日本会議」についての報道がされるというケースもありました。これは、日本会議が表へ出る方針に変えたからだそうです。

原因の二つめとして、野党共闘をつくるところで止まってしまったということが挙げられました。説得力のある形で野党共闘をアピールできなかったということで、政策的合意ができている部分がたくさんあったのに、それを示せず、「3分の2以上阻止」までしか主張することができませんでした。

原因の三つめとして、野党共闘に名前がなかったことが挙げられました。何を争点として、何を合致点としているかがアピールできなかったということです。新しい言葉をつくるとメディアはそれを解説するので、そうした習性をつかってアピールするべきだったということでした。

それでも成果はあったので、それをどうやって広げていくかが重要だということが指摘されました。

都知事選は特殊な状況であり、宇都宮さんから鳥越さんへの移行が不透明でした。枝野さんと小池さんが候補者調整をしていたそうですが、野党共闘をつぶさないということが課題であったため、決めるプロセスを表に出しませんでした。今後はもっと納得できるプロセスをつくるべきだということが指摘されました。野党が共闘するということは、投票したくない人に我慢して投票する、支持していない人のためにビラを撒くということなので、もっと気持ちよく応援できるように候補を選ぶ工夫をすべきだということが指摘されました。都知事選に学んで、公開討論など、わかりやすい形にしなければ、野党共闘は長続きしないということが指摘されました。

政策面では、民進党が党首選のために内向きになってしまっていますが、党首選後はそのブレを修正するはずだということでした。当選するためには野党共闘が必要だということがわかっているはずだからだそうです。イデオロギーの問題ではなく、連合系も保守系も原発賛成派も、地元では野党共闘に反対していないそうです。北海道5区の補選では、前原氏が池田候補の応援演説を行なうということまで実現しました。

今は、政治家が国民の声を聴くようにしつけているところであり、今回の成功例として三重県の例が示されました。三重県は保守の強い土地で、三重市民連合のメンバーでSEALDs東海の一員である若い保育士さんが選挙事務所に行くと、最初は冷たく扱われ、「おまえら何票持って来られるんだ」と言われたそうです。しかし、保育士さんは根気強く、冷たく扱われても毎日笑顔で選挙事務所に通う中で、がんばっている姿を見て候補者が変わっていったそうです。そして、最後には「市民の皆さんの協力で勝つことができました」とインタビューで言うまでになったそうです。

臨時国会に向けて、民進党の手綱を引き戻す必要があり、参議院選挙の時に言っていたことと違うことをするのかと言って、こちら側に戻すべきだということが指摘されました。

また、自民党も万全ではなく、内閣改造で石破氏がポスト安倍を狙って閣外に出て、ライバルの岸田外務大臣は閣外に留まっており、稲田氏を防衛大臣に据えてしまいました。石破氏はタカ派で危なっかしいのですが、靖国参拝はしないそうです。一番危なっかしいのはタカ派よりも更に右の歴史修正主義者だということが指摘されました。稲田防衛大臣は歴史修正主義者の代表格であり、極右の女性だから取り上げられているという人物です。新聞各紙が後継者として育てるためにこのポストにつけたと書いており、各紙が書いているということは、官邸が書かせているということであり、安倍首相がもう一期やると考えているということだということが指摘されました。安倍政権は、安保法は現状に合わせてアップデートさせただけだと言い訳していますが、稲田氏を防衛大臣につけたことでこの言い訳があやしくなっており、軍国主義のまき直しだという批判を避けられなくなっています。自民党内での不満も高まっているそうです。

こうした、相手をつまずかせることも必要であり、私たちがやっていることはレジスタンスだということを自覚し、言論の自由も教育も危なくなっている中で、抵抗運動として焦点をしぼって、やれることはやっていくべきだということが提起されました。

市民運動は盛り上がっており、中野先生には1日3~4件の講演依頼が殺到しているそうです。市民運動の熱波は広がっており、地方ではまだ実感がありませんが、地方にも変化が生まれてきているそうです。それを更に強くするには、若い人たちにどう広げていくかということが重要だと指摘されました。

今の大学生は大変で、出席しなくても単位が取れるという時代ではないので、授業には真面目に出ていて、学費は生活費のためにバイトも大変で、就職活動も大変で、将来の夢は正社員だという状況になっているそうです。

そんな中で、SEALDsが出てきたのは奇跡であり、予期せぬことだったと中野先生は述べました。そして、SEALDsは「場」をつくること、あなたたちが主権者だということを教えてくれたと評価しました。SEALDsのコールはシュプレヒコールではなく、コール&レスポンス、対話的なものです。有名なのが、「民主主義ってなんだ」「これだ」というコールです。また、秋になり、コールのテンポがゆっくりになったそうですが、それは中高年の参加が増えたので、中高年がついてこられるようにするためだったそうです。そうしたコミュニケーション能力の高さ、工夫、柔軟さも特徴です。

SEALDsの原点として、ゆとり世代であり、失われた10年、20年しか知らない世代であること、デジタルネイティブの世代であること、東日本大震災、がれきの日本を経験していることが挙げられました。彼らは、がれきの中から出発し、絶望するのに疲れた、ネガティブなことにはあきた、ポジティブなことを聴きたい、正しいことは伝えなければおかしいと考えているそうです。

大学はまだ合理的なことが通るところで、元気で優秀な女子学生が多いそうですが、しかし、就職活動の段階で不合理なことが待っています。あまりにも状況がひどいので、自分が変えることができるのは何なのかという、ポジティブなことを提示しなければならないということでした。

市民連合、野党共闘の原点の一つは、「個人の尊厳を守ること」であり、そのために政治はあると考え、個人の尊厳を最も踏みにじるのが戦争であると考えています。人権侵害についての闘いというのは若者に伝わりやすく、正義感が働くところだそうです。LGBTの人権問題から運動に入ってくる場合もあるそうです。SEALDsは男女平等で、女性がデモ交渉やコールもやっているそうです。

ポジティブに何かをやっていくことを提示しようということを呼びかけて、講義は締めくくられました。

質疑応答では、レジュメの中にあって説明がされなかった、「敷布団と掛布団」とは何かということが質問されました。

これは、中野先生が去年の6月頃の集会で話したことだそうです。SEALDsや学者の会など、新しくできたグループが注目されていたので、それらを「掛布団」にたとえ、しかし、いくら立派な新しい掛布団があっても敷布団がないと寒くて眠れないように、長い間平和運動を支えてきた人たちがいるからこそ運動ができていると、長い間運動してきた人たちを「敷布団」にたとえたそうです。そうしたことはSEALDsのメンバーたちも思っていて、彼らに共通しているのは、親や先生、沖縄への修学旅行での経験など、上の世代の影響を受けているということだそうです。あるSEALDsのメンバーは、「君が代」不起立を貫いている先生の教え子で、出勤停止になっても先生は校門の前に立ち、なぜ不起立をするのかを訴えていたそうです。その時は先生に話しかけることはできなかったそうですが、SEALDsの国会前行動でその先生と再会したそうです。それぞれのエピソード、ストーリーがあり、自分たちも種をまいていくとSEALDsのメンバーたちは言っているそうです。市民連合も同じで、孫世代からおじいさん世代までが参加し、多様な人たちが手を携えているのが野党共闘と下地であり、お互いにリスクペクトし合っているとのことでした。

以上で第1講座の報告を終わります。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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