ブラック早稲田大学を刑事告発 – 教員の6割占める非常勤講師4千人を捏造規則で雇い止め|首都圏大学非常勤講師組合・松村比奈子委員長

  • 2015/8/24
  • ブラック早稲田大学を刑事告発 – 教員の6割占める非常勤講師4千人を捏造規則で雇い止め|首都圏大学非常勤講師組合・松村比奈子委員長 はコメントを受け付けていません

(※2014年7月にアップしたものです。このブラック早稲田大学問題の続編を、現在、新雑誌『KOKKO』で準備中です。乞うご期待!)

NHKニュースが次のように報道しています。

理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーが3年前に早稲田大学に提出した博士論文について、大学の調査委員会は「多数の問題箇所があり、内容 の信ぴょう性、妥当性は著しく低い。審査体制に重大な欠陥、不備がなければ、博士論文として合格し、博士学位が授与されることは到底考えられなかった」と 認定しました。しかし、調査委員会は、この理由について小保方リーダーが誤って下書き段階の論文を提出した過失によるものだとしていて、博士号の学位を取 り消す行為には該当しないと判断したとしています。

出典:NHKニュース「小保方リーダーの博士号取消さず」2014年7月17日

この件は続報を待つとして、早稲田大学つながりで、2013年6月に私がインタビューした「ブラック大学」問題を紹介します。(※この早稲田大学に対する刑事告発・告訴は2013年末に不起訴となっています。詳細は→首都圏大学非常勤講師組合 早稲田ユニオン分会のサイトへ)

首都圏大学非常勤講師組合 松村比奈子委員長 インタビュー

――今回の早稲田大学における非常勤講師雇い止めの背景にあるのが労働契約法改正問題ですが、そもそも非常勤講師は5年経過して無期雇用に転換されたとしても専任の教員になれるわけではありませんよね?

そうです。今年4月から施行された労働契約法改正は、すべての有期雇用労働者が5年を超えて更新していく場合は、6年目に労働者の申し入れにより無期雇用に転換できるという画期的なルールが導入されたと言われているので、私たちも無期雇用とはすばらしいなと最初は思いました。

ところが、いろいろ考えていくとそうではない。たとえば大学の非常勤講師は細切れパート労働なんですね。極端な場合は週1回、大学で1コマ90分だけの授業をやることもあります。その場合に、それが無期雇用に転換されるというのがどういうことかというと、お互いに辞めたいと言い出さない限り、週1回1コマの授業がずっと続くというだけのことです。労働条件は直近のものでかまわないと法律の中にも書いてあるので、賃金が上がるわけでもありません。ただ単に、カリキュラムの変更などがない限り働き続けられるというだけです。それは今回の労働契約法改正以前からそうでした。授業が存在していればずっと雇用が継続されて、10年も20年も働き続けている非常勤講師は多かった。だから事実上、私たちは無期雇用されていたので、「無期雇用に転換されました」という言葉ですごく評価されたような気がするけれど実はまったく現状は変わらないわけです。

「任期付き教員の無期雇用」への波及を恐れた?

私たちが考えている理由は2つあります。1つは、有期雇用の研究員や任期付き教員が無期転換されると、立場的には専任教員になるので、その場合は財政負担が出て来ますので大学当局は非常に困るわけですね。そういう流れに非常勤講師の無期転換がつながる危険性があると早稲田大学は考えたのではないでしょうか。

もう1つは、労働契約法改正で非常勤講師を無期転換した場合、将来的に雇い止めする事態になっても労働者側がおそらく反発してくるのではないかと考えたのだと思います。今は雇い止めしやすいが、将来的には雇い止めが困難になることを恐れたのではないでしょうか。

――5年雇い止めの就業規則をつくるために、大学側はいろいろ不当なことをやっていますね。

早稲田の中で非常勤講師の就業規則がつくられているらしいということに私たちが気づいたのは、去年の12月です。それでいろいろと資料などを調べてみたら、どうやらかなり早い段階で早稲田はこの件について対策を考えていたということが分かりました。少なくとも私たちが把握している範囲では、遅くとも昨年11月には労働契約法改正に向けて早稲田内の任期付き教職員を何とかしなければいけないと話し合っていました。どこの大学でも、雇用管理は非常にルーズなところがあったので、労働者側はこの法律が出てきて期待をするのではないか。だからそれに対抗する必要があると考えたのだろうと思います。

労働契約法の今回の問題では6年目に入る前に18条で規定された無期転換を阻止する必要があるから5年上限を就業規則でかけてしまえばいい。ただ単純に5年上限をかけると、労働契約法の趣旨に反するということで裁判などの問題が起きるかもしれない。そういうことを昨年11月の時点で予測しているんですね。

その後、今年1月にもいろいろ議論されているようなんですが、非常勤講師の方にいきなり送りつけてきた就業規則には、「早稲田ビジョン150」という早稲田の将来計画を推進するために、このような対応を取らせていただきますという文書が来ています。要するに、昨年11月時点での早稲田の考え方によれば、単に5年上限にすれば労働契約法の趣旨に反することが明白になってしまうので、何か別の理由が必要だろうと考えて、「早稲田ビジョン150」に基づいて「教員を流動的に雇用する」というのがいい。これを使おうということになったのではないかと思われます。

実際に私たちは、早稲田の職員が持っている「非常勤講師から就業規則に関する質問が来たらどう対応するか?」というマニュアルを入手しました。そのマニュアルには徹頭徹尾「早稲田ビジョン150」を根拠に、「5年上限や4コマ上限について説明してください」ということが書かれています。明らかに労働契約法改正18条に対する対策が、早くから検討されていたということが分かります。

それから、20条の対策もあります。20条というのは、有期のみを理由とした差別の禁止です。少なくとも非常勤講師は、授業を行っている段階においては専任教員と全く責任は異なりません。ですが、専任教員と非常勤講師との間には説明の付かない賃金格差がありますので、何かそこに職務内容の格差を設けないと、説明がつかないということで法に引っかかる可能性がある。これは早稲田だけの問題ではありませんが、そういう理由で4コマ上限を設け、一方で専任教員にはもっとたくさんコマ数を持てと言って、専任教員と非常勤講師ではもともと職務内容が違うんだという形を取ろうとしている。そうした動きがあったことが今年1月までの大学側の資料等を調べると分かってくるんですね。

“幻の信任投票用紙”

――実際に新しい就業規則をつくる際には、労働基準法では労働者の過半数代表から意見を聞く義務がありますが、この点についての経緯はどうだったのでしょうか?

そうしたことは、労働法の先生が理事ですから知らないわけはありません。ですから早大当局は実際に非常勤講師の教員ボックスに労働者代表を選ぶ信任投票用紙を配布したと言っています。しかし、大学当局が配ったと称する春休み期間に非常勤講師の中で見た人が誰もいないのです。ですから、私たちはこれを“幻の信任投票用紙”と呼んでいます。

――非常勤講師の皆さんが春休みで見る機会がない時に用紙が配られたということですか?

そういうことですね。たとえば法学部では2月6日からはロックアウトされてしまう。閉室されて大学に入ることができなくなるので、その期間に非常勤講師が来ることはありません。大学のホームページによると、ロックアウトは2月6日から2月23日までと書かれています。大学に入ることもできない時期に、大学側は配布したと言っている。

また、その幻の信任投票用紙には、すでに立候補者名が書かれていました。早稲田大学には7つの事業所があるようなのですが、それぞれの事業所の代表の氏名が書かれていて、それを信任してくれということなんです。そして不信任の場合のみ郵送で投票用紙を送れとあり、しかもその郵送先は選挙管理委員会ではなく、専任の教員組合内です。しかも不信任にする場合は、その事業所名と代表候補者名を書き、自分の所属と自分の氏名を書いて判子まで押さなければならない記名投票なんですね。非常勤講師にとって専任教員というのは、自分の授業の雇い止めに関係してくる人達です。決めるのは教授会ですが、専任教員に自分の名前が知られるということは自分のクビが危うくなる危険性がある。とてもそんなことはできるはずがありません。しかも投票期間は2月14日から28日までの2週間で、すでに候補者は決まっている。そうした状況からして、非常勤講師が投票できる可能性はほとんどありません。

「幻のポータルサイト」と「誰も見ない教員ボックス」

――大学側はサイトに掲示したと言っていますね。

そうです。早稲田大学には教員が見られるポータルサイトがあるのですが、大学側はそこに掲載したと言っています。ですが、そもそもポータルサイトを見る義務は非常勤講師にはありませんでした。しかも年度の授業は1月で終わっています。次の契約更新で授業が始まるのは4月ですが、普通、大学というのは次年度の授業に関してはすべて郵送で文書を送ってきますから、そういう時期に掲載しても、ポータルサイトを見る人はいないでしょう。ですから周知したことにはならないのです。

それから、政経学部では、1月頃に非常勤講師の控え室に「閉室する前に教員ボックスの中身を整理してください」というお知らせが出るそうです。それは教員ボックスも移動したりするので、来年度の仕事をされない先生がいると教員ボックスの位置が変わってくるわけです。だからロックアウトまでに教員ボックスを空にしろという趣旨の掲示が貼られるのです。そうすると、もう授業が終わって来年度を待つばかりの時期に、そもそも教員ボックスにお知らせが入るわけもありませんし、非常勤講師の方も大学の教員ボックスを見るということは考えられないわけです。大学当局自身が教員ボックスを空にして掃除しろと言っているわけですからどう考えてもおかしな話なので、「本当は入れてないんじゃないか?」と疑う非常勤講師の方もいるほどです。そしてポータルサイトの方も掲載されていたかもしれないけれど、義務はないし実際に見た人も誰もいないので、これも実際は分からないのです。

「手続き通りの就業規則の制定は事実上できない」と発言

――1回目の団交はどういう状況だったのでしょうか?

1回目の団体交渉は、3月19日の7時から10時まで3時間に及びました。その意味では大学当局は誠実な対応だったとは思います。ただ、冒頭に「通常は参加しないが、今回は特別」と触れ込みが付いて、人事常任担当理事が出席しました。その理事が冒頭に延々と「早稲田ビジョン150」の説明をして、そこから団体交渉が始まったんですが、私たちはその時はまだ投票が行われていたことは知りませんでした。ただ就業規則をつくる予定だと聞いていたので、その件について団体交渉に臨んでいました。ところが理事側が言うには、就業規則はもう出来ているというわけです。就業規則は今までになかったものですから、それを制定するには過半数代表の労働者の意見が必要でその手続きはどうしたのか?と聞いたら、すでに意見は聴取していると言う。非常勤講師も労働者ですから、少なくとも何らかの関与がなければいけません。非常勤講師は何も聞かされていないが、どうやったのか?と聞いたところ、過半数代表選挙をやったと言うわけです。そこで出てきたのが、“幻の信任投票用紙”でした。私たちはそこで初めて投票用紙を見たのです。団交の場には早大の非常勤講師の当事者も参加していたのですが、その方も「この投票用紙を私は初めて見ました」と言っていました。

それをどうやって非常勤講師に配ったのか聞いたところ、3,799枚を各事業所に配布するよう通知し、教員ボックスに配布したという説明だったのです。その文書の日付を見ますと、信任投票用紙の告示日が2月14日で投票日は2月28日までとなっていたので、「この期間はすでに大学の授業は終わっていませんか?」と聞きました。参加していた当事者である早大の非常勤講師の方も「これ間違いじゃないですか?」「2月14日なんて誰も大学に来てないですよ。ロックアウトされているじゃないですか」と指摘しました。

早稲田は事業所が多いので、学部ごとに異なる可能性があって一概にすべてがそうだとは決めつけられないのですが、少なくとも本部キャンパスや西早稲田キャンパスは「間違いなくこの時期の選挙は変だ」と非常勤講師の方から問題提起されたわけです。そこからやりとりが始まっていったんです。しかし大学側はとにかく教員ボックスに入れたし、ポータルサイトでもお知らせしたんだから知ってるはずだと言い張る。いろいろ議論した結果、理事が「非常勤講師の就業規則を制定するのに、手続き通りやろうとした時、これは事実上できません」と言ったのです。これは団交の時に双方が録音していますので、向こうももちろん分かっているのですが、この言葉が出た時、私たちは本当に驚きました。手続き通りやろうとした時できないというのは、明らかに違法であることを認識してやっていると言わざるを得ません。

理事が「手続き通りやったらできない」と言ったことに対して私たちは驚いたけれど、そうであればなおのこと、つまり理事が違法性を認識しているのであるから、これは問題だということで、もう一度過半数代表選挙をやり直したらどうか?と私たちは提案しました。確かに就業規則をつくる権限は大学側にありますが、過半数代表選挙に問題があるのならば、それをやり直せばいい話です。やり直すこと自体はそんなに難しいことでも何でもないはずです。それでやり直しを提案したのですが、「お話は伺っておく」と理事は答えるだけで、団交は打ち切られ、その後、3月25日に「やはり就業規則は予定通り施行する」と言ってきたわけです。

――それで3月28日に緊急院内集会を開催して、対応を検討して4月8日に刑事告発をしたわけですね。

集会は、早稲田のためではなく予防策でしたが、結果としてそうなりました。

労働者の過半数代表選挙のねつ造

――労基法90条違反ということですが、その中身を説明していただけますか?

その時点で知り得た情報の中で、明らかに労働基準法違反だろうと思ったことはいくつかあります。

ひとつは、労働者の過半数代表選挙です。就業規則そのものが違法ということではなく、それを制定する際に伴う手続きに瑕疵があると私たちは主張しているわけですが、その理由の1つは、先ほどの理事が言ったような、手続き通りにやろうとした時にそれはできないと違法性を認識しているということです。つまり、故意です。また、幻の信任投票用紙には「労働基準法90条の規定に則って代表選挙をやる」と書かれていますから、過半数代表選挙をやると言っていて、かつ手続き通りにやろうとした時にできないのであれば、偽装したことになりますよね。

大学というのは研究機関でもあるわけです。今、研究者の論文や実験のねつ造が非常に問題視されている中で、やはり早稲田大学は日本でも一流の大学ですから、教育機関でもあり研究機関でもあるところが事実をねつ造するというのはあってはならない。企業が違反するのとは別の意味で、大学だからこそ、そういったねつ造はやめるべきだということを、私は学者として強く思います。ねつ造、すなわち悪質であることが刑事告発の2つめの理由です。

3つめの理由は、この違法行為は何度も繰り返される恐れがあり、これを放置していると「これでいいんだ」ということで反復される恐れがある。現時点でもいくつか反復の跡が見られます。たとえば職員の36協定に関しても、非常にいい加減な過半数選挙をやろうとしているといった経緯を見ると、やはり反復性がある。故意性・悪質性・反復性の3点が揃えば、当然犯罪として処罰されるべきだと私たち法学者は考えます。

国際的に見ても許されない行為

――国際的に見てもユネスコから高等教育教員の地位の安定について勧告が出ていますね。

これは大学の内部でほとんど顧みられていないのかもしれませんが、ユネスコでは1966年の段階で「教員の地位に関する勧告」を出しています。そこでは、「教職における雇用の安定と身分保障が、単に教員の利益にとってだけでなく、教育の利益にとっても不可欠である」と指摘しているんですね。つまり教員が安定して教育できることが、結局、教育業界全体の利益になるんだということです。さらに1974年には「科学研究者の地位に関する勧告」も出しています。この場合の科学は、いわゆるサイエンスだけでなく社会科学や文学もサイエンスに入るので、ここで言っているのは大学教員と実質的には同じと考えていいと思います。

この勧告には、「国の科学および技術関係要員の不断の十分な再生産を維持するため、高度の才能を有する若い人々が科学研究者としての職業に十分な魅力を感じ、かつ科学研究および実験的開発が適度な将来性とかなりの安定性ある職業であるという十分な確信を得ることを確保すること」と明記されています。

これがユネスコが締約国に対して要求していることです。国際的な視点からも、安定した地位が科学研究や教育に欠かせないということが、繰り返し言われているということです。

また、1966年の勧告は小中高の教員もすべて含めていますが、1997年には同じユネスコで「高等教育教員の地位に関する勧告」というのも出ています。これがまさに大学教員の地位に対する勧告で、「高等教育教員の勤務条件は、効果的な教授、学問、研究および地域社会における活動を最大限に促進し、ならびに高等教育教員がその職務を遂行できる最善のものであるべきである」と最初に前置きした上で、さらに46項で「雇用の保障(中略)は、高等教育および高等教育教員の利益に欠くことのできないものであり、確保されるべきである」とダイレクトに大学教員の雇用の保障が謳われているんですね。さらに53項にも「高等教育教員の給与、勤務条件および雇用条件に関する全ての実行は、高等教育教員を代表する組織と高等教育教員の雇用者との間の任意の交渉の過程を通じて決定されるべきである」としています。

つまり話し合いと合意に基づいて、高等教育教員の労働条件を決定すべきだと指摘しているわけですね。もちろん話し合いと合意というのは民主主義におけるすべての基本です。それを改めてここで言っている。これに対して早稲田のやっていることは、話し合いと合意と言えるのか?ということです。今後、早稲田大学が国際的な地位を確保していきたいのであれば、ユネスコが勧告していることを真摯に考え、自分たちのやってきたことをきちんと検証すべきだと思います。

話し合いと合意は人権尊重の根本

それと、私は憲法学が専門ですが、話し合いと合意というのは単に民主主義だけでなく、憲法の人権尊重の根本だと思うのです。日本国憲法の条文の中で、いちばん重要な条文はどこか? と聞かれたら、それは憲法13条だと私は答えます。そこには「すべて国民は個人として尊重される」と書かれています。つまり私たちは集団の一部ではなく個人なんだと書かれています。個人として尊重されるというのは具体的にどういうことか。たとえば目の前にいる人に対して「あなたを大事に思っていますよ」というイメージを伝えたい時にどうするか。その場合、たとえば相手が何か言いたいことがある、あるいは相手が一生懸命自分に向かってしゃべっている時に、その人の目を見て答えたり聞いてあげたりすることです。話を聞くというのは、個人の尊重のいちばん分かりやすい基本的な姿勢なんです。もちろん就業規則については労働者の就業規則ですから、労働者の話を聞くということが法律で要求されています。しかし別に法律で要求しなくても、人権を尊重するならば、まずその人の話を聞くことが重要です。これは最低限の国民としての義務だと思うんですね。あるいは社会人としての義務です。その上で、「しかしあなたの言い分は受け入れられません」という場合もあるでしょう。ですから就業規則というのは、意見書を添付して労働基準監督署に出せば有効になるわけです。意見を聞いたということですから。つまりその意見書は必ずしも就業規則に賛同していなくてもいいのです。

だから、法律で強要されているかどうかという以前に、その人に関することはその人に聞くということが人権として要請されている。しかも大学というのは、社会人を教育する、社会人を生産する機関ですよね。そういった教養ある人を生産するところが、人権の尊重に反するような行為をやるというのは許せない。この点が今回、早稲田大学を刑事告発する根本にあるといえます。

2回目の団交で矛盾深める早大当局

――2回目の団交の状況はどうでしたか?

6月6日に行った2回目の団交も午後7時から11時くらいまで4時間に及んだのですが、中身は1回目の団交よりも後退して、進展がほとんどありませんでした。原因は理事が今回出て来ず、代わりに代理人と称する弁護士が出てきて、しかもその弁護士が前回の理事とは違うことを言い始めたからです。そうすると、話が矛盾しているので結局そこで止まってしまうのですね。前はこう言っていたのに、「いや違う、そんなことは言っていない」という会話に終始してしまい、それより前に進まない。そうしたことの応酬で終わってしまったというのが2回目の団交です。

ただ、2回目の団交で分かったことは、1回目と矛盾することでもあるんですが、教員ボックスにも入れたがメインとなる周知はポータルサイトであると言う。教員ボックスはおまけで、ポータルサイトに掲載したことが重要なんだと今度は言い始めた。だけどそこに対する閲覧の義務が非常勤講師にはないわけですので、ますます迷路に入っていくような感じです。ポータルサイトで周知したと強調することの意味は、ポータルサイトは非常勤講師だけではなく、専任教員も見ることができるからです。

つまり、大学側は当初は非常勤講師に3,799枚の信任投票用紙を配ったと1回目の団交で主張していたのですが、今度はポータルサイトに置いたから専任の教員も信任投票の対象であったと主張しているんですね。大学内の全労働者のうち、専任教員と非常勤講師が過半数代表選挙に参加しているというのです。しかし一方で職員の方にはどうも周知していないようなので、結局過半数代表選挙ではないんですけどね。多少は人数が広がったといいますか、そこで違法性を薄めたいというのが大学側の目論見かもしれません。大学側の主張が変わってきていますが、それ以外の進展はありませんでした。

――そういう中で昨日、当事者が刑事告訴しましたね。

6月21日に、東京労働局へ早稲田大学の非常勤講師15人が集団で刑事告訴しました。

早大でまかり通れば全国の大学や企業に波及してしまう

――この問題について、首都圏大学非常勤講師組合は今後どんな展望を持っていますか?

この問題からは絶対に手を引きません。こんなことが許されていいとは思わない。話し合いと合意というのは、労働者だけではなく民主主義社会の基本です。そういう意味でも話し合いと合意を否定するような行為は、しかも今回の場合、特に法律に反しているわけですから、これは徹底的に追及していきます。これを認めれば全国の大学で同じようなことが行われることにもつながっていきますし、ましてや企業は当然、利益追求のために喜んで真似をするでしょうから、ここは私たちとしても引くことはできません。
2013年6月、首都圏大学非常勤講師組合 松村比奈子委員長談

▼インタビューの一部を視聴できます。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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