日本は180年前の「貧困の原因を怠惰」とする欧州レベルで民主主義の土台が危うい、財源ないという日本は世界人口1.8%に富裕層6.3%|都留民子県立広島大学教授(「労働組合ってなにするところ?」より)

  • 2016/9/10
  • 日本は180年前の「貧困の原因を怠惰」とする欧州レベルで民主主義の土台が危うい、財源ないという日本は世界人口1.8%に富裕層6.3%|都留民子県立広島大学教授(「労働組合ってなにするところ?」より) はコメントを受け付けていません。

ブログ仲間のみどりさんが都留民子県立広島大学教授の講演要旨をブログで紹介しています。みどりさんご本人に了解いただきましたので転載させていただきます。

【▼みどりさんのブログ「労働組合ってなにするところ?」より転載】
第24回埼玉社会保障学校 第2講座
2016年09月07日

9月4日に行なわれた第24回埼玉社会保障学校の第2講座の概要についてまとめます。

第2講座は、県立広島大学保健福祉学部人間福祉学科教授の都留民子先生が講師で、「社会保障は民主主義の土台」というテーマで行なわれました。

都留先生は、民主主義を発展させるために社会保障はなくてはならないものだと述べ、まずは「社会保障とは何か」ということから講義を始めました。

「人権」が生まれた時、最初に生まれたのは「自由権」だったそうです。自由を妨げられることに対する抵抗から「人権」が生まれ、市民革命によってそれが獲得されました。一番大きいのは経済的自由で、それまで抑えられていたブルジョワジー、商人や商工業者が、自由を得て豊かになりますが、自分たちの生産手段を持たない人たちは労働力を売るしかなく、労働者たちの貧困が問題となりました。

そこで、国家によって経済的自由を制限すべきだという考え方が生まれ、労働の規制、最低賃金、女性の保護などが行なわれるようになりました。さらに、労働力を売れない人、高齢者などの安くしか売れない人の貧困が問題となり、働けなくても生きていける権利、病気になっても生活できる権利を守るため、社会保障がつくられました。

自由権から社会権への発展は、19世紀末のヨーロッパで、資本主義の元での不況のために始まりました。その頃、貧困は怠惰であるとされており、1834年に救貧法がつくられますが、これは土地を失った農民などのためのもので、援助を受けるなら施設に入って労働をしなければならず、最下層の労働者よりも低い生活をしなければならないとされていました。これを「劣等処遇」と言います。しかし、マルクスの貧困の理論によって労働者の意識が変わり、労働運動が盛んになりました。そして、チャールズ・ブースが私費を投入して数年間ロンドンの労働者階級の調査を行ない、35%が貧困であり、原因の75%が不安定就業であることを明らかにしました。豊かな社会で貧困が増えており、貧民は一部の特殊な存在ではないということが認識されるようになり、労働者の政党が生まれ、特殊な貧民のための救貧法ではなく、労働者を中心とする社会サービスや社会保険がつくられるようになりました。

また、労働者を正規雇用にすべきだとされるようになりました。失業すれば生活できないので、労働者はどんな条件でも働かなければならないので、職業の安定を確保し、競争することによって安価な労働力になることを防止すべきだという考え方が生まれたのです。

自由競争から独占期へ向かうヨーロッパにおいて、どんな金持ちでも給付を受けられるという普遍的な平等を実現し、負担については所得への累進課税と使用者負担によって社会保障を維持するという仕組みがつくられました。増税しなければ社会保障はできないということです。

そして、ファシズムとの闘いから社会保障が生まれました。第一次世界大戦後、1929年に世界大恐慌が起こり、失業者があふれました。ドイツでは緊縮財政が行なわれ、ナチスや共産党が支持を伸ばし、アメリカやフランスでは公共事業で失業者救済が行なわれました。

ファシズムとの闘いのために、フランスでは人民戦線がつくられ、1934年にゼネストを行ない、1936年には反ファシズム統一戦線がつくられました。人民戦線政府は、週40時間労働制、週休2日、2週間のバカンス、8~18%の賃上げを約束しました。そして、スポーツ・余暇大臣となったラグランジュは、「余暇のなかにこそ、労働者・農民そして失業者が生きる喜びや、自らの尊厳の意味を発見することを希望している」とし、運動場、プール、競技場を整備し、劇場の割引券やバカンスの特別列車、安価な宿泊施設、移動図書館などをつくりました。そして、余暇の民主化、賃金奴隷からの解放を呼びかけました。

レジスタンス連合のラロックレポートによると、何のためにファシズムと闘うのかという問いに対して、社会保障、失業の権利など、幸せな生活のために闘うという回答が得られたそうです。

イギリスでは、1941年の大西洋憲章に影響を与えたベヴァリッチレポートにおいて、幸せな生活のためにナチスと闘おうということが提起され、70万部のベストセラーになったそうです。

平和を守れというだけでは人は動かず、本当の民主主義をどうつくるのかということが示されました。それは、今苦しんでいる人、国民の生活をどう守るかということのために政策を示し、労働者の労働時間を短くし、賃金は教育と老後の保障につかうということです。

日本の「社会保障」は、就労支援が中心であり、やっと生活保護を受給できた人に対しても「働け」と指導するそうです。生活保護受給者は5割が高齢者で、3割が障害者であるにも関わらずだそうです。ホームレス状態にある人にもまずは就労支援で、19世紀の救貧法の背景となった怠惰論のような考え方です。

明治時代、日本人はのんびり働くので近代工業を発展できないと言われていましたが、急速な資本主義化の中で、「勤勉、倹約、謙譲、孝行」のイデオロギーが一般的になり、経済的な失敗者は道徳的な落伍者だとする「怠惰論」が広がったそうです。そのため、労働能力のある者は救貧制度から排除され、社会保険は特権であり、軍人や役人の恩給として始まり、戦後は共済組合となりました。1922年に健康保険制度がつくられましたが、これは貧しい人を排除したもので、戦時は社会政策のために健康保険、年金制度が利用されたそうです。

一方、フランスでは若い人が生活保護を受けているので就労支援が有効であり、正規雇用が基本で、派遣労働に対して正規労働者よりも高い賃金が払われ、パートタイムであっても正規雇用で、子育てが終わるとフルタイムに戻るなど、柔軟な働き方ができるそうです。

日本の社会保険は皆保険となりましたが、ヒエラルキーに分かれています。本来、社会保険は危険を分散する制度であるはずですが、日本では危険を集中させているのです。それは戦前の仕組みを引き継いでいるからで、弱者に配慮がない状況になっています。そうなったのには民主勢力にも責任があるということが指摘されました。老人医療無料化は老人攻撃につながって廃止され、不安定労働者の増加は企業に社会保険負担を免れさせることにつながりました。運動も分散されており、他のヒエラルキーの制度のことを知らず、企業労働者は企業から離れられず、社会保障は周辺の問題となってしまっています。レジスタンス運動のように、国民のための制度を打ち出すべきだということが指摘されました。

1980年代、新自由主義によって自立自助が強調され、生活は個人責任とされ、民営化、市場福祉が進められ、公務員バッシングが起こりました。たとえば介護保険は、昔は無料のホームヘルパー派遣制度があったのに、市場化され、ろくでもない企業にお金が流れています。イギリスでは、予防治療やリハビリは無料の制度となっています。

政府は「働き方改革」「多様な働き方を」と言いますが、それは企業は責任を取らないということです。そのため、今まで守られて生きた人たちにも問題が出てくることが予想されます。

新自由主義は、ヨーロッパでは見直されています。スタッカーの研究で、新自由主義的政策で国民の健康がどれだけ損なわれたかが明らかにされたそうです。アイスランドは破たんした銀行を助けず、庶民を助けて住宅ローンの免除などの経済再建策を行なったそうです。

日本経済の中心は個人消費であり、個人を支えなければ景気は回復しません。認定は極力せず、平等に支給する普遍的な制度をつくり、賃金奴隷、労働依存からの解放をはかるべきだということが指摘されました。つまり、内面化した新自由主義との闘いです。

そのために、累進課税、総合税制の再構築による財源確保が必要となります。「財源破綻論」との闘いです。日本の対外資産は325兆円であり、日本政府の負債総額は1037兆円ですが、資産総額は1073兆円だそうです。国債は「政府の借金」であり、「国民の債権」です。何も遠慮することはないということが指摘されました。

改めて社会保障を考えるべきであり、日本は世界の人口の1.8%の規模ですが、世界のGDPの5.9%を占め、ミリオネア(金融資産100万ドル以上)は213万人存在し、世界の6.3%だそうです。一方、貧困率は16.0%ですが、失業率は3.6%だそうです。失業できない、働かざるをえない状態にあるということです。

豊かになっているのはどこなのかを明らかにするべきだということが指摘されました。

そして、安心できる社会をつくることは可能であり、苦しい今の制度を守ることはなく、変えていくことが提起されました。

以上で第2講座の報告を終わります。

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

この著者の最新の記事

関連記事

コメントは利用できません。

ピックアップ記事

  1. 紹介してきた中野晃一上智大学教授へのインタビューの最後になります。 あわせて冒頭に中野先生が昨…
  2. 国公労連(日本国家公務員労働組合連合会)の機関誌として発行してきた『国公労調査時報』を9月から新雑誌…
  3. 私が企画・編集した座談会「生涯派遣・ブラック企業暴走の労働法制大改悪は許さない」(『国公労調査時報』…
  4. (※2014年9月23日にテレビ東京で放送された「ガイアの夜明け もう泣き寝入りしない!~立ち上がっ…

NEW

ページ上部へ戻る