前川喜平さんインタビュー「衆院選は加計森友隠しの安倍政権に審判下すチャンス」

  • 2017/10/13
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安倍晋三首相と昭恵氏の「お友達」なら、国有地が特別に値引きされ、獣医学部の新設も特別扱いされる国は法治国家とは言えません。加計学園疑惑を告発した前川喜平さんにインタビューしました。(収録日=10月4日。3時間に渡ったインタビューの中から衆院選に関わる一部を紹介します。インタビューの全体は月刊誌『KOKKO』12月号に掲載します。聞き手=国公労連教宣担当部長・井上伸。「国公労新聞」2017年10月10・25日合併号より)

 加計・森友のロンダリング

 ――安倍首相が「国難突破解散」として衆院選となりました。これをどう見ていますか?

何を国民に問うための選挙なのか、今なぜ解散なのか、安倍首相の説明は理解できません。私は加計・森友学園など安倍政権が抱えている権力私物化の問題をロンダリングするための解散だと見ています。もし今回の選挙で自公与党が過半数を確保すればこの問題をオールクリアできると安倍首相は思っているのではないでしょうか。

一方、国民の側から見れば、加計・森友問題はもちろん、この5年弱に渡った安倍政権に対する審判を下す大きなチャンスが与えられたということでもあると思います。

 憲法に違反し国会召集せず

マスコミも「加計・森友隠し解散」と指摘していますが、解散の前段から「加計・森友隠し」は行われていました。憲法53条には衆院ないし参院の4分の1の議員が国会召集を求めたら内閣は国会を召集しなければならないと明記しています。

立法府が行政府をチェックするための国会召集を、安倍政権は3カ月も放置しただけでなく、臨時国会の冒頭で何の審議も行わずに解散したのです。この明確な憲法違反についても国民は審判を下す必要があります。

 ――安倍首相は、消費税増税を教育の無償化などに使うための解散・総選挙とも言っています。

無理矢理こじつけたとしか思えません。安倍首相は改憲ともこじつけていますが、そもそも教育の無償化のために憲法改正は必要ありません。

 イージス・アショア1基で奨学金10万人分

それと国民に耳障りのいい選挙公約はないかということで思いつきで教育の無償化を言っているだけでしょう。イージス・アショアは1基で700~800億円です。たとえば、来年度から本格実施される「給付型奨学金」は2万人が受け取ることになっていますが、イージス・アショアひとつで10万人ぐらいの奨学金がカバーできるのです。でも「イージス・アショアのために」と言うより、「教育の無償化のために」と言った方が国民受けが良いという思いつきに過ぎないと思います。

それから、消費税増税や教育の無償化の前にやるべきことがたくさんあると思っています。

消費税は低所得層ほど負担が重い逆進性がありますから、私は税制全体を改善する必要があると思っています。自分達の税金をどう使い、税金を誰からどのように取るのかは民主主義の基本的な問題です。ところが選挙で税制を全体として考えるということがほとんどないわけです。消費税をどうしますかということがあっても税制全体をどうするかということがない。法人税が引き下げられていますが、内部留保を何百兆円も抱えている大企業をそのままにしていていいのでしょうか。所得税や相続税についても国民全体で議論すべきです。

 日本の「国難」は格差拡大

私が学生の頃の昭和50年代は高い累進税制で、所得税の最高税率が75%、住民税も累進制があって最高税率18%、合わせて93%でした。お金を儲ける人は社会に貢献してくださいという考え方で、人間生きていく上でそんなにお金は必要ないでしょう、そのかわり、福祉や教育に使いましょうということだった。これがこの40年の間で変わってしまって、金融所得の多いお金持ちほど税率が低くなってしまった。本当に格差を是正するためには税制全体の累進性を高める必要があります。

 富裕層から普通に税金を集めるべき

それから、教育に関するところでも富裕層優遇をまずやめるべきです。たとえば、教育資金一括贈与非課税制度です。この制度は教育費に充てるなら、子や孫への贈与は1,500万円まで非課税というものです。孫が4人いるとしたら6千万円の相続税などの節税ができるわけです。すでに1兆円以上が贈与されていて富裕層はこの制度をフル活用して合法的に税逃れをしています。

このように教育費負担軽減と言いながら、富裕層の教育費を軽減している制度があるので、それをまず見直すべきです。富裕層から普通に税金をもらって、その分を低所得層の教育費負担の軽減に充てる。教育費の中で所得再分配政策をまずやるべきなのです。

私は日本の「国難」は格差の拡大だと思っています。格差を是正する政策でなければ信用してはいけないと考えています。富裕層優遇の仕組みをあらためないままの教育無償化というのは、結果的にさらに格差を拡大することになりかねないと危惧しています。

 ――「人づくり革命」も持ち出されています。

「人づくり」という言葉は、人間が生産要素の1つの手段にされてしまうように感じます。一人ひとりが命を持った人間として幸せになれるかどうかが大事なのに、「人づくり」というのは人を客体化していますよね。

教育の目標は一人ひとりが幸せになることなのですが、そのためにはそれぞれが居場所を得なければいけない。自分にぴったりくる仕事をして、そこで自分の能力や個性を発揮できて、あまり「面従腹背」もせずに(笑い)楽しく仕事ができればいいわけです。

 国家戦略特区の非常に乱暴な議論

社会の分業の中でどの仕事につくかはそれぞれの適性を伸ばしていく中で調和していけるようにするというのが大事です。社会として一定のプランを立てる必要があるのです。そのためには獣医師はどのぐらい必要かを考える必要もあります。

加計学園に関わって国家戦略特区のワーキンググループの人間が何を言っているかというと、とにかく獣医学部はいくらでも作って獣医学部同士、獣医師同士で競争すればいい。それで良い獣医師が残って悪い獣医師は負けていけばいい、獣医学部もつぶれればいいという話です。

 加計学園は若者と社会にマイナス

そんなふうに資格を持った人をムダづかいしていいのかという問題です。ただでさえ日本は少子化でどんどん若者は減っている。その若者を大切に育てなければいけないのにムダな育て方をしてしまう。余るのがわかっていて獣医師を育てるというのは、本人達にとって不幸せなことだし、社会全体にとってもマイナスです。将来の人間の職業がどうなるか、産業構造がどう変化するか、ということを考えながら高等教育のあり方も考えなければいけないわけです。

そもそも獣医学部のニーズがあるかどうかも問題だし、それがなぜ加計学園なのかということも不明です。加計学園側は「世界に冠たる獣医学部」を作ると言うのですが、実際はそうはならず、最低ラインを何とかクリアする程度でしょう。

安倍政権は加計学園問題に対する国民の記憶が薄れるのを望んでいる。他のさまざまな問題を並べて国民の気をそらして、時間を稼いでいます。

 安倍政権による国家公務員の「下僕化」

安倍政権による行政の私物化、国家権力の私物化の疑いはきわめて濃厚で、そのために仕事をさせられた国家公務員は「下僕」になってしまったと思っています。

憲法15条に「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とあるように、国家公務員は全体の奉仕者としての「公僕」でなければいけないのに、加計・森友学園の問題では「一部の奉仕者」にさせられているということです。

一部の権力を握っている人とそのお友達のために仕事をさせられている状態というのは、「下僕化」と言わざるを得ません。加計学園新設の仕事というのはそういう仕事だったわけです。国家戦略特区の仕組みの中でも説明がつかない。国家戦略特区の制度がいいかどうかはともかくこの制度の目的は、「国際競争力の強化」「国際経済拠点の形成」なのです。この目的に相応しいかどうかが大前提として検証されなければいけません。

まず加計学園の獣医学部が「国際競争力の強化」「国際経済拠点の形成」を担うものになるのかがまず問われなければいけないのです。さらにそれを具体化したのが、2015年6月に政府が閣議決定した4条件(①既存の獣医師養成でない構想②ライフサイエンスなどの新たに対応すべき分野で具体的な需要③既存の大学・学部では対応困難④獣医師の需要動向も考慮)で高いハードルを設けたわけです。

この4条件が検討された形跡はまったくありません。加計学園の獣医学部でやろうとしていることは他の大学でもやっていることで4条件を満たしていない。まともな審査をしていないのです。加えて京産大をはじくために今年1月の時点で来年4月から大学を開学しなければならないという新たなハードルも設けた。わすか1年後に開学できるところなど出てくるはずがないのに加計学園は手を挙げた。1万メートル競走を加計学園だけ5千メートルからスタートしたようなものです。

この来年4月からの開学は、官邸の最高レベルが言っていることだ、総理のご意向だと聞いていると当時の内閣府の藤原豊審議官が文科省の課長に言った。ものすごく恣意的なやり方で最初から決まっていたわけです。

安倍首相の特定のお友達に利益誘導した。これは規制緩和でなく特権の付与です。規制緩和というのは全体で獣医学部の規制を緩和してどこで作ってもいいとするのが規制緩和になりますが、加計学園だけ獣医学部を作っていいというわけですから、これは特権の付与です。

そして、特権だからこそ学生も確保できるわけです。これは薬学部と比べてみればよくわかります。獣医学部も薬学部も6年制で6年間の期間が必要というのは、公的なお金もかかるし、私的なお金もかかる。加計学園だと年間億単位の私学助成もすることになるわけです。学生1人6年間で1,500万円ぐらいの授業料は納めなければならない。公的な投資と、私的な負担が毎年注ぎ込まれることになるわけです。

加計学園の千葉科学大学に薬学部があるのですが学生募集に四苦八苦しています。なぜ学生が来ないかというと、薬学部がたくさんあるからです。薬学部には新設の規制がかかっていないので、薬学部同士の過当競争が起こっているわけです。それで、千葉科学大学の薬学部の方は定員割れで困っている。それはそもそも規制がないからなのです。

 安倍首相のお友達に特権与えた

一方で、獣医学部の方は規制は残して加計学園にだけ特権を与えるから、薬学部のようなことが起こらないわけです。獣医学部は現在16大学しかなく、獣医学部の入試の競争率は極めて高い。そうすると、加計学園の獣医学部でどんなに学生募集が遅れたとしてもとにかく来年の4月に開学できれば、必ず定員はいっぱいになる。どこでもいいから獣医学部に入りたいという学生がいるからです。だから加計学園の側から言えば、食いっぱぐれがないのです。定員割れで四苦八苦しなくていい。それは規制があるからなんです。そういう特権を安倍首相はお友達に与えたということです。濃厚な状況証拠があることは事実です。

自民党の二階俊博幹事長が、今回の解散を「加計・森友疑惑隠し」と野党が批判していることについて、「我々はそんな小さな問題を隠したりなどは考えていない」と記者会見で語っていましたが、これは安倍政権と自民党の本音ではないかと思いました。同時に、安倍政権が加計・森友問題を小さな問題と思っているということは、同じような行政私物化、国家公務員の「下僕化」は、今は表面化していないだけで各省庁のあちこちにあるのではないかと危惧しています。

 ――国家公務員の「下僕化」の原因は内閣人事局の存在にあるということでしょうか?

複合的な要因があると思いますが、そのうちの1つが内閣人事局による幹部人事の掌握だと思います。実質的な権限は官房長官が持っています。私の経験では幹部人事だけでなく、課長の人事に官邸が介入してきたという事実もありました。

森友学園を巡る問題に関し、国会で「当時の交渉記録は破棄した」などと答弁した財務省理財局長だった佐川宣寿さんが国税庁長官になったり、安倍昭恵氏付職員だった谷査恵子さんがイタリア日本大使館1等書記官になったりで、安倍政権による国家公務員の「下僕化」は極まっています。

佐川さんは論功行賞で、谷さんは論功行賞であると同時に、国外に置いての「口封じ」という側面も強いと思います。

いずれにせよ、国家公務員は、「全体の奉仕者」にもとることをさせられているときにどうするかが問われています。現在の無権利状態に置かれている大変不十分な状況の中でも匿名でリークすることはできます。加計学園の問題では匿名で文部科学省の職員がリークしています。その中には私の知らない職員も頑張っているわけです。厳しい現状の中でも何らかの工夫で「全体の奉仕者」としての役割を発揮してもらいたいと思っています。

 ――今回の選挙では、自民党と希望の党、日本維新の会が公約として憲法改正を掲げています。

私は憲法改正に反対です。とりわけ憲法9条は改正すべきでないと考えています。集団的自衛権を憲法9条のもとで認められるとするのは暴挙です。立憲主義に反しています。

立憲主義というのは国民がつくる規範があって、その国民がつくる規範で政府や権力を縛る必要があり、その規範が憲法だということです。縛られている側の権力が、縛っている憲法を解いてはいけない。縛られている側がいくらでも解いていいなら縛っている意味がなくなってしまいます。

憲法が憲法でなくなってしまいナチスの全権委任法のような状態に陥り、どこまでも際限がなくなってしまう。立憲主義を守るというのは権力の暴走を防ぐ最低限の条件だと思います。

2年前に安保法制が強行成立させられて立憲主義が崩れたわけですが、このままだと際限なく崩れていく危険性があります。

 憲法9条は人類史の成果

私は安保法制は憲法違反だと思っているし、それを追認するような憲法改正はすべきではないと考えています。憲法9条が国外に行って戦争をしないということの歯止めになっていると思うので、憲法9条を守るべきだと思っています。

改憲を主張する人は、今の憲法は自主憲法でないとか、日本民族の憲法じゃないなどと言いますが、民族性ではなくて人類史の多年にわたる努力と成果の中で形づくられたものが今の憲法と見るべきです。

たとえば、憲法9条は1928年のパリ不戦条約にある戦争の違法化など人類の知恵の積み重ねの中で生まれたもので、人類史の中で燦然と輝いているわけです。

こうした人類の憲法と言える9条をいかに大事にしていくかが問われています。第2次世界大戦後に世界でいちばん戦争している国はアメリカですよ。世界でいちばん戦争をしているアメリカと一緒に海外で戦争をする法案は絶対に作るべきではありません。今のままの9条改憲は集団的自衛権を認めることになるわけで、絶対に許してはいけないと考えています。

私は現役の文科省職員だった2年前、安保法制反対の国会正門前デモに参加してシールズと一緒にラップコールも行いました。安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合のみなさんと同じ思いを持っています。

他の国では平気で消防士がストライキを打ってたたかっていますが、日本の公務員は労働基本権が厳しく制限されています。そして、日本ほど国家公務員の基本的人権が過度に制限されている国はありません。表現の自由、つまり政治的行為が強く制限されていて、とても民主的な先進国とは言えないぐらい制限がきつい。そして労働基準法が適用されないのも酷い。政府は「働き方改革」と言うなら国家公務員の働き方をきちんと改善して欲しい。どんどん定員削減はされるし、仕事は増えるし、政治家はいくらでも公務員バッシングしてもいいと思っている。でも、少なくとも団結権と部分的には団体交渉権があるわけですから、国家公務員の労働条件を改善するとともに、国民本位の行財政・司法のために労働組合には頑張って欲しいと思っています。

前川喜平(まえかわ きへい) 1955年奈良県生まれ。東京大学法学部卒。1979年文部省(現文部科学省)に入省し、初等中等教育局長、文部科学審議官、文部科学事務次官などを歴任し、2017年1月退任。加計学園問題で今年5月に記者会見し「行政がゆがめられた」と告発。7月には国会で参考人としても告発した。

▼前川喜平さんのインタビューの一部を視聴できます。

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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