自販機の裏で暖を取り眠る子ども、車上生活のすえ座席でミイラ化し消えた子どもの声が届かない日本社会

子ども(著作権フリーの写真より)

(※NHKで2014年12月22日に放送されたNHKスペシャル「調査報告“消えた”子どもたち~届かなかった「助けて」の声」を観て書いたものです)

NHKスペシャル「調査報告“消えた”子どもたち~届かなかった「助けて」の声」を観ました。

母親に18年間自宅軟禁されていた子ども。手足を縛られることもある自宅軟禁で、お風呂に入らせてくれるのはよくて5カ月に1回、ひどくて1年に1回で、18歳のとき自力で自宅から脱出。18歳にもかかわらず保護されたとき身長は1メートル20センチだったとのこと。

こうした事件を受け、NHKは主に義務教育を受けられない状態にある子どもたちを「“消えた”子どもたち」として全国の関連施設に独自アンケートを実施。その結果、「“消えた”子どもたち」は、1,039人におよび、義務教育を受けられない期間が10年以上もあった子どももいたとのことです。

そのアンケートに寄せられた「“消えた”子どもたち」の状況は次のようなものでした。

◆ケージに入れられ、紐でつながれていた3歳の男の子

◆家から一歩も出たことがなく、髪がのび放題、言葉が話せず、笑うことも泣くこともない、食事を犬のように食べていた4歳の子ども

◆自動販売機の裏で暖を取って寝ていた幼い兄弟

◆車上生活のすえ、後部座席からミイラ化した遺体で見つかった男の子

こうしたアンケート調査から、「子どもたちの姿が“消える”主な要因」(複数回答)として、「虐待(ネグレクト含む)」が60%、「経済的理由」が30%、「親の精神疾患・障害」が20数%としていましたが、「虐待(ネグレクト含む)」の背景に「子どもの貧困」があることは明らかですから、やはり、「“消えた”子どもたち」の問題は「子どもの貧困」の問題なのだと思います。

そして、番組はこのアンケート調査をもとに、当事者へのインタビューを行っています。

中学校に3年間通えなかった女の子は、「母親がタクシーに乗って帰ってきて、運賃もなくて、中学生の自分が話をするんですよ。それで全然知らないタクシーの運転手に怒られて、『自分、しっかりしいや』みたいなこと言われて。普通に考えたらおかしいじゃないですか。子どもが出てきて、すいませんって謝るなんて。なんで『どうしたの?』『大丈夫?』と声をかけてくれへんのやろなと思った。みんながみんな、自分のことばかり気にして生きてんねんな。誰も助けてくれへんねんな」と語っていました。

このインタビューには、子どもの人権を守ることができない日本社会の問題が端的にあらわれていると思いました。子どもを育てることは、家族の責任、親の責任とするのはもちろんのこと、子どもが目の前で困窮していようが「自己責任」(家族責任)であり自分を含む社会の責任ではないということでしょう。

そして、子どもたちを助けることができない私たちの社会がもたらすのは、こうして「“消えた”子どもたち」のその後の人生に深刻な影響を及ぼして、社会的な損失をもたらしていくことです。「言葉が話せない」、「17歳で保護されたが漢字が書けない、計算ができない状況」、「筋肉がなく、坂道をくだりはじめると止まることができない」など、700人以上の子どもがその影響に苦しんでいることが分かったとのことです。

とりわけ深刻なケースとして紹介されていたのが、中学2年生までの7年間、学校に通わせてもらえなかった女の子の例です。この女の子は7年間、夜は椅子にビニール紐でぐるぐる巻きに縛りつけられ、殴られて出血し、冬は冷水でシャワーをかけられ、泣くとぶたれ、部屋のドアにはガムテープが貼ってあったところから施設に救われたのだけれど、社会に適応できないまま、「最後まで大人を信用できない私でした」と施設にあてた手紙を残し23歳で自殺してしまったのです。この「最後まで大人を信用できない私でした」という言葉は、「最後まで日本社会を信用できない私でした」と同じで、やはりこの女の子を死に至らしめたのは日本社会なのだと思いました。

番組の最後の場面で、18年間自宅軟禁の状態から自力で脱出し、その後9年が経過した女性が現在取り組んでいる児童虐待を防止するためのボランティア活動などの様子とともに、「子どもたちを孤立させない社会であって欲しい。子どもたちが普通に生きて、普通にすごせることが、一番の願いですね」というその女性の言葉が紹介されていました。

番組のナレーションのラストが、「助けを求める子どもたちの小さな声を聞き漏らさないでください。私たちがもう一歩踏み出すことを子どもたちは待っています」というものでした。もちろん、「私たちがもう一歩踏み出すこと」も重要だと思いますが、もっとも重要なのは、日本社会における「子どもを育てることは家族の責任」「自分の子どもは自分で育てるのが当然」というようなほとんど社会的な責任を問うことを放棄した自己責任論と同一線上にある「家族責任論」の克服だと思います。

日本社会は、子どもの貧困をなくす公的支出が欧州の半分もなく、子どものための公的支出が世界最低レベルという「社会責任」=「政府の責任」を「家族責任」にすり替える「家族依存型社会」です。この「家族依存型社会」の構造を改善しないでおいて、子どもの貧困が6人に1人、300万人にのぼる日本社会で、「私たちがもう一歩踏み出すこと」だけでは、「助けを求める子どもたちの小さな声を聞き漏らさない」ことなど不可能だと思います。

それに、このNHKのアンケート調査で判明した1,039人は、施設に救出された子どもたちですから、実際の人数はもっと多いでしょう。そのことは、「居所不明児童生徒」が文部科学省の調査で1,491人にのぼっていることや、17年間無戸籍に置かれた子どもたちの問題の発覚でそれも氷山の一角にすぎないことなどからも明らかだと思います。そうした日本社会の構造上の問題に対して、ただ一人ひとりが「もう一歩踏み出すこと」だけでは抜本的な改善にはならないでしょう。ましてや自民党が掲げている「日本国憲法改正草案」の第24条「家族は、互いに助け合わなければならない。」などとして、さらに「家族責任」「家族依存型社会」を憲法でもって強制したり、3歳までは母親の手で育てるべきというようなことを強制する政治をあらためていかなければ、子どもの命、子どもの人権を守ることはできないと思います。

最後に、本田由紀東京大学教授の指摘を紹介します。本田由紀教授の著作『社会を結びなおす――教育・仕事・家族の連携へ』(岩波ブックレット)の一節です。

たとえば、家族に対して教育を費用や意欲の面で支える役割を求めるだけではなく、逆に教育が家族を支えるような役割がこれからずっと大事になってくるはずです。つまり、学校が地域の拠点として、児童生徒のみならずその背後の家庭が抱える困難を鋭く見出し、様々な社会サービスにつなげてゆく役割を強化してゆくことが必要だと考えます。現在の日本の学校においては、「児童生徒を平等に扱う」という規範が非常に強いため、問題を抱えている児童生徒に対して十分な対処ができていません。しかし、子どもや若者にとって学校はいわば社会との「臍(へそ)の緒」にあたるものですから、それを切ってしまうことは孤立する個人や家庭を生み出すことにつながってしまいます。ただし、学校が家族を支える役割を果たすためには、公的な支出を確保し教職員やスクール・ソーシャルワーカーなどの人員等を拡充することが不可欠です。【出典:本田由紀東京大学教授著『社会を結びなおす――教育・仕事・家族の連携へ』(岩波ブックレット、46ページ)】

(国公一般執行委員 井上伸)

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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