貧困拡大する政府・財界への抵抗を沈静化させ中下層の政治勢力化防ぐ「上層社会統合」=社会の上層・高所得層への「利益供与システム」=年収100億円の富裕層は年収100万円の貧困層より税・社会保険料負担が低い

  • 2015/9/11
  • 貧困拡大する政府・財界への抵抗を沈静化させ中下層の政治勢力化防ぐ「上層社会統合」=社会の上層・高所得層への「利益供与システム」=年収100億円の富裕層は年収100万円の貧困層より税・社会保険料負担が低い はコメントを受け付けていません。

(※2009年4月に書いたものです)

後藤道夫都留文科大学教授のお話を聞く機会がありました。その一部分になりますが、「上層社会統合」という興味深い指摘について紹介します(※文責=井上伸)

構造改革、新自由主義は、社会のもろもろの「安定装置」と呼べるものを本格的に解体していきます。その結果、貧困と社会不安が急拡大せざるをえません。そのため、政府・財界は、新たな社会統合装置、社会安定装置をつくらなければならなくなるのです。

この社会安定装置には、2つのタイプがあります。

1つは、「上層社会統合」です。これは、(1)社会の上層、いわゆる「勝ち組」を「社会秩序の担い手」として育成します。構造改革、新自由主義により、必然的に社会の上層は活性化するためその地盤は固くなります。(2)社会の中下層については、2大保守政党制を利用することで、中下層の政治勢力化を防ぎます。さらに(3)治安維持体制を強化して、中下層の抵抗を抑えるというものです。

もう1つの社会安定装置は、「新保守主義」です。これは、国家、家族、地域、学校などへの国民の尊敬や畏怖の念を利用して、社会秩序を維持するものです。権威主義や強制だけでなく、国家などを権威ある「共同体」として描き出すことなどによって、国民の自発的な服従を引き出そうとするものです。たとえば、「新しい歴史教科書をつくる会」などの登場が象徴的といえるでしょう。

こうして、憲法の25条と9条がターゲットになります。社会保障は中下層のセーフティーネットにはならず、社会の上層を利するものへとますます変質させられ、「自虐的」な歴史観をなくし、国内では貧困であればあるほど他国にはない世界に誇るべき日本国家の文化と伝統、日本人の誇りを胸にして、強い国家づくりに日々邁進せよというわけです。

1つめの「上層社会統合」について少し考えてみましょう。

まず、税制の累進度を大きく後退させ、社会の上層・高所得層には低い負担となり、中下層には高い負担を強いる高額所得者優遇税制、不公平税制がつくられます(※参考として井上独自資料を追加→たとえば、▼下のグラフは、私(井上)が労働総研の労働者状態分析部会でお世話になっている財政問題研究者の垣内亮さんが作成した「申告所得に対する税・社会保険料負担率」で、2007年の国税庁「申告所得税の実態」から作成したものです。このグラフを見ると、所得100億円を超える富裕層の税・社会保険料負担率18.9%というのは、所得100万円の貧困層の20.2%よりも低くなっているのです)。

 

こうした現在の税制では、景気が回復しても税収は大きくはのびず、行財政リストラの圧力、「小さな政府」への圧力は恒常化します。こうした「小さな政府」路線は、社会保障や公共サービスを毎年大きく削減していくことになります。そして、社会保障削減は、「公私2階建て方式」につくりかえながら行われるのです。

たとえば、公的医療保険による診療を制限しながら、その上に積み重ねられる保険外診療を拡大していく「混合診療」は「公私2階建て方式」の典型です。その原型は、介護保険制度でつくられました。介護保険では、障害の重さに応じて保険給付の限度額が決まっているところは「公」の部分で、それを超える介護サービスを受けようとするその分は全額自己負担となる「私」の部分があります。

この「公私2階建て方式」は、すべての国民に提供される「公」の部分は、できるだけ薄く、脆弱なものにして、「公」の部分を支えるための高所得層の費用負担をできるだけ小さくし、その分を高所得層が「私」の部分を購入する費用として使うことを可能にします。これまでの公共サービスを支える税と保険料は、「応能負担」であったから、「公」を薄くして、さらに税・保険料の累進度を弱めるかあるいは定率負担に切り替えれば、高所得層の負担は大きく減ることになります。高所得層にとっての「選択の自由」は大幅に上がり、社会保障が階層別に組み立てられることになるのです。すでに医療や介護の世界は相当程度そのようになってきています。

医療、介護などでの高い窓口負担は、低所得層がそれを利用することを妨げるため、結果として公費が高所得層のために使われる比重を高めることになるのです。医療の窓口負担3割で受診を抑制する人びとが増えたことは明らかですが、それは、国民健康保険などを成り立たせるための国や自治体の財政支出も、また、低収入階層が努力して払った保険料も、結局は窓口負担に耐えられる人々向けに使われる比重が多くなることを意味します。

2005年の介護保険制度改悪で、特別養護老人ホームのいわゆる「ホテルコスト」が自己負担化されました。本人負担は高額になりましたが、それに耐えられない年金額の人々は、特別養護老人ホームの施設建設に使われた公費の恩恵を受けられません。各種の福祉・医療サービスの利用に際して本人負担が増えると、公的支出の動きがこのように「上方シフト」を起こすことになるのです。二重、三重の「格差の制度化」です。

貧困拡大・社会不安・社会不信を沈静化するために、社会の上層・高所得層を、社会統合の中心にすえる「上層社会統合」を実現するためには、政府・財界は、つねに、社会の上層・高所得層への「利益供与システム」を日々つくりださねばならないと考えています。その結果、様々な社会領域において、貧困と格差は放置されるどころか、逆に国家財政を用いて、貧困と格差を助長・拡大させる「貧困と格差の制度化」が進み、社会の上層・高所得層への利益供与が拡大するのです。そうした税制の典型が貧困層ほど負担が重い消費税です。

そして、他のOECD諸国にはない日本における「貧困と格差の制度化」の象徴ともいえるデータがあります。それは、子どもの貧困をより貧しくする日本の歪んだ所得再分配です。

(▲上のグラフは、『週刊ダイヤモンド』2009年3月21日「あなたの知らない貧困」から)「日本政府が所得再分配で『子どもの貧困』を拡大」)

政府は、市場経済のなかで家族が働いて得た所得に対して、税金や社会保険料を課し、子どもに関する政府からの手当などを給付します。上のグラフにあるように、政府による介入で、日本以外のOECD諸国は、貧困状況にさらされる危険から多くの子どもたちを救っています。2005年の数字で、日本以外のOECD諸国は、政府による所得再分配で貧困率を平均で6割程度に押し下げることに成功しているのです。しかし、唯一、日本だけが12.9%から14.3%(05年)へと政府の介入により逆に貧困率を上昇させるという、まさに、政府による「貧困と格差の制度化」をまねいているのです。日本政府による「所得再分配」「社会保障」システムは、貧困層をより貧困におとしいれるものになっているのです。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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