世界の富の4分の1を大企業・富裕層が盗むタックスヘイブン=格差・貧困・財政危機を拡大する心臓部

(※2012年4月に書いた記事です)

ニコニコ動画で、4月20日に配信された「ニコ生×デモクラシー・ナウ『タックスヘイブンの闇』――グローバル経済の中枢にあるのは巨大なブラックボックス」を観ました。『タックスヘイブンの闇――世界の富は盗まれている!』(朝日新聞出版)の著者であるジャーナリストのニコラス・シャクソン氏の主張を中心に番組が伝えていたタックスヘイブン問題を要旨で紹介します。(※ニコラス・シャクソン氏は「タックスヘイブン」と「オフショア」をほぼ同義としていますので、ここでは「タックスヘイブン」で用語統一しています。※文責=井上伸)

タックスヘイブン(租税回避地)とは何か?

タックスヘイブンとは、人や組織が規則・法律・規制を回避するために利用する他の地域(典型的には他国)のことです。タックスヘイブン側から見れば、低い税率(あるいは無課税)を提供してビジネスを誘致する場所です。

つまり、タックスヘイブンは、社会の中で暮らし、社会の恩恵を受けることにともなう義務――納税の義務、まともな金融規制・刑法・相続法などに従う義務――からの逃げ場を提供するのです。

究極の規制緩和であるタックスヘイブンは市場の透明性を闇へ葬り去る

タックスヘイブンは「租税回避地」の名の通り、税金逃れに利用される点が一番大きな特徴ですが、もう一つの大きな特徴として、税金逃れと諸法制逃れの情報を隠すという点があります。すべてのタックスヘイブンは、税金逃れと諸法制逃れの情報を隠すために、他の地域(法域)との情報交換を拒否しています。そこに資金を置く「非居住者」に対しては、たとえばゼロ税率を提供していても、一般の「居住者」に対しては普通に課税し、地元経済とタックスヘイブンを完全に切り離しています。タックスヘイブンと地元経済を切り離し、一般の「居住者」に対して普通に課税するためには、「非居住者」に提供している税金逃れの情報を隠す必要があるのです。こうした税金逃れの情報を隠し、一般の居住者と非居住者を完全に分離しているということは、自分たちが行っているタックスヘイブンという税金逃れの提供自体がじつは害悪であるということを自分自身が暗黙のうちに認めているようなものです。「自由市場は透明でなければいけない」などと新自由主義者は言っていますが、究極の規制緩和とも言える規制逃れであるタックスヘイブンでは市場の透明性は確保されていないのです。タックスヘイブンは深い闇の中にあるのです。

タックスヘイブンのイメージは、税金がゼロのケイマン諸島などマフィアとか富裕層の大物が金を保管する場所。グローバル経済の風変わりなおまけに過ぎないと一般市民は思っているかも知れません。(ケイマン諸島は世界第5位の金融センターで、8万社の企業がここに登記しており、世界のヘッジファンドの4分の3以上、および1兆9千億ドル(152兆円)の預金――ニューヨーク市の銀行の預金残高の4倍――がここに置かれています)

しかし、タックスヘイブンは単なる「小さな島」での税金逃れなどではなく、じつはタックスヘイブンの歴史をよく調べてみると、グローバル化にともない1970年代から急速に拡大し、今や世界経済を動かす心臓部になっていることが分かります。

世界の富の4分の1を呑み込むタックスヘイブン

現在、世界の貿易取引の半分以上が、タックスヘイブンを経由し、世界のすべての銀行資産の半分以上、および多国籍企業の海外直接投資の3分の1がタックスヘイブン経由で送金されています。

また、富裕層がタックスヘイブンに保有している資産は2005年時点で11兆5,000億ドル(920兆円)に上り、これは世界の富の総額の4分の1に相当し、アメリカのGDP総額に匹敵します。この富裕層によるタックスヘイブンでの税金逃れは1年間で推定2,500億ドル(20兆円)に達し、この額は途上国の貧困に対処するための世界全体の援助予算の2倍から3倍に相当しているのです。

ウォール街などの政治力と資金力を陰で支えるタックスヘイブンは「巨大企業の守られた聖域」です。一般に考えられているよりずっと大規模で重要な問題なのです。

タックスヘイブンのシステムは、すべてにかかわる巨大な問題に広がっています。タックスヘイブンにより、アメリカでの納税逃れは年間で1千億ドル(8兆円)と言われていますが、それは問題の一面にすぎません。全貌はもっと大きく複雑です。

税金と諸法制を国内外で「回避」するシステムとなり増殖するタックスヘイブン

タックスヘイブンは、「小さな島」で税金逃れをするというだけの問題ではなく、金融規制や刑法を逃れるルートになり大きなシステムになっているということです。「回避」がキーワードです。国内の民主的な規則や規制が嫌なら外に出るまでだ。国内では許されないことができる場所に金を移す。他の場所へ「回避」していくというわけです。

ウォール街の歴史をみると1946年のブレトンウッズ協定で国際協調によって資本の流れが厳しく管理されるようになり、富裕層は高い税金を払っていました。その後、25年ほどは資本の移動が厳重に制限されていたのです。世界的な高度経済成長の時代でしたが、金融業界はこうした制限に不満を持っていました。そこでロンドンに「回避」しました。英国銀行とシティが大歓迎してくれたからです。「金を持って来てくれるなら規制しません。何でもご自由に」ということで、1960年代以降ウォール街は大挙してロンドンに押し寄せました。ブレトンウッズ体制のほころびがここから始まります。海外に「回避」したウォール街はめざましい急成長を遂げます。ロンドンを皮切りに世界のタックスヘイブンを利用し、とてつもない急成長が可能になったのです。「大きすぎてつぶせない銀行」ができたのも、アメリカの銀行が海外に移り国内の規制を逃れて高リスクの事業で急成長したからです。今やウォール街は力を持ちすぎて国内の政治家ばかりか外国にも影響力をふるっています。

イギリスも世界中にタックスヘイブンを持っています。ケイマン諸島やバミューダ諸島、ジブラルタルなどは「海外領土」。ジャージー島やガーンジー島などはイギリスの近隣にある「王室属領」です。すべてイギリスの支配下にありながら自治権も持つというタックスヘイブンをイギリスは世界中に持っています。このネットワークを通じてイギリスのシティに仕事が誘導されます。世界中のタックスヘイブンが仕事を集めてくるのです。カリブ諸島はアメリカや中南米の窓口です。合法・非合法混在のビジネスです。ガーンジー島などの王室属領は欧州やアフリカや中東の窓口で、ロンドンの金融街に仕事を回すのが役目です。タックスヘイブンの本格化は脱植民地化の時期と重なります。アメリカと同じくイギリスでも銀行が政治家の急所を押さえているのです。

タックスヘイブンの多くは「合法」とされています。「租税回避」と「脱税」は違うというわけです。しかし、「租税回避」というのは「脱税」「違法行為」にはあたりませんが、本来の法律の趣旨にそむき、法律制定者の意図を裏切る行為です。

現在の腐敗や経済危機などの問題は、タックスヘイブンが大きく絡みます。途上国の債務危機でもタックスヘイブンを通じて特権支配層が金を着服し巨額債務だけが国に残されました。最近の研究によれば、アフリカでは個人の私有財産が国の債務を大きく上回っています。その差額は個人資産としてタックスヘイブンの銀行口座にある。その金があれば十分に債務を返済できるのです。でも債務の負担は一般国民に回され、増税や公共サービスの縮小としてのしかかってくる。特権階級はおとがめなしで金はタックスヘイブンの安全な金庫に眠る。これが国の腐敗や民主主義の破壊につながっているのです。途上国の大きな不幸です。

格差と貧困を増大させるタックスヘイブン

タックスヘイブンのシステムはそれぞれの地域が他の地域に遅れを取らないように絶えず競争しています。それは税率を下げ、規制を緩和し、新しい秘密保護手段を編み出す競争です。その一方で、企業や富裕層、金融業者たちは、国内の政治家にタックスヘイブンを利用して脅しをかけます。「課税や規制を厳しくすれば、われわれはタックスヘイブンに行くぞ」と。国内の政治家たちは怖じ気づいて自国の税率を下げ、規制を緩和する。こうした流れで、次第に国内においてもタックスヘイブンのような特徴を帯びるようになってきており、国内の租税負担を「回避」できる企業や富裕層から、「回避」することなどできない一般市民の肩にだけ重い税金が移ってくるようになっているのです。実際に、アメリカの企業は1950年代には税総額の約5分の2を負担していましたが、その割合は今では5分の1に低下しています。富裕層においても、億万長者のウォーレン・バフェット氏が自ら証言しているように、富裕層の税金は受付係の社員より税金が下がっています。豊かな人々の払う税金額が減っているということは、その他の一般市民がその減少分を負担しなければならないということです。

アメリカのシンクタンクが1月に発表したところでは、途上国から租税回避地や富裕国に2008年に1.2兆ドルが流れました。中南米の金は多くがアメリカに来ています。アメリカ自体も中南米のタックスヘイブンとして機能させているのです。タックスヘイブンの問題は2重の意味もあるのです。海外のタックスヘイブンに自国の税収を奪われる一方、アメリカは自国のタックスヘイブンの闇を外国人に提供し税逃れや犯罪を助けているのです。こうしたタックスヘイブンの闇のシステムが、有害な不動産バブルを生み、ウォール街の懐を肥やし、「大きすぎてつぶせない銀行」の問題や金融業界による「政治の乗っ取り」を招きました。アメリカには秘密資金の流出と流入の両方の問題があり、自国も途上国も傷つけ、腐敗させているのです。

こうした問題を改善していくためには、タックスヘイブンの問題を、まず巨大で悪質なシステムだと多くの一般の人々に気づかせることが必要です。カリブの島のささいな脱税と思っているうちはダメです。

ヨーロッパでもアメリカでも国の財政危機を理由に、社会保障の切り捨てや公共部門の人員削減、大量失業の嵐が吹き荒れています。財政危機の原因をつくった金融機関は公的資金で救済されて焼け太り、大企業も公共サービスを享受しながらタックスヘイブンを利用し法人税も減税させる。そのしわ寄せとして、社会保障削減と増税、公共サービスの切り捨てを受けるのは一般市民であるというタックスヘイブン問題の本質を広く伝えなければなりません。

★国公労連の月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)

▼『KOKKO』2015年9月号 創刊号
〈特集〉官製ワーキングプア
非正規国家公務員をめぐる問題――歴史、現状と課題
早川 征一郎 法政大学名誉教授
座談会 官製ワーキングプア 国が生む貧困と行政劣化
山﨑 正人 国土交通労働組合書記長
竹信 三恵子 和光大学教授/NPO法人「官製ワーキングプア研究会」理事
鎌田 一 国公労連書記長
ハローワークで働く非常勤職員
〈創刊記念インタビュー〉
根深い自己責任論と無責任な安倍政権の「安保法制」
――他の国に代えられない憲法9条による国際貢献を
平野 啓一郎 作家
〈連載〉国公職場ルポ 第1回
[日本年金機構の有期雇用職員]
8,000人雇い止めと外部委託で年金個人情報はダダ漏れ
藤田 和恵 ジャーナリスト
〈連載〉ナベテル弁護士のコラムロード 第1走
「ゆう活」に見える安倍政権のブラック企業的体質
渡辺 輝人 弁護士
〈リレー連載〉運動のヌーヴェルヴァーグ 藤田孝典⑤
労働組合はもう役割を終えたのか ―労働組合活動の復権に向けて―
藤田 孝典 NPO法人ほっとプラス代表理事
〈連載〉スクリーンに息づく愛しき人びと その1
階級連帯の内と外──『パレードへようこそ』ほか
熊沢 誠 甲南大学名誉教授 ほか

▼『KOKKO』2015年11月号 第2号
〈特集〉2015年人事院勧告
国家公務員賃金の社会的な意味
森岡孝二 関西大学名誉教授
[連載]国公職場ルポ 第2回
[社会保険庁職員525人の不当解雇]
年金スキャンダルの報復とクビ切りの実験台
藤田和恵 ジャーナリスト ほか

▼『KOKKO』2015年11月号 第3号
〈特集〉疲弊する研究現場のリアル
〈座談会〉悪化する研究環境とポスドク若手研究者の無権利
国立研究機関で働くポスドク当事者
榎木英介 科学・技術政策ウォッチャー
早稲田問題のその後
松村比奈子 首都圏大学非常勤講師組合委員長
国立大学の運営問題と人文系学部廃止騒動について
「戦争法」と急進展する軍事研究
――国立研究機関アンケートから研究者の社会的責任を考える
池内 了 名古屋大学名誉教授
[連載]国公職場ルポ 第3回
[年金機構の正規職員とブラックな外部委託]
メンタル疾患の悪循環と社員110人に賃金未払い
藤田和恵 ジャーナリスト ほか

▼『KOKKO』2015年12月号 第4号
〈特集〉戦争法と国家公務員
インタビュー
戦争法廃止の展望と安倍政権の野望
渡辺 治 一橋大学名誉教授
SEALDs KANSAI塩田潤さんに国公青年が訊く
戦争法と各行政
無権利な自衛隊員と戦争法
安全配慮義務違反の戦争法発動
菅 俊治 日本労働弁護団事務局長/弁護士
[連載]国公職場ルポ 第4回
[ハローワークの非常勤とダンダリン(監督官)]
―非常勤をパワハラ雇い止めするハローワーク
ブラック企業に説教するブラック労働行政
藤田和恵 ジャーナリスト ほか

▼『KOKKO』2016年1月号 第5号
〈特集〉国家公務員の働き方改革を問う
〈霞が関で働く国家公務員座談会〉
霞が関不夜城で3千人が過労死の危機
「ゆう活」実態アンケートの結果について
個人番号制度と国家公務員
[連載]国公職場ルポ 第5回
[国土交通省東北地方整備局]
―人と予算足らず「官から民へ」のPPPで震災復興
旭化成建材の杭打ちデータ偽装と同様の危険性も
藤田和恵 ジャーナリスト ほか

▼『KOKKO』2016年2月号 第6号
〈特集〉公務員のお給料
日本の公務員賃金
「決め方」「水準」「支払い方」と労働基本権
早川征一郎 法政大学名誉教授
国家公務員のキャリア組ってなに?

▼『KOKKO』2016年3月号 第7号
〈特集〉被災地の公務員
インタビュー
憲法9条を守るだけでなく「戦争とテロを止める国」へ
高遠菜穂子 イラク支援ボランティア
〈特集〉被災地の公務員
福島原発の廃炉・除染作業に従事する労働者を守るため奔走
富岡労働基準監督署の仲間たち
東日本大震災から5年、国土交通省の職場は ほか

▼『KOKKO』2016年4月号 第8号
〈特集〉国家公務員の職場って?
各行政の現場から
労働/厚生/医療/情報通信/法務/税関/
経済産業/司法/気象/公共事業/運輸/航空
〈VOICE〉国公職場で働く青年から
〈座談会〉民間から見た公務の働き方 ほか

▼『KOKKO』2016年5月号 第9号
〈特集〉再検証「官から民へ」
誰が「橋下徹」をつくったか
松本 創 フリーライター インタビュー
「ハローワークの民営化」問題
官製ワーキングプア化する委託労働者
対談「最低賃金1500円」の新しい波
藤田孝典 NPO法人ほっとプラス代表理事
小林俊一郎 AEQUITASメンバー ほか

▼『KOKKO』2016年6月号 第10号
〈特集〉国立大学クライシス
学生を苦しめる高学費・奨学金ローン地獄
国立大学法人化で論文数減
経済界主導の「大学改革」
止まらぬ教職員の非正規化 ほか

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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