アベノミクスが景気を悪化させている=下がり続ける実質賃金、家計と中小企業にツケ回し大企業だけ史上最高の大儲け、法人税減税は効果なく財政難を深刻化させるだけ
- 2015/8/25
- 経済・税財政
- アベノミクスが景気を悪化させている=下がり続ける実質賃金、家計と中小企業にツケ回し大企業だけ史上最高の大儲け、法人税減税は効果なく財政難を深刻化させるだけ はコメントを受け付けていません
私、山家悠紀夫先生と共著で『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店、2012年)という書籍を出版させてもらっているのですが、久し振りに山家先生にインタビューしました。半年前(2015年2月)にインタビューしたもので経済データは古くなっていますが、山家先生の分析はアベノミクスの基本的な問題点がとてもわかりやすいので、インタビューの一部になりますが、ぜひお読みください。【※山家悠紀夫(やんべ ゆきお)氏:経済学者。第一勧銀総合研究所専務理事、神戸大学大学院教授を経て、2004年「暮らしと経済研究室」を開設。著書に『アベノミクスと暮らしのゆくえ』(岩波ブックレット、2014年)、『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店、2012年)、『暮らし視点の経済学――経済、財政、生活の再建のために』(新日本出版社、2011年)など多数】
アベノミクス第3の矢が日本経済を壊す
8時間労働で誰もが人間らしく暮らせる社会へ
「暮らしと経済研究室」主宰 山家 悠紀夫氏インタビュー
安倍政権は「世界で一番企業が活動しやすい国にする」としてアベノミクス第3の矢=「構造改革」の再起働を狙っています。「構造改革」こそが日本経済の長期停滞をまねいた根本的な原因だと指摘する、「暮らしと経済研究室」主宰の山家悠紀夫さんにお話をうかがいました。(聞き手=国公労連調査政策部・井上伸)
アベノミクスで景気が回復したわけではない
――安倍政権になって2年余りが経過しました。安倍政権の経済政策であるアベノミクスについてどのような評価をされていますか?
安倍首相は、この間のアベノミクスによって景気が良くなってきているから「この道しかない」と言っていますが、アベノミクスが景気を悪くし、この道ではさらに悪くなるほかないというのが事実だと思います。
まずきちんと押さえる必要があるのは、日本経済の大きな流れです。▼図表1は、内閣府の景気動向指数です。リーマンショックで落ち込んだ後、大きな流れでは基本的に日本経済は景気の回復過程にあるわけですね。それが二度中断されています。一度目は、2011年3月の東日本大震災のときです。二度目は2012年夏から秋くらいまでです。その背景についての定説はまだ確定していませんが、アメリカをはじめとする先進諸国の景気が悪くなった影響で輸出が落ちたためだと思います。アメリカの景気回復とともに日本の景気も再び回復に向かい始めました。暫定ではありますが、内閣府の景気判断によると、その二度目の落ち込みの景気の谷は2012年11月です。
日本経済の景気循環の大きな流れとして、リーマンショックからの回復過程にある。その下で、大震災や先進諸国の景気の不振による落ち込みがあったものの、今は再び回復を始めている、日本経済は今、そうした段階にあるのです。そして、その最近の景気の回復が2012年12月から始まったというのが内閣府の今のところの暫定判断です。
ですから、日本の景気は安倍内閣が誕生する前にすでに良くなり始めていたわけです。アベノミクスによって景気が回復したわけではなく、アベノミクスは景気が良くなってきた流れに乗っただけというのが事実経過です。景気というのは1回上り坂になると、しばらくは良い循環が続いて上り続けます。それが安倍内閣の最初の時にたまたまぶつかったから景気が良くなっただけの話で、アベノミクスを行ったから景気が良くなったというものではありません。アベノミクスの実施前から日本の景気は良くなっていたということをまず押さえる必要があります。
そうすると、民主党政権はタイミングが悪かったということも言えるわけです。民主党政権から安倍政権に交代する頃に景気回復が始まった、それが2013年の終わりくらいまでは続きます。しかし2013年の終わりあたりから再び景気は落ち込んできています。なぜかというと、アベノミクスの金融緩和で円安になり、物価が上がったからです。2013年後半から消費者物価が上がり出し、その割に所得は増えないものですから、実質所得はマイナスになり始めた。それで消費が落ち込んで景気が落ち込み始めたという流れになっているのです。
今はまだ、これがどららに行くか分からないけれど景気が落ち込み始めているという状況です。もし内閣府が今景気判断をすれば、短期的な落ち込みが始まったという判断になると思いますね。そしてこれがしばらく続けば「ここから景気が悪くなった」という判断になるわけですが、そうなるかどうかはまだ分からないものの、景気がどんどん良くなっているわけでないことは確かです。
実質賃金は22カ月連続でマイナス
経済成長率のグラフを見てみましょう。▼図表2は、内閣府による実質GDP成長率の推移(季節調整済前期比)です。今の安倍内閣が発足したのが2012年12月26日ですから、2013年以降を見ればいいわけです。2013年の1~3月期に始まって、このあたりは株が上がって高いものが売れたりして若干良かった。それが前期比で1.4%から0.8%に下がり、0.4%に下がり、そしてすでに去年の10~12月で前期比マイナスになっています。2014年の1~3月期は消費税増税前の駆け込み需要が入ってプラスになっていますが、その後は再びマイナスになり、内閣府の速報値では2014年の実質GDP成長率は前年比-0.0%となってます。
また、安倍首相は、求人倍率が良くなった、雇用情勢が良くなったとも言っていますが、これも景気の回復と同じで、やはりリーマンショックの後に大きく落ち込み、そこから雇用の方も回復途上にあったわけですね。雇用情勢が良くなったのは、その結果であり、アベノミクスの功績ではありません。それに、求人倍率が良くなったと言ってもその中身が問題で、非正規雇用ばかり増やしていますので、まったく誇れるものではありません(▼図表3)。
直近の総務省の労働力調査によると、2015年1月の完全失業率(季節調整値)は前月比0.2ポイント上昇の3.6%と4カ月ぶりに悪化しました。有効求人倍率(厚生労働省)は、前月比横ばいの1.14倍でした。昨年6月、1.10倍になって以降、ほぼ頭打ちです。正規労働者の有効求人倍率は0.01ポイント低下の0.70倍で、依然として求人数が求職者数を下回っています。
春闘で安倍首相は経団連に対して賃上げが必要だと言っていますが、大企業の正社員だけ賃上げしたとしても労働者全体のカバー率は非常に低いんですね。そして実際、労働者全体としては、▼図表4にあるように、実質賃金は19カ月連続(※注参照)でマイナスになってしまっているわけです。安倍首相が本当に賃上げが必要だと言うのなら、最低賃金の大幅アップを実現したり、正規労働者を大幅に増やす政策を打つことこそ必要です。【※注:4月3日に厚生労働省が発表した2月の毎月勤労統計調査(速報)で、物価上昇を加味した実質賃金指数は前年同月比2.0%減。加えて同時に発表された1月確報で過去にさかのぼって賃金水準が下方修正され、実質賃金が今年2月で22カ月連続で前年割れとなりました。1月(確報)は2.3%減となり、下落幅が速報値より拡大しています。賃金の上昇が、アベノミクスによる物価上昇に追いついていないことが改めて示されています】
勤労者世帯の収入は16カ月連続でマイナス
――国民の暮らしの方はどんな状況でしょうか?
▼図表5は、総務省の「家計調査」の勤労者世帯の収入(対前年同月実質増減率の速報値)です。2013年の10月から勤労者世帯の収入は前年比マイナスになり、今年の1月まで16カ月連続でマイナスになっています。民主党政権時代の2012年は実質収入が前年に比べ1.6%増えているんですね。それが、2013年は0.5%に縮まっている。そして、2014年に入ってからは毎月連続してマイナスになっているということは、家計が相当苦しくなっているということです。
▼図表6は、勤労者世帯の消費支出の推移です。2014年3月は消費税増税前の駆け込み需要でプラスになっていますが、その後、4月から2015年1月まで10カ月連続でマイナスで、東日本大震災後の2011年3~11月の9カ月連続を上回りました。
▼図表7は総務省が過去の消費税増税時と比較をしたものですが、見ての通り、今回の消費税増税の落ち込みが一番激しいものになっています。
加えて安倍政権は昨年10月末追加緩和でまた10%くらい円安にしましたから、今後また円安分の物価が上がる恐れがあります。そう考えると、良い状況は生まれそうにないと思います。
家計や中小企業にツケ回し大企業だけ史上最高の大儲け
――他方で大企業は大儲けしていますね。
あらためて統計を見て驚きましたが、2013年度は、全法人企業(金融保険を除く)を合算しての経常利益が60兆円(前年度比23%増)で史上最高です(▼図表8)。リーマンショック前の2006年度や2007年度に、史上最高と騒がれた額が54兆円なのです。それが60兆円という最高額になっている。2014年度に入ってからも、四半期ごとに見ると前年に比べて数%ずつ増えている状況ですから、多分、2014年度も史上最高益を更新するでしょう。大半が株高による評価益と円安による輸入代金、円の受取代金の増加が効いている結果だと思います。国内では経済が成長していないわけですから、モノが売れているわけではなく、量は増えないけれど円安で受け取る金額は増えた。それが売上に計上されて利益が脹らんだという格好になっています。
▲図表8の上は全企業で下が大企業になりますが、全企業の経常利益は2013年度に前年度から12兆円増えているわけですが、そのうち大企業だけで9兆円増えている。だから大企業にとっては本当に有り難い安倍政権であって、「株高にしてくれてありがとう」「円安にしてくれてありがとう」と大企業は安倍政権にお礼を言わずにいられないでしょうが、一方でそのツケが家計や国内の中小企業に回されているのです。コスト上昇を転化できない中小企業が、運輸業その他いろんな業界で苦しくなっているということですね。
アベノミクス第1の矢も毒矢に近い
――アベノミクスの第1の矢はどのように見ていますか。
第1の矢は、まず日銀による資金供給の増加ですね。異次元緩和を発表したのは2013年4月で、それから1年後の2014年度の統計を見ると、日銀が民間銀行に供給したベースマネーを74兆円も増やしているんです。それで銀行の貸出金がどれだけ増えたかというと12兆円です。
じつは、アベノミクスの第1の矢を放つ前の2012年度、白川前総裁の時代にも、日銀はマネーの供給量を26兆増やしていたのです。この白川前日銀総裁時の26兆円に対して増えた銀行の貸出金は11兆円でした。黒田日銀総裁に交代させてアベノミクス第1の矢で資金供給を3倍近く増やしたけれど、民間銀行の貸出金はほとんど変わらなかったという結果になっています。
ですので、民間銀行の貸出金が増えて設備投資が増え、経済活動が良くなるという第1の矢のシナリオ通りにはまったくいっていません。貸出金は増えなかったし、経済も活性化しなかった、ということです。
物価上昇率の方は2%の目標に対して約3%上がっていますが、そのうち2%くらいは消費税増税によるものです。また残りの約1%は円安反映の物価上昇ですから、この2つを除くと物価上昇率はゼロ近辺です。日銀が目標にした物価上昇は、資金供給を増やすことによって需要を増やし、需給関係が良くなって結果として物価が2%まで上がるという想定だったのですが、今はもっぱら円安によって、つまりコストが上がって物価が上がっている。さらに消費税の増税でも物価が上がるという、国民の暮らしを厳しいものにする物価上昇しか起こっていません。ですから物価上昇目標も、正味では達成されていないということですね。
最近の日銀の審議委員などの議論を見ていると、コストでも何でもいいからとにかく物価が上がればいいという本末転倒な議論になっていて、日銀自体がおかしくなっていると思わざるをえませんね。そもそも昨年10月末の追加緩和というのが信じられません。これだけ効果を上げていない政策なのにさらに資金供給を20兆円、年間ベースで増やすというわけですが、これで効果が上がるわけがありません。せいぜい1万6,000円だった株が1万9,000円に3,000円くらい上がったとか、円が110円から120円に10円くらい安くなったとかいう程度でしょう。先ほどの話と同じで、大企業や株を持っているお金持ち、輸出業者には有り難い政策ですが、国民の暮らしから見れば、マイナス面の方が大きいと思います。せっかく円安効果が一巡して物価はもう上がらなくなるはずだったのに、またここで円安のレベルを上げたので追加で物価が上がるということが起きてしまう。要するに今の景気を落としている原因を、もっと強める政策を安倍政権は打っていると思います。そして大企業はもっと輸出代金が増え、引き続き利益がふくらむことになるでしょう。
――そうするとアベノミクス第1の矢も毒矢に近いということでしょうか?
毒矢に近くなりつつありますね。その毒は一部の恵まれた人にだけプラスになって、大多数の国民の暮らしにはマイナスの効果ですから、危ない状況になっています。さらに株も政策で上げているわけですから、いよいよもって政策の止めようがなくなっているのです。今の政策を止めたら大変なことになるという状況で株も危ういです。追加緩和だけで株が上がったわけですから、「もうやりません」と言ったら株が下がる恐れがある。株価を維持するためには「そのうちもっとやります」と言う以外にない。だから株は非常に危ない。日本経済自体の信頼がだんだん薄らいできていますし、経常収支もだんだん黒字が怪しくなってきているので、円安の先行きは分からないところがあります。でも株は確実に、この金融緩和政策を止めますと言った途端に下がるでしょうね。
もう一つ心配なのは、金利です。今は政府が国債を発行すると銀行が買い、すぐ日銀が買いますから市場はないようなものです。銀行の側から見ますと、買った値段よりは多少は儲けが出るような値で売れるわけですからね。しかしこれも今の政策をやめた途端、銀行は国債を買わなくなります。現在のように0.6%くらいの金利しか付かない、消費税の影響を除いても、物価上昇が1%以上ある時に、1%以下の国債を買えるはずはありません。すると途端に金利が暴騰する。日銀があらたな資金供給をこれまでのようにはやりませんと言った途端に、銀行は自分のリスクと考えて国債を買わなくなり、国債の発行条件が金利を上げなければいけなくなる。そうすると既発国債は値崩れします。そうすると、発行された国債のかなりを日銀が持っていますから、値崩れすれば日銀の体力が相当弱ります。また、民間銀行が持っている国債も確実に値下がりしますから、かなりの打撃が出てきます。あれだけ日銀が買っていてもまだ結構たくさん銀行は抱えている。だからそれを持っている間に今の政策をやめられると、国債の大幅値下がりが起こって銀行の信用問題になります。銀行は保有国債を時価で計算し直さなければいけないから。その損が落とせない状況になると大変なパニック状況になると思います。
そういう意味でもアベノミクスの第1の矢は、やめることができない。恐ろしくてやめられない。やめるためには景気がある程度よくなって、株は大丈夫だとか金利が上がっても銀行が国債の値下がり損を吸収できるぐらいにならないとやめられない。ですので、まったく効果がない政策だけど前に進む以外にない。事無きを得ようと思うと前に進む以外ないような状態になってしまっている。アメリカも金融緩和からの脱却の時に随分苦労しました。最初の頃は金融緩和をやめると言った時に株が下がり、いろいろと混乱が起きました。日本はそれどころではなく、アメリカよりもっと大きな混乱が起きるでしょう。アメリカの場合はある程度景気が良くなってきてからやめたので両方が相殺し合い、結果的には過渡期のちょっとした混乱ですみました。しかし日本の場合は景気の回復がついてきていないので、本当にやめられないわけですね。
第2の矢=公共事業もジレンマ状態
――アベノミクスの第2の矢や第3の矢についてはどうでしょうか?
第2の矢の公共事業の拡大は、景気の上では効いています。2013年の成長率が公共投資により0.4%持ち上がったということですが、とにかく異常に公共事業を増やしているのですね。▼図表9にあるように、前年比の伸び率が8%になっている。これまでに伸ばしたのは、麻生内閣のリーマンショック後の何でもありの政策のときや、小渕内閣での宮沢不況の後などでした。今までは何とか景気を良くしなければいけない時に公共事業を増やしているのです。しかし平常時にもかかわらず、非常時を上回って増やしたなんていうのはここ20年来初めてです。小泉さんでも「国債発行額は30兆円以上増やしません」と言っていた。そうした歴代政府がタブーにしてきたことを打ち破って、なりふり構わず公共事業を増やしたわけです。それである程度の景気を支えている格好になっています。
ただ、今後も同じように支え続けるわけにはいかないでしょうから、2014年も寄与度が0.2%と低くなってきていますが、それでも増やしています。来年度予算でまた増やす方向でやっていますが、もうそんなには増やせません。他の経済活動が活発化しない限り、公共事業をやめた途端に成長率が下がってしまうというジレンマを抱えているので増やすのをやめられない。何とか景気の回復基調を維持するためには、やめられない状況になっていると思います。
第3の矢=(1)法人税減税は効果なく財政難を深刻化させるだけ
第3の矢は、本格的にはこれから放たれる矢です。今まではほとんど準備作業で、本格的に動き出すのはこれからですね。
第3の矢の「成長戦略」にはいろいろなメニューがありますが、私はポイントは3つだと思います。(1)大企業には税金をまけてあげます、(2)大企業のための規制緩和をどんどんやります、(3)政府の総力を挙げて企業は助けます、ということです。
それぞれに問題があります。法人税減税を実施しなければいけない根拠はまったくないのに、「国際基準の実行税率20%台まで下げる」と言っています。その国際基準とは何か。アメリカは今、実効税率41%。フランスは33%、ドイツは30%、イギリスはもっと低いですけどヨーロッパの国々はだいたい30%くらいです。ですから、20%が国際基準などというのは、かなりデタラメな言い方です。しかもアメリカという40%を超えている国があるのに、それを国際基準から除外してしまっている。世界の先進国の中で最も低くするというのなら話は通りますが、日本は高いから下げるんだというのは理屈が通りません。しかもヨーロッパ企業は社会保険料の負担が重たいので、法人税と社会保険料を合わせた企業の公的負担を比較すると日本の方が軽い状況なのです。その上、日本の法人税は研究開発減税などさまざまな減税措置があって、実際の法人税の負担はヨーロッパ企業と比べても低いわけで、下げる必要がありません。
また、法人税を下げて良いことがあるのかというのも疑問です。安倍政権が法人税減税が必要な理由として言っているのは国際競争力を強くするためということですが、どうして法人税を減税したら国際競争力が強くなるのか説明ができていません。安倍政権の論理は、法人税をまけてあげると企業の手元に資金が残る企業は、その資金で研究開発や設備投資を増やすことができて国際競争力が高まるというのですが、今でさえ企業の手元には膨大な剰余金があります。昨年1年間でも法人企業は約77兆円の資金を手にしているのです。これだけの余剰金を1年間で生み出しているわけです。それに対し、設備投資をどれだけやったかというと、36兆円くらいなんですね。ということは、設備投資はほぼ減価償却で賄えている。日本経済は成長しないから、設備投資しても仕方ないわけです。必要なのは更新投資くらいで、古くなった機械を置き換える程度です。そうした必要な設備投資は十分できている。しかもそれに使ってもなお30兆円くらい上回った資金を持っているのです。もうそれで設備投資をしない。いくら膨大な資金があっても設備投資しても仕方ないわけですから、設備投資はしません。そういう状態にある企業に対して新たに減税して何兆円かの資金が増えても、それが設備投資に回ったり、研究開発に回ったりするわけはないのです。
結局、企業の剰余金が増えるだけの話ですから、法人税減税は国際競争力を高める効果などまったくないのです。加えてそもそも大儲けしている企業に対する減税ですから、企業経営に役立つわけでもありません。ですから、一方で財政難と言いながら、まったく効果のない法人税減税に安倍政権はなぜあんなに一生懸命なのか理解に苦しみますね。
第3の矢=(2)ドリルで打ち壊す「岩盤規制」の大部分は労働法制
第3の矢の2つめの規制緩和はもっと問題です。安倍首相は「岩盤規制」と言っていますが、規制緩和をすると言っている「岩盤規制」の中身のかなりの部分は労働の規制緩和です。労働者派遣法の改悪法案は前の国会で2度目の廃案になりましたが、安倍政権はこりずに「生涯派遣・正社員ゼロ」となる同じ法案の成立を今国会で狙っています。
加えて、今問題になっているのは労働時間の規制緩和ですね。年収1,075万円以上の専門職に限って週40時間を基本とする労働時間規制をなくすという「残業代ゼロ法案・過労死促進法案」ですが、年収1,075万円以上というと企業で管理職などに就いている人だからほとんど実害がなさそうに見えます。しかし、これは入口にすぎません。労働者派遣法と同じです。最初は特別な人だけということで制度を導入し、その後、間口をどんどん広げてほとんど全職種で使えるようにしました。とりあえず入口を突破すれば、だんだんハードルを低くしていって、かなりの人に残業代を払わなくてもいいような状況に持っていくのが狙いだと思います。
ほかにも「国家戦略特区」や医療の改悪などさまざまなメニューがアベノミクスの第3の矢として狙われていますが、この第3の矢はつまるところ「構造改革」政策の再現だと思います。安倍首相の言う「世界で一番企業が活動しやすい国」というのは、「構造改革」の総仕上げをするということです。