「非正規は低賃金で当然」「パート労働という名の女性差別」がまかり通る日本の非常識、世界の常識は「同一労働・同一待遇」と「恒常的・継続的」な仕事に対し「有期雇用」は許されない

(※2012年5月に書いた記事です)

「非正規労働者の権利実現全国会議」が2012年4月21日に「使い捨てやめて! 有期労働契約を規制し、安心して働くことができる社会をめざす市民集会」を開催しました。この市民集会の中でおこなわれた、脇田滋龍谷大学教授の講演要旨を紹介します。(※私が関心を持った部分だけの要旨ですので御了承を。文責=井上伸)

雇用期間が経過すれば必ず解雇される
有期雇用労働者が増大する日本

私が勤める龍谷大学でこの4月1日から雇用された職員のうちわけは、正規労職員がたったの4人で、有期雇用職員が40人にのぼります。この有期雇用は、1年契約で4回までの更新。5年経過すれば必ず解雇するというものです。龍谷大学における語学授業の7割から8割をこうした有期雇用の教員が受け持っているのです。学生から高い授業料を取っておいて、こんなひどいことをしなら大学当局はお金をためこんでいるわけですが、非正規労働者を低賃金と不安定雇用で使い捨てながら利益を上げるというひどいやり方は何も龍谷大学に限ったことではありません。他の私立大学にも、国立大学にも、そして、他の日本の企業にも、国や自治体の職場にも、大きく広がっています。

ヨーロッパ諸国は「同一労働・同一待遇」、
非正規の「非差別」を実現

ヨーロッパ諸国にも日本と同様、非正規労働者は存在していますが、ヨーロッパでは「同一労働・同一待遇」が実現されています。EUの2000年前後の指令でパート労働者・有期労働者・派遣労働者についての「非差別」が確認されています。ヨーロッパ諸国では、正規労働者と同じ仕事をしている非正規労働者は「同じ待遇もしくはそれ以上の待遇でなければいけない」のです。

日本に不当にまかり通る
「非正規労働者は低賃金で当然」、
そしてパート労働という女性差別

ところが日本では、不当にも「非正規労働者は低賃金で当然」などということがまかり通っています。しかし本来、不安定な雇用に置かれる非正規労働者は、安定した雇用の正規労働者よりも賃金が高くなければ割が合わないのです。不安定な雇用でしかも賃金が低いということでは合理性がないわけです。しかもこれに加えて、日本にしかない大きな問題点として、パート労働という、被扶養者だから賃金が低くてもかまわないとする不当な女性差別が存在しています。

「世界の常識」である「同一価値労働・同一賃金」の
本当の意味は「非正規労働者の賃金が
正規労働者の賃金より高い」ということ

フランスには法制度として、派遣労働者や有期労働者に不安定雇用手当があり、非正規労働者より1割高い賃金が支払われています。派遣労働者や有期労働者は、繁忙期などに働かせることができるというメリットを企業は受けていることになりますので、その分を派遣労働者や有期労働者に対して、不安定雇用手当として正規労働者の賃金より1割分上乗せてして当然であるという考え方なのです。イタリアでも同じような不安定雇用手当は非正規労働者に支払われています。

「同一価値労働・同一賃金」が本当の意味で実現されるときには、「非正規労働者の賃金が正規労働者の賃金より高くなるようにしなければならない」というのが「世界の常識」なのです。実際に、フランスやイタリアに加えて、デンマークなどの北欧諸国と、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどの国は、正規労働者と比べて非正規労働者の賃金の方が高くなっています。非正規労働者の「解雇によるリスク」を補うために、たとえば、オーストラリアは正規労働者の賃金が「100」とすると、非正規労働者の賃金は「105」と、むしろ高い時給に設定されているのです。

国や自治体まで進める
「非正規労働者だから賃金が低くて当たり前」
という「日本の常識」は「世界の非常識」

「派遣やパートだから賃金が低くて当たり前」という「日本の常識」は、「世界の非常識」なのです。

しかも、日本の非正規雇用は、政府と経営者が意図的にこの20~30年の間に作り出してきたものです。とくに1985年の派遣法や、あるいは1999年の派遣業務の原則自由化など、政府と財界の政策として、日本の非正規労働者は拡大させられてきたのです。韓国においても非正規労働者数は減る傾向にありますから、非正規労働者が拡大し続けているのは世界で日本だけです。

しかも、国や自治体までもが悪乗りしています。「公務員減らし」ということともあいまって本来なら正規の公務員がおこなっていた仕事を非正規労働者に割り当てて不安定で低賃金な「官製ワーキングプア」を拡大しています。たとえば、滋賀県野洲市では2010年11月の時点で、職員に占める非正規労働者の割合が半数を超えています。正規労働が一般的な雇用という前提でそれ以外を非正規労働と今は呼んでいるわけですが、こうした逆転現象が生まれてくると、非正規労働の方が一般的な雇用へと置き換えられてしまいかねないような異常な雇用実態にあるのが日本社会だということです。

さらに、1985年の派遣法ができたときから、私は派遣法にはジェンダー問題、女性差別の問題が隠蔽されていると指摘してきました。私は1996年からホームページで派遣労働者の労働相談を始めましたが、当初は女性からの相談ばかりでした。ところが2000年頃から男性の派遣労働者からの労働相談が増えてきました。若年層の男性が製造業派遣などで働いているということで、やっとマスコミも騒ぎ出しました。つまり、若年層の男性が非正規で働いているということに対してだけは、やはりおかしいのではないかと問題にするという意識は、女性に対しては差別してもいいという意識を持っていることになるわけです。女性はずっと前から差別された待遇で派遣労働者として働かされていたのにそれを問題にしない女性差別の意識が根底にあるということです。

「有期雇用」は
「解雇規制の脱法」にほかならない

日本の場合には、経営者だけでなく、裁判所も含めて、有期労働者の契約期間というのは自由に設定していいという認識が強くあり、それは労働者側にもニーズがあるという不当な“決めつけ”でなされています。

一方、ヨーロッパにおいては「有期雇用」というのは「解雇規制の脱法」にほかならないとしています。たとえば、京都大学の図書館業務というのは「一時的・臨時的」な仕事ではないことが明らかなのに、図書館業務に1年有期の非正規労働者を使うということは、1年で解雇を脱法的に実行しやすくするために「有期雇用」としているに過ぎないということです。「解雇規制を逃れる」という狙いを持っているのが「有期雇用」です。日本においても合理的理由のない期間設定などによる解雇は労働契約法16条違反で無効であるのにもかかわらず、「有期雇用」が悪用されているということです。

仕事が本当に「臨時的・一時的」で
仕事自体に期間設定がある場合に限って
労働者の雇用もそれにあわせることができる

ドイツでは1951年に解雇制限法が制定されました。ところが、今の日本と同じように「有期雇用」による解雇が広がり、解雇制限法の適用を回避する「有期雇用」の弊害が生まれました。それに対して、ドイツ連邦労働裁判所は、1960年に、その仕事がずっと存在しているのに、労働者の雇用にだけ「有期」という期間設定をすること自体を禁止しました。仕事が本当に「臨時的・一時的」で、仕事自体に期間設定がある場合に限って、労働者の雇用もそれにあわせることができるということで、ドイツでは、「有期雇用」という「解雇制限の脱法行為」を禁止したのです。京都大学の図書館の仕事はずっと継続してあるのに、その仕事をする労働者にだけ「有期雇用」を設定するということは「解雇規制の脱法行為」なのです。仕事はずっと存在するのに、労働者にだけ「有期」があるのはおかしいのです。

「恒常的・継続的」な仕事に対して
労働者にだけ「有期雇用」を
設定することは許されない
「入り口規制」が重要

フランスでは、1982年に有期労働契約規制法ができます。本来、労働契約は「無期契約」=「期間の定めのない契約」が原則であることを明文化しています。そして、有期雇用については例外として利用をはっきり限定しリストアップしました。その仕事が本当に「臨時的・一時的」でなければ有期雇用は認められないわけです。

ドイツやフランスの例でも分かるように、「有期雇用」をつかった「解雇規制の脱法行為」を禁止するには「入り口規制」が必要だということです。雇用の「入り口」において、本当にその仕事が「臨時的・一時的」であるならば「有期雇用」はやむをえないとしているわけです。しかし、恒常的、継続的な仕事に対して、労働者にだけ「有期雇用」を設定することは許されないことです。こうした「入り口規制」が重要だというヨーロッパの考え方から日本は学ぶべきです。

それから、もう一つの問題は「均等待遇」です。同じ仕事をしているのに、どうして非正規労働者の方が低処遇なのか。逆に非正規労働者の方が高い処遇であることの方が合理性があるのです。

正規労働者と同じ仕事をしている非正規労働者は、不安定雇用に置かれている分、処遇が高くなければいけないのです。「不安定な上に処遇が低い」というのはバランスを欠くわけです。ところが日本の場合は、非正規労働者は処遇が低いのが当たり前という「身分差別」がまかり通っています。こうした「世界の非常識」である「日本の常識」を抜本的にあらためなければなりません。

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井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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