月100時間未満OKは政府が「殺人」を合法化するもの、政府・経団連は大切な家族を亡くし絶望のなか立ち上がった私たちの願いを無視するのか|過労死遺族が怒りの訴え

  • 2017/3/16
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昨日(3月15日)、「過労死ラインの上限規制を許すな!~労働時間の上限規制を問う緊急院内集会」が開催されました。主催は、日本労働弁護団、過労死弁護団全国連絡会議、全国過労死を考える家族の会です。とりわけ全国過労死を考える家族の会のみなさんの怒りの訴えは涙なしには聴けませんでした。以下、主な発言の要旨を紹介します。(文責=井上伸)

過労死ラインの上限規制は公序良俗違反、安全配慮義務違反
過労死を合法化し、政府自ら過労死を容認するもの
〈棗一郎日本労働弁護団幹事長〉

3月13日、経団連と連合が合意しました。私たちは残業に上限規制を行うことに反対しているわけではありません。中身こそが問題だと言っているのです。今回の上限規制の中身は到底賛同できるものではありません。休日労働を含んで単月100時間未満、2カ月から6カ月の平均は80時間以内とすることは到底納得できません。これでは過労死を合法化し、政府自ら過労死を容認することに等しいものです。最近の労働裁判では、月80時間を超える残業について「公序良俗に反する」「労働者への配慮に欠ける」との判断が相次いでいます。今回の中身はまさに公序良俗違反です。労災認定基準を大幅に下回る上限規制をしなければ安全配慮義務違反です。

命奪う長時間労働を差し止めはしない、
企業は堂々と長時間労働を実現する、という今回の方向
長時間労働は経営にとっても大きなマイナス
経団連は日本経済の維持、健全な発展を阻害するのか
〈川人博弁護士〉

今回の「100時間未満」は、公害裁判における“住民に補償はするが差し止めはしない”という日本の現状を想起させられます。

たとえば基地の騒音被害で“住民に賠償はするが戦闘機の飛行を差し止めはしない”と同じです。「100時間未満」という労働で、その結果、病気になったり亡くなれば労災は適用しましょう。しかし、そのような労働は差し止めはしません、企業はやっていただいて結構です、というものです。つまり、これまでのさまざまな違法状況を放置したまま、賠償すればいいという考え方で長時間労働を堂々と職場で実現する。これが拡大する。補償すれば命は戻ってくるのか? 労災適用すれば亡くなった方の命は戻ってくるのか? そういう意味で、まったくもって納得できない今回の方向であるわけです。

いまヨーロッパで注目を集めているオランダの若手研究者ブレグマン氏の書籍『Utopia for Realists』がベストセラーになっています。この書籍の中でブレグマン氏は「21世紀に1日3時間1週間15時間の労働を実現しよう」ということを書いています。そしてブレグマン氏は、これまでの歴史を見ても長時間労働が経営にとっても多くのマイナスをもたらしてきたことをさまざまな具体的なデータで実証しています。たとえば、アメリカの自動車会社において週40時間労働を週60時間労働にした結果、生産性が下がったということや、そもそも人間が創造性を発揮できるのは1日6時間労働までが限界であるという研究者の報告も紹介しています。

残業100時間をあくまで主張している経団連のみなさんに申し上げたいのは、いったい日本でこれほどの長時間労働をさらに続けて日本経済は本当に維持されるのかどうか? 健全に発展するのかどうか? なぜ100時間でなければいけないのか? 上限規制が40時間、50時間でなぜいけないのか? この点についてはなんら具体的な反論も実証もされていません。むしろ長時間労働が経営にとってもマイナスとなるさまざまなデータが出されている。経営学の研究者から長時間労働がいかに経営にとってもマイナスかということが出されている。私たちは政府に対してはもとより、経営者のみなさんにこの長時間労働がもたらす悪弊について、話をし、説得をし、考え方をあらためるように強く訴えていきたいと思います。

健康でも月平均80時間の残業で過労死する
〈過労死を考える家族の会 Aさん〉

タバコも吸わず、健康診断でもひっかかったこともない、40歳の夫が過労死で命を落としました。6カ月平均80時間の残業が認められ、労災認定されました。健康でも平均月80時間の残業で、人は死んでしまうのです。家族を亡くした遺族として、月100時間未満や平均80時間という合意は、到底許せません。人の命がかかっているのです。特例など認められません。「子どものために一生懸命に働かなくてはいけない」「子どもと一緒にいたい」と、いつも夫は言っていました。人が健康的に働くことができる社会にして欲しいのです。

「単月100時間未満」「2~6カ月平均80時間以内」は長時間労働促進
政府と経団連と連合は大切な家族を亡くし絶望のなか立ち上がった私たちの願いを無視するのか
〈全国過労死を考える家族の会 兵庫代表 西垣迪世さん〉

今回の方向は本当にこの国の働き方を改革し、長時間労働をなくし、過労死ゼロを実現し、女性や若者、高齢者などの多様な人材が本当に活躍できる社会につながる規制になるのでしょうか? 私は断じてそう思いません。自分の命より大事なひとり息子をこの日本社会が生んだ長時間労働により過労死で亡くした遺族として、過労死ラインを合法化する労働基準法改正はとんでもないことだと言わざるをえません。

息子は会社の記録によると、4月の残業は93時間、6月72時間、7月75時間でうつ病を発症し、27歳で過労死しました。実際には記録のない休憩時間も働いていたために4月の実労働の残業時間は124時間になり、とくに荷重であった6月後半から7月前半の変形1カ月をとれば、150時間を超える残業でした。

1カ月100時間未満、2ないし6カ月80時間以内は、このように変形1カ月をとったり休憩時間を含む実労働時間をとればゆうに100時間を超える長時間労働になる恐れがあります。こうした過労死ラインを労基法に書き込んでは絶対にいけません。時間外労働の上限は月45時間を守るべきです。そうでなければ「長時間労働規制」ではなく「長時間労働促進」になります。

また睡眠時間の保証は命の保証です。1日の上限またはインターバル規制をもうけるべきですし、時間外労働規制除外の業種をもうけるべきでもありません。どの業種の人の命も同様に尊いものです。私たち過労死遺族はこれ以上大切な家族を亡くし悲しむ遺族を出してはならないと絶望のなか必死の思いで立ち上がり、この国を健康的に働ける国にするために過労死防止法の制定を2014年の6月に実現しました。過労死防止啓発シンポを43都道府県でとりくむなどしてきました。私たちの願いを無視して、政府と経団連と連合は、過労死ラインを合法化するというのでしょうか? 働く人の命と健康を大事にする国に、企業に、かわるべきです。

今回の過労死合法化はまさに殺人につながる
〈東九州過労死を考える家族の会 桐木弘子さん〉

大手自動車会社の整備士だった23歳の息子は、「工場長、使えない人間で、すみませんでした」という遺書を残して自ら命を絶ちました。自分の命にかえても守りたいと思って必死に育てたわが子が、仕事が原因で自死するときの衝撃は想像を絶するものでした。最愛のわが子を救えなかった自責の念と絶望、喪失感など、とても言葉で言い表せない苦痛でした。

子どもに先立たれた悲嘆が一番大きいと言われていますが、もっと苦しく辛かったのは息子本人です。死を決心したとき、どれだけ苦しんだのか。死を決行したときどれだけ痛かったのか。仕事から逃れる方法がそれしか思い浮かばなかった息子がかわいそうで、今でも胸が詰まります。

残業上限を繁忙期に100時間未満まで認めるという恐ろしい法律が制定されようとしています。たとえ100時間未満と取り繕っても99時間と100時間の間にどれだけの違いがあるのでしょうか? この法案を通そうとしている人たちは、100時間の残業がどれだけ過酷なものか認識しているのでしょうか?

過労自死は、仕事が原因でうつ病に罹患することによって死に至ります。過労死ラインを合法化し、死ぬかもしれないとわかっている労働時間を働かせたあげく、死なせることがあれば、まさに殺人であると私は考えます。

過労死、過労自死はなくすことができるのです。死ぬほど、働かせなければいいのです。どうか、労働者が人間らしく幸せに暮らせるような労基法にして、私たち親子のような悲惨な目にあう家族をなくしてください。

人の命奪う働かせ方を公然と行う提案が堂々とされる異常な事態
過労死増大法では人間らしく働けない
〈大阪過労死を考える家族の会 代表 小池江利さん〉

49歳の夫は脳動脈破裂によるくも膜下で過労死しました。特別養護老人ホームの管理室室長で、介護事業の拡大とあわせて、会計業務が増え、倒れました。過労死をなくすための法律、悲願の過労死防止法が成立したときに、みんなで喜びあいました。しかし、今回の合意は、人の命を奪うものです。堂々と提案される事態が不思議でなりません。この法律が成立すると、過労死ラインの働かせ方が、公然と行われることになります。残業の過少申告問題もあります。子どもたちは今は社会人になりました。子どもたちには充実した人生を過ごしてもらいたい。将来ある子どもたちが、このような過労死増大法のもとで、人間らしく働けるとは思えません。安心して、家族を仕事に送り出せる社会にしたい。

すべての国会議員が賛成した過労死防止法に照らして
まともな残業規制の実現を
〈全国過労死を考える家族の会 代表 寺西笑子さん〉

遺族の切実な訴え、お聞きいただいたでしょうか。労働組合でも専門家でもない。大切な家族を過労死でなくした、二度とこのような苦しい思いをしてほしくない。まじめに働いた人が、仕事で命を落とすことなどない社会にしたい。そう思って、私たちは活動をしてきました。なぜ、働き方改革実現会議に、私たちが参加できないのでしょうか? 長時間労働をなくせば、過労死はなくせるのです。電通過労死遺族の高橋幸美さんのコメントを共有したいと思います。自分の命にかえてでも守りたかった家族をなくした。この状況が、4半世紀活動してきましたが、いっこうにかわらない。過労死を防ぐ法律をつくろうと、弁護士ともに、2014年に過労死防止対策推進法が実現しました。ところが、この法律の3年後に、このような改悪をしようとは。なんのための過労死防止法だったのでしょうか? 過労死防止法の方が先の法律です。しかもすべての国会議員が賛成してできた法律です。月100時間残業などと言っている人も、過労死防止法に賛成しているのですから、労基法の改悪は絶対にさせない。まともな規制を実現するために、たたかいましょう。

https://twitter.com/aequitas1500/status/841261855154688002

 

 

 

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井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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