安倍首相絶賛の月100時間未満では電通過労自死事件なくせない、過労死なくすには残業の絶対的規制と残業隠しを根絶できる労働基準監督官の増員が必要

  • 2017/3/14
  • 安倍首相絶賛の月100時間未満では電通過労自死事件なくせない、過労死なくすには残業の絶対的規制と残業隠しを根絶できる労働基準監督官の増員が必要 はコメントを受け付けていません

安倍首相と菅官房長官の言葉です。

本日、連合、そして経団連の双方が、時間外労働の上限規制に関して合意をいたしました。労働基準法70年の中で歴史的な大改革だと思います。
3月13日 神津連合会長及び榊原経団連会長による訪問、首相官邸サイトより

菅義偉官房長官は14日午前の記者会見で、労使が残業時間の上限規制について合意したことを受け、「極めて画期的で、労働基準法70年の中で歴史的な大改革だ」と評価した。
菅官房長官、残業規制は「歴史的改革」 時事通信 3/14(火) 11:06配信

これに対して、電通の新入社員で過労自殺した高橋まつりさんの母、幸美さんは次のようにコメントしています。

 月100時間残業を認めることに、強く反対します

政府の働き方改革として、一か月100時間、2か月平均80時間残業を上限とする案が出されていますが、私は、過労死遺族の一人として強く反対します。

このような長時間労働は健康にきわめて有害なことを、政府や厚生労働省も知っているにもかかわらず、なぜ、法律で認めようとするのでしょうか。全く納得できません。

月100時間働けば経済成長すると思っているとしたら、大きな間違いです。人間は、コンピューターでもロボットでもマシーンでもありません。長時間働くと、疲れて能率も悪くなり、健康をそこない、ついには命まで奪われるのです。

人間のいのちと健康にかかわるルールに、このような特例が認められていいはずがありません。

繁忙期であれば、命を落としてもよいのでしょうか。

命を落としたら、お金を出せばよいとでもいうのでしょうか。

娘のように仕事が原因で亡くなった多くの人たちがいます。死んでからでは取り返しがつかないのです。

どうか、よろしくお願いいたします。

月100時間残業「強く反対」 まつりさん母がコメント 朝日新聞 2017年3月13日20時42分

 

安倍首相と菅官房長官はそろって「労働基準法70年の中で歴史的な大改革だ」と大絶賛しているのに、過労死遺族は「強く反対」しています。あらためて3月8日に衆議院厚生労働委員会で行われた参考人質疑での川人博弁護士の意見陳述と質疑での意見を聴くと、安倍首相と菅官房長官の主張がいかにとんでもないものであるかがとてもよくわかりましたので、一部ですが以下紹介します。(文責と中見出し=井上伸)

▼過労自殺した電通の高橋まつりさんの遺族の代理人も務める川人博弁護士の意見陳述と質疑での意見(3月8日 衆議院厚生労働委員会)

2つの問題(①非合法な長時間労働隠し②36協定など合法的手段)
に対策を打たなければ過労死はなくならない

日本における長時間労働は、2つの方法、手段によって発生しています。1つは、非合法な労働時間隠しによってです。もう1つは、36協定などによる合法的な手段によってです。長時間労働を規制するためには、この2つの問題に対する対策が必要です。

まず初めに、長時間労働の隠蔽といいますか、労働時間を隠すという問題です。

過労死事案で長時間労働は隠蔽されている
電通事件でも月30時間以上隠されていた

ほとんどの過労死の事案において、実際の労働時間というのは、名目上の労働時間、会社が公認している労働時間と異なっています。

高橋まつりさんの電通の事件に関して言えば、会社は、会社公認の残業時間としては1カ月70時間未満としていたわけです。しかしながら、実際には、労働基準監督署が認定した範囲でも、法定外の労働時間が100時間を超えていたということです。

先日、ヤマト運輸が、全社的に、全国的に多くのサービス残業があったこと、不払い残業があったことを認めて、過去にさかのぼってそれを支払う、そういう方向を出しました。不払い残業があったということは、言い換えると、労働時間隠しが行われていたということでもあるわけです。

いま中間管理職が過労死の脅威にさらされている

加えて強調しておきたい点は、現在、中間管理職の時間外労働がとても厳しくなっているという報告を受けています。つまり、昨年秋以降の電通事件の報道等によって、中間管理職には、早く新人を帰すように指導しなさい、こういうことが役員から指示がおりてくるわけです。

その結果、どうなっているかというと、若い1年目の人、2年目の人はとりあえず労働時間が減っているところもあるけれども、中間管理職、マネジャーのような立場の人たちの労働時間がとても増えているのです。

なぜこういうことが起こるかというと、現在、中間管理職に関して、多くの会社が労働基準法の41条の管理監督者の規定を濫用して、誤って使って、残業時間を記録していないわけです。残業手当も支払っていないわけです。

本来は、労基法41条の管理監督者規定というのは、ごく一部の上級管理職にだけ適用されるべきものです。判例上もそうなっています。それを課長、さらには課長補佐まで適用しているということがあります。

このような労働時間管理放棄によって、現在は、新人のみならず、中間管理職も過労死の脅威にさらされている、このことを指摘しておきます。

労働基準監督官があまりにも少ない
労働基準監督官の大幅な増員で
実効ある監督行政にし長時間労働隠し根絶を

今年の1月20日に厚労省が、使用者向けに、労働時間の把握のための新しいガイドラインを策定しました。このガイドラインに沿って監督行政をぜひ実行していただきたいのですが、私たちの現場の実感で言えば、あまりにも労働基準監督官の数が少ないということがあります。ぜひ、労働基準監督官の大幅な増員を含めて、監督行政を実効あるものにする、そして、労働時間の的確な把握を進めていただきたいと考えています。

2番目の36協定など合法的な手段による長時間労働についてです。

高橋まつりさんは一昨年の12月25日に亡くなりましたが、会社は、10月に徹夜を含む長時間労働で彼女が相当疲弊していたにもかかわらず、彼女の部署について、12月には、36協定の特別条項を適用して合法的な長時間労働の枠を広げるという措置をとっていました。

特別条項の問題とは別に、建設業や運輸業では、そもそも36協定の時間外労働に関する規定が全くありません。私は、石油プラント工業で亡くなった24歳の青年の事件や、つい最近では、下水道関連の公共事業に従事した建設業の方々の事件を担当しましたけれども、建設業において何らの36協定の上限規制がないというのが、いかに深刻な影響を与えているかということを、痛感しています。この点も、ぜひ、今回の法改正に向けての重要なテーマであるということを、改めて強調したいと思います。

長時間労働をなくすためには労働時間の絶対的な規制が不可欠

長時間労働をなくすためには、労働時間の絶対的な規制が不可欠です。時間外労働の上限規制の法制化の議論の中で、特別条項で1カ月100時間という案を聞いたときに、私はわが耳を疑いました。全く信じられない数字が出てきたということです。なぜなら、そもそも、もう今から15年以上前の2001年に、厚生労働省は1カ月間に100時間の時間外労働があれば過労死ラインとして労災の適用になることを明確に医学的な根拠を含めて出したわけです。

さらに、今議論されている中には、2カ月間の平均で80時間が上限ということも出されていますが、平均80時間というのも、厚生労働省が過労死のラインとして設定している数字であるわけです。

繁忙期には長時間労働もやむを得ない?

繁忙期には長時間労働もやむを得ない会社や業界もあるじゃないかという意見があります。しかし、繁忙期にある程度やむを得ないからといって、なぜ100時間や80時間というレベルになるのか、そのような具体的な説明は全くなされていません。そのような立法事実は提起されていません。月に100間もの残業をしなければ会社が倒産してしまうということなんでしょうか。そのような会社が本当にあるのか。さらに、仮にあったとしても、人命よりも会社の存続を優先させていいのか。私は、繁忙期の問題がテーマになる企業においては、経営者の方々に、ぜひ年間を通じた経営努力で改善を図っていただきたいと考えます。

全く規制がないよりも100時間という規制でもあった方がよい? よりまし?

また、今は青天井だから、全く規制がないよりも100時間や80時間という規制でもあった方がよいではないか、つまり、よりましの議論が出ています。

高橋まつりさんの死亡の労災認定が明らかになって以降、昨年の秋以降、多くの企業で現行の36協定を各社が見直し、特別条項を使っても月80時間を超えないようにという流れが生まれてきています。電通では、遺族との合意文書の中で、特別条項を適用しても月の法定外労働時間は75時間以内にする、そのような業務命令をするということをはっきりと約束しています。

100時間残業OKは時間短縮の流れを逆流させる

このように、現に今職場では、100時間や80時間よりも少ない数字の特別条項で動いているわけです。ところが、100時間でもいいということが通れば、それによって状況がもとどおりに戻ってしまう。よりましな基準ではなく、むしろ、今の時間短縮の流れが発生しているにもかかわらず、その時間短縮の流れを逆流させる、それが100時間、80時間をいいとするものであることを強調したいと思います。

100時間で1カ月ぐらい働いても健康は大丈夫じゃないかという意見もあります。しかし繁忙期に100時間というのは、いわゆるだらだら残業などではありません。会議中に眠ったり、あるいはぶらぶらしたり、そんなようなことを行っている労働者はいないわけです。労働密度も当然濃い。さらに、IT化によって労働密度はますます濃くなっている。そういう中での80時間、100時間ですから、当然のことながら、人体に対する極めて深刻な影響も出るわけです。

繁忙期の残業100時間は死に至る

1カ月間辛抱したらいいじゃないかという意見がありますが、うつ病は短期間に発生します。厚生労働省の委託研究でも、月100時間の残業があれば、うつ病が急速に発症し、それが死に至る危険がある、と具体的に提起されているわけです。

これらの点を考え、上限規制は、過労死ラインと言われる80時間や100時間というものでない、もっと低いラインの上限規制を実現するようにしていただきたい、そのことを強く訴えたいと思います。

高度プロフェッショナル制度の問題について、一言述べたいと思います。

私が疑問なのは、高度プロフェッショナル制度と言いますが、果たして、労働時間規制も撤廃して長時間働いたから高度なプロの仕事ができるのかということです。

人間の能力を発揮するために、適度な睡眠時間の確保や休日の確保は当然の前提条件じゃないでしょうか。どうも経営者の一部の方々は、目先の利益の確保を目指すあまり、正しい意味での労働能力の発揮、労働効率ということも忘れてしまって議論をしているのではないでしょうか。

最後に、夜勤交代制労働者につきましては、夜勤交代それ自体が過重であるわけですから、上限規制自体、一般の労働者以上に残業の上限規制は厳しくなければならないと思います。

この10年間で厚労省が労災として認定しただけでも、過労死は約2千人に達しております。過労死をなくすることは国の責務であると過労死防止法は宣言しました。どうか、国会、立法府におきましては、この異常な日本の職場を改革するために、長時間労働を解消し、過労死のない社会の実現のために知恵を絞っていただきたい。そして、知恵を絞っていただき、適切な法律を制定していただきたいと心より訴えます。

〈以下は質疑での川人博弁護士の意見〉

フランスでは今年の1月から業務上のメールを自宅で見なくてもよい権利=「ライト・ツー・ディスコネクト」の法案を施行

ITが進むことによって、労働時間の管理などは大変把握しやすい状況になってきました。労務管理においては、例えば入退室管理の記録などが瞬時に出るようになる。そういう意味では、上司や人事関係者が従業員の労働時間の把握ができるようになった、こういう意味では、IT時代における、ある意味では労務管理を改善していく条件が生まれています。

ただ、他方では、ITの時代において、特に自宅労働がより広まる、そしてそれによるストレスが解消しないという問題があります。フランスで今年の1月から、メールを見なくてもよい権利=「ライト・ツー・ディスコネクト」の法案がことしの1月から実施され、業務上のメールを自宅に帰って見る必要はない、こういうことを方向性として出しています。

こういうことも含めて、どのようにIT時代における過重な労働を防ぐのか、こういったさまざまな工夫、努力も必要になってきているのです。

交代制勤務における残業規制は一般の労働者以上に低いレベルにしなければならない

現在も医師の過労死の案件を多数担当しています。研修医の状況については、労働時間に関して言えば、残念ながらほとんど改善がない、そのような実感を持っています。

関西医大の研修医の方の亡くなられたケースで、随分前に研修医の労働者性ということが明確にされ、そして労働時間管理の重要性が裁判所でも指摘されたわけですが、そしてさまざまなところで議論されているにもかかわらず、残念ながら研修医の長時間労働の実態は改善されていない。そして相当数の研修医の過労死が現に発生しているのです。

特徴は、労働時間とあわせて、何らかの医療事故を発生したことによる精神的なストレスとが重なっています。

ですので、ぜひ、日本の医療の将来を担う若い医師の勤務条件の改善をどうするかということについて、大いに今後とも知恵を絞り、御議論いただきたいと思っています。

あわせて、看護師の方あるいは理学療法士の方、介護労働者の方等も含めて、夜勤、交代制勤務という観点からも非常に厳しい状況があります。

80時間や100時間の過労死ラインというのは、通常、昼の労働者を念頭に置いたことであり、看護師の方は、80時間や100時間なんというレベルではなく、もっと低いレベルの時間外労働でも十分に過労死ラインと評価すべきです。そういう意味で、医療現場における夜勤、交代制勤務における労働時間規制の問題は、一般の労働者以上により低いレベルにとどめるようなさまざまな政策や法律を検討していただきたいと思います。

高度プロフェッショナル制度、裁量労働制は過労死を自己責任にするもの

裁量労働制の問題も同様ですが、結局、高度プロフェッショナル制度の問題についても、本質的な問題として、その当該労働者の仕事の目標、いつまでにどのような成果を上げるのか、そういう目標の設定というのは会社、使用者が行うわけです。基本的な業務内容、それと業務目標、例えば納期であるとか、例えば特許出願を担当しているような人であれば、それはいつまでに出願できるようにとか、こういうことは基本的に会社、使用者が決めるわけです。

ですから、本来的に、使用従属の関係、指揮命令の関係という本質的な問題は、高度プロフェッショナル制度においても裁量労働制においても同じなのです。この点において、ある一部分をとって自由裁量であるとかいう形で議論をすりかえています。

大きな枠、目標設定は企業が行っている以上、自己責任で健康は守ることはできません。ですから、そういう意味での高度プロフェッショナル制度を含めた自己裁量というものに対する見方があまりにも肥大化し、実態以上に強調し過ぎている。もっと労働者性が貫徹されているという側面を見るべきなのです。

残業100時間上限では電通過労自死事件は繰り返される

先日、高橋まつりさんのお母さんの幸美さんが安倍総理と面談したのですが、その席に私も立ち会いをいたしまして、お話を聞きました。そこにおいても、高橋まつりさんのお母さんは、本当に実効性のある労働時間規制を行っていただきたいということを強く話をされていました。

高橋まつりさんの事件について言えば、労働基準監督署はこのような理由で労災と認定したわけです。亡くなる年の11月の初めにうつ病を発病している、したがって、その前の労働時間がどうだったかということが重要ということで、具体的には、うつ病を発病する前に105時間の時間外労働があったと労働基準監督署は認定して、そして、それより前の月は約50時間程度であったものであるから、それが倍の時間外労働になった、このことがうつ病発病の原因になって、その延長線の上で彼女がクリスマスに死亡した、このように労働基準監督署は認定しているわけです。それは専門家の医師などの議論も踏まえてそのように認定しているのです。

したがって、1カ月であっても、100時間、105時間というのはおおむね100時間ですよ、そういう時間外労働があった場合には、それがうつ病を発病するだけの重大な負荷になり、それによって死亡するのだということは、労基署、つまり国自体が認定したことです。

まつりさんの死を繰り返さないためにどうするかということで始まった議論において、1カ月100時間の時間外労働が許容されるということはあり得ないわけです。

この問題は、私もまつりさんの遺族といろいろ話をしている中においても、ある意味では全く信じられない提案である、そのように御遺族も受けとめられているわけであります。それは多くの過労死の御遺族も同じだと思います。その点をまず指摘しておきたいと思います。

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井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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