機動隊員の「土人」「シナ人」発言は憲法・警察法・人種差別撤廃条約に違反、松井一郎大阪府知事は謝罪し再発を防止する必要がある、機動隊員は「一人ひとりの市民、コミュニティ全体の奉仕者」

  • 2016/10/21
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「沖縄タイムス」と「琉球新報」の記事を紹介します。

「土人」発言は何が問題なのか 大阪で沖縄女性らが見せ物にされた人類館事件
沖縄タイムス 2016年10月20日 14:48

大阪府警の機動隊員による「土人」発言が批判にさらされている。本土側の沖縄蔑視、差別はこれまでもたびたび繰り返されてきた。1903年には大阪で開かれた博覧会で、沖縄女性2人を「展示」した「人類館事件」があり、沖縄戦では日本兵による住民虐殺や「集団自決」(強制集団死)があった。戦後71年たった現在でも、在日米軍専用施設面積の約74%が集中する。識者は「差別する側の意識が変わらないと問題は解決しない」と指摘している。

1903年、大阪で開かれた第5回内国勧業博覧会の会場で「7種の土人」として、朝鮮人や台湾先住民、沖縄県民らが見せ物として「展示」される「人類館事件」が起きた。当時の沖縄では「沖縄人差別」として激しい非難と抗議が起きた。

事件から100年後の2003年に大阪で、事件をテーマにした戯曲「人類館」の公演を手掛けた、関西沖縄文庫主宰の金城馨さん=大阪府=(63)は「土人発言」について「特別な驚きはない。普段沖縄に対して思っていることが、表面化しただけ」と切り捨てた。「大阪府警では日常的に沖縄に対する差別があるのではないか。府警の責任を追及すべきだ」と語気を強めた。

金城さんは1879年の琉球処分以降「歴史的に差別が続いている状態」とした上で「これから沖縄は本土と対等に向き合い、差別する側の意識を変えることが問題解決につながる」と話した。

差別の問題に取り組む師岡康子弁護士は「土人」「シナ人」の二つの発言について公的機関が「人種差別を助長しまたは扇動すること」を禁じた人種差別撤廃条約に違反すると指摘。「弁明の余地はない。大阪府警は謝罪し、教育体制を洗い直す必要がある」と求める。

「シナ人」の表現は「レイシスト(差別主義者)が基地に反対するのは中国に操られた売国奴、と言うのと全く同じ発想。基地に反対する沖縄の人々と中国の人々に対する二重の差別だ」と非難した。

「土人」は新聞社が使う「記者ハンドブック」(共同通信社発行)でも差別語、不快用語とされており、記事にする場合は通常「先住民(族)」や「現地人」と表記することになっている。

 

 

「報道やり過ぎ」「反対派も過激」 大阪府知事 差別擁護に批判 背景に基地集中容認
琉球新報 2016年10月21日 11:03

米軍北部訓練場ヘリパッド建設の抗議現場で、大阪府警から派遣された機動隊員が「シナ人」「土人」などと発言した問題で、大阪府の松井一郎知事は「命令に従って沖縄のために無用な衝突が起こらないように職務を遂行している」などと機動隊員を擁護する見解を示した。ヘイトスピーチに詳しい識者は「行政が差別をしっかりと非難し、二度と繰り返さないようにするべきだ」と指摘した。

大阪府知事が言及

松井一郎大阪府知事は20日午前、登庁時に報道各社の取材に応じ「表現は悪かったし、反省すべきだと思う」と述べた上で「(発言した)彼自身、命令に従って沖縄のために無用な衝突が起こらないように職務を遂行しているわけで、あまりにも個人を特定されて、大メディアも含めて徹底的にたたく。これやり過ぎでしょう」と述べ、発言した警察官への報道が個人への攻撃になっているとの見解を示した。

「土人」と発言した警察官が警察庁や国家公安委員会によって処分されるとも述べた。松井氏の、短文投稿サイト「ツイッター」への投稿を巡っては、日本維新の会県総支部が抗議することを決めたが、松井氏は撤回しない考えを示した。

松井氏は北部訓練場周辺の抗議行動に対して「もともと混乱地で、無用な衝突を避けるために、警察官が全国から動員されている。じゃあ、混乱を引き起こしているのはどちらなんですか」と述べた上で「反対派の皆さんもね、その反対行動、あまりにも過激なんじゃないか」と述べ、市民らの抗議行動が過激だとの見解も示した。

松井氏は19日夜、短文投稿サイト「ツイッター」で「表現が不適切だとしても、大阪府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのが分かりました。出張ご苦労様」などと投稿していた。

一方、府庁には20日午後5時までに計385件の電話やメールが寄せられ、大半が松井氏への批判だった。

背景に基地集中容認 ジャーナリスト安田浩一さん

本来なら率先して、機動隊員の差別発言を許されざるものだと意志表示すべき立場の大阪府知事が擁護するような物言いをした。許されることではない。ヘイトスピーチをあおるのは匿名多数の人だけではない。公人の責任が大きい。

これは個人の警察官の問題ではない。「琉球処分」以降、日本が連綿と抱えてきた、沖縄に対する蔑視、差別がたまたま一人の警察官の口から出たということだ。差別は地理的問題だけでなく、沖縄を差別してもいいと思っている人たちがいるということだ。

基地が沖縄に集中してもかまわない、むしろ沖縄だからいいんだと考える政治、日本社会がある。沖縄の「基地が多過ぎませんか?」という実にシンプルな問い掛けを、わがままだと思う日本社会がある。その意識が発言に結び付いた。

国会答弁を聞いていると、今回の発言を「不適切だった」で終わらせようとしていると感じる。不適切かどうかを議論しているのではない。この発言は歴史的経緯や文脈から明確に差別だということだ。行政のやるべきことは、きちんと非難し、二度と繰り返さないようにすることだ。

6月施行のヘイトスピーチ対策法は、国や自治体、国民にヘイトスピーチをなくす努力を求める法律で、今回のような特定の発言を罰することはできない。しかし、市民の抗議活動に公務員である警察官が差別的発言をするのは法律以前の問題だ。

 

師岡康子弁護士が指摘している人種差別撤廃条約には次にように書かれています。

第2条 1 締約国は、人種差別を非難し、また、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため、

(a)各締約国は、個人、集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保することを約束する。

(b)各締約国は、いかなる個人又は団体による人種差別も後援せず、擁護せず又は支持しないことを約束する。

第7条 締約国は、人種差別につながる偏見と戦い、諸国民の間及び人種又は種族の集団の間の理解、寛容及び友好を促進し並びに国際連合憲章、世界人権宣言、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際連合宣言及びこの条約の目的及び原則を普及させるため、特に教授、教育、文化及び情報の分野において、迅速かつ効果的な措置をとることを約束する。

「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」(人種差別撤廃条約)※日本は1995年に加入)

 

上記にあるように、人種差別撤廃条約は、「国及び地方のすべての公の当局及び機関」が「人種差別の行為」をおこなってはいかないこと、そして、「いかなる個人又は団体による人種差別」についても「擁護せず」「支持しないこと」を明記しています。ところが、松井一郎大阪府知事は、機動隊員による今回の「人種差別の行為」を「表現が不適切だとしても、大阪府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのがわかりました。出張ご苦労様。」と、「擁護」しているのです。

きょうも松井一郎大阪府知事は次のツイートをおこなっています。

「今回の警察官の発言は不適切であり反省すべき」などと他人事のように言うべきではなく、大阪府警察の最高指揮権者として、「人種差別を非難し、また、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとる」「特に教授、教育、文化及び情報の分野において、迅速かつ効果的な措置をとることを約束する」必要が松井一郎大阪府知事にはあるのです。

それから、機動隊員は「地方公務員」です。公務員について「日本国憲法」は次のように規定しています。

 

第15条 2 すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。

第99条  天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。

日本国憲法

そして、「警察法」には次のように明記されています。

 

(警察の責務)
第2条 2 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。

(服務の宣誓の内容)
第3条 この法律により警察の職務を行うすべての職員は、日本国憲法及び法律を擁護し、不偏不党且つ公平中正にその職務を遂行する旨の服務の宣誓を行うものとする。

警察法

加えて、「警察職員の職務倫理及び服務に関する規則」には以下があります。

 

(職務倫理)
第2条 警察職員は、警察の任務が国民から負託されたものであることを自覚し、国民の信頼にこたえることができるよう、高い倫理観の涵養に努め、職務倫理を保持しなければならない。
2 前項の職務倫理の基本は、次に掲げる事項とする。
一 誇りと使命感を持って、国家と国民に奉仕すること。
二 人権を尊重し、公正かつ親切に職務を執行すること。
三 規律を厳正に保持し、相互の連帯を強めること。
四 人格を磨き、能力を高め、自己の充実に努めること。
五 清廉にして、堅実な生活態度を保持すること。

(服務の根本基準)
第3条 警察職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、その職務の遂行に当たっては、不偏不党かつ公平中正を旨とし、全力を挙げてこれに専念しなければならない。

警察職員の職務倫理及び服務に関する規則

これらを踏まえて、布施祐仁さんもツイートで指摘しています。

今回の機動隊員による「土人」「シナ人」という「人種差別の行為」は、「日本国憲法」にある「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。」という規定と、「警察法」などの「不偏不党且つ公平中正にその職務を遂行する」「人権を尊重し、公正かつ親切に職務を執行すること」という規定に反する行為です。

松井一郎大阪府知事は、この「日本国憲法」と「警察法」の基本原則にもとづいて、きちんと謝罪するとともに、二度と今回のようなことが起きないよう「特に教授、教育、文化及び情報の分野において、迅速かつ効果的な措置をとることを約束」(人種差別撤廃条約 第7条)すべきです。

機動隊員は、アメリカの戦争の奉仕者でも、安倍政権への奉仕者でも、松井大阪府知事への奉仕者でもなく、「一人ひとりの人民の集合体としてのコミュニティ全体の奉仕者」なのです。

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公務員はアメリカの戦争の奉仕者ではない、政権与党に民意が反映されない小選挙区制のもとでの「政治主導」と「戦争法」の二重の違憲状態

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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