公務員バッシングによる正規公務員削減と行政コストの削減一辺倒が官製ワーキングプアを増やし日本社会の劣化と貧困化を加速させている

  • 2016/8/25
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2009年4月に書いた記事ですが、基本的には今現在も構図は同じですので紹介します。

「なくそう!官製ワーキングプア 4.26反貧困集会」(2009年4月26日開催)で、『週刊東洋経済』の岡田広行記者による「官製ワーキングプア問題を取材して」と題した特別報告がありました。とても興味深かったので、要旨を紹介します。(文責=井上伸)

「公共業務のあり方」を、もう一度しっかり見直して、拡充していかないと、日本社会はよくならないと私は考えています。

少し前までは、そんなことを主張すると、コストがかかって企業経営が厳しくなるとか、家計負担が重くなるから反対だという意見ばかりが強く出されていました。しかし、昨年来の経済危機以降、むしろ「公的な社会保障部門を積極的に拡充していくべきだ」という動きが出て来ています。私は、いま「公共業務のあり方」をもう一度きちんと見直すチャンスだと思っています。公共業務を重視することで、日本経済が良くなるし、日本に新しい社会をつくっていくことになると思うのです。

2006年に、市場化テスト法が可決されました。ちょうど市場化テスト法案が国会に提出された頃に、三菱総研が「市場化テストの導入で、市場規模は7兆8千億円も拡大すると喧伝しました。同時に市場化テストで、国家公務員は25万3000人、地方公務員は160万9000人、あわせて公務員全体で186万人分ぐらいの仕事がアウトソーシングできる」と発表しました。ちょうど私は、これが発表された記者会見に取材で入っていたのですが、そのとき持った感想は、「これで、公共サービスのあり方が大きく変わることになるだろう」、「しかし、そんな大規模なアウトソーシングが可能なのか?」、「行政コストが大幅に下がるというが、公務員200万人がワーキングプアになり、低賃金労働が蔓延するのではないか」というものでした。

三菱総研の分析でも市場規模のうち約75%が人件費でした。それでコストが下がるということは、人件費の削減とほぼイコールということになります。ですから、コスト削減を主張することは、低賃金の働き手が広がることとイコールになるわけです。これは、財政上のことだけを考えるといいのかも知れませんが、一方で、働き手はどうなってしまうでしょうか。将来、子どもの世代の働き方はどうなってしまうのか、疑問を持たざるを得ませんでした。

結果的に市場化テストは思ったよりも普及しませんでした。その理由は、必ずしも民間の人材派遣会社も市場化テストに、いい印象を持っていないことや、実はよくよく見てみると、公共業務のアウトソーシングはすでに様々な手法で進んでいたことなどがあげられます。自治体のゴミ収集、保育、学童保育、学校給食、警備など様々な分野にわたって、管理委託、PFI、指定管理者制度、民間譲渡、公設民営、人材派遣など様々な手法を駆使して、すでに多くの公共業務がアウトソーシングされていたのです。

そうした公共サービスのアウトソーシングが進むにつれて、2005年あたりから問題が次々に発生するようになってきました。たとえば、ふじみ野市の市営プールでの幼児死亡事故が典型といえるでしょう。また、各自治体のゴミ収集業務での委託契約で、業務放棄や賃金不払いなどの問題が多発しています。千葉県流山市では競争入札で従来の業者が落選し39人の従業員を解雇。落札した企業の予定価格は52%と従来の半分のコスト。流山市は、めざましいコスト削減を果たしましたが、ゴミの積み残しや「時間どおりに収集されない」といった住民からの苦情が市役所に殺到し、ゴミ収集車の横転事故なども起こるなど散々な状態になってしまいました。また、公立保育園などで偽装請負などの問題が表面化しています。

こうした問題に対して、住民はどう思っているのでしょうか。昨今、規制改革の負の側面が問題視されるようになってきました。その象徴が「かんぽの宿」とオリックスの問題です。また、保育園の民営化に対する住民の反対運動などが巻き起こり、裁判に訴えるというケースも次から次へと起きています。

しかし一方で、「官僚」「公務員」に対する根強い批判があることも事実です。これは、政党による「官僚」「公務員」の敵視や、私たちマスコミの一面的な“公務員バッシング”の報道などによって、「公務員」に対する国民の批判には根強いものが存在しているのです。たとえば、社保庁の職員に対して自民党は、「私たちの敵」とか、「ゴミは一掃しなければならない」などと公然と主張してはばからないし、民主党も「行政改革で20兆円の主要財源捻出」などと選挙公約を掲げ、そのうちの1兆数千億円は、公務員の総人件費削減や独立行政法人の撤廃などと言っています。「官」が担う「公共業務」というものは、ムダづかいが多くて、いわゆる「官僚」による「既得権益化」「利権化」している、こういう一面的なイメージが、依然として国民の中に深く刻み込まれている状態が続いています。

しかし、こういったものの考え方が、本当に国民のためになるのでしょうか、よくよく考えてみる必要があると思います。私は公共業務は大切だと思うし、できる限り、常勤職員が業務を担うべきだと思っています。それはなぜかというと、市場経済というのは、「市場経済だけ」で成り立つものではなくて、公的なセクターとのバランスによって成り立つものだからです。加えて、現在の輸出主導型経済のもろさや、公共業務を小さくしていくことで、ますます雇用が劣化し破壊されるなど、市場経済そのものも小さなものになっていくことになるからです。

日本では1969年に総定員法ができて以来、一貫して国家公務員は減らされているし、地方公務員も10年ぐらい前から減っています。それを実際に肩代わりしているのが非正規公務員や委託労働者です。ただ、その存在はたいへん見えにくいものにされているわけです。まさに「官製ワーキングプア」という驚くべき雇用労働条件に置かれているにもかかわらず、きちんと住民に知らされていません。その雇用労働条件は、日々雇用、雇い止め、細切れ雇用、社会保険非適用、昇給無し、ボーナス無し、昇格無し、交通費無しなどで、むしろ、中央省庁や地方自治体の公共部門が、低賃金労働を作り出しているのです。公共部門が地域の賃金相場の引き下げを主導しているし、「社会保険逃れ」など様々な違法性の高い雇用労働条件を広げ、セクハラ・パワハラなどの温床にもなっているわけです。

働き手の問題としては、親元を離れ独立できない働き方や、細切れ労働、ダブルワーク、トリプルワークの増大、結婚や子どもを育てることもできないなどの問題を引き起こしています。

非正規公務員の仕事の方に着目すると、じつは重責を担わされ専門性を求められる、正規職員がやっていることを事実上代替している実態があります。ある中央省庁の非常勤職員は、起案の原案を作ったり、自治体からの電話相談にあたっているし、自治体の非常勤職員は、保育園のクラス担任をまかされているとか、職場の鍵をかけて退勤するとか、休日出勤を一切まかされるなど枚挙にいとまがありません。

一方で、正規の公務員は専門性を失っています。1~2年で、管理職ということで、職場を転々とする。自分では現場の仕事に実際には携わったことがない正規の公務員ばかりになる。そうなってくると、国や自治体の公共サービスに対する責任を持つ意識が薄れていくし、現場の把握がおろそかになり、実際の公共サービスの質の低下につながっていく。ついには、現場を把握するのが煩雑だということで、どんどんアウトソーシングすることになるわけです。

根底には、公務員の数は少なければ少ないほど効率的だという考え方が横たわっています。しかし、これはよくよく検証してみる必要があります。たとえば、諸外国では公務員をどう考えているでしょうか。野村総研の調査(公務員数の国際比較に関する調査、2005年11月)によると、主要先進国の中で人口比でもっとも公務員数が少ないのは日本です。人口千人当たりの公務員数は、日本42人、イギリス98人、フランス96人、アメリカ74人、ドイツ70人で、日本の公務員数はイギリスやフランスの半分以下です。

興味深いのは、イギリスの公務員の数で、1990年から98年の間に、600万人から520万人へ80万人も減っています。これはサッチャーからメージャーの時代で、まさにイギリスに新自由主義が吹き荒れた時代です。しかし、98年から2005年にかけて、580万人へと、公務員数を60万人以上増やしています。その多くが医療・教育分野の公務員で、イギリスは新自由主義政策を転換する際に、公務員の数を積極的に増やしているのです。これによって、公的な医療や教育を立て直したのです。日本はイギリスを昔から勉強していて、PFIや独立行政法人、市場化テストなど、サッチャー政権時の公共業務のアウトソーシングのやり方を真似て、どんどん導入しました。その後、ブレア政権になってどういうことをやったのか――必ずしもいいことばかりではありませんが――最低賃金法の制定から始まって様々な公共サービスの立て直しもやったわけで、こういう点をこそ、日本はイギリスから学ぶべきではないでしょうか。

日本経済はたいへん厳しい状況にあるわけですが、自治体の財政だけをとってコストを削減しようと思っても、働き手の給料が下がれば下がるほど、地域経済は停滞し、ますます沈滞していくことになります。官製ワーキングプアは、地域経済の衰退にもつながる問題なのです。ですから、財政のコスト削減一辺倒ではなく、働き手のことも総合的にとらえて、公務員の問題を考える必要があります。

これまでみてきたように、官製ワーキングプアの問題は、働き方の問題であると同時に、これからの日本社会をどうつくっていくのかという問題とかかわるのです。それでは、官製ワーキングプアの問題を解決していくために、どういったことが必要でしょうか。まず、これまでの正規公務員中心の労働組合は、非正規公務員を同じ仲間として労働組合に迎えることが必要です。そして、正規公務員は、非正規公務員問題を放置すると、「明日は我が身になる」ことをきちんと認識して、実態把握をしっかり行い、非正規公務員の仲間の働き方と労働条件に十分に気を配り、いっしょになって改善していく必要があります。

法改正については、きりがないほどいろいろな課題があります。いくつか動きが出ていて、着目すべきなのは、「公契約法・公契約条例」で、これにより、委託労働者の際限のない賃下げに歯止めをかけていくことがまず必要です。それから、行政事務などをアウトソーシングする際の雇用継続問題についてきちんとする必要があります。社保庁から日本年金機構に来年移行するわけですが、大量の分限免職が発生する危険性が高くなっている点など注意が必要です。パート労働法の適用、厚生年金・雇用保険の適用拡大など、問題は山積しています。こういった問題を労働組合は一つずつきちんと改善させていくことが必要になっているのです。

そして、私たち報道機関としても一面的な公務員バッシングにくみする報道のあり方を変えていく必要があります。これまでにも述べてきたように、国・自治体の財政と公共サービスのあり方について、総合的で正確な報道につとめることが必要だと思っています。お互い地道な努力を積み重ねて、公共業務の貧困化・解体を引き起こし、日本社会全体の貧困化につながる官製ワーキングプアをなくしていきましょう。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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