第2次大戦中「慰安婦」制度があったのは日本とナチスドイツだけ – 侵略軍と「慰安婦」制度との密接な関係

戦時中の「慰安婦」制度は、「どこの国にもあった」から、「日本だけが国際的に批判を受けるのは不当だ」という主張が右派政治家や右派ジャーナリズムなどから繰り返されています。この問題についても語っている関東学院大学の林博史教授の講演を聴いたことがありますので、その講演要旨を紹介します。(※連合通信社主催で2013年7月5日に開催された林教授の講演「世界の中の日本軍『慰安婦』問題――橋下発言で浮き彫りになった日本の非常識」からの一部で文責は私ですが、林教授の了解を得ての紹介です)

第2次大戦中「慰安婦」制度があったのは
日本とナチス・ドイツだけ

「『慰安婦』は戦争をしているどこの国にもあった」と橋下徹さんは言っていますが、それはウソです。ウソであることは近現代史をきちんと見れば分かることです。第2次世界大戦中、軍が組織的・系統的に「慰安婦」制度をつくっていたのは日本とナチス・ドイツだけで、「どこの国にもあった」ということ自体、歴史的事実に反します。日本の場合、「慰安所」設置の計画立案、業者の選定・依頼・資金斡旋、女性集め、女性の輸送、「慰安所」の管理、建物・資材・物資の提供など、全面的に軍が管理運営したことが、旧陸海軍や政府の関係資料でも明らかになっています。

19世紀以前の近現代の戦争では、軍人の飲食や炊事、洗濯などの身の回りの世話をおこなうためのキャンプ・フォロワー――現在で言う後方支援・兵站がセットになって、軍と一緒に行動していました。キャンプ・フォロワーには商人や性売買を行う女性も含まれていました。ときには家族がキャンプ・フォロワー役をつとめ、軍の移動の際には兵士が家族連れで移動することもあったのです。

ところが、19世紀以降、軍隊は男の世界になっていきます。キャンプ・フォロワーの人々がおこなっていた兵站も軍隊自身が担い、一部の「従軍看護婦」を除いて女性が戦場からいなくなります。

兵力損失に直結する性病対策として生まれた公娼制

そこから軍の問題になったのが、兵士の性病でした。当時はまだ性病に対する有効な治療法がなく、性病は兵力の重大な損失に直結しました。そこで、兵士の性病を防ぐための対策として進められたのが「公娼制」でした。性売買を国が公認し、「売春婦」を登録・管理し、性病検査を定期的に実施しました。

一般市民の男性が兵士になるわけですから、彼らの性病感染防止は戦力の維持・確保に重要な課題だったのです。こうして公娼制はヨーロッパ各国で次々に導入されました。そして、日本も江戸時代からの売春管理制度の上に、明治以降、公娼制を導入します。

20世紀には公娼制廃止が世界の潮流に

ところが、19世紀後半、ヨーロッパでは女性の人権運動が高まります。「公娼制は女性差別」「人権を損なう」と批判が沸き起こります。

そして、「売春を強要されている女性はホワイトスレイブ(白奴隷)であり、奴隷制は廃止しなければならない」と公娼制廃止運動が世界的に広がっていきました。第1次世界大戦後に生まれた国連も公娼制廃止に取り組んだのです。

1930年代には世界の半数以上の国が公娼制廃止

その結果、1930年代には、当時の独立国の半数以上にあたる30数カ国が公娼制を廃止しました。

「公娼制は世界で当たり前だった」と右派の人々は主張していますが、日本軍が「慰安婦」制度を推進した1930年代の世界はすでに「公娼制は世界で当たり前ではなかった」のです。

当時、日本は国連の常任理事国でしたから、国連の公娼制廃止の動きに呼応した取り組みが起こります。海外で「売春」する日本女性たち、いわゆる「からゆきさん」を日本政府はなくそうという取り組みを始めましたが、女性の人権を損なうからというものではなく、「日本帝国の体面を汚す」という理由からの取り組みでした。それでも、こうした取り組みによって1920年代にはほとんどからゆきさんはいなくなっていきました。

そして、国内でも公娼制廃止を求める県議会の決議・意見書が1928年以降相次いで採択されていきます。「正義人道にもとり」「事実上の奴隷制度」と公娼制を非難する決議・意見書を、22の県議会が採択し、公娼制廃止に踏み切った県も15にのぼりました。こうした日本国内の事実を見ても、「公娼制が当たり前」と言えないのです。

ヨーロッパの公娼制は性病の予防策として失敗
性売買を禁止してきた米軍

次に米軍と性売買の問題です。アメリカはヨーロッパの帝国主義国に比べて、後発の帝国主義国です。そのためアメリカ政府はヨーロッパでの公娼制という手法をずっと見てきて分析することができたのです。その上で、アメリカ政府は「ヨーロッパの公娼制は性病の予防策としては失敗である」と結論づけたのです。

なぜかというと、性売買をおこなう女性を登録して定期的な性病検査を実施しても、当時は現在のように血液検査でチェックできませんでしたから、実際にはまったく性病防止が不可能だったのです。逆に公娼制があることで、性売買が社会全体に広がって、みんなが堂々と性売買をおこない、性病の蔓延を招いているとアメリカ政府は考えたのです。米軍は、1900年前後から海外に駐留を始めますが、1910年代にはアメリカ政府はそう判断していました。

1911年にアメリカ陸軍の軍医総監部は、性病にかからない一番の方法は性売買をおこなわないことだとして、駐屯地周囲の「売春婦」を排除するという政策を取ります。

米軍兵士に対しても、もし性病にかかった場合は、治療期間中の給料を没収し、軍法会議で処罰するという厳しい態度で臨んでいます。

1911年以降、アメリカは性売買の禁止政策を取り、たとえば1940年の陸軍省通達では「公娼制などで性売買を容認することは、性病を増やすだけで社会的にも好ましくない。軍は国民から若い青年をあずかっている。彼らを性売買に走らせるのは国民に説明がつかないし、まして性病にかかったりすれば、青年の親に申し訳が立たない」ということを繰り返し言っています。実際の戦場では一部の米軍部隊が大戦中のヨーロッパで現地の「売春宿」を活用するということもありましたが、兵士による告発などで閉鎖されています。アメリカ政府と軍は公式に戦地での性売買を禁止していたというのが、日本との大きな違いだったのです。

米軍の性売買禁止の「建て前」化

ただし、性病との関係で言うと、第2次大戦中のペニシリンの発明以降、米軍の性売買の禁止政策の「建て前」化がぐっと進みます。1950年代にペニシリンを使った性病治療の方法が確立されることによって、性病による兵力の損失をあまり心配する必要がなくなります。すると米軍もうるさく性売買の禁止を言わなくなります。日本が戦争に負け、米軍が占領軍、さらには駐留軍として日本へ駐留をしていた1940年代後半から1950年代がちょうどその時期にあたり、当時の日本で米兵相手の性売買が広がった背景には、このことがあったのです。

「慰安所」が歪んだ性の欲望肥大化させ
「一般の女性の安全も守られなかった」

橋下さんは「慰安所を設置することにより、一般の女性の安全が守られた」などというようなことも言っていますが、これもウソです。

日本軍が「慰安婦」制度を導入した理由には「強姦の予防」「性病の予防」「ストレスの解消」などが言われていました。とくに「強姦の予防」が大きな特徴で他国の軍隊ではあまり見られなかったもので、日本軍の文書でも「強姦が多発し、中国人の反日感情を悪化させている」というようなことが記されています。

「慰安所」設置後も日本兵による強姦は多発

そして、「慰安所」設置後も日本兵による強姦は多発しました。私は逆に「慰安所」をつくることで、性犯罪を刺激してしまった傾向があると考えています。

「慰安所」の多くは都市部から設置していきます。「慰安所」は兵站部門、後方部隊が担当ですから、最前線にはなかなかつくることができなかったのです。すると「慰安所」に普段から実際に行けるのは、前線に出ている末端の兵士ではなく、兵站などを担っている後方支援の兵士になります。後方支援の兵士は、物資の横流しなどで懐にも余裕があり、遊ぶ金もあった。そうなると前線の兵士には「後方の連中だけ慰安所に行けて、いい思いをしている」と不満がたまり、「慰安所」があることで、歪んだ形で兵士の欲望が刺激されてしまうわけです。

拉致・監禁による自前の「慰安所」「強姦所」を
勝手につくっていった

その結果、前線では自前で「慰安所」をつくるケースが出てきます。駐屯している村の村長に「若い女を連れてこい」、あるいは共産ゲリラを討伐しているとき、若い女性がいれば無理矢理ひっぱってくる。こうして、拉致・監禁による自前の「慰安所」「強姦所」を勝手につくっていったわけです。

また、「慰安所だとお金がかかる」と強姦に走る兵士もいたという証言があります。「慰安所」が必ずしも、兵士の性的欲望を抑える方向には作用せず、性欲を歪んだ形で肥大化させ、むしろ性犯罪を刺激してしまった面があるのは間違いないと思います。

日本とナチス・ドイツ
――侵略軍と「慰安婦」制度との密接な関係

なぜ日本軍に強姦が多かったのか、そして「慰安所」をつくったのか。この背景には侵略戦争であったという事実があると私は思っています。たとえば、自らの郷土を守るための戦い、他国から侵略されて自分たちの国で戦うのであれば、「慰安所」などつくらないのではないでしょうか。第2次世界大戦の中で「慰安婦」制度をつくったのは、日本とナチス・ドイツだけでしたが、両者が侵略軍であったことと密接に関連していると私は考えています。

なお、朝鮮戦争のとき、韓国軍が「慰安所」を持っていましたし、韓国政府は米軍に「慰安所」を提供したということがあります。これらのことは韓国の文書で明らかにされています。ここで重大な問題は、朝鮮戦争時、韓国軍の幹部のほとんどが旧日本軍人だったという事実です。日本の陸軍士官学校などで学び、第2次大戦では日本兵あるいは日本軍の指揮下にいた旧満州国軍の将兵だった旧日本軍人が韓国軍の中心にいて、そして日本軍が犯した「慰安所」をつくるという行為まで引き継いでしまったわけです。韓国軍が「慰安所」を設置したことは問題ですが、その背景には旧日本軍の存在があることを認識した上で、批判をしなければならないのです。

【関東学院大学・林博史教授談、文責=井上伸】

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、国家公務員一般労働組合(国公一般)執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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