脱原発と再生可能エネルギーシフトが雇用拡大・経済発展もたらす – 日本の電力消費の3倍ものポテンシャル持つ再生可能エネルギーは原発産業の8倍もの雇用増やす

  • 2015/8/11
  • 脱原発と再生可能エネルギーシフトが雇用拡大・経済発展もたらす – 日本の電力消費の3倍ものポテンシャル持つ再生可能エネルギーは原発産業の8倍もの雇用増やす はコメントを受け付けていません

私が事務局を担当した国立試験研究機関全国交流集会(国公労連と学研労協主催で2012年6月21日、つくば市にて開催)で、産業技術総合研究所(産総研)の主任研究員・歌川学さんに「省エネ・エネルギーシフトへ研究者は知的インフラの構築を」と題したパネル報告をしてもらいました。

歌川さんの報告をすべて読んでもらいたいのですが、時間がないという方には以下のポイントだけでも読んでみてください。

(1)真夏にすべての原発を停止しても電力はまかなえる
→そもそも真夏のピーク時の30時間分だけ工場とオフィスの大口需要で集中対策すればOK。

(2)労働環境や生活環境に負担をかけない節電方法で省エネ対策を進めれば、2020年には2010年比で20%以上のエネルギー消費量削減ができる
→そもそも今の日本は有効に使っているエネルギーは3分の1しかなく、残りの3分の2は熱として捨てるというムダを行っている。排熱を有効利用するコジェネレーション導入で発電用燃料消費を減らし、かつCO2の少ない天然ガスへの転換促進をすることで、節電や自然エネルギー拡大がなくても火力発電のCO2を半減できる。

(3)洋上風力を除いても日本の電力消費の約3倍ものポテンシャルが再生可能エネルギーにはある

(4)脱原発で再生可能な自然エネルギーにシフトし「環境を考えないと経済発展しない」
→温室効果ガス排出量を減らす対策をして、技術普及させ、対策産業を発展させた国が経済成長をしている。GDP成長が日本以上で温室効果ガスを減らしている国はヨーロッパに14カ国あり、1990年以降のGDP成長率が日本より低い国は西欧にはない。「環境か経済発展か」ではなく、「環境を考えないと経済発展しない」

(5)脱原発と省エネ・再生可能エネルギーの発展による雇用拡大効果はとても大きい
→省エネ・再生可能エネルギー発展による雇用拡大効果は、日本の基幹産業の一つである自動車製造業の雇用者数の2倍、原子力産業の雇用者数の数倍にのぼる。

ポイントは以上ですが、ぜひ以下の歌川さんの報告要旨も読んでみてください。(文責=井上伸)

 省エネ・エネルギーシフトへ
研究者は知的インフラの構築を
産業技術総合研究所 歌川学主任研究員

 原発事故によって揺らぐ科学・技術への信頼

私たちは、福島第一原発の事故を契機として、エネルギー・電力のさまざまな負荷とリスクについて考える必要に迫られています。大量生産、大量エネルギー社会から、持続可能な低炭素社会に移行するため、省エネと再生可能エネルギー普及を中心にしたエネルギーシフトは重要な柱になります。エネルギーシフト自体は、国民が選択していくものです。私たち研究者・研究機関には、国民が今後のエネルギー選択をするための前提となる科学的知見・知的インフラを提供していく社会的責任があると思います。

いま原発の問題に限らず、さまざまな「想定外」の発覚の中で、科学・技術の知見に対する信頼が揺らいでいます。一方で、そうした「想定外」を最小限にとどめようと奮闘する研究者も存在しているのです。たとえば、福島第一原発に高さ15メートルの津波が襲う可能性を指摘し警告を発してきた研究者がいましたし、原発近くの活断層の存在をきちんと指摘してきた研究者もいて評価されています。これらは、研究者の「科学的知見」の示し方や「第三者評価」の重要性を示唆するものといえるでしょう。

どのようなエネルギーを選択するかは国民が決める課題です。ただし、国民が有意義な選択をするためには、選択の前提となる材料を研究者が積極的に提供しなければなりません。エネルギーについての実態把握や全体像、割合、重み付け、可能性などを研究者が伝える必要があり、その際に研究情報の「第三者性」が、失いかけている科学・技術への信頼を回復する上で重要になってくるのです。

 リスクが大きい日本のエネルギーと電力

日本のエネルギーの構成は、2010年度のデータで、エネルギーも電力も全体の約9割を環境負荷やリスクの大きい「化石燃料」と「原子力」に依存しているのです。

エネルギーや温暖化対策を考える際に、前提を抜きにした結果の数字だけが一人歩きすることがあります。たとえば、関西電力でこの夏に15%の電力不足が発生するとした試算は、ある前提をもとに導いています。根拠の全容を細部まで伝える必要はないと思いますが、研究者は国民に対して、ある仮説・前提をもとに結果を導くことと、その結果を出した前提をきちんと伝え、その前提が違えば結果も異なることを分かりやすく伝えることが重要です。

 2011年夏なみ節電なら、真夏に原発を停止しても電力はまかなえる

いま政府は国家戦略大臣をトップにしたエネルギー・環境会議で、エネルギー政策の見直し議論を行っています(注:6月29日に「エネルギー・環境の選択肢」を発表)。選択肢には、①原子力、②エネルギーミックス、③温暖化対策などの数字があります。原発についての選択肢は、①2030年に原発ゼロ、②2030年に原発依存15%程度、③2030年に原発依存20~25%程度、というものです。選択肢の1つになっている原発依存15%というのは、いま存在する原発を40年で廃炉にして、設備利用率80%で仮に運転できるとすると出て来る数字で、3つめの選択肢の原発依存20~25%というのは原発新設が前提です。エネルギー政策をどうしていくのかという原則の提示はしないようです。

原発のない沖縄電力を除く9電力の2011年夏のピーク電力を1年前と比較すると、昨年の夏は節電で2,300万キロワット、原発23基分を節電したことになります。東北電力は20%、東京電力は18%、関西電力も10%も節電しているのです。

実際に政府自身も2011年11月のエネルギー環境会議では、2011年並みの省エネを実施すれば2012年夏に原発を停止しても電力はまかなえるとしていたのです。

ところが、今年5月、政府の需給検証委員会はこれと異なる前提、つまり、政策なしで実現する「定着分」のみ、2011年夏に実現した節電の約3分の1だけが実現すると想定し、関西電力では夏のピーク時に電気が15%不足するという結論になりました。この試算は、まず政策無しの「定着分」だけの節電による需給ギャップを求め、その上で政策導入による追加対策を検討するためのもので、これ以上節電ができないという数字ではありません。このことは、関西電力自身が大阪府市エネルギー戦略会議で示した「追加対策」によって「15%不足」が「5%不足」まで縮小することを見ても分かります。

民間の試算では、関西電力でも追加対策で原発停止でも需給を賄える提案もあります。、環境エネルギー政策研究所は、昨年比で約5%分、150万kWを節電などの追加対策で行えば、原発停止でも関西電力は需給対応が可能としています。また、ピークに焦点をあてた節電なども工夫できます。電力ピークが発生するのは真夏の短時間に過ぎませんからそこに集中的に節電を実施すると、大きな効果が得られます。先に紹介した環境エネルギー政策研究所の分析では、150万kW分の節電は、昨年でいえば年間8760時間のうち夏のピーク時30時間分だけ集中対策することで実現できます。それを促す手法としては、たとえば、諸外国が実施している節電方法に「デマンドレスポンス」があります。これは、前日に明日は猛暑になるからピーク電力需要が発生するという予報を出して、節電募集をかけ、その達成業者にボーナスを支給するという節電方法で、政府の需給調整委員会にも例示されているものです。あるいは、ピーク電力料金について値上げを予告して、企業などの大口需要家に節電を促すという方法もあります。真夏に家庭などが暑さを我慢するという無茶な節電ではなく、労働環境や生活環境に負担をかけないスマートな節電方法はいろいろあるのです。

資源エネルギー庁による東京電力エリアでの真夏のピーク電力割合を見ると、おおよそ、工場で3割、オフィス系で4割、家庭で3割の電力を使っているとされていますが、家庭で3割というのは過大評価で実際はこの3分の2ぐらいではないかとの指摘もあります。家庭が3割だとしても、夏のピーク電力は工場とオフィスで7割以上を使っているわけですから、工場とオフィスで節電すれば大きな効果を得られることが分かります。

「電気事業の現状2008」(電気事業連合会)を見ると電力量の消費割合が分かります。これによると、日本の年間電力量の4分の1を「超大口9千事業所」が、また「超大口」を含む「大口75万事業所」が全体の電力量の3分の2を使い、残りの3分の1を「町工場・商店・家庭など7,700万事業所/世帯」が使っています。

ピーク電力時間帯でも、年間電力量でも、大口需要家が存在し、そこで消費削減がなされると有意義だと見ることが出来ます。国民が、こうした無理がなく暮らしに負担をかけない節電方法がいろいろあるという情報を提供された上で、エネルギーの選択例えば節電手段の選択や、供給策例えば原発再稼働の是非などを判断すればいいわけです。

 無理な節電を続けてはいけない

2011年夏の節電手段には無理をした部分もありました。たとえば、冷房を止めたこととの因果関係は明らかでないですが、昨年6?9月だけで熱中症で4万6,500人が救急搬送されました。また、電力ピーク「シフト」の手段として労働の深夜シフトや休日シフトもありました。働く人の負担も大変ですし、こんな方法では会社も電気代の節約はできません。そうした人に負担を強いず、電気代も節約できるスマートな方法が沢山あります。たとえば、省エネ機器に更新すれば電力が半減する可能性もありますし、必要性の薄い設備を停止したり、運用で労働環境や生活環境を損なわずに電力消費を削減する制御方法などもあります。消費実態や電気を多く使う設備の状況を把握することでスマートな手段が沢山見つかります。冷房停止や勤務日の土日シフトや深夜シフトでなく、スマートな節電手段が優先されるべきでしょう。

01

 中期の省エネ・再生エネルギー普及対策

日本は省エネ先進国でこれ以上の省エネは難しいという意見もありますが、そうではありません。日本は発電用で6割のロス、運輸用で8割のロスがあるなど、有効に使っているエネルギーは3分の1しかなく、残りの3分の2は熱として捨てているのです。また、上のグラフは、各部門のエネルギー効率の推移ですが、産業、業務、家庭ともにエネルギー効率は1990年レベルのままで、これまで省エネに努力し成果を上げてきたとは言い難く、運輸旅客(乗用車等)にいたっては大幅に効率が悪化しているのです。

現状の技術で、更新時にもっとも省エネ型のものを選ぶことなどでエネルギーの大きな削減を見込むことができます。とくにエネルギーを大量に使う工場などで必要に応じて設備の省エネ型への更新・省エネ改修をすると大きな効果があります。

火力発電所は、平均では100の燃料のうち40しか電気にしておらず、60は排熱で、日本では排熱の大半を捨てています。発電効率だけでみれば日本は世界のトップクラスかもしれませんが、諸外国では発電効率向上だけでなく、排熱を有効利用するコジェネレーションが普及してきていますが、日本では一部の自家発電以外では余り使われていません。この発電効率を上げることとコジェネレーションの導入で発電用燃料消費を減らし、かつCO2の少ない天然ガスへの転換促進をすることで、節電や自然エネルギー拡大がなくても火力発電のCO2を半減する可能性もあります。

工場における省エネでは、たとえば、岡山県の報告制度をみると、光熱費負担が高いため従来からそれなりに省エネ対策をしている素材製造業においても、設備大改修の時に今の最良省エネ技術を導入することにより、大きな削減効果の可能性があることも分かっています。

素材製造業以外の製造業では、もともとのエネルギー消費量やCO2排出量が素材製造業の数分の1ですから素材製造業ほどの削減量はないものの、削減率では大きな余地があるようです。例えば機械工場の例では、大型冷凍機の効率向上によって、半導体工場でエネルギーを60%削減し、光熱費を年間3億円も削減したところがあります。自動車部品工場では設備更新ではなく、温度と湿度の設定を変更し36%削減し光熱費を年間3,300万円削減した例もあります。

02

上の図は、機械・食品工場における排熱回収利用の模式図です。各工程ごとに燃料を使って排熱を捨ててしまうと燃料を3回使うことになりエネルギーもCO2も光熱費も無駄になりますが、排熱を回収利用して、熱の「使い回し」をすると燃料を1回使うだけですみます。実際にビール工場で排熱回収を進め、エネルギーを27%削減し、CO2を30%削減した例があります。

03

上のグラフは、オフィスや家庭での削減モデルです。省エネ対策前の浪費型から、省エネ機器の更新改修や断熱改修で大幅な省エネが可能となります。

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上のグラフは、日本で省エネ対策を進めれば、2020年には2010年比で20%以上のエネルギー消費量削減が見込めることを示したものです。

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 日本の再生可能エネルギーは
電力消費の3倍ものポテンシャルがある

上のグラフは、日本の再生可能エネルギー電力の導入可能性をみたものです。洋上風力を除いても日本の電力消費の約3倍ものポテンシャルが再生可能エネルギーにはあるのです。

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そして、上のグラフにあるように、再生可能エネルギーと省エネ対策を組み合わせ、2020年以降は原発をゼロにしながら電力を賄う方法があります。温室効果ガスの排出削減についても、技術的には、省エネ対策、自然エネルギー普及、燃料転換を組み合わせて2020年に90年比25%以上の削減可能性があり、その中から費用対効果なども考えて無理のない対策を選択していくことができます。

07

環境を考えて温室効果ガスを減らすことと経済発展とを対立的に考える意見もあります。しかし、ヨーロッパ諸国が体験しているのは、「経済発展か環境か」という二項対立ではありません。ドイツが典型ですが、上のグラフにあるように、日本より高い経済成長を達成しながら温室効果ガスを減らしています。1990年以降の経済成長が低い国は日本とイタリアですが、両者とも温室効果ガスは減っていません。温室効果ガス排出量を減らす対策をして、技術普及させ、対策産業を発展させた国が経済成長をしていると見ることもできます。GDP成長が日本以上で温室効果ガスを減らしている国はヨーロッパに14カ国あり、1990年以降のGDP成長率が日本より低い国は西欧にはないようです。「環境か経済発展か」ではなく、「環境を考えないと経済発展しない」というのが今後の経済社会のようです。

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そのことは、ひとつの企業のコストについて考えても言えることです。上のグラフは企業における省エネのコストの模式図です。多くの省エネ対策は「もと」がとれるので、対策前と比べると、省エネで浮かした経費は、まずは省エネ対策投資の返済に回すとしても、数年で返済を完了し「もと」を取った後は、企業利益や他部門に投入可能となるのです。自然エネルギー電力でも同じ構造です。

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 大きな省エネ・再生可能エネルギーの雇用効果

そして、上の表は省エネ・再生可能エネルギーへの投資による2020年の経済波及効果と雇用効果を見たものです。どの試算においても大きな経済波及効果と大幅な雇用増加をもたらすことが分かります。新たな雇用増の可能性として指摘される200万人というのは日本の基幹産業の一つである自動車製造業の雇用者数の2倍にあたり、地方経済や若者の雇用不安の解消に応える可能性があります。海外の石油資本に支払う輸入燃料代を減らし、製造業・建設業などの国内産業・雇用に回すと考えるとわかりやすいでしょうか。

実際に先行しているドイツの例を見ると、再生可能エネルギー関連産業で2010年の実績で36.7万人の直接雇用を生み出しています。この雇用者数36.7万人というのは、日本の原子力産業の雇用者数4.7万人の7.8倍、日本の基幹産業の一つである自動車製造業の雇用者数の半分近くまで迫るものです。

 研究機関、研究者の社会的役割

エネルギーシフトのような社会的な課題に際し、研究機関、研究者が何をすべきかを考えます。将来の芽となる基礎研究の実施と研究成果の発信を軸に、現状の技術の評価などの情報を提供していく必要があります。現状では、業種別の効率水準や、エネルギー消費構造、CO2排出構造の問題など主要な対策とその標準的コスト情報・投資回収年などが共有されておらず、国や自治体、企業などが何をすべきかを考える前提となる知的インフラが未整備のままで、これが対策の妨げのひとつになっています。そうした知的インフラの整備に寄与していくことが研究者の社会的責任です。その際、既存の利害関係者や機関から独立した科学的知見の提供をすることが研究者の社会的役割です。知的インフラ、科学的知見が国民の間において共有されることになると、エネルギーシフトは飛躍的に進む可能性があると思います。

これまで述べてきたように、エネルギーの需要と供給には原発ゼロを含め多くの選択肢があり、温暖化対策とも両立する手段があります。加えて、その手段は、震災復興や雇用の拡大、経済成長の諸課題とも共通して取り組めるものです。研究者・研究機関は、新しい技術の研究開発だけでなく、省エネ対策やエネルギーシフトなどの技術普及面で、知的インフラ形成に寄与できます。エネルギー選択は、研究者の知見、知的インフラを活かしながら、国民が選び取っていく課題です。

エネルギーの選択は、日本社会そのものを変えて未来を選んでいくということでもあります。エネルギーシフトのためには、私たち自然科学分野の研究者だけでなく、社会科学分野の研究者の力も当然必要です。そうしたさまざまな分野の研究者が力を寄せ合いながら知的インフラを形成していくことがいま求められているのです。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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