ヨーロッパの2千倍もの地震が発生する日本で原発の「現在の安全」も「10万年後の安全」も確立できない

  • 2015/8/11
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ドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』を観ました。

「100,000年」というのは、漢数字も混ぜて読みやすく表記すると10万年です。今から10万年前の世界はどうだったのかWikipediaで見てみると、中期旧石器時代(30万年前~3万年前)のなか、ネアンデルタール人の時代で人類による文明はまだスタートしていません。いかに10万年というのが長大なスパンなのかということが分かります。

ところが、原発から生まれる高レベルの放射性廃棄物=死の灰が、生物に無害になるまでには最低10万年かかるのです。原発は「トイレなきマンション」と例えられ、今もって人類は原発の放射性廃棄物=死の灰の最終処分方法を確立できていません。放射性廃棄物もガラス固化体方式などによって「安全」であるかのような主張がありますが、それは「原発安全神話」の中の1つのウソにすぎません。

日本の原発が毎年生み出している放射性廃棄物=死の灰は、広島原爆約5万発分に相当し、これまでの死の灰の総量はすでに広島原爆110万発分を超えています。しかし、原発の放射性廃棄物=死の灰を処分する方法は日本でも確立できていないのです。たとえ原発が今すぐに止まったとしても、処分方法も無いままに、放射性廃棄物の危険性は10万年も続くのです。

原発を推進する人たちは決まって「原発は二酸化炭素を出さず、環境にやさしい、クリーンエネルギーだ」などと喧伝しますが、実際は原発を動かそうとすれば、ウラン鉱山からウランを掘るところから始まって、ウランを製錬し、濃縮し、原子炉の中で燃えるように加工し、最後に膨大な放射性廃棄物=死の灰が生み出され、そのすべての段階で、膨大な資材や化石燃料も必要ですし、何より作業する人間にとってクリーンとは対極にある放射性物質からの被曝というリスクがあります。原発を推進する人たちは、原発が実際に動き出すまでの過程と最後に生み出される放射性廃棄物の問題を一切無視して「原発は二酸化炭素を出さず、環境にやさしい、クリーンエネルギーだ」などと喧伝しているのです。

そして、原発の実態は、300万キロワットのエネルギーを出して、200万キロワットは海をあたためている、残りのわずか3分の1を電気にしている「海あたため装置」です。原発の発電の熱効率は約33%でしかなく、火力発電の熱効率50%超と比較しても、原発は効率が悪いのです。現在の標準的な100万キロワットの原発で、1秒間に70トンの海水の温度を7度上げています。1秒間に70トンの流量を超える河川は日本に30もありません。1つの原発をつくると7度の温度上昇をする大河をつくることになるのです。日本の河川の総流量は約4千億トンで日本の原発54基が稼働した際に出す温排水の総量は1年間に1千億トンに達することで日本の河川全体を約2度もあたたかくしており、温暖化に悪影響を及ぼしています。原発を推進している人たちは、この原発の温排水の問題も一切無視しています。この原発の温排水の問題にしても、放射性廃棄物の問題にしても、原発のリアルな実態は、「環境にやさしいクリーンエネルギー」とはまったく正反対なのです。また、原発は「コストが安い」などという喧伝も、放射性廃棄物の最終処分が確立しておらず、それにかかる費用を一切無視した危険極まりない暴論以外のなにものでもないことが分かります。

こうしたなか、フィンランドは世界に先駆け、原発の放射性廃棄物の処分に着手するプロジェクトを進めています。そのフィンランドのプロジェクトを描いたのが、このマイケル・マドセン監督によるドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』です。

映画の中で、フィンランドの研究者や技術者による放射性廃棄物の最終処分方法が議論されます。地上の中間施設で放射性廃棄物を処分する方法は不安定です。なぜなら、地上は自然災害や戦争など人類が生み出す問題などで地勢が変化し、放射線が流出する恐れがあるからです。

それでは地上以外ではどうでしょうか? 海洋底処分は生命の源である海洋を汚染する危険性が高く、ロケットに放射性廃棄物を乗せて太陽に打ち込む宇宙処分は、ロケットが上空で空中分解する事故も実際に起こっているなど問題が多いため困難。結局、地層処分がベターであるとの結論のもと、フィンランドのオルキルオト地下500メートルに放射性廃棄物の永久処分場をつくる「オンカロプロジェクト」を進めることになります。(※オルキルオトは、フィンランドの首都ヘルシンキから西約240キロにある島だそうです。「オンカロプロジェクト」の「オンカロ」というのは、フィンランド語で「隠れた場所」のことです)

もともとフィンランドは地震や地形の変化があまりない国だそうですが、その中でも安定した18億年前の地層を掘削して地下500メートルの巨大施設を作り、そこに放射性廃棄物を順次送り込み、2100年代に操業を停止するとともに巨大施設を密閉して、10万年先まで人類に害をもたらさないよう計画したとのことです。

ところが、10万年といえば、石器時代から現代までに相当する長大な時間。はたして10万年後の人類にこの場所が危険だと警告し続けることは可能なのでしょうか? 文明が変われば、文字も通じないのではないでしょうか? もし、財宝と誤解して、未来の人類が放射性廃棄物を発掘してしまったら…。マドセン監督は関係者に質問を繰り返し、彼らが苦悩する様子を記録していきます。

フィンランドの安定した18億年前の地層に放射性廃棄物を処分しても、そもそも10万年も耐えた人類による建造物などないことや、「6万年後には氷河期がきて一帯はツンドラに覆われることになってしまい、地下の施設もどうなるか分からない…」と話すプロジェクトを進めるフィンランドの研究者は、映画の中でも不確かなものは不確かなものとして吐露し苦悩を隠しません。かといって不確かなプロジェクトを進めるのもどうかという根本的な疑問もわいてくるのですが、「安全神話」のみを吹聴してきた日本の原発推進研究者・技術者の姿勢とは大きく違うことは確かです。

下のグラフは「震度5を超える地震の発生数(1970年から2000年の30年間)」(田中優さん作成)です。そもそも活断層の上にある日本にはフィンランドのような安定した地層など存在しません。安定した地層を持つフィンランドでさえ不確かな安全性のもと苦悩しながら原発の放射性廃棄物の最終処分場をつくろうとしているわけですが、ヨーロッパの2千倍もの地震が発生する日本において、原発の「現在の安全」も「10万年後の安全」も、とても確立できないのです。

日本の地震

 

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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