高橋洋一氏の「日本の借金1000兆円はやっぱりウソ」はやっぱりウソでした

高橋洋一氏による「「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした~それどころか…なんと2016年、財政再建は実質完了してしまう!この国のバランスシートを徹底分析」。いま、現代ビジネスでのアクセスランキングもトップで随分読まれているようですが、この高橋洋一氏の言説に対しての鳥畑与一静岡大学教授のfacebookコメントでの批判を紹介します。(※鳥畑教授ご本人に了解を得ての転載です)

すり替えのポイントは中央銀行を政府の子会社だからといって連結決算しちゃうところ。そうなると極端な話、政府の国債発行1000兆円を日銀が買い取ってしまえば、政府の1000兆円の債務と日銀の1000兆円の資産を相殺すればゼロという手品が完成する。いやーめでたしめでたしさすが高橋先生、ノーベル賞ものの大発見となるかというと、政府の赤字をそのまま中央銀行の印刷機で支えるという政策が中央銀行の信用失墜とハイパーインフレーションやバブルという悲劇的結果を招くということを無視している。中央銀行の独立性が現代金融政策の大原則になっているということが理解できないらしい。しかしこの方こういうレトリックが大好き。
(鳥畑与一静岡大学教授のfacebookコメント2015年12月28日)

 

「日本銀行は株式会社!?」と講義で中央銀行について話すときは導入部に持ってくる。資本金は1億円で、その内5500万円を政府が出資しないといけない。では、日銀は政府が多数株保有する子会社で、政府は自由に支配できるのか?というとそうじゃないんだよと中央銀行論の本題に入る。某最高学府ではここで講義は終わっているようであるが。

日銀の株は議決権がないから、そもそも株主総会が無い。配当利回りも5%以下と定められているので、どんなに通貨発行権で儲けても株主には関係無い。さらに財産への請求権も出資分に限定されているから、たとえ日銀を解散して財産を処分しましょうと言っても株主には関係はない。こういう仕組みは、中央銀行の独立性を担保するための政策委員会と並ぶ基本的な仕組みである。こういう原理原則は通貨価値の安定を維持するという中央銀行の機能を保証するためのまさに生命線でもあり、世界中の中央銀行のイロハのイの常識である。

日本に欠けているのは社会科学など文系領域の高等教育の貧困であり、それをさらに貧困にしましょうというのでは、「政府1000兆円の借金はウソ」などと言う妄言がますます蔓延ることになる。


(鳥畑与一静岡大学教授のfacebookコメント2015年12月29日)

この問題にも関連する財政問題については、私、二宮厚美神戸大学名誉教授と、米田貢中央大学教授にロングインタビューしたことがありますので、以下もぜひお読みください。

◆消費税増税と「分権」が究極の貧困社会もたらす=「消費税増税不可避」「中央集権より地方分権」というグローバル競争国家にとりつかれた幻想の罠|二宮厚美神戸大学名誉教授

◆日本は「国の借金」を自由に膨らませることができる極めて特異な国――効果のない大型公共事業と税収大幅減

◆財務官僚と自民党が「打ち出の小槌」で財政赤字を拡大――ヘッジファンドよりすさまじい60年償還システム

◆消費税率10%などありえない――消費税導入の前提条件すら欠けている日本では消費税は廃止すべきもの

それから、少し古いインタビューで、数字も古くなりますが、基本的な見方としては、今でも重要だと思う山家悠紀夫さんの指摘を以下紹介します。

財政破綻論の大ウソ――資産が借金を上回る日本政府のバランスシート、世界一の金あまり日本

財務省は、国の財政赤字が2011年度末に667兆円まで増え、「我が国を、月収40万円の家計にたとえると」「ローン残高6,348万円」になるとしています(財務省「日本の財政関係資料」2011年9月版)。額面どおりに受け取ると、まさに孫子の代まで借金漬けですが、本当にそうなのでしょうか?

日本は「財政破綻」寸前なのか
財務省の「誇大広告」=孫子の代まで借金漬け?

財務省は、この十数年来、財政を家計にたとえて大変な状況だと説明しているのですが、これは「誇大広告」のたぐいです。加えて罪深いのは、財政に対する一面的な見方を国民の間に広げ、日本の進路を間違った方向に導きかねない危険性を持っています。

家計でも借金だけ見るのは間違い

そもそも、家計の問題を考えるときでも単純に借金だけを見るのは間違っています。家とか土地とか金融資産などがどれくらいあって、一家としてのバランスシートはどうなのかを見ないといけないのです。

たとえば、住宅ローンを借りて家を建て借金が1千万円ある家計と、持ち家などは無いけれど借金はまったくない家計を、借金の金額だけを問題にして比較するのは、おかしな話になってしまいます。

国の場合も同じで、借金が多いことだけを問題にするのは一面的な見方なのです。借金だけではなくて、資産の方も見なければいけないのです。

日本政府のバランスシートは
「資産が借金を上回っている」
そして「世界一の金あまり国」

 

上のグラフは、2010年12月末時点の「日本政府のバランスシート」です。このグラフにあるように、日本政府は、世界一の金融資産494兆円を持ち、いろんな固定資産等579兆円も持っていて、日本政府のバランスシートは資産が借金を上回っており、借金の全額は資産で担保されています。

 

上のグラフは、「主要国の国内余剰資金」です。このグラフにあるように2010年12月末で、日本の国内余剰資金は251兆円もあって、日本は「世界一の金あまり国」でもあります。他の国の余剰資金は、2位が中国167兆円、3位はドイツ114兆円で、日本はドイツの2倍以上、他の国の何倍もの余剰資金があるのです。「世界一の金あまり国」というのは何を示しているかというと、日本政府は大きな借金を抱えているけれども、まだお金が借りられる条件があり、日本経済には貸す力があるということなのです。

事実は「孫子に資産を残す」

ですから、マスコミなども「孫子の代まで借金を残していいのか」などと「誇大広告」をしますが、事実は、子どもや孫たちに借金だけを残すわけではなくて、あわせて金融資産や固定資産をきちんと残すことになるのです。

日本の財政問題を考える際に、「借金だけ」を取り出して議論する人を見かけたら要注意です。財政の問題を考えるときは、借金と資産の両方を同時に見なければ、議論の前提自体を間違えます。

国の財政と家計は性格が違う
単純には比べられない国の財政と家計

国の財政と家計はそもそも性格が異なるということを、きちんと認識しておかないとおかしな議論になりますので注意が必要です。

当たり前の話ですが、家計というのは収入が限られていて、収入を簡単に増やすことはできませんから、その収入の中で暮らしていかなければなりません。家計では、まず収入の方が先にあって次に支出の方を考えることになります。

ところが政府というのは、家計とは性格が違います。そもそも政府をなぜ私たちが持っているかというと、市場の世界だけでは供給されない公共サービスなどを国民に提供させるためです。

すべての国民の暮らしを守るために政府はある

たとえば、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と憲法25条に明記されているように、政府はすべての国民に生存権を保障しなければなりません。あるいは、教育などもそうですね。政府はさまざまな公共サービスを国民に提供する役割があるのです。

政府の役割抜きに借金だけを問題にするのは本末転倒

そうすると、政府というのはさまざまな公共サービスを提供する役割が最初にあって、そのために税金を集める必要があるということになります。政府の果たすべき役割からスタートする必要があるから、出す方(支出)が先で入る方(収入)は後で考えるという順番になり、家計とは逆転して考えなければいけないのです。それなのに、家計にたとえてしまうと、政府の大切な役割はどこかに消えてしまって、「とにかく借金をなくさなければいけない」という話だけになっていってしまう。政府の大切な役割として、これだけのサービスを提供する必要があるから、税金を集めなければいけないのだけど、足りないとなれば当面は借金をしてでも政府のやるべきことをやっていくと考えるべきなのです。こうした政府の役割の問題を抜きにして、借金だけを問題にする本末転倒した議論が非常に多くなっていおり注意が必要です。

「いますぐ国の借金を返さなければ大変だ」という「脅し文句」は社会保障費の削減や消費税を増税するための口実にすぎない

それから、マスコミなどで、「いま生活は厳しいけれど、自分たちの世代の責任で国の借金を返さないと子どもたちに迷惑をかける」などという論調も見受けられますが、これも国の財政と家計を同じように考えている間違った議論です。

住宅ローンなどの家計における借金は、一般的に借りる本人が子どもには残さないよう全額返すことを前提にしてローンを組みます。しかし、そもそも政府には寿命がありませんし、借金の全額を返さなければいけない期限もありません。事実、日本以外の国でも、借金を全額返したという国はなく、国の借金があること自体は問題ではないのです。

もちろん、現在の大きな借金のままでずっといいというわけではありません。しかし、「いますぐ返さなければ大変なことになる」などといった「脅し文句」は、社会保障などの公共サービス削減や公務員労働者の人件費削減、そして、消費税増税のための口実でしかありません。

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、国家公務員一般労働組合(国公一般)執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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