消費税率10%などありえない、消費税導入の前提条件すら欠けている日本では消費税は廃止すべきもの

  • 2015/12/28
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産経新聞で報道された財務省官僚の発言です。

「社会保障費が膨れ上がる中、消費税率がこんなに低いのは、国民を甘やかすことになる。経済が厳しくても10%に上げるべきだ」

(産経新聞2014年11月17日付 消費税率再引き上げ 財務省「予定通り」に固執し、官邸激怒)

 

財務省は、「貧困層に高所得層の倍以上の負担強いる消費税」(▲上表参照)をなにがなんでも増税して、日本の貧困問題を深刻化させたいようです。

▲上の表は、唐鎌直義立命館大学教授が作成した「所得10分位階級別にみた消費税負担率」です。財務省官僚が主張するとおりに消費税増税を強行し税率を10%にすると、表にあるように、最も低所得の年収280万円の世帯で消費税負担率は8.08%になり、最も高所得の年収1,437万円の世帯で3.81%になります。低所得世帯に対して、高所得世帯の2倍以上の負担を強いるのが消費税なのです。ですから、唐鎌教授が指摘しているように、「消費税によるものは社会保障と言えない」し、「消費税増税は貧困を激増させて、餓死・孤立死を頻発させる」のです。消費税率再引き上げを「予定通り」に強行せよと言う財務省官僚の主張は、日本社会で貧困を激増させ、餓死・孤立死を頻発させるべきだと言っているのと同じなのです。

それから、私が企画・編集したインタビューで、米田貢中央大学教授が、消費税増税の問題点として、(1)消費税増税は庶民の生活を直撃し、日本社会の消費力を衰退させ、景気回復の足を引っ張ること、(2)中小零細企業や自営業者を廃業に追い込みGDPを縮小させること、(3)そもそも日本では消費税を導入するための前提条件が欠けており、消費税は廃止すべきであること――などを指摘していますので以下紹介します。(※このインタビューは、「日本は『国の借金』を自由に膨らませることができる極めて特異な国――効果のない大型公共事業と税収大幅減」、「財務官僚と自民党が『打ち出の小槌』で財政赤字を拡大――ヘッジファンドよりすさまじい60年償還システム」の続きで最後の部分となります)

日本の財政赤字をどう見るか?
――アベノミクスと消費税増税こそ財政危機まねく
米田 貢 中央大学教授インタビュー

消費税の増税は日本の経済と財政に何をもたらすのか

(1)消費税増税は庶民の生活を直撃

――安倍政権が消費税増税を強行しようとしていますが、消費税増税で財政はよくなるのでしょうか?(※このインタビューは昨年の10月11日に収録したものです)

消費税の増税が経済運営、ひいては財政運営にどのような影響を及ぼすかについて、私たちはすでに重大な経験をしています。1997年の3%から5%への消費税率の引き上げによって国民の消費購買力が大きく後退し、社会保障の改悪も含めて9兆円余りの需要収縮が発生しました。これが、当時本格化しつつあった金融危機に伴う貸し渋り・貸し剥がしと合わせて、国民生活を直撃し、さらなる景気後退が発生し、これが「失われた10年」への引き金となっていったわけです。

その当時と比較して、現在の経済状況はより厳しいものがあります。1997年当時は金融危機が本格化して金融の収縮が経済全体に深刻な影響を及ぼし始めていましたが、まだバブルの余韻は一部に残っていました。その後の15年間で非正規雇用が爆発的に増大し、日本の労働者階級の賃金水準が大きく後退し、年金等の社会保障制度も改悪され続けてきたのですから、国民の懐具合、増税に対する耐久力は格段に落ちています。そのような状況下で、2年間で5%もの消費税率の引き上げが企てられているわけです。

消費税率を上げられても、富裕層やそれなりの勤労所得を得ている人達は、消費税負担の増大に耐えられるかもしれません。しかし、非正規雇用の人達、正規労働者であっても年収が300万円以下の層、さらに、年金生活者の人達、ましてや無年金の人達、そして生活保護でしか生活できなくなっている人達も200万人を超えていますが、これらの人達の生活は消費税増税で立ち行かなくなります。そういう意味で時代状況が根本的に違うということを、政府がどこまで正確に認識しているのかおおいに疑問です。

政府はもともと、ある程度景気がよくならないと消費税は増税できませんというところまで、付帯条件などを付けて言っていたわけです。ただ、第1の矢と第2の矢というカンフル剤を打ち込んだので、表面的にはちょっと景気が上向いているように見える。しかし、それが本当に社会全体として消費力も購買力も上がってきた結果かというと、決してそうではありません。カンフル剤も本当にカンフル剤になっているかどうか分からない状況で、消費税増税の直撃を受ける庶民はたくさんいて、そのことが社会の消費力を衰退させ、景気回復の足を引っ張る大きな要因になるだろうと思います。

(2)中小零細企業・自営業者を廃業に追いやる消費税増税

今回の5%の消費税増税によって、国民負担増は13.5兆円、社会保障費の改悪分を含めれば20兆円の負担増が発生し、これは平均的勤労者世帯で25.5万円の負担増という試算もなされています。社会的弱者の生活破壊は必至であり、勤労世帯を中心にデフレ不況は激化せざるをえないでしょう。

加えて、消費税増税が、小規模の零細企業や自営業者の営業を直撃することが予想されます。消費税増税によって、輸出関連企業は逆に税負担が軽減されるところが出てきますが、多くの中小零細企業あるいは自営業者は消費税を消費者に転嫁できないわけです。増税分は売上額に応じて必ず徴収されますから、それが消費者に転嫁できなければ、これらの業者は、その分は身銭を切って自分の懐から出すということになります。しかし、自営業者や中小零細企業で自分の懐から消費税を出せる人達は、もうかなり限られてきている。それはこの間の税務統計で明らかになっているし、民商(民主商工会)などのアンケートでも明らかになっていることです。

こうした状況のもとで消費税を5%も上げればどうなるかというと、消費税を転嫁できず、貯金が底をついている中小零細企業は廃業せざるをえなくなります。日本では、中小零細企業が雇用の7割ほどを占めています。あるいは自営業者も、この間の長期不況で年収がガタ落ちになっているわけです。こういう中小零細企業や自営業者のなかから廃業や倒産に追い込まれる人が数多く出てくることが予想されます。

先の国民の生活破壊の問題に加えて、日本の経済活動を底辺で支えている中小零細企業や自営業者の事業、営業そのものが立ちいかなくなるわけです。彼らが廃業に追いこまれれば、そこで働いていた多くの労働者が職を失い、自営業者も生活の糧を失います。これは国民所得云々ではなく企業活動そのもの、経済活動そのものを担っている企業や業者が活動できなくなるということです。消費者の購買力が低下して、この消費力を迂回して企業の売り上げが減るのではなくて、GDPを担っていた企業や自営業者そのものが一部消えてなくなるのです。国内の生産、GDPそれ自体が縮小することになります。中小零細企業や自営業者を廃業に追い込み、GDPを縮小させるような増税が、財政再建に役立つなどということがありうるでしょうか。

アベノミクスは、大企業の国際競争力の強化をいう一方で、こういうことを想定しているのです。中小零細企業や自営業者が何十万潰れるかもしれない、そんな経済政策が成長戦略だなんて言えるはずがないし、それで財政が良くなるということは絶対にありえません。だから総括的に言えば、消費力を根本的に衰退させるという問題と、GDPを担っている企業や自営業者の事業・営業そのものが立ち行かなくなるということがかなり広範に生まれるだろうという、この2つの点で、今回の消費税増税は、デフレ不況からの脱却策、低迷している日本の経済再建策としては最悪のものであり、付帯条件との関係でもそれを実行に移す条件はまったくないと言えるでしょう。

(3)消費税増税で社会保障問題は解決するのか?

――消費税増税を社会保障に回せばなんとかなるのではないかという幻想も一部にあります。

社会保障の問題でまず指摘しておかなければならないのは、国の一般会計の社会保障費は、社会保障制度全体の財源のなかではその一部を担っているにすぎないということです。日本の社会保障制度を支えている財源は大きく分けて、(1)国民や企業が負担する社会保険料、(2)国庫負担、一般会計における社会保障費などの公費負担、(3)「その他」からなります。「その他」というのは何かというと、資産収入と利用者の負担分です。たとえば医療保険給付は、現在利用者の3割負担になっています。私たちは、社会保険料を毎月支払っているだけではなく、例えば医療サービスを受けるときにもお金を払っているんです。3割は病院の窓口で現金で自己負担をし、7割の現物給付(医療サービス)を受けるというシステムです。2009年の国庫負担額、29兆3,146億円は、社会保障財源121兆8,326億円の24.1%にすぎません。国際的に見ると、イギリスは今でも医療費は無料。全部税金でまかなっています。フランスの場合は、保険料負担の比重が高いのですが、とくに事業主負担が高く保険財源全体の50%を超えています。

日本では社会保険料の負担も、もともとは事業主負担の方が高かったのに、事業主の社会保険料負担を伴わない雇用形態が増えてきたことも反映して、結局、2003年時点で一般被保険者である庶民が払う保険料負担の方が多くなり、その傾向は、現在まで継続、拡大してきています。フランスでは絶対にありえない話です。日本経団連は、法人税率をうんぬんする前に、フランスの事業者、企業は、なぜこれほどの保険料負担を担いながら、国際競争のなかで生き残っているか、真剣に調べに行った方がいいですね。

以上の点からすれば、社会保障の制度設計の問題を本格的に見直すのであれば、国庫負担だけに目を向けるのではなく、全体像を国民的に議論しなければなりません。社会保障費の急増が原因で、財政危機が深刻化しているという政府・財界が流す財政危機キャンぺーンに惑わされて、多くの国民が日本の社会保障制度それ自体が赤字に陥っていると思いこまされています。

しかし、日本の社会保険制度全体を見れば、直近の統計である2009年度について言えば、社会保障給付費が99兆8,507億円であるのに対して、社会保障財源の総額は、資産収入が急増したこともあり121兆8,326億円と、約22兆円の黒字となっています。財源の内訳は、社会保険料が45.5%で被保険者が24.0%に対して、事業主が21.4%、公費負担が32.2%(国庫負担は24.1%)、その他が22.4%(資産収入が12.0%で、その他が10.4%)です。社会保障費が急増して国家財政をどんどん圧迫していると盛んに宣伝されていますが、社会保険基金会計はなお黒字なんです。

内部努力として、社会保険料の事業主負担をきちんと増やすことが非常に重要です。働く人たちが社会の富を生んでいるのですから、労働者を雇っている企業に事業主責任をきちんと果たしてもらう、保険料の事業主負担を高めることも、真剣に検討する必要があります。社会保障全体の仕組みと現状を国民に明らかにすることなく、消費税さえ上げれば社会保障問題が解決するかのように言うのはおかしいと思います。アベノミクスは中福祉・中負担をめざすかのようにと言っていますが、「税と社会保障の一体改革」は低福祉・高負担の社会保障切り捨ての道以外のなにものでもありません。

(4)消費税を福祉の目的税にするという主張の危険な役割

これに関連して、消費税を福祉の目的税にするという主張が一部で出されています。しかし、これはきわめて危険な発想、議論です。今回の消費税の引き上げにあたっても、そのかなりの部分が社会保障に回るのだから、国民の負担増は結局国民に還元されるかのように主張されています。しかし、これが国民を欺く議論であることは、消費税導入以降の新自由主義的構造改革の歴史全体が実証しています。消費税の導入、税率の引き上げによって社会保障制度が拡充されたかといえば、まったく逆で、社会保障制度のあいつぐ改悪がなされてきたのです。消費税による増税分が社会保障の拡充に使われたわけではなく、またこの間国債残高は累増してきたのですから、その増収分よって国債の返済が行われたのでもないのです。

このような状況の下で、社会保障制度を維持するために消費税を増税していくならば、現在国の社会保障費は約30兆円で、この財源は基本的に消費税を含むすべての税金(ごく一部の目的税を除く)で賄われているわけですが、30兆円すべてが消費税収入で確保されるまで消費税率を上げ続けざるをえないことになります。今回の増税でも、実際には財政の機動的運営がしやすくなる、すなわち、復興・防災を口実とした大型公共事業や法人税減税がしやすくなると考えられているのです。もちろん、社会保障費をすべて税金で賄うということは、先にも示したように企業の社会保険料負担を回避することを含んでいるわけであり、その点もしっかりと見ておく必要があります。

(5)現在の日本には消費税を国民が受け入れる条件はない

国民と政府の間の信頼関係の欠如

――課税は本来応能負担原則で行われるべきと思うのですが、西欧の福祉国家の現状からすれば、消費税率20%というのは不可避になるのでしょうか?

消費税は想定通りには課税できていない欠陥税制である

課税の基本的な考え方の問題ですね。ただ、ヨーロッパが福祉国家といえるのは、根本的には自分達が選んだ政府で、なおかつ自分達が納税者であり、主権者であるという意識があるからです。そもそも税金は一方的に取られるものだという感覚ではないのです。勤労者でも自主申告する人がかなりいます。そういう国々なので、やはりこれまでの財政運営そのものが、国民生活の向上それ自体を国家目的とする政策運営を、政治家や政府にさせてきたという自覚があると思います。だからこそ、20%水準の消費税も容認されるわけです。実際には、低所得者の生活を考えて、導入当初から生鮮食料品などの生活必需品には課税されないようにさまざまな工夫がなされてもいます。

日本では、現状では、一般消費者が、たとえば行きつけのラーメン屋さんに行って消費税増税分の料金値上げを見たら、その次から値上げをしていない他の店に行ってしまうのではないかと懸念されているわけです。多くの自営業者は、すでに5%への引上げの際に消費税増税分を価格に転嫁できなかったわけです。これは、一つには、国民の懐具合がきわめて深刻なところまで来ていて、これ以上の生活費の負担増には耐えられませんと言っているわけです。でも消費税は、消費者に負担してもらい、それを事業主が間接的に収めることを想定した税金です。それが本来負担すべき消費者が払えないと言い、その負担分を中小零細企業や自営業者がかぶらざるをえない。そして、それができないから廃業せざるをえないという声が巷にはあふれかえっているわけです。

この現実は現在の日本には、消費税増税どころか、現行の消費税を継続する条件すらないことを物語っているのではないでしょうか。1杯500円だったラーメンを520円に上げるといったらその店には行かないという消費者の行動は、政府が主張するように、公正取引委員会が取り扱う独占企業と下請けの中小企業との関係の問題ではないのです。

日本では消費税を導入するための前提条件が欠けている

それともう一つ。私自身は西欧の福祉国家では、いろいろな問題があるにせよ、日本との比較で言えば財政の所得再配分機能がそれなりに働いており、国民と彼らが選んだ政府との間で基本的な信頼関係が成立している。ヨーロッパでも消費税を上げたら当然、商品価格は上がるでしょう。それでも、自分たちの生活を根底において支えている社会保障制度を維持・拡充するためには、それを受け入れざるをえないと消費者である一般庶民が考えてきたわけです。残念ながら、日本には、国民と政府との間で、この基本的な信頼関係が成立していない。これまで何十年間も日本政府と財政当局は、大企業の成長最優先の政治をやり続けてきて、それがうまくいかなくなり、新自由主義的構造改革に狂奔しているわけです。そのような日本で、突然、最悪の大衆課税である消費税を導入し、それは社会保障を充実するためのものであると言っても、国民が額面通りに受け取るはずはありません。消費税は、国民と政府との間にかなりの信頼関係がある条件のもとでしか導入できない税金だということです。

ようするに、現代の日本では、消費税増税どころか、消費税を導入する条件がそもそもなかったわけです。ですから私は、最終的には消費税廃止まで展望した方がいいと思います。消費税を増税する前に、政府としてやるべきことは多々あるというのが私の結論です。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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