財務官僚と自民党が「打ち出の小槌」で財政赤字を拡大――ヘッジファンドよりすさまじい60年償還システム

  • 2015/12/28
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先のエントリー「日本は『国の借金』を自由に膨らませることができる極めて特異な国――効果のない大型公共事業と税収大幅減」の続きです。

米田教授の指摘の中で、とりわけ驚くのは、リーマンショック時のヘッジファンドの3倍のレバレッジよりもすさまじい60倍ものレバレッジで日本政府が国債を発行していて、日本でどれだけ財政赤字が膨らみ、国債残高がGDP比で何%になろうとも、日本政府が元利払いでは困りはしない欧米基準では考えられないシステムになっているという点です。この「打ち出の小槌」を利用することで、自民党は自分達の選挙区に大型公共事業等を引っ張り、財務官僚は行政権限の拡大をはかっているという欧米諸国では考えられない異常なシステムで財政が運営されているのが日本という国なのです。そういう意味では自民党政府を支えているのは、この「打ち出の小槌」とも言えるのではないかと米田教授の指摘を聴きながら思った次第です。

日本の財政赤字をどう見るか?
――アベノミクスと消費税増税こそ財政危機まねく
米田 貢 中央大学教授インタビュー

――それでは、先進国のなかで最悪の借金財政になっている日本は、ギリシャのような財政危機に直面すると言えるのでしょうか?

なぜ日本の財政危機は急性的な形態を発現しないのか

(1)外国人投資家、外国の資金に依存していない日本の国債発行

まず、日本とギリシャの財政状況を比較した場合、日本の財政赤字の方が、ギリシャのそれよりも、単年度の財政赤字額をとっても、国債残高・政府債務残高をとっても対GDP比で大きい。しかし、冒頭でお話ししたように、日本では、「税と社会保障の一体的改革」によって国民生活は大きな犠牲を強いられようとしているにもかかわらず、日本国民の多くは財政危機を実感していない。それはなぜなのか、ということです。

この点で、ギリシャとの根本的な違いは、日本では、これまでのところ国債発行は基本的に国内の資金によって消化されているということです。ギリシャの場合はその7割が外国人投資家、すなわち外国の資金に依存しており、ほんのちょっとした投資環境の変化でそれらの資金が逃げていくことが起こりうるし、実際にそれが発生したということです。実際に国債が発行できなくなったり、投資家が国債を購入してくれなければ、政府としてもない袖は振れなくなります。アメリカと同様に、政府機関の閉鎖や公務員の自宅待機、解雇という事態が生まれますが、日本の場合、そのような心配は今のところありません。それが、日本の財政赤字が深刻であるにもかかわらず、財政危機が急性的な形態をとって発現しない基本要因です。

それとの関連で、ギリシャがユーロ圏に入っており、独自の通貨を発行できないことが、ギリシャの財政危機に急性的な形態をとらせていますが、この点については日本銀行の役割との関連でお話しします。

(2)60年償還という長期の償還方式が取られている日本の国債

日本の財政危機が急性的な形態を発現してこなかった要因は、日本の国債の償還システムそれ自体のなかにも隠されています。日本の国債の累積の歴史は、1990年代半ばまでは、建設国債の発行に主導されたものであったことは、先に述べました。この建設国債は、発行当初から、60年償還という特殊な償還方式が取られてきました。

建設国債というのは大型公共事業の費用や政府系企業に出資する資金を手当てするものですが、大型公共事業の多くは、発行当時は利用者から料金を徴収する受益者負担型の公共事業であり、その返済は60年間という長期間の料金収入で賄えるという考え方に基づいていました。いわゆる建設公債の「自償作用」と言われるもので、本来は利潤を追求する私的企業が外部資金を借り入れて事業を拡大する場合の考え方、リバレッジを利かした投資活動を正当化するための理論です。その典型は昔の国鉄でした。高速道路もそういう発想でした。

しかし、料金が入るような公共事業はどんどん特別会計に移されていったにもかかわらず、この償還システムは一般会計のなかで定着し、料金収入のあるなしにかかわらず、公共事業をやる場合には建設国債を発行し、それが10年物の国債であっても60年間で償還するということが行われてきました。建設国債の「自償作用」が失われたにもかかわらず、それが継続され、さらに、赤字国債が償還期限を迎えるようになると、性格上、歳入欠陥を穴埋めするためのこの赤字国債までもが、60年償還でよいとされました。現在では、国債の償還を一元的に管理している国債整理基金特別会計に対して、毎年、一般会計から前年度首国債総額の100分の1.6(1/60)に相当する定率繰入れを行うという形で、この60年償還システムが機能しています。

日本政府は60年償還システムに基づく「打ち出の小槌」を持っている

こうして作り出された国債の60年償還システムというのは、たとえば償還期限10年の国債を10兆円発行したとしても、償還期限のきた10年後に政府が実際に現金償還するのはその6分の1だけで、残りの6分の5は借換債を発行し、さらに、それを10年ごとに5回繰り返して最終的に全額を償還するというものです(▼図表3参照。※この図表では分かりやすくするために新規財源債を「600」という数字でグラフ化しています)。この償還システムが維持されているかぎり、10兆円の国債を発行しても、それを償還するための財政支出は、10兆円×1/60=1666億円で済むということです。

 

これは、金融論の立場から言えばとんでもない話なのです。財政と金融、ましてや銀行と財政のことを一緒にはできないのですが、銀行は信用創造を行う、すなわち預金通貨を発行することによって信用創造を行うことができる唯一の金融機関です。現金準備なしに一定の貸付を行うことができる、無から有を作り出しうる特殊な存在です。これにたとえて言えば、日本政府は、毎年、1,666億円のお金さえ準備できれば10兆円の国債を発行できるということになっているわけです。私はこれを「60年償還システムに基づく打ち出の小槌」と呼んでいます。

世界金融危機のときにヘッジファンドなどがレバレッジを使った。つまりテコの作用で、自分達はたとえば100億円しか持っていないのに、借入を行い3倍の300億円の投資をしたと言われています。日本政府のレバレッジは60倍で、ヘッジファンドよりもすさまじいのです。1,666億円の現金をとりあえず国債整理基金に入れたら10兆円国債を出していいよという話になっている。しかも、日本政府はこの国債整理基金特別会計への定率繰り入れすら停止することができる。これでは、日本でどれだけ財政赤字が膨らみ、国債残高がGDP比で何%になろうとも、日本政府が元利払いでは困りはしないと考えられても不思議ではないでしょう。欧米基準では考えられないシステムになっているのだから、日本の国債問題には触れないでおこうというのが、外国人投資家、先のG20の立場なのです。

「失われた20年」で目論みが崩れた

――そのシステムは、財務官僚が考え出したものなのでしょうか?

財務官僚が考え出して、それに自民党が飛びついて、まさにこの「打ち出の小槌」を利用して、自分達の選挙区に大型公共事業を持って来ようというふうになってしまったわけです。官僚機構、当時の大蔵省としても、それによって各省庁の予算が増え、行政権限が拡大するならよしと考えたのでしょう。

ただ、これは推測ですが、おそらく、60年償還システムを赤字国債にまで拡大してきた大蔵省は、高度経済成長破綻以降も何らかの形で経済成長が継続し、かつそれと同時にインフレもある程度進行することを想定していたと思います。国債残高が累積していったとしても、60年の過程における償還のための財政負担はかなり軽減されるであろう、と期待していたわけです。経済成長しつつインフレが進行するということは、名目の国民所得が増えて税収も増えていくわけですから、国債発行時点では20兆円の税収しかなかったのに、60年後にはたとえば税収が60兆円に増えている、そんな目論見もあったと思います。

ところが、1990年代から「失われた20年」になってしまったわけです。無責任な目論見が崩れてしまって、いまやとんでもない事態に陥っているというのが現状です。とは言っても、60年償還システムが維持されているかぎり、日本の財政危機は、当面急性的な形態をとることはないと考えています。

(3)国債の利払い費を抑制するための新たな人為的な低金利政策の採用

日本で財政危機が急性的な形態で発現しない第3の要因は、国債の利回りを低水準に抑えておくための人為的な低金利政策の採用です。先の図表2に示されているように、国債残高が300兆円水準に達するまでは、建設国債の累積が中心でした。10兆円の建設国債を発行しても毎年1,666億円さえ国債整理基金に積み増せばよいのですから、大型公共事業を気前よくやって建設国債がどんどん累積していきました。しかし、年々の償還のための財政負担は限りなく小さくされていましたが、年々の利払い費の方は、国債残高の累増に比例して急増していきました。図表4に示されているように、利払い費は、1995年時点で10兆円に達しました。この時点で、国債費はすでに一般会計歳出の20%を超えるようになり、大蔵省としてもこれ以上利払い費を増やすわけにはいかない事態に直面しました。

国債残高の増大にもかかわらず、利払い費が10兆円水準を維持し、その後は7兆円台にまで低下したのは、国債の発行金利が引き下げられ、公債残高の加重平均利率が急激に低下してきたからにほかなりません。1990年代半ば以降バブル崩壊による金融危機の激化から、銀行は預金金利をできるだけ引き下げようとしましたが、日本銀行も、国債の利率を低く抑えるために金融緩和政策を積極的に遂行してきたのです。預金金利は最終的にゼロ金利水準にまで抑え込まれ、金利機能が作用しなくなると、日本銀行は量的金融緩和政策にまで踏み出しました。

この過程をみると、膨大な国債が発行され、その累積によって財政危機が深刻化していくと、不可避的に中央銀行の自由な金融政策運営が制限され、まさに政府の銀行としての役割が前面に出てくることになります。日本では、高度経済成長期に企業の設備投資を後押しするために人為的な低金利政策が採られてきましたが、1990年代半ば以降は、累積した国債の利払い費を抑えるために、政府の銀行として新たな人為的低金利政策を遂行せざるをえなくなっていると言えるでしょう。もちろん、このようなことは、自国の通貨(現金通貨)を、政府(政府紙幣)あるいは中央銀行(中央銀行券)が自由に発行できることを前提にしているわけで、ユーロ圏に仲間入りしたギリシャの場合には、この自国の現金通貨発行権限(貨幣高権と呼ばれる)を放棄していたことが、財政危機を一挙に表面化させた理由の一つになっています。

(4)政府に従属した日銀の金融政策の運営

そのような立場に追い込まれてきた日本銀行でしたが、インフレ・ターゲット論を振りかざして登場した安倍政権に対しては、通貨の番人として、これ以上の政府への協力はできませんという立場を表明しました。中央銀行としては、不況対応のためにできるかぎりの金融緩和政策を遂行し、政府の国債管理政策にも全面的に協力してきたが、これ以上の不況対策は中央銀行の守備範囲を超えているというのが白川日銀総裁の基本的スタンスでした。それに対する安倍首相の答えが、日銀法改正の脅しであり、白川総裁の事実上の更迭、すなわちインフレ・ターゲット論者への首のすげ替えだったわけです。

日銀の国債保有額が膨れ上がり、財政法第五条で禁止されている中央銀行による国債の直接引き受けに近い状態にすでに近づきつつあったわけですが、そのような政府に従属した中央銀行に対してさえも、公然とその「独立性?」を踏みにじる政府は、世界的に見ても異例です。現代資本主義は中央銀行券(あるいは政府紙幣)が金と兌換されない管理通貨制度をとっており、過剰に発行された中央銀行券(政府紙幣)は自動的に収縮するメカニズムを持ちません。その意味でインフレが起きやすい通貨体制だということで、多くの国々では、通貨の番人としての中央銀行の政府からの独立性が尊重されてきたわけです。これを全面的に否定したのがアベノミクスであり、そのツケが今後どのような形で跳ね返ってくるのか、注意深く観察しておく必要があります。

それと最後にこの問題で指摘したいのは、今はもう民営化されてしまいましたから、昔のように郵貯や簡保の資金を簡単に使うことはできませんが、おそらく国債の発行が本当に困難になってくれば、政府がいろいろと手を回して、郵貯・簡保に「なんとか協力してくれ」という話になるのではないかと私は思っています。そうした準政府資金の存在も、これまで国債発行が順調に行われてきた条件の一つであると言えるでしょう。(つづく

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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