軽減税率導入しても年収300万円で28万円もの消費税負担増(安倍政権下)、3万円の臨時給付金は「焼け石に水」、貧困層に高所得層の2.6倍もの負担強いる消費税、日本の法人税負担は先進国最下位でイギリスの半分

  • 2015/12/9
  • 軽減税率導入しても年収300万円で28万円もの消費税負担増(安倍政権下)、3万円の臨時給付金は「焼け石に水」、貧困層に高所得層の2.6倍もの負担強いる消費税、日本の法人税負担は先進国最下位でイギリスの半分 はコメントを受け付けていません

昨日発表された「民間税調2016年度税制改革大綱――国民のための税制改革」に掲載されているデータがとても興味深いです。

以下のように、いま安倍政権と自公両党が検討している食料品の軽減税率を含む消費税増税による家計負担を試算しています。

上の試算にあるように、軽減税率を実施したとしても、消費税率が8%から10%になると、年収200万円の場合は負担率が6.6%から8.0%、年収1,500万円の場合は2.6%から3.1%となり、低所得層が高所得層の2.58倍もの負担を強いられることになり、上のグラフで一目瞭然ですが、さらに貧困と格差を拡大する逆進性が強まることになるのです。

それから、みずほ総研の試算は以下になります。

これらの試算を見ると、安倍政権が今年度の補正予算案と来年度予算案に盛り込もうとしている低年金の高齢者等への1人3万円の臨時給付金というのがいかに欺瞞に満ちたものであるかが具体的に分かります。そもそも上の表にあるように、消費税率8%で2014年度だけで300万円未満の場合で年間6万1,718円も負担増になっているのです。そうすると、2014年度から2017年度で24万6,872円も負担は増えていることになります。そして、2017年4月から消費税率10%で軽減税率を導入したとしても年収300万円の場合でさらに年間3万4,493円も負担が増えますから、消費税増税の合計は28万1,365円にもなります。安倍政権下での28万円もの負担増に対して、1度切りの3万円が低所得者対策になると考える方がどうかしているとしかいいようがありません。

そして、驚くべきことに、下にあるように、日本の法人税は課税ベースでイギリスの半分しかないのです。これは財務省のデータです。日本の法人税が高いなんていうのは大ウソだったわけです。

それから、関連して2014年3月にインタビューしたものですが、唐鎌直義立命館大学教授の指摘を紹介します。

餓死・孤立死の頻発まねく消費税増税
脱貧困の社会保障が過労死なくす

唐鎌直義 立命館大学教授インタビュー

安倍政権は4月から消費税の税率を8%へと引き上げました。政府は消費税増税の理由として社会保障財源の確保を掲げていますが、同時に社会保障の連続改悪も狙っています。政府による「社会保障と税の一体改革」の問題点について、唐鎌直義立命館大学教授にお話をうかがいました。(聞き手=国公労連行革対策部・井上伸)

貧困層に高所得層の倍以上の負担強いる消費税

――政府広報には、「消費税率の引き上げによる増収分を含む消費税収のすべてを社会保障の財源とする」と明記され、消費税は「社会保障の財源を調達する手段としてふさわしい税金」とまで書かれています。消費税は社会保障財源として本当にふさわしい税金なのでしょうか?

『日本は世界1位の政府資産大国』(講談社プラスアルファ新書)という本を書かれた嘉悦大学教授の高橋洋一さん(元財務官僚)は、この本の中で、消費税増税は国民に対する重税になるのでますます景気を悪化させる恐れがあると指摘しています。1千兆円余の借金があると言うけれど、日本はアメリカを優に上回る政府資産を持っている。だから、消費税増税が先にあるのはおかしいと高橋洋一さんは言っています。私もまったくその通りだと思います。

政府は消費税を「公平な税」と言っています。確かに消費に対して誰でも5%の税を取られるというのは一見「公平」のように見えます。しかし実際に、国民のあいだで消費税5%の負担が公平に担われているかというと、そうではありません。なぜなら、総務省の『家計調査年報』から所得10分位階級別に消費税負担率(▼図表1)を試算してみると、第Ⅹ10分位に位置づけられる最も所得の高い10%の世帯の年間収入の平均は1,437万円ありますが、この階層が実際に消費する金額は、年収のうちの一部に過ぎないからです。極端な例をあげれば6割くらいしか消費しない。あとの4割は貯蓄に回すので、実収入の6割に対する消費税5%を払うことになります。そうすると、年収に対する比率は、現在の消費税率5%よりもずっと低くなるのです。図表1にあるように、消費税負担率は1.9%しかありません。

消費税によるものは社会保障と言えない

これに対して、第Ⅰ10分位に位置づけられる最も所得の低い10%の所得階層は、年収が280万円しかありません。そうすると280万円をほぼ全額消費に回さなければならないので、5%近い税金を払うことになります。実収入に占める消費税の負担割合は4%以上に達します。高所得の人に比べて2倍以上の負担率で消費税を納めていることになります。

実際には、年収280万円の人はそれだけでは必要な生活費にも足りないので、今まで貯めてきた預貯金を取り崩して消費に充てなければなりません。実際の生活費として320万円から350万円くらい消費しているでしょう。その消費に対して5%がかかっているわけですから、消費税というのは所得の低い階層ほど負担が重いということです。

単に消費支出に対して5%だから公平というのは間違いで、実際の収入に対して消費税負担率が何%になっているのかということを見なければいけないのです。そうすると、消費税というのは、明らかに低所得者ほど重い税金を取られていることがわかります。ということは、低所得者ほど重い負担がかかる構造の税金によって、高齢者や福祉の制度を支えているということになるわけで、社会保障の本来的な理念である「所得の高い方から低い方に再分配する」という機能がなくなってしまう。これはもう社会保障とは言えません。

ですから、所得再分配できる租税メカニズムによって財源が確保される必要があり、そうしてこそ初めて社会保障たりうるわけです。消費税を財源にしての社会保障拡充とか、社会保障の維持というのは大きな誤りなのです。

社会保障費の国庫負担は低下、赤字は社会保障が原因ではない

――政府は、日本が少子高齢化になって社会保障費がどんどん増えているから財政難になっていると言っています。本当に社会保障費の増大が財政悪化の原因なのでしょうか?

これも事実とは違います。社会保障財政に占める国庫負担割合は、長期的に見るとものすごく下がってきているのです。1970年代に比べるとひどく下げられています。額面上から見ると社会保障の国庫負担額は絶対額としては増え続けてきたのですが、国庫負担割合から見れば大幅に下がっています。社会保障費の増減を見るには、額面上の数字を見るだけで判断するのではなく、国庫負担割合の低下を見る必要があるのです。

それはさておき、額面上の数字だけを見ても、現在でも国家財政規模90兆円のうち社会保障費は25兆円ですから、この社会保障費がすべての財政赤字の原因だとは言えないでしょう。国における社会保障以外の支出(65兆円)がどう使われているのかという分析を抜きにして、社会保障負担に全部、財政赤字の責任を押しつけるような政府の姿勢には大きな問題があります。というよりも、政府の本音は「社会保障の負担が嫌でたまらない」という点にあるのではないでしょうか。社会保障以外の65兆円(巡り巡って最終的に大企業に流れ着くお金)の方をもっと増やしたいという本音の裏返しのように聞こえてしまうのです。これは日本の産業構造が根本的に内需(消費)拡大型ではなく、外需(輸出)依存型であることに由来していると思われます。

「日本に財源がない」という政府・財務省の異常性

――社会保障の財源はどのように確保すればいいのでしょうか?

社会保障の財源を確保するには、所得税によって、きちんとした累進性を保つことが何より必要です。もともとイギリスで福祉国家の前身ができた時、イギリスのデビッド・ロイド・ジョージが「People’s Budget」ということを言いました。人民予算ということです。これはロイド・ジョージがイギリスのかの人民憲章「People’s Charter」になぞらえていった言葉ですが、この時に初めて累進税制を導入し、お金を上から下に回すことを根本に社会保障制度をつくったのです。ですから、社会保障というのは、上から下に回すというのが基本的な任務、役割なのですね。これはもう譲れない。この基本的な役割を間違ってしまうと、あたかもタコが自分の足を食べるような状態になってしまいます。それでは社会保障が社会保障でなくなってしまうのです。

日本のGDPは世界トップクラス

――しかし、政府は社会保障の財源が消費税増税でしか生み出せないようなことを言っていますね。

▼図表2は、昨年11月の「週刊新潮」に掲載されていたものです。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんが、「超数字法・世界は数字でできている」という連載コラムをお持ちで、そこに掲載されていた「GDPで見た世界」というものです。

これには、国土面積ではなくGDPの大きさで世界地図が描かれています。それによるとアメリカが圧倒的な大きさなのですが、日本は世界第2位を中国と競っているので、中国大陸とほぼ同じ面積になる。だから、世界の国々は日本をこういうふうに見ているのだろうなと思います。日本は地球儀で見ると極東の小さな島国でしかありませんが、その小さな国が1年間でつくり出しているGDPはこんなにも大きいのです。だから国連などが、もっと拠出金を増やしてくれと日本政府に迫るのだと思いますね。

つまり、毎年516兆円もGDPが生み出されている日本で、どうして社会保障の財源が見当たらないと言えるのか。私にはまったく理解できません。国民が汗水流して働いて毎年516兆円も富を生んでいるのですから、そこからきちんと応能負担で税金を取るのが政府・財務省の役目でしょう。それなのに財源がないということは、財務省には無能な人達しかいないのかという話になりますね。しかも所得税や法人税が年に30兆円くらいしか入らないというのはひどい話です。結局は、GDP516兆円、国民所得360兆円からきちんと応能負担で税金を集めて再配分するという当たり前のことを政府・財務省に実行させられない現状が問題なのです。それを消費税増税で、低所得者からも税金を巻き上げようなどというのは、一体どういう考え方なのか。それこそ、この事実を世界(特にフランス)に知られたら、冷笑されるようなことだと思いますね。

政府の低所得者対策は「焼け石に水」

――政府はそれに関して、市町村税が課税されていない人に対しては、一人当たり1万円を支給すると言っています。また老齢基礎年金を受給している人には年金の特例水準解消を考慮し、一人当たり5,000円を加算するとしています。これを消費税増税における低所得者対策だと言っていますが、これは実際に低所得者対策になるのでしょうか?

増えた消費税額を、低所得者に対して国が補填しましょうという趣旨なのでしょうが、それだったら最初から消費税を上げない方がいいです。

先日、東京都の職員の方から話を聞いたら、2009年に実施された定額給付金のときの事務量と事務経費も大変だったけれど、この消費税増税対策についても自治体の事務量や事務経費は大変なことになるので、今から頭が痛いと言っていました。こうした問題も出て来るということと、そもそも1万円で果たして3%の税率引き上げ分をどこまでカバーできるかどうかというのも大きな問題です。

日本資本主義の腐朽性・寄生性

――格差がますます広がっていくことになりますね。先生は、著作『脱貧困の社会保障』(旬報社)の中で、日本資本主義の腐朽性・寄生性が際立ってきているのではないかとも言及されていますね。

バブル崩壊以降、「失われた10年」とか「失われた20年」とか言われていますが、その間に築かれた資本蓄積、内部留保の積み上げのメカニズムが大きな問題でしょう。リストラ合理化と非正規代替によって人件費を極限まで節約する形で利潤を上げる構造をつくってきた。これがバブル崩壊後の日本の大企業がめざした道です。日本全体では毎年1兆円ずつ人件費が減らされてきたと思います。人を減らして(貧困者を増やして)利潤を拡大した企業が評価されることになり、企業はそれに味をしめてしまったわけです。すると、本業である、新しい技術や製品開発をしなくても、単にリストラだけを繰り返していれば企業は利潤を上げることができる。そうした安易な日本の蓄積構造を「日本資本主義の腐朽性・寄生性」と呼んでいます。

不況の中でも着々と進められてきた丸の内の再開発はその好例です。あの高層ビルの乱立を見て、国民はジリ貧化する自分の境遇と見比べないのかと不思議に思いますね。今では東京駅八重洲口の再開発、秋葉原の再開発、渋谷の再開発、神田の再開発と止まるところを知りません。「どこの企業にこんな金があるのだろう」と私は思います。それが私の素朴な研究動機につながっているのですが。

この間、日本が不景気の中で韓国にもアメリカにも中国にもEUにも負けたと言われています。本業で勝負するのではなく、リストラと非正規代替で利益を上げる構造をつくってしまったから、企業の技術力で勝負するという気概もなくなってしまったのでしょう。これが腐朽性だと思うのですね。こんなことをやっていたら、今までの日本のあり方から大きく離れて、人も育たないし企業として本来やるべきこともできなくなって、どうしようもなくなるのではないかと思います。これで今度のアベノミクスで、もし景気が良くなったら、リストラ効果の上に景気が良くなるわけですから、企業は笑いが止まらなくなるほど儲かるでしょうね。JALの経営立て直しがその好例です。そうするともう「格差社会」ではなく、「超格差社会」が到来してしまいます。今まさにそうした「超格差社会」が生み出されようとしていて、アメリカのような「1%:99%」という構造に近づきつつあります。そうなった時には、日本社会は本当に持つのかなという気がします。

企業の社会的負担は軽くなる一方で餓死・孤立死が多発

――社会保険料の問題ですが、唐鎌先生は社会保障の財源について、事業主の負担が年々軽くなって労働者側が重くなっていくという表を作られていましたね。

国民所得は3つの項目に分かれます。財産所得、賃金俸給所得、法人所得の中に民間と公的があります。そのうちの賃金俸給の中の「事業主の負担」が大きく減っています。これが社会保険料負担です。これもやはり労働者を非正規に置き換える中で、国民健康保険や国民年金のまま請負労働として同じ仕事に就いている人を増やしてきたので、その結果、保険料を負担しなくてすむようになったわけですね。そういう、労働費用がとても安くすむ社会のあり方自体が、如実に国民所得の配分の仕方に大きな影響を与えています。

簡単にいうと、20年間に5兆円くらい民間法人の所得が増えて、その分、労働者の賃金が下がってきたのですね。それくらいの大きな移転があったということです(▼図表3、▼図表4参照)。

▼インタビューの一部を視聴できます。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学教職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員(教宣部長)、労働運動総合研究所(労働総研)理事、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者、日本機関紙協会常任理事(SNS担当)、「わたしの仕事8時間プロジェクト」(雇用共同アクションのSNSプロジェクト)メンバー。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)があります。

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