若者を食いつぶすブラック企業の実態|NPO法人POSSE代表・今野晴貴さん

  • 2015/11/29
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(※昔の記事ですが紹介しておきます)

私が企画し編集した「〈座談会〉ブラック企業と『ブラック公務』が日本を食いつぶす」から、NPO法人POSSE代表の今野晴貴さんによる冒頭での発言の一部を紹介します。(※座談会は2013年1月に収録したものです)

若者を食いつぶすブラック企業の実態
NPO法人POSSE代表 今野 晴貴

――最初に今野さんから自己紹介も含めてブラック企業の実態についてお願いします。

今野 私は大学で労働法を勉強していた2006年にNPO法人POSSEを立ち上げました。NPO法人POSSEは、私自身も20代ですが、若者自身で運営して、若者の労働相談を受けるというコンセプトでスタートさせました。これまでの7年間で私自身が直接・間接にかかわった労働相談は約2,000件にのぼっています。2006年当時は、格差問題が広がっていて、社会的にも若者の非正規雇用の増加がクローズアップされていましたので、私たちも非正規雇用の問題を念頭に置いていました。

現在のPOSSEは、東京と仙台と京都に事務所を置いていまして、若者を中心に会員がおよそ400人強という規模になっています。当初は労働相談が中心でしたが、今は労働相談だけでなく生活保護など貧困問題の相談も受け付けています。また、仙台では東日本大震災の復興事業ということで、仮設住宅における生活困難者のためのバス運行などの送迎支援や、貧困世帯の子どもの就学支援などの教育事業にとりくんだり、行政と連携して就労支援を行っています。

リーマンショック後に激増した正社員の労働相談

私が最初にブラック企業の問題を意識したのは、リーマンショック後の2009年でした。当時は「派遣切り」が大きな問題になっていて「年越し派遣村」が08年から09年の年末年始にとりくまれ、私たちもボランティアで参加しました。「派遣切り」ということで非正規雇用の問題に大きな注目が集まっていたのですが、一方で、09年の2月頃から正社員の若者からの労働相談が増えてきました。とりわけ、職場で徹底的にいじめられて自己都合退職に追いやられるという労働相談がたくさん寄せられたのです。

また、当時は「派遣切り」だけでなく、「内定切り」も起きていて、そうしたことは目に見える形で一定の社会的な問題になっていたわけです。

ところが、ひとたび正社員になって会社の内側に入った人が、職場の中でいじめられて自己都合退職に追い込まれてもなかなか目に見える形にならないので、社会的な問題として出て来ない。形式的には自己都合退職にされてしまっていますし、職場の中でやりたい放題いじめられた当事者はメンタル疾患などで法的に争ったり問題提起することも困難という状況にありました。

当時ブラック企業という言葉はまだあまり使われていなかったのですが、私たちは正社員の置かれている状況も大きく変化してきているという認識はありました。しかし、正社員の労働相談が増えてくるなかで、ここまで大きく崩れてきたかという強い印象を持ち始めました。日本の雇用は、非正規の問題だけではなくて、正社員の問題もあって、おそらくこれは公務労働ともつながってくると思うのですが、安定していたと思われていたところが実はまったくそうではないんだということがはっきりしてきたのが09年だったと思います。

ネットスラングから生まれた「ブラック企業」という言葉

ブラック企業の「ブラック」という言葉は、もともとネットスラング(インターネット上で使われる隠語)として使われてきたと言われています。主にIT技術者たちが、自分たちの低賃金・長時間で35歳定年などと言われてしまう過酷な労働を「ブラック」と表現していたのです。今までの日本型正社員とは異なる労働管理に置かれて、このあり方では働き続けられないという不満をネット上に投稿したり、IT技術者がお互いの働き方を「お前の会社はブラックじゃないか」とネット上で揶揄するような形で広がってきたのが最初の段階です。

そして、「ブラック企業」という言葉自体が、2000年代の後半頃から、映画や小説という形で世の中に広がって来ていました。それでもまだ一気にこの言葉が広がったという形ではなかったのですが、2010年から「私が働いているところはブラック企業じゃないか」という労働相談が寄せられることが多くなってきました。

さらには、就職活動をしている学生たちから「私が内定を得た先はブラック企業じゃないか」という相談も寄せられるようになるなど、学生の間にも「ブラック企業」という言葉が爆発的に広がっていきました。

「ブラック企業」という言葉が広がる以前は、私たちが受けている労働相談の中で、圧倒的に多いのは「自己都合退職で辞めさせられそうだ」というものだったのですが、大半の方は辞めさせられること自体にはほとんど疑問を持っていなかったわけです。自分の仕事が遅いから仕方がない、自分がダメで会社に迷惑をかけたんだから辞めさせられても仕方がない、だけれども自己都合退職は事実ではないし、雇用保険がもらえなくなってしまって大変困ってしまっているというのがいちばん多い相談でした。

これに対して、「私が働いているところはブラック企業じゃないか」と寄せられる労働相談は当事者が考えるポイントがまったく違います。「自分が悪いから辞めさせられても仕方がない」という労働相談から、自分が悪いわけではなくて、「企業の方が実は悪いのではないか?」「企業の方が何らかの違法を働いているのではないか?」ということを、労働者が初めて自分から表明していく言葉として「ブラック企業」が2010年以降、大きな勢いで広がってきたのです。

ブラック企業の3つのパターン

私たちが労働相談を受ける中で、ブラック企業には、3つのパターン――(1)選別型、(2)使い捨て型、(3)無秩序型――があることが分かってきました。

ブラック企業の特徴は大量に社員を採用することにあります。何か特殊な中小企業が違法なことをやっているという話ではなくて、大きな企業が、たくさん採用する中で行われているというのがポイントです。

選別型のブラック企業

1つめの選別型のブラック企業は、大量採用して半分以上を辞めさせることを労務管理の基本的な目的にしているのが特徴です。つまり、企業にとって使える人、従順な人だけを残してそれ以外は意図的に辞めさせることを最初から織り込み済みなのです。

たとえば、私たちに労働相談が寄せられたあるIT企業では、1,000人規模で毎年200人以上採用するのですが、1年経過すると半分は辞めさせられているのです。採用されてすぐに、この人間は使えるか使えないかという選別が行われて、使えないと判断された人に関しては、カウンセリングと称する徹底的な嫌がらせをする。「お前は何でこんなに仕事ができないんだ」「会社に貢献できないのは自分の今までの人生に関係している。親にどんな教育をされたか、小学生時代から振り返って反省文を書いて、どうして能力のない人間なのかをレポートせよ」などということを毎日やられて、うつ病にされてしまう。そうしたうつ状態にしたところへ企業側は自己都合退職を迫って辞めさせてしまうのです。こうした選別型のブラック企業はIT企業などに顕著に見られます。

使い捨て型のブラック企業

2つめの使い捨て型のブラック企業は、労務管理として積極的に辞めさせるわけではないのですが、過酷な労働実態があるために、将来を見据えて長期間働き続けることができない点に特徴があります。

ブラック企業は、IT産業、小売、外食、それから介護といった新興産業の分野でとりわけ広がっているのですが、この使い捨て型のブラック企業は、小売や外食産業に多くなっています。

たとえば、過労死事件を起こした日本海庄やでは、基本給20万円と言って採用して、実はその中に月80時間分の残業が含まれているというのですね。これは研修中に明らかになって、月100時間以上の残業をさせられて彼は24歳という若さで過労死させられてしまった。こうした企業側が基本給と言っている中に月100時間、80時間などという残業が組み込まれているというのが、現在、IT産業、飲食、小売、介護などの新興産業に広がっていて、スタンダードな状況にもなってきています。

労務管理のあり方として最初からだます気で採用して長時間低賃金で働かせて、これが基本なんだ、基本給なんだと言ってはばからない。とにかく低賃金で長時間働かせることを目的としているので、体力が続かない人間はどんどん使い捨てて、また新しい人間を採用するというのが、使い捨て型のブラック企業の特徴で、このパターンも大きく広がってきています。

無秩序型のブラック企業

3つめの無秩序型のブラック企業は、「辞めてもいくらでも代わりはいる」という労働市場を背景にして企業自体がパワハラやセクハラを放置している企業です。私たちの労働相談にも多く寄せられるのですが、パワハラ上司、セクハラ上司が気に入らないと非常に凄惨な行為で部下をどんどん辞めさせてしまう。企業はその上司を取り締まるよりも、次の新しい人を採用した方が早いということで放置する。新卒で入ってくる若者というものの価値が異様なまでに企業によって低下させられているというのが、ブラック企業の問題を引き起こしている背景にあると思います。

内定率が上がればいいのか?

どのくらいブラック企業が広がっているのかと問われることがありますが、この点については2つ考えていることがあります。

1つは、新卒ということに限るとかなりの割合に上ってしまうのではないかということです。なぜなら、過労自殺を引き起こしたワタミの渡邉美樹会長は私たちはもっとも新卒をたくさん採用している社会貢献企業だなどと誇っているわけです。ワタミは外食だけでなく介護事業なども含めてかなり新卒を採用しているのは事実で、たくさん雇っておいて使いつぶすことによって大きな利益をあげて、業態を拡大していくということになっているので、新卒をたくさん採用する企業となってくると、かなりブラック企業の割合が大きくなるのではないかと思うのです。

そうすると、最近、就職率が上がった、内定率が上がったということで騒ぎ立てるわけですが、一方でブラック企業の問題も懸念しなければならないと思っていて、一体どんな企業が採用を増やしているのか? 新卒のところで待ち構えている企業はどんな労働実態にあるのか? というところまで、きちんと注目していかないとマズイと思うのです。

一般企業が「ブラック化」する危険

もう一つ考えなければいけないポイントは、今の時点でこのような新興産業を中心に新卒のところでブラック企業が広がっているという特徴とともに、これまではまともだった企業がブラック化しない保証はまったくないという問題です。労働市場に人がたくさん余っているのでいくらでも使い捨ててもいいような労務管理に切り替えていくということは、これまでまともだった企業でも起こり得ます。

また、企業の中の一部門、あるポストある部署でブラック化が起こった時に、それを止めなくてもいいと企業が全体として判断してしまうようなことが容易に起こっているのではないかという問題も労働相談事例を見る中で危惧していることです。

典型的な事例で言うと、ある交通系の大手企業から労働相談が寄せられて、これまでは労務管理はまともだったのだけれども、IT系のいわゆるブラック企業コンサルタントが人事に入ってくるということがあって、労務管理のあり方が突然変わった。正社員をいじめてどんどん辞めさせて代わりに契約社員を入れていくというようなことが突然吹き荒れて止まらない。どうすればいいんだという相談だったわけです。

それはブラック企業という構図が、突如として出てきたわけではなくて、日本型雇用の中で企業が非常に強い権限を持っているわけですけれども、その権限を悪用し、いじめて辞めさせるということができてしまうわけです。老舗企業の中でもそういうことをひとたびやろうというふうに経営が判断してしまった時に、これはなかなか止められないというのが実態ではないかと思うのです。

もちろん職場における労働組合の強さが相当影響してくるでしょうが、労働相談の事例を見ていると、部署単位でブラック化してくるときに、ほとんど労働組合の力を発揮できていないケースが多く寄せられています。ある個人がターゲットになった時に、労働組合が存在感を発揮できていないというようなことが多く見受けられるので、ブラック化をなかなか止められないということも含めて、今は新卒のところで大きな問題になってきていますが、ブラック企業が日本社会全体に広がってくるのではないかと懸念しているところです。
【2013年1月、今野晴貴さん談】

▼座談会の一部を視聴できます。

井上 伸雑誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)中央執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、福祉国家構想研究会事務局員、雑誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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